歌番号一四二三
原文 飛止川可比者部利个留徒留乃飛止川可奈久奈利尓个礼者
止万礼留可以多久奈幾者部利个礼八安女乃布利者部利个留尓
読下 一つがひ侍りける鶴の一つが亡くなりにければ、
留まれるがいたく鳴き侍りければ、雨の降り侍りけるに
原文 以世
読下 伊勢
原文 奈久己恵尓曽比天奈美多者乃本良祢止久毛乃宇部与利安女止布留良无
和歌 なくこゑに そひてなみたは のほらねと くものうへより あめとふるらむ
読下 鳴く声に添ひて涙は上らねど雲の上より雨と降るらん
解釈 天に届くと言う鶴の鳴き声に添えて、私が声を上げて流す涙の、その鳴く声は天までは上りませんが、それでも、悲しみの涙は雲の上から雨となって降るでしょう。
注意 詩経「鶴鳴于九皐声聞于天」を引用する説がある。
歌番号一四二四
原文 女乃三満可利天乃止之乃志波寸乃川己毛利乃比
布留己止以比者部利个留尓
読下 妻の身まかりての年の師走のつごもりの日、
古事言ひ侍りけるに
原文 加祢寸个乃安曾无
読下 兼輔朝臣(藤原兼輔)
原文 奈幾飛止乃止毛尓之可部留止之奈良八久礼由久个不者宇礼之可良末之
和歌 なきひとの ともにしかへる としならは くれゆくけふは うれしからまし
読下 亡き人の共にし帰る年ならば暮れ行く今日はうれしからまし
解釈 亡き人が、年の気が改まる、そのように年の気のように改まって帰って来るのなら、年が暮れ行く今日は、明日に亡き人が帰って来ると思うと嬉しいのですが。
歌番号一四二五
原文 加部之
読下 返し
原文 従良由幾
読下 つらゆき(紀貫之)
原文 己布留満尓止之乃久礼奈者奈幾飛止乃和可礼也以止々止本久奈利奈无
和歌 こふるまに としのくれなは なきひとの わかれやいとと とほくなりなむ
読下 恋ふる間に年の暮れなば亡き人の別れやいとど遠くなりなん
解釈 亡き人を恋焦がれている間に年が暮れてしまったなら、亡き人との年忌の別れがさらに遠くになりませんか。