竹取翁と万葉集のお勉強

楽しく自由に万葉集を楽しんでいるブログです。
初めてのお人でも、それなりのお人でも、楽しめると思います。

万葉集 集歌779から集歌783まで

2020年07月31日 | 新訓 万葉集巻四
集歌七七九 
原文 板盖之 黒木乃屋根者 山近之 明日取而 持将参来
訓読 板葺(いたふき)し黒木(くろき)の屋根(やね)は山近し明日(あした)し取りに持ちて参(ま)ゐ来(こ)む
私訳 板葺きの黒木の屋根の新嘗宮のある恭仁(くに)の都は平山(ならやま)に近いので、明日、黒木に因む尾花を取って、佐保の貴女の許に持参しましょう。

集歌七八〇 
原文 黒樹取 草毛苅乍 仕目利 勤知氣登 将譽十方不有
訓読 黒樹(くろき)取り草(かや)も刈りつつ仕(つか)へめり勤め知るきと誉(ほ)めむともあらず
私訳 新しい宮殿の新嘗宮で使う黒樹を取り束草(あつかくさ)の麁草(あらくさ)も刈りながら天皇に仕えていますが、(貴女は奈良の家から遠く離れて、私が)力を尽くして働くことをわきまえていると誉めてもくれません。
左注 一云、仕登毛
注訓 一は云ふに、仕ふとも
注意 原文の「勤知氣登」の「知」は標準鑑賞では「和」の誤記として「勤和氣登」と校訂し「勤(いそ)しき奴(わき)と」と訓じます。ここでは原文のままに訓んでいます。

集歌七八一 
原文 野干玉能 昨夜者令還 今夜左倍 吾乎還莫 路之長手呼
訓読 ぬばたまの昨夜(きそ)は還(かへ)しつ今夜(こよひ)さへ吾を還(かへ)すな道し長手を
私訳 真っ暗な昨夜は逢ってもくれないで還しましたね。今夜こそは決して「逢わない」と云って、追い返さないで下さい。暗い夜の長い道を通う私を。

紀女郎裹物贈友謌一首  女郎名曰小鹿也
標訓 紀女郎(きのいらつめ)の裹(つつ)める物を友に贈れる謌一首  女郎の名を曰はく小鹿なり
集歌七八二 
原文 風高 邊者雖吹 為妹 袖左倍所沽而 苅流玉藻焉
訓読 風高し辺(へ)には吹けども妹しため袖さへそ沽(か)れに刈れる玉藻ぞ
私訳 風も高く岸辺を吹き上げていたけれど、貴女のためだけに袖が濡れることをも厭わずに苦労して刈り取った玉藻です。
注意 原文の「袖左倍所沽而」の「沽」は、標準鑑賞では「沾」の誤記とします。ここは漢字の原意から対価を払って手に入れる意味合いを取っています。

大伴宿祢家持贈娘子謌三首
標訓 大伴宿祢家持の娘子(をとめ)に贈れる謌三首
集歌七八三 
原文 前年之 先年従 至今年 戀跡奈何毛 妹尓相難
訓読 前年(をととし)し先(さき)つ年より今年(ことし)まで恋ふれどなぞも妹に逢ひ難(かた)き
私訳 昨年のその前の年から今年まで、恋い慕っているけれで、どうして愛しい貴女を抱くことが出来ないのでしょうか。
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万葉集 集歌774から集歌778まで

2020年07月30日 | 新訓 万葉集巻四
集歌七七四 
原文 百千遍 戀跡云友 諸苐等之 練乃言羽志 吾波不信
訓読 百千遍(ももちたび)恋ふと云ふとも諸苐(もろと)らし練(ねり)のことばし吾は信(たの)まじ
私訳 百遍も千遍も恋い慕っていると云っても、弟たちの練り上げたお告げを私は信用しません。
注意 原文の「諸苐等之」の「苐」は標準鑑賞では集歌七七三の歌と同様に「弟」の誤記とします。また「練乃言羽志」の「志」は「者」の誤記とします。

大伴宿祢家持贈紀女郎謌一首
標訓 大伴宿祢家持の紀女郎に贈れる歌一首
集歌七七五 
原文 鶉鳴 故郷従 念友 何如裳妹尓 相縁毛無寸
訓読 鶉鳴く故(ふ)りにし郷(さと)ゆ念(おも)へども何ぞも妹に逢ふ縁(よし)も無き
私訳 すっかり面影も無いように寂れてしまって鶉が鳴くようなるような古き里、そんな昔から貴女を慕っているのですが、どのような訳か、愛しい貴女に逢う術がありません。

紀女郎報贈家持謌一首
標訓 紀女郎の家持に報(こた)へ贈れる歌一首
集歌七七六 
原文 事出之者 誰言尓有鹿 小山田之 苗代水乃 中与杼尓四手
訓読 事(こと)出(で)しは誰が言(こと)にあるか小山田(をやまだ)し苗代(なはしろ)水(みづ)の中淀(なかよど)にして
私訳 最初に会いたいと云い出したのは誰の言葉でしょうか、山の田の苗代の水が澱むように、なかなか、会いに来ることを躊躇されて。

大伴宿祢家持更贈紀女郎謌五首
標訓 大伴宿祢家持の更らに紀女郎に贈れる歌五首
集歌七七七 
原文 吾妹子之 屋戸乃籬乎 見尓徃者 盖従門 将返却可聞
訓読 吾妹子し屋戸(やと)の籬(まがき)を見に行かばけだし門(かと)より返(かへ)してむかも
私訳 愛しい貴女の屋敷の垣根を見に行くと、きっと、中にも入れてくれずに門から私を追い返すのでしょうね。

集歌七七八 
原文 打妙尓 前垣乃酢堅 欲見 将行常云哉 君乎見尓許曽
訓読 うつたへに前垣(まえがき)の姿見まく欲(ほ)り行かむと云へや君を見にこそ
私訳 貴女が庭で栲を打つ、その言葉のひびきではないが、うつたえ(=必ずしも)貴女の屋敷の垣根だけを見てみたくて行くのではありません、貴女に逢いたくて行くのです。

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万葉集 集歌769から集歌773まで

2020年07月29日 | 新訓 万葉集巻四
大伴宿祢家持報贈紀女郎謌一首
標訓 大伴宿祢家持の紀女郎(きのいらつめ)に報(こた)へ贈れる謌一首
集歌七六九 
原文 久堅之 雨之落日乎 直獨 山邊尓居者 欝有来
訓読 ひさかたし雨し降る日をただ独り山辺(やまへ)に居(を)れば欝(いぶせ)かりけり
私訳 遥か彼方からの雨の降る日を、ただ独りで山辺で暮らしていると、うっとしいことです。

大伴宿祢家持従久邇京贈坂上大嬢謌五首
標訓 大伴宿祢家持の久邇の京(みやこ)より坂上大嬢(おほをとめ)に贈れる謌五首
集歌七七〇 
原文 人眼多見 不相耳曽 情左倍 妹乎忘而 吾念莫國
訓読 人(ひと)眼(め)多(た)み逢はなくのみぞ情(こころ)さへ妹を忘れに吾が念(おも)はなくに
私訳 人目が多いので逢わないだけです。心根までも貴女を忘れてしまったとは、私は思ってもいません。

集歌七七一 
原文 偽毛 似付而曽為流 打布裳 真吾妹兒 吾尓戀目八
訓読 偽(いつわ)りも似(に)つきにぞする顕(うつ)しくも真(まこと)吾妹子(わぎもこ)吾に恋ひめや
私訳 「嫌いだと」との偽りも本当らしくするものです。実際には、私の愛しい貴女は真に私に恋い慕っているのでしょうから。

集歌七七二 
原文 夢尓谷 将所見常吾者 保杼毛友 不相志思 諾不所見武
訓読 夢にだに見むそと吾は解(ほ)どけとも逢(あ)はずし思(おも)ゆ諾(うべ)見ずそらむ
私訳 夢の中だけでも逢いたいと私は衣の紐を解いたけれど、夢では貴女を抱けないと思う。なるほど、それで夢に貴女の姿が現れて来ないのでしょう。
注意 男女の関係があると想定した時、原文の「見」と「相」の意味合いが微妙です。逢うのか、抱くのか、その意味合いで歌の鑑賞が変わります。

集歌七七三 
原文 事不問 木尚味狭藍 諸苐等之 練乃村戸二所 詐来
訓読 事(こと)とはぬ木(き)すら紫陽花(あじさゐ)諸苐(もろと)らし練(ねり)の村戸(むらと)にそ詐(あざむ)かえけり
私訳 物事も告げない木でさえアジサイの花のように色変わりする。弟たちの練り上げた策略に欺かれてしまった。
注意 原文の「諸苐等之」の「苐」は、標準鑑賞では「弟」の誤記とします。なお、原文表記では「苐」、「荑」、「茅」は異字体の関係にあり、印刷の関係で「茅」の用字で表記する場合もあります。なお、「苐」は「テイ」の訓音を持ちますから「弟」と「若芽」の両方の意味合いと、木や味狭藍との植物の言葉遊びで「苐」を用字した可能性があります。

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万葉集 集歌764から集歌768まで

2020年07月28日 | 新訓 万葉集巻四
大伴宿祢家持和謌一首
標訓 大伴宿祢家持の和(こた)へたる謌一首
集歌七六四 
原文 百年尓 老舌出而 与余牟友 吾者不厭 戀者益友
訓読 百年(ももとし)に老舌(おひした)出(い)でによよむとも吾は厭(い)とはじ恋ひは益(ま)すとも
私訳 「神さぶ」と云われるが百年(ももとし)ほどの歳を経たシダが生え、その葉をたわますような杜の風情であっても、私はその雰囲気は嫌いではありません。反って、神の住まわれる場所として好ましい気持ちは増したとしても。

在久邇京思留寧樂宅坂上大嬢大伴宿祢家持作謌一首
標訓 久邇の京(みやこ)に在(あ)りて寧樂(なら)の宅(いへ)に留(とど)まれる坂上大嬢(おほをとめ)を思(しの)ひて大伴宿祢家持の作れる謌一首
集歌七六五 
原文 一隔山 重成物乎 月夜好見 門尓出立 妹可将待
訓読 一重山(ひとへやま)隔(へ)なれるものを月夜(つくよ)好(よ)み門(かど)に出(い)で立ち妹か待つらむ
私訳 貴女との間には一重の山だけを隔てているだけなのですが。今夜、月が芳しいと、家の外に出て立って愛しい貴女は私を待っているのでしょうか。

藤原郎女聞之即和謌一首
標訓 藤原郎女(ふぢはらのいらつめ)の之を聞きて即ち和(こた)へたる謌一首
集歌七六六 
原文 路遠 不来常波知有 物可良尓 然曽将待 君之目乎保利
訓読 道(みち)遠(とほ)し来(こ)じとは知れるものからに然(しか)ぞ待つらむ君し目を欲(ほ)り
私訳 「道のりが遠くて、やっては来ない」と思っていても、それでも待っていましょう。恋しい貴方にお逢いしたくて。

大伴宿祢家持更贈大嬢謌二首
標訓 大伴宿祢家持の更に大嬢(おほをとめ)に贈れる謌二首
集歌七六七 
原文 都路乎 遠哉妹之 比来者 得飼飯而雖宿 夢尓不所見来
訓読 都路(みやこぢ)を遠(とほ)みか妹しこのころは祈誓(うけひ)に寝(ぬ)れど夢に見し来(こ)ずそ
私訳 都への道のりが遠いからなのか、愛しい貴女の姿を見たいと近頃は願って寝るのですが、夢の中に現れて来ません。

集歌七六八 
原文 今所知 久邇乃京尓 妹二不相 久成 行而早見奈
訓読 今そ知る久邇(くに)の京(みやこ)に妹に逢はず久しくなりぬ行きに早見な
私訳 今、統治なされている久邇の都にいて、愛しい貴女に逢わないことが久しくなった。奈良の貴女の許に行って早く逢いたい。

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万葉集 集歌759から集歌763まで

2020年07月27日 | 新訓 万葉集巻四
集歌七五九 
原文 何 時尓加妹乎 牟具良布能 穢屋戸尓 入将座
集歌759 何 時尓加妹乎 牟具良布能 穢屋戸尓 入将座
訓読 如何(いか)ならむ時にか妹を葎生(むぐらふ)の穢(きた)なき屋戸(やと)に入(い)り座(いま)せてむ
私訳 いつ、どんな機会に、妹である貴女をこの葎の生える薄汚れた家にお迎えできるでしょう。
左注 右、田村大嬢坂上大嬢、並是右大辨大伴宿奈麿卿之女也。卿、居田村里、号曰田村大嬢。但、妹坂上嬢者、母居坂上里。仍曰坂上大嬢。于時姉妹諮問、以謌贈答。
注訓 右は、田村大嬢と坂上大嬢と、並びにこれ右大辨大伴宿奈麿卿の女(むすめ)なり。卿、田村の里に居(す)み、号(な)を曰はく田村大嬢(おほをとめ)なり。ただし、妹(いろと)坂上嬢(をとめ)は、母の坂上の里に居(す)む。仍ち曰はく坂上大嬢(おほをとめ)なり。時に姉妹諮問(とふら)ふに、謌を以ちて贈答せり。

大伴坂上郎女従竹田庄贈賜女子大嬢謌二首
標訓 大伴坂上郎女の竹田(たけたの)庄(たところ)より女子(むすめ)の大嬢(おほをとめ)に贈賜(おく)れる謌二首
集歌七六〇 
原文 打渡 竹田之原尓 鳴鶴之 間無時無 吾戀良久波
訓読 うち渡す竹田(たけだ)し原に鳴く鶴(たづ)し間(ま)無く時(とき)無し吾が恋ふらくは
私訳 広々と広がる竹田の野原に啼く鶴の声が間無く時を択ばず聞こえるように、間無く時を択ばず私は貴女を心に留めています。

集歌七六一 
原文 早河之 湍尓居鳥之 縁乎奈弥 念而有師 吾兒羽裳可怜
訓読 早河(はやかは)し瀬に居(ゐ)る鳥し縁(よし)を無み念(おも)ひにありし吾が児はもあはれ
私訳 流れの早い川の瀬に居る鳥のように、こちらから逢う機会は無いものと思っていました私の貴女(わが子)よ、実に心残りです。

紀女郎贈大伴宿祢家持謌二首  女郎名曰小鹿也
標訓 紀女郎(きのいらつめ)の大伴宿祢家持に贈れる謌二首  女郎(いらつめ)の名を曰はく小鹿なり
集歌七六二 
原文 神左夫跡 不欲者不有 八也多八 如是為而後二 佐夫之家牟可聞
訓読 神さぶと否(いな)にはあらね早(はや)多(さは)は如(か)くせに後(のち)に寂(さぶ)しけむかも
私訳 年を経て歳老いたと誘いを拒むのではありません。既にそのような歳だからと、そんな理由で恋を拒むとしたら後で悔いが残るでしょう。
注意 原文の「八也多八」を、標準鑑賞では「八多也八多」と校訂します。

集歌七六三 
原文 玉緒乎 沫緒二搓而 結有者 在手後二毛 不相在目八方
試訓 玉し緒を沫緒(まつを)に搓(よ)りに結べらばありて後にも逢はざらめやも
試訳 玉を貫く紐の緒を輪の緒とし縒って結んだら、こうした後も、首から下げる玉の紐が再び緒を結ぶように、再び逢わないことがあるでしょうか。
注意 原文の「沫緒」は標準鑑賞では「あわを」と訓じます。ここでは首飾りの紐の緒が輪を作り末に結び合う姿から「まつを」と試訓を行っています。

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