歌番号 351 拾遺抄記載
詞書 なかされ侍りてのち、いひおこせて侍りける
詠人 贈太政大臣
原文 幾美可者留 也止乃己須恵乃 由久/\止 加久留々万天尓 加部利美之者也
和歌 きみかすむ やとのこすゑの ゆくゆくと かくるるまてに かへりみしはや
読下 君かすむやとのこすゑのゆくゆくとかくるるまてにかへりみしはや
解釈 貴女が住む屋敷の高い梢が、旅路を下って行くにしたがって、隠れてしまうまで、何度も振り返って見つめました。
注意 贈太政大臣とは菅原道真のことで、権太宰帥としての都落ちの場面です。
歌番号 352
詞書 かさのかなをかか、もろこしにわたりて侍りける時、めのなか、うたよみて侍りける返し
詠人 かなをか
原文 奈美乃宇部尓 美恵之己之万乃 志万可久礼 由久曽良毛奈之 幾美尓和可礼天
和歌 なみのうへに みえしこしまの しまかくれ ゆくそらもなし きみにわかれて
読下 浪のうへに見えしこしまのしまかくれゆくそらもなしきみにわかれて
解釈 遣唐の旅路に見た、浪の上に見えた小島が島隠れする姿も、雲が流れ行く広大な空も、私の眼中にはありません、貴女と別れてしまっては。
歌番号 353
詞書 もろこしにて
詠人 かきのもとの人まろ
原文 安満止不也 加利乃徒可比尓 以徒之可毛 奈良乃美也己尓 己止川天也良无
和歌 あまとふや かりのつかひに いつしかも ならのみやこに ことつてやらむ
読下 あまとふやかりのつかひにいつしかもならのみやこにことつてやらん
解釈 空を飛ぶ、雁書の故事の雁の使いに託して、いつかは、奈良の都に言伝を送りたいものです。