竹取翁と万葉集のお勉強

楽しく自由に万葉集を楽しんでいるブログです。
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万葉集 集歌554から集歌558まで

2020年05月29日 | 新訓 万葉集巻四
集歌五五四 
原文 古 人乃令食有 吉備能洒 痛者為便無 貫簀賜牟
試訓 古(いにしへ)し人の食(き)こせる吉備(きび)の洒(みず)痛(いた)めばすべなし貫簀(ぬきす)賜(たば)らむ
試訳 亡くなられた大王がお召になられた吉備の御方の御体を洗い清めたい。このように亡くなられたのならばしかたがない。葬送の寝台に敷く清らかな簀を吉備の御方に賜りたい。
注意 原文の「痛者為便無」の「痛」は、標準解釈では「病」の誤字として「病めばすべなし」と訓じます。また、「吉備能洒」の「洒」は「酒」として「吉備の酒」と訓じます。このため原文の漢字を尊重するとその解釈は標準解釈とは大きく異なります。

太宰帥大伴卿贈大貳丹比縣守卿遷任民部卿謌一首
標訓 太宰帥大伴卿の大貳丹比縣守卿の民部卿に遷任するに贈れる謌一首
集歌五五五 
原文 為君 醸之待酒 安野尓 獨哉将飲 友無二思手
訓読 君しため醸(か)みし待酒(まちさけ)安し野にひとりや飲まむ友無しにして
私訳 貴方のために醸(かも)して造ったもてなしの酒を、太宰の夜須の野で私は一人で飲むのでしょう。貴方と云う友を失くして。

賀茂女王贈大伴宿祢三依謌一首  故左大臣長屋王之女也
標訓 賀茂(かもの)女王(おほきみ)の大伴宿祢三依(みより)に贈れる謌一首  故左大臣長屋王の女(むすめ)なり
集歌五五六 
原文 筑紫船 未毛不来者 豫 荒振公乎 見之悲左
訓読 筑紫(つくし)船(ふね)いまだも来(こ)ねばあらかじめ荒(あら)ぶる公を見るし悲しさ
私訳 筑紫からの便りを載せた船が未だにやって来ないので、到来を懸念して、気が立っている貴方の姿を見るのが辛い。
注意 標準解釈では賀茂女王が詠う集歌五六五の歌との関連を見て解釈しますが、ここでは別な見方をしています。歴史の捉え方が違うため大きく相違しています。

土師宿祢水通、従筑紫上京海路作謌二首
標訓 土師宿祢(はにのすくね)水通(みみち)、筑紫より京(みやこ)に上る海路(うなぢ)にして作れる謌二首
集歌五五七 
原文 大船乎 榜乃進尓 磐尓觸 覆者覆 妹尓因而者
訓読 大船を榜(こ)ぎの進(すす)みに岩に触れ覆(かへ)らば覆(かへ)れ妹に依(よ)りには
私訳 大船を操船して船を進めるなかで岩に触れて転覆するなら転覆したで良い。貴女に一日も早く逢いたい気持ちのためなら。

集歌五五八 
原文 千磐破 神之社尓 我掛師 幣者将賜 妹尓不相國
訓読 ちはやぶる神し社(やしろ)に我が懸(か)けし幣(ぬさ)は賜(たば)らむ妹に逢はなくに
私訳 厳かな磐戸を開ける神の社に私が掛けた幣をお返し下さい。女神のような貴女に逢えないので。

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万葉集 集歌549から集歌553まで

2020年05月28日 | 新訓 万葉集巻四
五年戊辰太宰少貳石川足人朝臣遷任餞于筑前國蘆城驛家謌三首
標訓 (神亀)五年戊辰、太宰少貳石川足人朝臣の遷任するに、筑前國の蘆城(あしき)の驛家(うまや)にして餞(はなむけ)せる謌三首
集歌五四九 
原文 天地之 神毛助与 草枕 羈行君之 至家左右
訓読 天地(あまつち)し神も助けよ草枕(くさまくら)旅行く君し家(いへ)に至るさへ
私訳 天と地の神もあの御方に助けを授けなさい。草を枕にするような苦しい旅を行くあの御方が奈良の都の家に帰り着くようにと。

集歌五五〇 
原文 大船之 念憑師 君之去者 吾者将戀名 直相左右二
訓読 大船(おほぶね)し思ひ頼みし君し去(い)なば我(あれ)は恋ひなむ直(ただ)に逢(あ)ふさへに
私訳 大海を往く大船のように頼りに思っていた貴方が奈良の京へと去って行かれたら、私は貴方のことを懐かしく思い出すでしょう。再び直接にお逢い出来ますようにと。

集歌五五一 
原文 山跡道之 嶋乃浦廻尓 縁浪 間無牟 吾戀巻者
訓読 大和道(やまとぢ)し島の浦廻(うらみ)に寄する波(なみ)間(あひた)も無けむ吾が恋ひまくは
私訳 大和への道の間の島々の浦に寄せる波のように絶え間はありません。私が貴方をお慕いすることは。
左注 右三首作者未詳
注訓 右の三首は、作る者未だ詳(つばび)らかならず。

大伴宿祢三依謌一首
標訓 大伴宿祢三依(みより)の謌一首
集歌五五二 
原文 吾君者 和氣乎波死常 念可毛 相夜不相 二走良武
訓読 吾が君は若(わ)けをば死ねと念(おも)へかも逢ふ夜に逢はぬ二(ふた)走(はし)るらむ
私訳 私の尊敬する貴女は、若造は死ねと思っているのでしょうか。逢えると思う夜に逢うことが出来ずにその夜が走り去っていく。

丹生女王贈太宰帥大伴卿謌二首
標訓 丹生女王(にふのおほきみ)の太宰帥大伴卿に贈れる謌二首
集歌五五三 
原文 天雲乃 遠隔乃極 遠鷄跡裳 情志行者 戀流物可聞
試訓 天雲の遠隔(そくへ)の極(きはみ)遠けども心し行けば恋ふるものかも
試訳 亡くなられた御方がいらっしゃる天雲の遥か彼方の極みは遠いのですが、私の心はそこに通って行っているので、それで、あの御方が恋しいのでしょうか。
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万葉集 集歌544から集歌548まで

2020年05月27日 | 新訓 万葉集巻四
反謌
集歌五四四 
原文 後居而 戀乍不有者 木國乃 妹背乃山尓 有益物乎
訓読 後れ居に恋ひつつあらずは紀伊(き)し国の妹背(いもせ)の山にあらましものを
私訳 後に残されてしまって一人で貴方を、ただ、恋い慕っていないで、紀伊の国にある妹背の山の名に因んだ貴方に愛される妹背でありたいものです。

集歌五四五 
原文 吾背子之 跡履求 追去者 木乃關守伊 将留鴨
訓読 我が背子が跡踏み求め追ひ行かば紀の関守い留めてむかも
私訳 貴方の歩いた後を追っていったら大和と紀伊の国との境の関守に留められてしまうでしょう。

二年乙丑春三月、幸三香原離宮之時、得娘子笠朝臣金村作謌一首并短謌
標訓 (神亀)二年乙丑春三月に、三香原の離宮に幸(いで)しし時に、娘子を得て笠朝臣金村の作れる謌一首并せて短謌
集歌五四六 
原文 三香之原 客之屋取尓 珠桙乃 道能去相尓 天雲之 外耳見管 言将問 縁乃無者 情耳 咽乍有尓 天地 神祇辞因而 敷細乃 衣手易而 自妻跡 憑有今夜 秋夜之 百夜乃長 有与宿鴨
訓読 三香(みか)し原 旅し宿りに 玉桙の 道の行き逢ひに 天雲し 外(よそ)のみ見つつ 言問(ことと)はむ 縁(よし)の無ければ 情(こころ)のみ 咽(む)せつつあるに 天地し 神辞(こと)寄せて 敷栲の 衣手(ころもて)易(か)へて 自妻(おのつま)と 頼める今夜 秋し夜し 百夜(ももよ)の長さ ありこせぬかも
私訳 三香の原での旅の宿りの折に、美しい桙を立てる公の道で行き逢った貴女を、天の雲を遠くから眺めるように、誓いの言葉をかける縁もないので、心の内で悲しんで泣いていたのだが、天と地の神の思し召しに従って、床に敷く栲の上で互いの衣を互いの体に掛け合って、貴女は「貴方の妻」だと、私のことを頼るこの夜。秋のこの夜が百日程の夜の長さにならないでしょうか。

反謌
集歌五四七 
原文 天雲之 外従見 吾妹兒尓 心毛身副 縁西鬼尾
訓読 天雲し外(よそ)に見しより吾妹子に心も身さへ寄りにしものを
私訳 天の雲のように遠くから眺めた時から、愛しい貴女に心も体も吸い寄せられたようです。

集歌五四八 
原文 今夜之 早開者 為便乎無三 秋百夜乎 願鶴鴨
訓読 今(いま)し夜(よ)し早(と)く明(あ)けくればすべを無み秋し百夜(ももよ)を願ひつるかも
私訳 貴女と共にする今、この夜が早くも明けていくので、どうしようもない。この秋の夜が百日の夜のような長さであることを願いたい。
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万葉集 集歌539から集歌543まで

2020年05月26日 | 新訓 万葉集巻四
集歌五三九 
原文 吾背子師 遂常云者 人事者 繁有登毛 出而相麻志呼
訓読 吾が背子し遂げむと云はば人事(ひとこと)は繁くありとも出でに逢はましを
私訳 私の愛しい貴方が恋の思いを遂げると云うのでしたら、人がするべき雑用が沢山あっても出かけて来て私に逢うでしょうに。

集歌五四〇 
原文 吾背子尓 復者不相香常 思墓 今朝別之 為便無有都流
訓読 吾が背子にまたは逢はじかと思へばか今朝(けふ)し別れしすべなかりつる
私訳 私の愛しい貴方に再び逢うことがあるでしょうかと思うからか、今朝の貴方との別れがどうしようもなく切ない。

集歌五四一 
原文 現世尓波 人事繁 来生尓毛 将相吾背子 今不有十方
訓読 この世には人事(ひとこと)繁し来む生(よ)にも逢はむ吾が背子今ならずとも
私訳 それほど忙しいのなら、この世の中は人がするべき雑用が沢山ある。この世だけでなく来世でも逢いましょう。私の愛しい貴方。今でなくても。

集歌五四二 
原文 常不止 通之君我 使不来 今者不相跡 絶多比奴良思
訓読 常やまず通ひし君が使(つか)ひ来ず今は逢はじとたゆたひぬらし
私訳 いつも絶えることなく私の許に通ってきた貴方の前触れの使いが来ません。「今はもう、私に逢わない」と貴方の気持ちが揺らいでいるのでしょうか。

神龜元年甲子冬十月、幸紀伊國之時、為贈従駕人、所誂娘子笠朝臣金村作謌一首并短謌
標訓 神亀元年甲子の冬十月に、紀伊國(きのくに)に幸(いでま)しし時に、従駕(おほみとも)の人に贈らむがために、娘子(をとめ)に誂(あとら)へて笠朝臣金村の作れる謌一首并せて短謌
集歌五四三 天皇之 行幸乃随意 物部乃 八十伴雄与 出去之 愛夫者 天翔哉 軽路従 玉田次 畝火乎見管 麻裳吉 木道尓入立 真土山 越良武公者 黄葉乃 散飛見乍 親 吾者不念 草枕 客乎便宜常 思乍 公将有跡 安蘇々二破 且者雖知 之加須我仁 點然得不在者 吾背子之 徃乃萬々 将追跡者 千遍雖念 手嫋女 吾身之有者 道守之 将問答乎 言将遣 為便乎不知跡 立而爪衝
訓読 天皇(すめろぎ)し 行幸(みゆき)のまにま 物部(もののふ)の 八十伴(やそとも)の雄(を)と 出で去(ゐ)きし 愛(うつく)し夫(せな)は 天飛ぶや 軽の路より 玉(たま)襷(たすき) 畝傍を見つつ 麻(あさ)裳(も)よし 紀路(きぢ)に入り立ち 真土山(まつちやま) 越ゆらむ君は 黄葉(もみぢは)の 散り飛ぶ見つつ 親(にきびに)し 吾は思はず 草枕 旅を宜(よろ)しと 思ひつつ 君はあらむと あそそには かつは知れども しかすがに 點然(もだ)もありえねば 吾が背子し 行きのまにまに 追はむとは 千遍(ちたび)思へど 手弱女(たわやめ)し 吾が身しあれば 道(みち)守(もり)し 問はむ答へを 言ひ遣(や)らむ 術(すべ)を知らにと 立ちて爪(つま)づく
私訳 天皇の行幸に随って、たくさんの武官の者と共に出発して行った私が愛する夫は、雁が空を飛ぶ軽の道から美しい襷を懸けたような畝傍の山を見ながら、麻の裳も相応しい紀伊の国、その紀伊の国への道に入っていく。真土山を越えていくでしょうあの御方は、黄葉の葉々が散り飛びのを見ながらそれを親しみ、私はそうとは思いませんが、草を枕にする苦しい旅も好ましい常のことと思いながら、あの御方は旅路にいらっしゃると、私はぼんやりとは想像しますが、しかしながら何もしないではいられないので、愛しい貴方が出かけていったように追いかけて行こうと千度も思いますが、手弱女である女である私は、道の番人が旅行く私に浴びせかける質問に答えるすべも知らないので、旅立とうとしてためらってしまう。
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万葉集 集歌534から集歌538まで

2020年05月25日 | 新訓 万葉集巻四
安貴王謌一首并短謌
標訓 安貴王の歌一首并せて短歌
集歌五三四 
原文 遠嬬 此間不在者 玉桙之 道乎多遠見 思空 安莫國 嘆虚 不安物乎 水空徃 雲尓毛欲成 高飛 鳥尓毛欲成 明日去而 於妹言問 為吾 妹毛事無 為妹 吾毛事無久 今裳見如 副而毛欲得
訓読 遠妻(とほつま)し ここにしあらねば 玉桙し 道をた遠(とほ)み 思ふそら 安けなくに 嘆くそら 苦しきものを み空往(ゆ)く 雲にもがも 高飛ぶ 鳥にもがも 明日去(い)きて 妹に言問(こととひ) 吾がために 妹も事なく 妹しため 吾も事なく 今も見るごと 副(たぐ)ひてもがも
私訳 遠くに住む妻はここにいないし、御門の玉鉾の立てる都大道も遠いので、思いを寄せるわが身は心も休まらず、嘆くわが日々も心苦しいのに、空を流れ往く雲のように、空高く飛ぶ鳥のように、明日出かけて行って恋人に言葉を掛け、私もために妻が無事であり、妻のために私が無事であるように、今ここで見るように一緒に貴女といたいものです。

反謌
集歌五三五 
原文 敷細乃 手枕不纒 間置而 年曽經来 不相念者
訓読 敷栲(しきたへ)の手枕(たまくら)纏(ま)かず間(あひだ)置(お)きに年ぞ経(へ)にける逢はなく念(おも)へば
私訳 床に敷く栲の上で貴女と手枕を巻き交わすことなく、貴女と離ればなれで年が経ってしまった。貴女と逢わない日々のことを思い起こすと。
左注 右、安貴王娶因幡八上釆女、係念極甚、愛情尤盛。於時勅断不敬之罪、退却本郷焉。于是王意悼怛聊作此謌也。
注訓 右は、安貴王、因幡の八上釆女を娶(ま)きて、係念(おもひ)極めて甚(はなはだ)しく、愛情尤(もっと)も盛りなりき。時に勅して不敬の罪を断(さだ)め、本郷(もとつくに)に退却(まか)らしむ。ここに王、意(こころ)を悼(いた)み怛(かなし)びていささかにこの歌を作れり。

門部王戀謌一首
標訓 門部(かとへの)王(おほきみ)の戀の謌一首
集歌五三六 
原文 飫宇能海之 塩干乃滷之 片念尓 思哉将去 道之永手呼
訓読 意宇(おう)の海(み)し潮干(しほひ)の潟し片思に思ひや去(い)かむ道し長手を
私訳 意宇の海の潮が干くと現れる潟の、その現れた片思いとして貴女を慕う気持ちを表しましょう。恋の長い道のりを。
左注 右、門部王、任出雲守時、娶部内娘子也。未有幾時、既絶徃来。累月之後、更起愛心。仍作此謌贈致娘子
注訓 右は、門部王の、出雲守に任らえし時に、部内(ぶない)の娘子(をとめ)を娶(ま)く。未だ幾時(いくばく)ならずして、既に徃来(かよひ)絶えたり。月を累(かさ)ねし後に、更(また)愛(いつくしみ)の心を起(おこ)す。仍りて此の謌を作り娘子に贈致(おく)れり。

高田女王贈今城王謌六首
標訓 高田女王(たかたのおほきみ)の今城王(いまきのおほきみ)に贈りたる謌六首
集歌五三七 
原文 事清 甚毛莫言 一日太尓 君伊之哭者 痛寸取物
訓読 事(こと)清くいたも言ひそ一日(ひとひ)だに君いし無くは痛(いた)き招(まね)もの
私訳 貴方が為されたことを繕って言わないで下さい。一日だけでも貴方がいらっしゃらないことは私には辛い出来事です。
注意 原文の「痛寸取物」の「取」は、万葉集古義などにより「敢」に変えた方が良いとの希望があり、現在は「敢」に校訂し「痛(たえかた)きかも」と訓じます。

集歌五三八 
原文 他辞乎 繁言痛 不相有寸 心在如 莫思吾背
訓読 他辞(ほかこと)を繁み言痛(こちた)み逢はずありき心あるごとな思ひ我が背
私訳 他人の噂話がひどく煩わしいので逢わないでいました。他の男の人に思いを寄せているとは思わないで下さい。私の愛しい貴方。

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