竹取翁と万葉集のお勉強

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万葉集巻四を鑑賞する  集歌720から集歌739まで

2011年12月31日 | 万葉集巻四を鑑賞する
万葉集巻四を鑑賞する


集歌720 村肝之 情揣而 如此許 余戀良久乎 不知香安類良武
訓読 村肝(むらきも)し情(こころ)くだけて如(かく)ばかり余(あ)が恋ふらくを知らずかあるらむ

私訳 五臓六腑の思いも砕けて、このように私が貴女を恋い慕うのを、貴女は知らないでいるのでしょうか。


獻天皇謌一首  大伴坂上郎女在佐保宅作也
標訓 天皇(すめらみこと)に獻(たてまつ)れる謌一首  大伴坂上郎女の佐保の宅に在りて作れり
集歌721 足引乃 山二四居者 風流無三 吾為類和射乎 害目賜名
訓読 あしひきの山にし居(を)れば風流(みやび)なみ吾がする業(わざ)を害(とが)めたまふな

私訳 足を引くような険しい山里に住んでいますので、無風流な私がする(和歌を贈るという)仕業をお咎めにならないで。


大伴宿祢家持謌一首
標訓 大伴宿祢家持の謌一首
集歌722 如是許 戀乍不有者 石木二毛 成益物乎 物不思四手
訓読 かくばかり恋ひつつあらずは石木(いはき)にも成らましものを物思はずして

私訳 これほどに恋い慕い続けないでいるには石や木にでも成れるものならなりたい。石や木は恋い慕うこともない。


大伴坂上郎女、従跡見庄、贈賜留宅女子大嬢謌一首并短謌
標訓 大伴坂上郎女の、跡見(とみの)庄(たどころ)より、宅(いへ)に留まれる女子(むすめ)の大嬢(おほをとめ)に贈賜(おく)れる謌一首并せて短謌
集歌723 常呼二跡 吾行莫國 小金門尓 物悲良尓 念有之 吾兒乃刀自緒 野干玉之 夜晝跡不言 念二思 吾身者痩奴 嘆丹師 袖左倍沽奴 如是許 本名四戀者 古郷尓 此月期呂毛 有勝益土

訓読 常世(とこよ)にと 吾が行かなくに 小金門(をかなと)に もの悲(かな)しらに 念(おも)へりし 吾が児の刀自(とじ)を ぬばたまし 夜昼(よるひる)といはず 念(おも)ふにし 吾が身は痩(や)せぬ 嘆(なげ)くにし 袖さへ沽(か)へぬ 如(かく)ばかり もとなし恋ひば 古郷(ふるさと)に この月ごろも ありかつましじ

私訳 あの世の常世にと私がいくのでもないのに、家の門口で悲しそうに見えた私の子供の貴女のことを漆黒の夜と昼とは問わずに恋焦がれると、私の体は痩せてしまった。逢えぬ嘆きのために袖までも涙で傷んでしまう。このように虚しく貴女を恋しく思っていると、故郷にこの一月も過すことはありえません。


反謌
集歌724 朝髪之 念乱而 如是許 名姉之戀曽 夢尓所見家留
訓読 朝髪し念(おも)ひ乱れて如(かく)ばかり汝(な)姉(ね)し恋ふれぞ夢にし見ける

私訳 朝に髪が乱れるように思いは乱れて、このようにお姉さんの貴女が恋しがっているから、私の夢の中に見えたのでしょう。

右歌、報賜大嬢進謌也。
注訓 右の歌は、大嬢(おほをとめ)の進(たてまつ)る謌に報賜(こた)へり


獻天皇謌二首  大伴坂上郎女、在春日里作也
標訓 天皇(すめらみこと)に獻(たてまつ)れる謌二首  大伴坂上郎女、春日の里に在りて作れる
集歌725 二寶鳥乃 潜池水 情有者 君尓吾戀 情示左祢
訓読 にほ鳥(とり)の潜(かづ)く池水(いけみず)情(こころ)あば君に吾が恋(こ)ふ情(こころ)示さね

私訳 にお鳥が水に潜る池の水よ、もし、人情があるなら貴方に私が人知れず恋い慕う気持ちを示しなさい。


集歌726 外居而 戀乍不有者 君之家乃 池尓住云 鴨二有益雄
訓読 外(よそ)に居(ゐ)て恋ひつつあらずは君し家(へ)の池に住むいふ鴨にあらましを

私訳 遠くにいて恋い慕い続けるくらいなら、貴方の家の池に住むと云う鴨になりたいものです。


大伴宿祢家持贈坂上家大嬢謌二首  雖絶數年、復會相聞徃来
標訓 大伴宿祢家持の坂上家の大嬢(おほをとめ)に贈れる謌二首  ただ絶へること數(あまた)年にして、復(また)會(あ)ひて相聞徃来(そうもんおうらい)せり
集歌727 萱草 吾下紐尓 著有跡 鬼乃志許草 事二思安利家理
訓読 忘れ草吾が下紐に付けたれど醜(しこ)の醜草(しこくさ)事(こと)にしありけり

私訳 この世の憂さを忘れさせると云う忘れ草を私の下紐に付けたけれど、言伝えとは違い、ただ丈夫な立派な花草、それだけでした。


集歌728 人毛無 國母有粳 吾妹子与 携行而 副而将座
訓読 人も無き国もあらぬか吾妹子と携(たづさ)はり行きて副(たぐ)ひて居(を)らむ

私訳 誰一人いない国はないだろうか。愛しい私の貴女と手を携えて行って、二人寄り添って暮らしたい。


大伴坂上大嬢贈大伴宿祢家持謌三首
標訓 大伴坂上大嬢(おほをとめ)の大伴宿祢家持に贈れる謌三首
集歌729 玉有者 手二母将巻乎 欝瞻乃 世人有者 手二巻難石
訓読 玉ならば手にも纏(ま)かむを現世(うつせみ)の世し人なれば手に纏(ま)き難(かた)し

私訳 大切な玉でしたら手にも巻きましょうが、この世に生きる、麗しい貴方ですので私の手に巻くことは出来ません。


集歌730 将相夜者 何時将有乎 何如為常香 彼夕相而 事之繁裳
訓読 逢はむ夜は何時(いつ)もあらむを何すとかその夕(よひ)逢ひて事(こと)し繁きも

私訳 お逢いする夜は何時もあるのでしょうが、どうした訳でしょうか、あの宵に貴方に逢って、貴方は私にいろいろなことをしました。


集歌731 吾名者毛 千名之五百名尓 雖立 君之名立者 惜社泣
訓読 吾が名はも千名(ちな)し五百名(いほな)に立ちぬとも君し名立たば惜(を)しみこそ泣け

私訳 私のことは千回も五百回も噂に立っても、貴方のことが噂に立つと口惜しくて泣けます。


又大伴宿祢家持和謌三首
標訓 又、大伴宿祢家持の和(こた)へたる謌三首
集歌732 今時者四 名之惜雲 吾者無 妹丹因者 千遍立十方
訓読 今しはし名し惜(を)しけくも吾はなし妹に因(よ)りては千遍(ちたび)立つとも

私訳 今はもう噂になることを口惜しくは私にはありません。愛しい貴女のために千遍も噂がたったとしても。


集歌733 空蝉乃 代也毛二行 何為跡鹿 妹尓不相而 吾獨将宿
訓読 現世(うつせみ)の世やも二(ふた)行(ゆ)く何すとか妹に逢はずて吾がひとり寝(ね)む

私訳 仏法での人の世でも仏陀と共に二人で生きて行く。どうして二人でいるべき愛しい貴女に逢わないで、私が独りで今夜を寝るのでしょう。


集歌734 吾念 如此而不有者 玉二毛我 真毛妹之 手二所纒牟
訓読 吾(あ)が念(おも)ひ如(かく)てあらずは玉にもが真(まこと)も妹し手にし纏(ま)かれむ

私訳 私の貴女を抱きたいと思う思いがこれほどでないなら、玉でありたい。そしてきっと、愛しい貴女の手にでも巻かれましょう。


同坂上大嬢贈家持謌一首
標訓 同じ坂上大嬢の家持に贈れる謌一首
集歌735 春日山 霞多奈引 情具久 照月夜尓 獨鴨念
訓読 春日山霞たなびき情(こころ)ぐく照れる月夜(つくよ)にひとりかも寝(ね)む

私訳 春日山に霞が棚引き気迷う、この朧に照れる月明りの夜に、私独りで寝るのでしょうか。


又家持和坂上大嬢謌一首
標訓 又、家持の坂上大嬢に和(こた)へたる謌一首
集歌736 月夜尓波 門尓出立 夕占問 足卜乎曽為之 行乎欲焉
訓読 月夜(つくよ)には門(かど)に出で立ち夕占(ゆふけ)問ひ足ト(あしうら)をぞせし行かまくを欲(ほ)り

私訳 月夜には家の門に出て立って夕占いを問い、足占いをしました。貴女の許に行きたいと思って。


同大嬢贈家持謌二首
標訓 同じ大嬢の家持に贈れる謌二首
集歌737 云々 人者雖云 若狭道乃 後瀬山之 後毛将念君
訓読 かにかくに人は云ふとも若狭(わかさ)道(ぢ)の後瀬(あとせ)し山し後(のち)も念(も)ふ君

私訳 あれやこれやと人は噂を云っても、若狭への道にある後瀬の山の名のように、貴方との逢瀬の後もお慕いします。愛しい貴方。


集歌738 世間之 苦物尓 有家良久 戀尓不勝而 可死念者
訓読 世間(よのなか)し苦しきものにありけらく恋に堪(あ)へずて死ぬべき念(おも)へば

私訳 この世に生きることは苦しいことであるようです。貴方を恋い慕うことに耐え切れずに死ぬでしょうと思い込めると。


又家持和坂上大嬢謌二首
標訓 又、家持の坂上大嬢に和(こた)へたる謌二首
集歌739 後湍山 後毛将相常 念社 可死物乎 至今日生有
訓読 後瀬山(あとせやま)後も逢はむと念(おも)へこそ死ぬべきものを今日まで生(い)ける

私訳 後瀬の山の名のように貴女との逢瀬の後も、また、二人は逢えると思うから、死ぬほどの恋患いを今日まで生きているのです。

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万葉集巻四を鑑賞する  集歌700から集歌719まで

2011年12月29日 | 万葉集巻四を鑑賞する
万葉集巻四を鑑賞する


大伴宿祢家持到娘子之門作謌一首
標訓 大伴宿祢家持の娘子(をとめ)の門に到りて作れる謌一首
集歌700 如此為而哉 猶八将退 不近 道之間乎 煩参来而
訓読 かくしてやなほや退(まか)らむ近からぬ道し間(あひだ)をなづみ参(ま)ゐ来(き)て

私訳 このようにして、やはり立ち去るのでしょうか。近くもない道の間を苦労してやって来ましたが。


河内百枝娘子贈大伴宿祢家持謌二首
標訓 河内百枝(かはちのももえの)娘子(をとめ)の大伴宿祢家持に贈りたる謌二首
集歌701 波都波都尓 人乎相見而 何将有 何日二箇 又外二将見
訓読 はつはつに人を相見ていかにあらむいづれし日にかまた外(よそ)に見む

私訳 ほんのわずかに貴方を御会いして、さて、どうなのでしょうか。いつか別の日にでも、また別な場所で御会いしたいものです。


集歌702 夜干玉之 其夜乃月夜 至于今日 吾者不忘 無間苦思念者
訓読 ぬばたましその夜の月夜(つくよ)今日(けふ)までに吾は忘れず間(ま)無くし念(おも)へば

私訳 漆黒の闇のあの夜の月夜のこと。今日まで私は忘れません。常に間を空けることなく貴方をお慕いしていると。


巫部麻蘇娘子謌二首
標訓 巫部麻蘇(かんなぎべのあその)娘子(をとめ)の謌二首
集歌703 吾背子乎 相見之其日 至于今日 吾衣手者 乾時毛奈志
訓読 吾が背子を相見しその日今日(けふ)までに吾が衣手(ころもて)は乾(ふ)る時も無し

私訳 私の愛しい貴方に御逢いしたその日から今日まで私の衣の袖は貴方が恋しい涙に乾く暇もありません。

注意 集歌3163の歌の感覚からすると、集歌703の歌は「貴方に抱かれたその日から身が濡れたまま」と解釈も可能です。

参考歌
集歌3163 吾妹兒尓 觸者無二 荒礒廻尓 吾衣手者 所沾可母
訓読 吾妹子(わぎもこ)に触(ふ)るるは無(な)みに荒礒廻(ありそみ)に吾(あ)が衣手(ころもて)は濡れにけるかも

私訳 私の愛しい貴女と身を交わしたこともないのに、波打つ荒磯を廻り行くに、私の衣の袖は濡れたようです。


集歌704 栲縄之 永命乎 欲苦波 不絶而人乎 欲見社
訓読 栲縄(たくなは)し永(なが)き命(いのち)を欲(ほ)りしくは絶えずて人を見まく欲(ほ)りこそ

私訳 栲の縄が丈夫で長いように、末永い命を求めたのは、いつまでも貴方のお姿を拝見したいと思ったからです。


大伴宿祢家持贈童女謌一首
標訓 大伴宿祢家持の童女(をとめ)に贈れる謌一首
集歌705 葉根蘰 今為妹乎 夢見而 情内二 戀度鴨
訓読 葉根(はね)蘰(かづら)今する妹を夢し見て情(こころ)しうちに恋ひ度(わた)るかも

私訳 成女になった印の「はね蘰」を、今、身に着ける愛しい貴女を夢の内に見て、そんな貴女を心の内に恋い慕い続けるでしょう。

注意 原文の「葉根蘰(はね蘰)」は集歌705と706の歌でのキーワードですが、その「はね蘰」を付ける女性を的確に詠った歌が万葉集にあります。その集歌2627の歌を集歌706の歌の後で紹介します。


童女来報謌一首
標訓 童女の来報(こた)へる謌一首
集歌706 葉根蘰 今為妹者 無四呼 何妹其 幾許戀多類
訓読 葉根(はね)蘰(かづら)今する妹は無かりしをいづれし妹ぞ幾許(ここだ)恋ひたる

私訳 成女になった印の「はね蘰」を、今、身に着ける愛しい乙女はここにはいないのに、どちらの愛しい女性にでしょうか。それほどに貴方は恋い慕うのですか。


参考歌 「はね蘰」を詠う歌
集歌2627 波祢蘰 今為妹之 浦若見 咲見慍見 著四紐解
訓読 はね蘰(かつら)今する妹しうら若み笑(ゑ)みみ怒(いか)りみ着(つ)けし紐(ひも)解(と)く

私訳 成女になった印の「はね蘰」を、今、身に着ける愛しい貴女は、まだ、男女の営みに初々しいので、笑ったり拗ねたりして、着ている下着の紐を解く。


粟田娘子贈大伴宿祢家持謌二首
標訓 粟田娘子(あはたのをとめ)の大伴宿祢家持に贈れる謌二首
集歌707 思遣 為便乃不知者 片垸之 底曽吾者 戀成尓家類
訓読 思ひ遣(や)るすべの知らねば片垸(かたもひ)し底にぞ吾は恋ひ成りにける

私訳 貴方に恋い慕う気持ちを送り遣る方法を知らないので、土椀(かたもひ)の底、その言葉のひびきではありませんが、片思いのままに、心底、私は貴方に恋い焦がれてしまいました。


集歌708 復毛将相 因毛有奴可 白細之 我衣手二 齊留目六
訓読 またも逢はむ因(よし)もあらぬか白栲し我が衣手(ころもて)に齊(いは)ひ留(とど)めむ

私訳 もう一度逢う機会はないのでしょうか。貴方と寝たときの白い栲の我の衣の袖に願って、貴方の思い出を留めましょう。


豊前國娘子大宅女謌一首  未審姓氏
標訓 豊前國(とよのみちのくちのくに)の娘子(をとめ)大宅女(おほやけめ)の謌一首  未だに姓氏は審(つばび)らかならず
集歌709 夕闇者 路多豆頭四 待月而 行吾背子 其間尓母将見
訓読 夕闇(ゆふやみ)は路たづとほし月待ちて行ませ吾が背子その間(ほ)にも見む

私訳 夕闇は道が薄暗くておぼつかなく不安です。月が出るのを待って帰って行きなさい。私の愛しい貴方。その月が出る間も貴方と一緒にいられる。


安都扉娘子謌一首
標訓 安都扉(あとのとびらの)娘子(をとめ)の謌一首
集歌710 三空去 月之光二 直一目 相三師人 夢西所見
訓読 み空行く月し光にただ一目(ひとめ)相見し人し夢にし見ゆる

私訳 大空を行く月の光の下に、私を妻問ってきた姿をただ一度だけ見た貴方の、その姿を夢の中に見ます。


丹波大女娘子謌三首
標訓 丹波大女(たにはのおほめの)娘子(をとめ)の謌三首
集歌711 鴨鳥之 遊此池尓 木葉落而 浮心 吾不念國
訓読 鴨鳥(かもとり)し遊ぶこの池に木(こ)し葉落ちて浮きたる心吾が念(おも)はなくに

私訳 鴨鳥が泳ぎ遊ぶこの池に木の葉が落ちて浮かぶ、そんな浮いた気持ちを私は思わないのに。


集歌712 味酒呼 三輪之祝我 忌杉 手觸之罪歟 君二遇難寸
訓読 味酒(うまさけ)を三輪し祝(ほふり)が忌(いは)ふ杉手(て)触(ふ)れし罪か君に逢ひ難(かた)き

私訳 口噛みの味酒を造る三輪の神官が祭り奉る杉を私の手が触れた罪なのでしょうか、貴方に逢うことが難しい。


集歌713 垣穂成 人辞聞而 吾背子之 情多由多比 不合頃者
訓読 垣穂(かきほ)なす人(ひと)辞(こと)聞きて吾が背子し情(こころ)たゆたひ逢はぬこのころ

私訳 周囲を取り囲む生垣のような包み込む人の噂話を聞いて私の愛しい貴方の私への気持ちはためらって、貴方に逢わないこの頃です。


大伴宿祢家持贈娘子謌七首
標訓 大伴宿祢家持の娘子(をとめ)に贈れる謌七首
集歌714 情尓者 思渡跡 縁乎無三 外耳為而 嘆曽吾為
訓読 情(こころ)には思ひ渡れど縁(よし)を無み外(よそ)のみにして嘆(なげ)きぞ吾(わ)がする

私訳 気持ちの中では慕い続けているのだけど、逢う縁がなく離れていて逢えない嘆きを私はします。


集歌715 千鳥鳴 佐保乃河門之 清瀬乎 馬打和多思 何時将通
訓読 千鳥鳴く佐保(さほ)の川門(かはと)し清き瀬を馬うち渡しいつか通はむ

私訳 千鳥が鳴く佐保の川の渡しの清らかな瀬を、馬に乗り川を渡し、いつかは貴女の許へと通いましょう。


集歌716 夜晝 云別不知 吾戀 情盖 夢所見寸八
訓読 夜昼(よるひる)とい別(わき)知らず吾が恋ふる情(こころ)はけだし夢に見えきや

私訳 夜と昼との区別も判らず、私が貴女を恋い慕う心は、もしかして貴女の夢の中に現れたでしょうか。


集歌717 都礼毛無 将有人乎 獨念尓 吾念者 惑毛安流香
訓読 つれも無くあるらむ人を片思(かたもひ)に吾は念(おも)へば惑(わび)しくもあるか

私訳 私と関係なく生きているでしょう人を片思いに私が恋い慕うと、なんと辛いことでしょう。


集歌718 不念尓 妹之咲儛乎 夢見而 心中二 燎管曽呼留
訓読 念(おも)はぬに妹し笑(ゑ)ひを夢に見て心しうちに燎(も)えつつぞ居(を)る

私訳 思いがけずに愛しい貴女の微笑みを夢の中に見て、心の中は恋に燃えてつづけています。


集歌719 大夫跡 念流吾乎 如此許 三礼二見津礼 片思男責
訓読 大夫(ますらを)と念(おも)へる吾をかくばかりみつれに見つれ片思(かたおもひ)をせむ

私訳 立派な男子と思っているこの私を、このように詰まらない者と見るのなら見ろ。貴女に苦しい片思いをしよう。

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万葉集巻四を鑑賞する  集歌680から集歌699まで

2011年12月26日 | 万葉集巻四を鑑賞する
万葉集巻四を鑑賞する


大伴宿祢家持与交遊別謌三首
標訓 大伴宿祢家持の交遊(とも)と別れたる謌三首
集歌680 盖毛 人之中言 聞可毛 幾許雖待 君之不来益
訓読 けだしくも人し中言(なかこと)聞かせかも幾許(ここだ)く待てど君し来まさぬ

私訳 きっと、人の中傷をお聞きになったのでしょう。これほど待っていますが、貴方はおいでにならない。


集歌681 中々尓 絶年云者 如此許 氣緒尓四而 吾将戀八方
訓読 なかなかに絶ゆとし云はばかくばかり気(いき)し緒にして吾(わ)が恋ひめやも

私訳 いっそのこと仲を絶つと云うのでしたら、これほどばかり一生懸命に私が貴方を尊敬するでしょうか。


集歌682 将念 人尓有莫國 懃 情盡而 戀流吾毳
訓読 念(おも)ふらむ人にあらなくに懃(ねもころ)に情(こころ)尽(つく)して恋ふる吾かも

私訳 私のことを気に掛けてくれる人でもないのですが、ねんごろに心を尽くして貴方を尊敬する私です。


大伴坂上郎女謌七首
標訓 大伴坂上郎女の謌七首
集歌683 謂言之 恐國曽 紅之 色莫出曽 念死友
訓読 謂(い)ふ言(こと)し恐(かしこ)き国ぞ紅(くれなゐ)し色にな出(い)でそ念(おも)ひ死ぬとも

私訳 声に出して云う誓いを大切にする国です。でも、紅の色のように、けっして人目に付くように表に出さないで。私が貴方に恋焦がれて死んでしまっても。


集歌684 今者吾波 将死与吾背 生十方 吾二可縁跡 言跡云莫苦荷
訓読 今は吾(あ)は死なむよ吾が背(せ)生(い)けるとも吾(あ)に縁(よ)るべしと言ふと云(い)はなくに

私訳 今は私は死んでしまいましょう。私の愛しい貴方。生きていても私を恋い慕っていますと貴方が誓うと云ってはくれないので。


集歌685 人事 繁哉君乎 二鞘之 家乎隔而 戀乍将座
訓読 人(ひと)事(こと)し繁みか君を二鞘(ふたさや)し家(いへ)を隔(へな)りて恋ひつつをらむ

私訳 世事が多いのでしょうか。御出でにならない愛しい貴方を、中を隔てる二鞘のように家を隔てて恋い慕っています。


集歌686 比者 千歳八徃裳 過与 吾哉然念 欲見鴨
訓読 このころは千歳(ちとせ)や往(い)きも過ぎぬると吾やしか念(も)ふ見まく欲(ほ)りかも

私訳 近頃は千年も時が行き過ぎてしまったのだろうかと私はこのように思ってしまう。お逢いしたいと恋焦がれるからでしょうか。


集歌687 愛常 吾念情 速河之 雖塞々友 猶哉将崩
訓読 愛(うつく)しと吾が念(おも)ふ情(こころ)速川(はやかは)し塞(せ)きに塞(せ)くともなほや崩(こぼ)たむ

私訳 貴方を愛しいと私がお慕いする気持ちは、速い流れの川を堰き止めに堰き止めたとしても、その堰を崩してしまうでしょう。


集歌688 青山乎 横殺雲之 灼然 吾共咲為而 人二所知名
訓読 青山を横切る雲し著(いちし)ろく吾と笑(ゑ)まして人に知らゆな

私訳 青い山並みを横切る雲がはっきりしているように、はっきりと私に微笑みかけて人には気付かれないで。


集歌689 海山毛 隔莫國 奈何鴨 目言乎谷裳 幾許乏寸
訓読 海山も隔(へだ)たらなくに何しかも目(め)言(こと)をだにも幾許(ここだ)乏(とも)しき

私訳 海や山も間にあって隔てているのではないのに、どうして、お逢いする機会がこれほどに少ないのでしょうか。


大伴宿祢三依悲別謌一首
標訓 大伴宿祢三依の別れを悲しびたる謌一首
集歌690 照日乎 闇尓見成而 哭涙 衣沽津 干人無二
訓読 照る日を闇(やみ)に見なして哭(な)く涙衣(ころも)沽(か)りつ干(ほ)す人無(な)みに

私訳 照り輝く日も闇夜と思えて悶え泣く涙。その涙で濡れた衣を交換しました。その濡れた衣を干す人がいないので。

注意 原文の「照日乎」の「日」は、一般に「月」の誤記とします。また「衣沽津」の「沽」は「沾」の誤字とします。ここでは原文のままに訓んでいます。


大伴宿祢家持贈娘子謌二首
標訓 大伴宿祢家持の娘子(をとめ)に贈れる謌二首
集歌691 百礒城之 大宮人者 雖多有 情尓乗而 所念妹
訓読 ももしきし大宮人は多かれど情(こころ)に乗(の)りて念(おも)ほゆる妹

私訳 多くの岩を積み上げる大宮の宮女は沢山いますが、私の心の内を占めて慕っている愛しい貴女。


集歌692 得羽重無 妹二毛有鴨 如此許 人情乎 令盡念者
訓読 表辺(うはへ)なき妹にもあるかも如(か)くばかり人し情(こころ)を尽(つく)さす念(おも)へば

私訳 つれない愛しい貴女なのですね。このように恋する人の思いを尽くさすと思うと。


大伴宿祢千室謌一首  未詳
標訓 大伴宿祢千室(ちむろ)の謌一首  いまだ詳(つばび)らかならず
集歌693 如此耳 戀哉将度 秋津野尓 多奈引雲能 過跡者無二
訓読 かくのみし恋ひや渡らむ秋津野にたなびく雲の過(す)ぐとはなしに

私訳 これほどに恋い慕い続けるのでしょうか。秋津の野に棚引く雲のように恋する思いが消え過ぎることはなくて。


廣河女王謌二首  穂積皇子之孫女上道王之女也
標訓 廣河女王(ひろかはのおほきみ)の謌二首  穂積皇子の孫女(むまご)、上道(かみつみちの)王(おほきみ)の女(むすめ)なり
集歌694 戀草呼 力車二 七車 積而戀良苦 吾心柄
訓読 恋草(こいくさ)を力車(ちからくるま)に七車(ななくるま)積みて恋ふらく吾が心から

私訳 恋と云う草を大きな車に七台も積んで恋い慕います。私の心の底から。


集歌695 戀者今葉 不有常吾羽 念乎 何處戀其 附見繋有
訓読 恋は今はあらじと吾(あれ)は念(おも)へるを何処(いづく)し恋ぞ掴(つ)かみ繋(かか)れる

私訳 恋することはもう今は無いでしょうと私は思っていたのに、どこの恋心が私の心に掴みかかってくるのでしょうか。


石川朝臣廣成謌一首  後賜高圓朝臣氏也
標訓 石川朝臣廣成の謌一首  後に高圓(たかまどの)朝臣(あそみ)の氏(うぢ)を賜へり
集歌696 家人尓 戀過目八方 川津鳴 泉之里尓 年之歴去者
訓読 家人(いへひと)に恋過ぎめやもかはづ鳴く泉(いづみ)し里に年し歴(へ)ぬれば

私訳 家に残した恋人に恋い慕う行いが過ぎることがあるでしょうか。カジカ蛙が鳴く泉の里で年を越したと思うと。


大伴宿祢像見謌三首
標訓 大伴宿祢像見(かたみ)の謌三首
集歌697 吾聞尓 繋莫言 苅薦之 乱而念 君之直香曽
訓読 吾が聞くに繋(か)けてな言ひそ刈薦(かりこも)し乱れて念(おも)ふ君し正香(ただか)そ

私訳 私が聞くでしょうと繋がりを求めて恋を誓わないで、刈ったあとの薦の刈場ように心を乱してお慕いする貴女。


集歌698 春日野尓 朝居雲之 敷布二 吾者戀益 月二日二異二
訓読 春日野(かすがの)に朝(あさ)居(ゐ)る雲ししくしくに吾は恋ひます月に日に異(け)に

私訳 春日野に朝に懸かる雲が幾重もあるように、何度も何度も私は貴女に恋い慕います。月ごと日ごとに。


集歌699 一瀬二波 千遍障良比 逝水之 後毛将相 今尓不有十方
訓読 一瀬(ひとせ)には千遍(ちへ)障(さわ)らひ逝(ゆ)く水し後(ゆり)にも逢はむ今にあらずとも

私訳 一瀬ではどれほど妨げられて流れ行く水は後にも一緒になるでしょう。そのように貴女との逢瀬は今でなくても。

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万葉集巻四を鑑賞する  集歌660から集歌679まで

2011年12月24日 | 万葉集巻四を鑑賞する
万葉集巻四を鑑賞する


集歌660 汝乎与吾乎 人曽離奈流 乞吾君 人之中言 聞起名湯目
訓読 汝(な)をと吾(あ)を人ぞ離(さ)くなるいで吾(あが)君(ひと)人し中言(なかこと)聞きこすなゆめ

私訳 貴方と私とを、人は引き離そうとしている。ねえ私の愛しい貴方。人の中傷をお聞きにならいで。きっと。


集歌661 戀々而 相有時谷 愛寸 事盡手四 長常念者
訓読 恋ひ恋ひて逢へる時だに愛(うるは)しき事(こと)尽(つく)してよ長くと念(おも)はば

私訳 お慕いし続けてやっと逢い抱き合う時には、嬉しい愛撫を尽くして下さい。この二人の仲が長く続くと想いでしたら。


市原王謌一首
標訓 市原王(いちはらのおほきみ)の謌一首
集歌662 網兒之山 五百重隠有 佐堤乃埼 左手蝿師子之 夢二四所見
訓読 網児(あご)し山五百重(いほへ)隠せる佐堤(さて)の崎(さき)小網(さて)延(は)へし子し夢にし見ゆる

私訳 私の愛しい貴女。網兒の山を幾重にも隠す佐堤の岬、どうしたことか、小網を張るように床で左手を横に寝る私へと延ばした娘子が夢に現れた。


安部宿祢年足謌一首
標訓 安部宿祢年足(としたり)の謌一首
集歌663 佐穂度 吾家之上二 鳴鳥之 音夏可思吉 愛妻之兒
訓読 佐保(さほ)渡り吾家(わぎへ)し上に鳴く鳥し声なつかしき愛(は)しき妻し子

私訳 佐保の川辺を渡り私の家のほとりで啼く鳥の声のような、その声に心を引かれる愛しい妻である貴女。


大伴宿祢像見謌一首
標訓 大伴宿祢像見(かたみ)の謌一首
集歌664 石上 零十方雨二 将關哉 妹似相武登 言羲之鬼尾
訓読 石上(いそのかみ)降るとも雨に關(つつ)まめや妹に逢はむと言ひてしものを

私訳 石上の布留の里に雨が降ったとして、その雨に降り籠められるでしょうか。貴女に逢いたいと神に誓ったのだから。

注意 原文の「言羲之鬼尾」の「羲之」と「鬼尾」は「てし」と「ものを」の戯訓です。


安倍朝臣蟲麿謌一首
標訓 安倍朝臣蟲麿(むしまろ)の謌一首
集歌665 向座而 雖見不飽 吾妹子二 立離徃六 田付不知毛
訓読 向ひ居(ゐ)て見れども飽かぬ吾妹子(わぎもこ)に立ち別れ行かむたづき知らずも

私訳 向かい合って見ていても飽きることのない私の愛しい貴女に立ち去って別れて行く方法を思いつきません。


大伴坂上郎女謌二首
標訓 大伴坂上郎女の謌二首
集歌666 不相見者 幾久毛 不有國 幾許吾者 戀乍裳荒鹿
訓読 相見ぬは幾(いく)久(ひ)さにもあらなくに幾許(ここだ)く吾は恋ひつつもあるか

私訳 貴女に逢えない日々がそれほどたったわけでもないが、これほどひどく私は貴女を懐かしんでいるのでしょうか。


集歌667 戀々而 相有物乎 月四有者 夜波隠良武 須臾羽蟻待
訓読 恋ひ恋ひて逢ひたるものを月しあれば夜は隠(かく)らむ須臾(しまし)はあり待て

私訳 ひどく懐かしんで逢ったのですから、遅い月があるので夜の闇は隠れるように月明かりでやがて明るくなるでしょうから、暫しこうして話しながら待ちましょう。

右、大伴坂上郎女之母石川内命婦、与安部朝臣蟲満之母安曇外命婦、同居姉妹、同氣之親焉。縁此郎女蟲満、相見不踈、相談既密。聊作戯謌以為問答也。
注訓 右の、大伴坂上郎女の母石川内命婦と、安部朝臣蟲満の母安曇外命婦とは、同居の姉妹にして、同氣の親あり。これによりて郎女と蟲満と、相見ること踈からず、相談ふこと既に密なり。聊か戯れの歌を作りて問答をなせり。


厚見王謌一首
標訓 厚見王(あつみのおほきみ)の謌一首
集歌668 朝尓日尓 色付山乃 白雲之 可思過 君尓不有國
訓読 朝(あさ)に日(け)に色づく山の白雲し思ひ過ぐべき君にあらなくに

私訳 朝ごとに日一日ごとに色付いていく山に懸かる白雲が流れ去るように、人々の思い出の中に過ぎ去るような貴方ではありません。


春日王謌一首  志賀皇子之子母曰多紀皇女也
標訓 春日王(かすがのおほきみ)の謌一首  志賀皇子の子、母は曰く「多紀(たきの)皇女(ひめみこ)」なり
集歌669 足引之 山橘乃 色丹出而 語言継而 相事毛将有
訓読 あしひきし山橘の色に出(い)で語言(かたこと)継ぎて逢ふこともあらむ

私訳 足を引きずるような険しい山の山橘のように、人がはっきりと気付くように態度に出しなさい。その態度を人々が噂し伝えて、出会うこともあるでしょう。


湯原王謌一首
標訓 湯原王(ゆはらのおほきみ)の謌一首
集歌670 月讀之 光二来益 足疾乃 山乎隔而 不遠國
訓読 月読(つくよみ)し光りに来(き)ませあしひきの山を隔(へな)りて遠からなくに

私訳 月を夜見る、その月明りを頼りにやって来て下さい。足を引きずるような険しい山を隔てていますが、遠くはありませんから。


和謌一首  不審作者
標訓 和(こた)へたる謌一首  作る者は審(つばび)らかならず
集歌671 月讀之 光者清 雖照有 惑情 不堪念
訓読 月読(つくよみ)し光りは清く照らせれど惑(まと)へる情(こころ)甚(あ)へず念(おも)ほゆ

私訳 月を夜見る、その月明りは清らかに照らしていますが、行くべきかとの思い迷う気持ちにひどく悩んでいます。


安倍朝臣蟲麿謌一首
標訓 安倍朝臣蟲麿(むしまろ)の謌一首
集歌672 倭文手纒 數二毛不有 壽持 奈何幾許 吾戀渡
訓読 倭文(しつ)手(た)纏(ま)き数にもあらぬ命(いのち)もて何か幾許(ここだく)吾が恋ひわたる

私訳 倭文織の腕帯のようにつまらなく数にも入らないこの私の命を賭けて、どうしてこれほどに、釣り合いの取れない私ですが、貴女を恋い慕うのでしょう。


大伴坂上郎女謌二首
標訓 大伴坂上郎女の謌二首
集歌673 真十鏡 磨師心乎 縦者 後尓雖云 驗将在八方
訓読 真澄鏡(まそかがみ)磨(と)ぎし心をゆるしてば後(ゆり)に云ふとも験(しるし)あらめやも

私訳 願うものを見せると云う真澄鏡を磨いたように明らかな私の気持ちを貴方に預けたら、私が「また、逢いましょう」と願えば貴方はまた私をこのように抱いてくれますか。


集歌674 真玉付 彼此兼手 言齒五十戸當 相而後社 悔二破有跡五十戸
訓読 真玉(またま)つくをちこち兼ねて言(こと)は云(い)へど逢ひて後(のち)こそ悔(くひ)にはありと云(い)へ

私訳 美しい玉のような期待ある将来のことを貴方は誓って云いますが、貴方が私を抱いた後は、きっと、貴方は「どうして、お前を抱いたのだ」と後悔の言葉を云うでしょう。


中臣女郎贈大伴宿祢家持謌五首
標訓 中臣(なかおみの)女郎(いらつめ)の大伴宿祢家持に贈れる謌五首
集歌675 娘子部四 咲澤二生流 花勝見 都毛不知 戀裳摺可聞
訓読 女郎花(をみなえし)佐紀沢(さきさは)に生(お)ふる花かつみかつても知らぬ恋もするかも

私訳 女郎花の花が咲く、佐紀沢に生える「花かつみ」、その花を今まで知らないように、今まで経験したことのないこのような恋をするのでしょう。


集歌676 海底 奥乎深目手 吾念有 君二波将相 年者經十方
訓読 海(わた)し底(そこ)奥を深めて吾が念(おも)へる君には逢はむ年は経ぬとも

私訳 海の底のように深く気持ちを閉じ込めて私がお慕いする貴方には、なんとかお逢いしたい。どれほど、年月がかかっても。


集歌677 春日山 朝居雲乃 欝 不知人尓毛 戀物香聞
訓読 春日山朝(あさ)居(ゐ)る雲の欝(おほほ)しく知らぬ人にも恋ふるものかも

私訳 春日山に朝にかかる雲のようにぼんやりとしか逢ったことしかない人にも恋い慕うものなのでしょうか。


集歌678 直相而 見而者耳社 霊剋 命向 吾戀止眼
訓読 直(ただ)に逢ひて見しばのみこそ霊(たま)きはる命(いのち)し向ふ吾が恋やまめ

私訳 直接にお逢いして貴方と抱き合うことだけが、寿命を刻み限りある命を賭けた私の恋は遂げるでしょう。


集歌679 不欲常云者 将強哉吾背 菅根之 念乱而 戀管母将有
訓読 否(いな)と云(い)は強(し)ひめや吾が背(せ)菅し根し念(おも)ひ乱れて恋ひつつもあらむ

私訳 いやだと云うのでしたら、無理に願いません。私の愛しい貴方。菅の根が人知れず乱れているように、私の貴方への思いは人知れず乱れて恋い慕い続けるでしょう。

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万葉集巻四を鑑賞する  集歌642から集歌659まで

2011年12月22日 | 万葉集巻四を鑑賞する
万葉集巻四を鑑賞する


湯原王謌一首
標訓 湯原王の謌一首
集歌642 吾妹兒尓 戀而乱在 久流部寸二 懸而縁与 余戀始
訓読 吾妹子に恋ひて乱(みだ)らば反転(くるべき)に懸(か)けて縁(よ)せむと余(あ)し恋ひそめし

私訳 貴女に恋して心も乱して、糸巻きの糸にかけて引き寄せるようと思って、私は恋を始めたのだろうか。


紀郎女怨恨謌三首  鹿人大夫之女名曰小鹿也安貴王之妻也
標訓 紀郎女(きのいらつめ)の怨恨(うらみ)の謌三首  鹿人(しかひとの)大夫(まえつきみ)の女(むすめ)、名を小鹿(をしか)と曰ふ。安貴王の妻なり。
集歌643 世間之 女尓思有者 吾渡 痛背乃河乎 渡金目八
訓読 世間(よのなか)し女(をみな)にしあらば吾(あ)が渡る痛背(あなせ)の川を渡りかねめや

私訳 私が世間の常の女だからか、渡るのが大変な穴師の川を渡りかねるのでしょうか。名が惜しい私だからこそ、この貴方へという川を渡りなずむのです。


集歌644 今者吾羽 和備曽四二結類 氣乃緒尓 念師君乎 縦左思者
訓読 今は吾(あ)は侘(わび)ぞしにける息の緒に念(おも)ひし君をゆるさふ思へば

私訳 今は私は辛い思いに沈むようです。私の命とも思っていた貴方を、私から遠ざかるにまかせようとすると思うと。


集歌645 白妙之 袖可別 日乎近見 心尓咽飯 哭耳四所泣
訓読 白栲し袖別るべき日を近み心に咽(むせ)ひ哭(ね)のみし泣かゆ

私訳 共寝して白妙の袖を交わした、その袖を分けて別れる日が近いので、心の中に別れの悲しみにむせびながら泣き濡れます。


大伴宿祢駿河麿謌一首
標訓 大伴宿祢駿河麿(するがまろ)の謌一首
集歌646 大夫之 思和備乍 遍多 嘆久嘆乎 不負物可聞
訓読 大夫(ますらを)し思ひ侘(わび)つつ度(たび)まねく嘆(なげ)く嘆(なげ)きを負(お)はぬものかも

私訳 立派な男子である者が恋い慕う思いが届かず残念に思いながら何度も何度も嘆く。このような嘆きを貴女は感じないのでしょうか。


大伴坂上郎女謌一首
標訓 大伴坂上郎女の謌一首
集歌647 心者 忘日無久 雖念 人之事社 繁君尓阿礼
訓読 心には忘るる日無く念(おも)へども人し事(こと)こそ繁き君にあれ

私訳 心の内には貴方を忘れる日は無く、貴方を恋い慕っていても私の許に来ることなく人の世の雑事だけは忙しい貴方なのでしょう。


大伴宿祢駿河麿謌一首
標訓 大伴宿祢駿河麿の謌一首
集歌648 不相見而 氣長久成奴 比日者 奈何好去哉 言借吾妹
訓読 相見ずて日(け)長(なが)くなりぬこの頃はいかに幸(さき)くやいふかし吾妹(わぎも)

私訳 貴女にお逢いしないままに日々は長くなりました。この頃はいかに無事にお過ごしでしょうか。私の愛しい貴女。


大伴坂上郎女謌一首
標訓 大伴坂上郎女の謌一首
集歌649 夏葛之 不絶使乃 不通者 言下有如 念鶴鴨
訓読 夏(なつ)葛(ふぢ)し絶えぬ使(つかひ)のよどめれば言(こと)しもあるごと念(おも)ひつるかも

私訳 夏の藤蔓のように絶えることなくやって来た使いも滞ると、貴方が他の女性に愛を誓ったのだろうと確信していました。

右坂上郎女者、佐保大納言卿之女也。駿河麿、此高市大卿之孫也。兩卿兄弟之家、女孫姑姪之族。是以、題謌送答、相問起居。
注訓 右の坂上郎女は、佐保大納言卿の女(むすめ)なり。駿河麿は、この高市大卿の孫なり。兩卿は兄弟の家、女孫は姑(をば)姪(をひ)の族(うから)。ここを以ちて、謌(うた)を題(しる)し送り答へ、起居を相(あひ)問(と)へり


大伴宿祢三依離復相歡謌一首
標訓 大伴宿祢三依の離(さ)りてまた相(あ)ふを歡(よろこ)べる謌一首
集歌650 吾妹兒者 常世國尓 住家郎思 昔見従 變若益尓家利
訓読 吾妹児(わぎもこ)は常世(とこよ)し国に住みけろし昔見しより変若(を)ちましにけり

私訳 私の愛しい貴女は、不老不死の常世の国住んでいた乙女のように思えます。昔に逢った時より一層若かえったように感じます。


大伴坂上郎女謌二首
標訓 大伴坂上郎女の謌二首
集歌651 久堅乃 天露霜 置二家里 宅有人毛 待戀奴濫
訓読 ひさかたの天し露(つゆ)霜(しも)置きにけり宅(いへ)なる人も待ち恋ひぬらむ

私訳 遥か彼方の空からの露霜を置く季節になりました。家に居る娘(ひと)も貴方を待って恋い慕っているでしょう。


集歌652 玉主尓 珠者授而 勝且毛 枕与吾者 率二将宿
訓読 玉(たま)主(ぬし)に珠は授(さづ)けてかつがつも枕(まくら)と吾はいざ二人寝(ね)む

私訳 玉の主(あるじ)に珠を授けて、ともかくも、娘と寝るところを今は枕と私だけで、さあ、二人として寝ましょう。


大伴宿祢駿河麿謌三首
標訓 大伴宿祢駿河麿の謌三首
集歌653 情者 不忘物乎 儻 不見日數多 月曽經去来
訓読 情(こころ)には忘れぬものをたまさかに見ぬ日(ひ)数多(まね)きて月ぞ経(へ)にける

私訳 心の底では貴女を忘れるはずがないのですが、たまたま逢わない日々が重なって月が経ってしまった。


集歌654 相見者 月毛不經尓 戀云者 乎曽呂登吾乎 於毛保寒毳
訓読 相見ては月も経(へ)なくに恋(こひ)云へばをそろと吾を念(おも)ほさむかも

私訳 貴女に逢ってから一月も経ってないのに、貴女を恋い慕っていると云うと「気が軽い」と私のことを思われるでしょうか。


集歌655 不念乎 思常云者 天地之 神祇毛知寒 邑礼左變
訓読 念(おも)はぬを思ふと云はば天地し神祇(かみ)も知るさむ邑(さと)し礼(いや)さへ

私訳 愛してもいないのに慕っていると云うと、天地の神々にもばれるでしょう。愛していると云うのが里の習いとしても。


大伴坂上郎女謌六首
標訓 大伴坂上郎女の謌六首
集歌656 吾耳曽 君尓者戀流 吾背子之 戀云事波 言乃名具左曽
訓読 吾しみぞ君には恋ふる吾が背子し恋(こひ)云ふ事(こと)は言(こと)の慰(なぐさ)ぞ

私訳 私だけが貴方をお慕いしているのです。私の愛しい貴方よ。「愛している」とただ云うことは、うわべの言葉だけの気休めです。


集歌657 不念常 日手師物乎 翼酢色之 變安寸 吾意可聞
訓読 念(おも)はじと言ひてしものを朱華(はねず)色(いろ)し変(うつろ)ひやすき吾し意(こころ)かも

私訳 貴方をお慕いすまいと誓ってみたものを、はねず色のようにすぐに変わってしまう私の気持ちです。


集歌658 雖念 知僧裳無跡 知物乎 奈何幾許 吾戀渡
訓読 念(おも)へども験(しるし)も無しと知るものを何か幾許(ここだく)吾が恋ひ渡る

私訳 貴方をお慕いしても甲斐がないことと知っていはいるのですが、なぜかこれほど私は貴方に恋い慕ってしまう。


集歌659 豫 人事繁 如是有者 四恵也吾背子 奥裳何如荒海藻
訓読 あらかじめ人(ひと)事(こと)繁(しげ)しかくしあらばしゑや吾が背子(せこ)奥(おく)もいかにあらめ

私訳 最初からこれほど忙しくしているのでしたら、私の愛しい貴方。将来は、どうなるのでしょう。

注意 原文の「荒海藻」を「あらめ」と訓んでいます。
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