竹取翁と万葉集のお勉強

楽しく自由に万葉集を楽しんでいるブログです。
初めてのお人でも、それなりのお人でも、楽しめると思います。

万葉集 集歌4000から集歌4004まで

2022年12月30日 | 新訓 万葉集
立山賦一首并短謌   此山者有新河郡也
標訓 立山(たちやま)の賦(ふ)一首并せて短謌   此の山は新河郡(にひかはのこほり)に有り
集歌4000 安麻射可流 比奈尓名可加須 古思能奈可 久奴知許登其等 夜麻波之母 之自尓安礼登毛 加波々之母 佐波尓由氣等毛 須賣加未能 宇之波伎伊麻須 尓比可波能 曽能多知夜麻尓 等許奈都尓 由伎布理之伎弖 於波勢流 可多加比河波能 伎欲吉瀬尓 安佐欲比其等尓 多都奇利能 於毛比須疑米夜 安里我欲比 伊夜登之能播仁 余曽能未母 布利佐氣見都々 余呂豆餘能 可多良比具佐等 伊末太見奴 比等尓母都氣牟 於登能未毛 名能未毛伎吉氏 登母之夫流我祢
訓読 天離る 鄙に名(な)懸(か)かす 越の中 国内(くぬち)ことごと 山はしも 繁(しじ)にあれども 川はしも 多(さは)に行けども 統(す)め神の 領(うしは)きいます 新川(にひかは)の その立山(たちやま)に 常夏に 雪降り敷(し)きて 帯(お)ばせる 片貝川(かたかひかは)の 清き瀬に 朝夕(あさよひ)ごとに 立つ霧の 思ひ過ぎめや あり通ひ いや年のはに 外(よそ)のみも 振り放(さ)け見つつ 万代(よろづよ)の 語(かた)らひ草(くさ)と いまだ見ぬ 人にも告げむ 音のみも 名のみも聞きて 羨(とも)しぶるがね
私訳 都から離れた鄙に名をひびかせていらっしゃる越の中で国中には、あちらこちらに山はたくさんあるのだが、川は多く流れて行くのだが、国を治める神が統治なれている新川の、その立山に、夏の最中に雪が降り積もり、山の裾野を帯のように取り巻く片貝川の清らかな瀬に、朝夕毎に立つ霧の、その霧がすぐに消えるように、どうして忘れ去るでしょうか。途絶えることなく通い、いや、毎年ごとに、遠くからだけでも見上げて眺めながら、万代に語り継ぐことと、未だ眺めていない人にも告げましょう。そうすれば、噂だけでも、名前だけでも聞いて、羨ましいと思うでしょう。

集歌4001 多知夜麻尓 布里於家流由伎乎 登己奈都尓 見礼等母安可受 加武賀良奈良之
訓読 立山(たちやま)に降り置ける雪を常夏に見れども飽かず神(かむ)からならし
私訳 立山に降り積もる雪を、夏の盛りに眺めるが見飽きることはありません。神々しいからなのでしょう。

集歌4002 可多加比能 可波能瀬伎欲久 由久美豆能 多由流許登奈久 安里我欲比見牟
訓読 片貝の川の瀬清く行く水の絶ゆることなくあり通ひ見む
私訳 片貝の川の瀬を清らかに流れ行く水が絶えることがないように、途絶えることなく通って眺めましょう。
四月廿七日、大伴宿祢家持作之
左注 四月廿七日に、大伴宿祢家持の之を作る

敬和立山賦一首并二絶
標訓 立山(たちやま)の賦(ふ)を敬(つつし)みて和(こた)へたる一首并せて二絶
集歌4003 阿佐比左之 曽我比尓見由流 可無奈我良 弥奈尓於婆勢流 之良久母能 知邊乎於之和氣 安麻曽々理 多可吉多知夜麻 布由奈都登 和久許等母奈久 之路多倍尓 遊吉波布里於吉弖 伊尓之邊遊 阿理吉仁家礼婆 許其志可毛 伊波能可牟佐備 多末伎波流 伊久代經尓家牟 多知氏為弖 見礼登毛安夜之 弥祢太可美 多尓乎布可美等 於知多藝都 吉欲伎可敷知尓 安佐左良受 綺利多知和多利 由布佐礼婆 久毛為多奈眦吉 久毛為奈須 己許呂毛之努尓 多都奇理能 於毛比須具佐受 由久美豆乃 於等母佐夜氣久 与呂豆余尓 伊比都藝由可牟 加婆之多要受波
訓読 朝日さし 背向(そがひ)に見ゆる 神ながら 御名(みな)に帯(お)ばせる 白雲の 千重を押し別け 天(あま)そそり 高き立山(たちやま) 冬夏と 分(わ)くこともなく 白栲に 雪は降り置きて 古(いにしへ)ゆ あり来にければ こごしかも 巌(いは)の神さび たまきはる 幾代経(へ)にけむ 立ちて居て 見れども異(あや)し 峰高み 谷を深みと 落ち激(たぎ)つ 清き彼地(かしち)に 朝去らず 霧立ちわたり 夕されば 雲居(くもゐ)たなびき 雲居なす 心もしのに 立つ霧の 思ひ過(す)ぐさず 行く水の 音も清(さや)けく 万代に 言ひ継ぎゆかむ 川し絶えずは
私訳 朝日を受けて山の背の影が見える、神として御名に付け呼ばれる、白雲が千重に掛るのを押し分け、天にそそり立つ、その高き立山は、冬夏と季節を分けることもなく、白栲のように雪は山に降り積もって、古からこのように存在しているので、神々しいのでしょう。巌も神々しく、年々の時を刻む、その長き時を経て来たのでしょう。出で立って来て眺めても不思議です。峰は高く、谷は深く、水は流れ落ち湧き立つ、清らかなその地に、朝になれば霧が立ち渡り、夕べになれば雲が立ち棚引き、山には雲が掛る。気持ちはさらに、立つ霧の、その霧がすぐに消えるように、すぐに忘れ去ることなく、流れ行く水の瀬音も清らかであるように、さやに万代に語り継いでいきましょう。その川の流れが絶えなければ。

集歌4004 多知夜麻尓 布理於家流由伎能 等許奈都尓 氣受弖和多流波 可無奈我良等曽
訓読 立山(たちやま)に降り置ける雪の常夏に消(け)ずてわたるは神ながらとぞ
私訳 立山に降り積もる雪が夏の盛りに消えずに季節を渡るのは、神々しい山だからなのでしょう。

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万葉集 集歌3995から集歌3999まで

2022年12月29日 | 新訓 万葉集
四月廿六日、掾大伴宿祢池主之舘、餞税帳使守大伴宿祢家持宴謌并古謌。四首
標訓 四月廿六日に、掾大伴宿祢池主の舘にして、税帳使守大伴宿祢家持に餞(はなむけ)せし宴(うたげ)の謌并せて古謌。四首
集歌3995 多麻保許乃 美知尓伊泥多知 和可礼奈婆 見奴日佐麻祢美 孤悲思家武可母
訓読 玉桙の道に出で立ち別れなば見ぬ日さまねみ恋(こひ)しけむかもむかも
私訳 立派な鉾を立てる官道に出で立って、貴方と立ち別れしたら会えない日々が多く、恋しいことでしょう。
一云 不見日久弥 戀之家牟加母
一(ある)は云はく
訓読 見ぬ日久しみ恋しけ
私訳 会えない日々が長いので恋しいでしょう。
右一首、大伴宿祢家持作之
左注 右は一首、大伴宿祢家持の之を作る

集歌3996 和我勢古我 久尓敝麻之奈婆 保等登藝須 奈可牟佐都奇波 佐夫之家牟可母
訓読 吾(わ)が背子が国へましなば霍公鳥(ほととぎす)鳴かむ五月(さつき)は寂しけむかも
私訳 私の尊敬する貴方が故郷の国へ行かれたら、ホトトギスが鳴くでしょうこの五月は、寂しいことでしょう。
右一首、介内蔵忌寸縄麻呂作之
左注 右は一首、介(すけ)内蔵(くらの)忌寸(いみき)縄麻呂の之を作る

集歌3997 安礼奈之等 奈和備和我勢故 保登等藝須 奈可牟佐都奇波 多麻乎奴香佐祢
訓読 吾(あれ)なしとな侘(わ)びわが背子霍公鳥(ほととぎす)鳴かむ五月(さつき)は玉を貫(ぬ)かさね
私訳 私が居ないと淋しがらないで、私の尊敬する貴方、ホトトギスが鳴くでしょう五月は薬玉を貫いて下さい。
右一首、守大伴宿祢家持和
左注 右は一首、守大伴宿祢家持の和(こた)へり

石河朝臣水通橘謌一首
標訓 石河朝臣の水通(みみち)の橘の謌一首
集歌3998 和我夜度能 花橘乎 波奈其米尓 多麻尓曽安我奴久 麻多婆苦流之美
訓読 吾(わ)が屋戸(やと)の花橘を花ごめに玉にぞ吾(あ)が貫(ぬ)く待たば苦しみ
意訳 私の家の花橘を、花もいっしょに薬玉として私が貫く、実がなるまで待つと待ちきれなくて。
私訳 私の家の花橘を、花もいっしょに薬玉として私が貫く、貴方の御帰りを待つと辛い。
右一首、傳誦、主人大伴宿祢池主云尓
左注 右は一首、傳(つた)へ誦(よ)めるは、主人(あるじ)大伴宿祢池主なりとしか云ふ

守大伴宿祢家持舘飲宴謌一首 四月廿六日
標訓 守大伴宿祢家持の舘にして飲宴(うたげ)せる謌一首 四月廿六日
集歌3999 美夜故敝尓 多都日知可豆久 安久麻弖尓 安比見而由可奈 故布流比於保家牟
訓読 京辺(みやこへ)に立つ日近づく飽くまでに相見て行かな恋ふる日多けむ
私訳 都に出立する日が近付く、心行くまで互いに会って行きましょう。旅立てば恋しい日々が多いでしょうから。

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万葉集 集歌3990から集歌3994まで

2022年12月28日 | 新訓 万葉集
集歌3990 和加勢故波 多麻尓母我毛奈 手尓麻伎氏 見都追由可牟乎 於吉氏伊加婆乎思
訓読 我が背子は玉にもがもな手に巻きて見つつ行かむを置きて行かば惜し
私訳 私の大切な貴方が玉であったら手に巻いて、常に見ながら行くのですが、貴方をここに置いて行くのが残念です。
右、守大伴宿祢家持、以正税帳須入京師、仍作此謌、聊陳相別之嘆  四月廿日
左注 右は、守大伴宿祢家持、正税帳をもちて京師に入らむとし、仍りて此の謌を作り、聊(いささ)かに相別るる嘆きを陳(の)べたり。 四月廿日

遊覧布勢水海賦一首并短謌  此海者、有射水郡舊江村也
標訓 布勢(ふせ)の水海(みづうみ)に遊覧せる賦(ふ)一首并せて短謌  此の海は、射水郡(いみづのこほり)の舊江村(ふるえむら)に有り
集歌3991 物能乃敷能 夜蘇等母乃乎能 於毛布度知 許己呂也良武等 宇麻奈米氏 宇知久知夫利乃 之良奈美能 安里蘇尓与須流 之夫多尓能 佐吉多母登保理 麻都太要能 奈我波麻須義氏 宇奈比河波 伎欲吉勢其等尓 宇加波多知 可由吉加久遊岐 見都礼騰母 曽許母安加尓等 布勢能宇弥尓 布祢宇氣須恵氏 於伎敝許藝 邊尓己伎見礼婆 奈藝左尓波 安遅牟良佐和伎 之麻末尓波 許奴礼波奈左吉 許己婆久毛 見乃佐夜氣吉加 多麻久之氣 布多我弥夜麻尓 波布都多能 由伎波和可礼受 安里我欲比 伊夜登之能波尓 於母布度知 可久思安蘇婆牟 異麻母見流其等
訓読 物部(もののふ)の 八十(やそ)伴(とも)の男(を)の 思ふどち 心(こころ)遣(や)らむと 馬並めて うちくちぶりの 白波の 荒礒(ありそ)に寄する 渋谿(しふたに)の 崎(さき)徘徊(たもとほ)り 松田江の 長浜過ぎて 宇奈比川(うないひかは) 清き瀬ごとに 鵜川(うかは)立ち か行きかく行き 見つれども そこも飽(あ)かにと 布施の海に 船浮け据ゑて 沖辺(おくへ)漕ぎ 辺(へ)に漕ぎ見れば 渚には あぢ群(むら)騒き 島廻(しまみ)には 木末(こぬれ)花咲き 許多(ここばく)も 見のさやけきか 玉櫛笥(たまくしげ) 二上山に 延(は)ふ蔦の 行きは別れず あり通ひ いや毎年(としのは)に 思ふどち かくし遊ばむ 今も見るごと
私訳 武士の多くの男たちが親しい同士、気持ちを晴らそうと馬を連ねて、打ち寄せ砕ける白波が荒磯に寄せる渋谿の崎を散策し、松田江の長い濱を行き過ぎ、宇奈比川の清らかな瀬ごとに鵜飼が立ち働き、それを見、これを見、眺めても、なおそれでも見飽きることがないと、布施の海に船を浮かべ留めて、沖に漕ぎ、岸に漕ぐのを眺めると、渚にはあぢ鴨が群れ騒ぎ、島の廻りには梢に花が咲き、なんと景色の清らかなことでしょう。玉櫛笥、その蓋の言葉のひびきのような二上山に、這い延びる蔦のように、行く末も別れることなく、途絶えることなく通い、いや、毎年に気の合う者同士が、このように風流を楽しもう。今も眺めているように。

集歌3992 布勢能宇美能 意枳都之良奈美 安利我欲比 伊夜登偲能波尓 見都追思奴播牟
訓読 布勢の海の沖つ白波あり通ひいや毎年(としのは)に見つつ偲(しの)はむ
私訳 布勢の海の沖に立つ白波のように、途絶えることなく通おう。いや、毎年に眺めて賞賛しよう。
右、守大伴宿祢家持作之   四月廿四日
左注 右は、守大伴宿祢家持の之を作る   四月廿四日

敬和遊覧布勢水海賦一首并一絶
標訓 布勢(ふせ)の水海(みづうみ)に遊覧せる賦(ふ)に敬(つつし)み和(こた)へたる一首并せて一絶
集歌3993 布治奈美波 佐岐弖知理尓伎 宇能波奈波 伊麻曽佐可理等 安之比奇能 夜麻尓毛野尓毛 保登等藝須 奈伎之等与米婆 宇知奈妣久 許己呂毛之努尓 曽己乎之母 宇良胡非之美等 於毛布度知 宇麻宇知牟礼弖 多豆佐波理 伊泥多知美礼婆 伊美豆河泊 美奈刀能須登利 安佐奈藝尓 可多尓安佐里之 思保美弖婆 都麻欲比可波須 等母之伎尓 美都追須疑由伎 之夫多尓能 安利蘇乃佐伎尓 於枳追奈美 余勢久流多麻母 可多与理尓 可都良尓都久理 伊毛我多米 氏尓麻吉母知弖 宇良具波之 布施能美豆宇弥尓 阿麻夫祢尓 麻可治加伊奴吉 之路多倍能 蘇泥布里可邊之 阿登毛比弖 和賀己藝由氣婆 乎布能佐伎 婆奈知利麻我比 奈伎佐尓波 阿之賀毛佐和伎 佐射礼奈美 多知弖毛為弖母 己藝米具利 美礼登母安可受 安伎佐良婆 毛美知能等伎尓 波流佐良婆 波奈能佐可利尓 可毛加久母 伎美我麻尓麻等 可久之許曽 美母安吉良米々 多由流比安良米也
訓読 藤波は 咲きて散りにき 卯の花は 今ぞ盛りと あしひきの 山にも野にも 霍公鳥(ほととぎす) 鳴きし響(とよ)めば うち靡く 心もしのに そこをしも うら恋しみと 思ふどち 馬打ち群れて 携(たづさ)はり 出で立ち見れば 射水川(いづみかは) 湊の洲鳥(すとり) 朝凪ぎに 潟にあさりし 潮満てば 妻呼び交す 羨(とも)しきに 見つつ過ぎ行き 渋谿(しふたに)の 荒礒(ありそ)の崎に 沖つ波 寄せ来る玉藻 片縒(かたよ)りに 蘰(かづら)に作り 妹がため 手に巻き持ちて うらぐはし 布勢の水海(みづうみ)に 海人(あま)船に 真楫(まかぢ)櫂(かひ)貫(ぬ)き 白栲の 袖振り返し あどもひて 我が漕ぎ行けば 乎布(をふ)の崎 花散りまがひ 渚には 葦鴨(あしかも)騒き さざれ波 立ちても居ても 漕ぎ廻(めぐ)り 見れども飽かず 秋さらば 黄葉の時に 春さらば 花の盛りに かもかくも 君がまにまと かくしこそ 見も明らめめ 絶ゆる日あらめや
私訳 藤の花はもう咲いて散ってしまった、卯の花は今こそ盛りと、葦や檜の生える山にも野にも咲き、ホトトギスが鳴いて響むと、いちずに心も萎れて、その景色を心恋しいと感じる者同士が馬を並べて共に出で立って眺めれば、射水川の湊の洲に居る鳥は、朝凪に潟で餌をあさり、潮が満ちると妻を呼び交す、羨ましく眺めて過ぎ行き、渋谿の荒磯の崎に沖からの波が打ち寄せ、また寄せ来る玉藻を片縒りにして蘰を作り、愛しい貴女のためと手に巻いて持って、麗しい布施の水海に、漁師船に立派な楫を差し貫いて、白栲の袖を折り返し、友を率いて私が漕ぎ行くと、乎布の崎には花が散り乱れ、渚には葦鴨が鳴き騒ぐ、さざれ波のように立って居ても、座って居ても、水海を漕ぎ廻ると、風景を眺めても見飽きることなく、秋になったなら黄葉の時に、春になったなら花の盛りに、どうにもこうにも、貴方の御気に召すままに、このようにと、風景を眺めて気を晴らしましょう。見飽きることがどうしてあるでしょう。

集歌3994 之良奈美能 与世久流多麻毛 余能安比太母 都藝弖民仁許武 吉欲伎波麻備乎
訓読 白波の寄せ来る玉藻世の間(あひた)も継ぎて見に来む清き浜辺(はまび)を
私訳 白波が寄せ来る、その寄せ来る玉藻、藻の節(よ)の言葉のひびきではないが、人のこの世(よ)に居る間も絶えず眺めに来たい。この清らかな浜辺を。
右、掾大伴宿祢池主作  四月廿六日追和
左注 右は、掾大伴宿祢池主の作る  四月廿六日に追ひて和(こた)へる

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万葉集 集歌3985から万葉集3989まで

2022年12月27日 | 新訓 万葉集
二上山賦一首  此山者有射水郡也
標訓 二上山の賦一首  此の山は射水郡(いみづのこほり)にあり
集歌3985 伊美都河泊 伊由伎米具礼流 多麻久之氣 布多我美山者 波流波奈乃 佐家流左加利尓 安吉乃葉乃 尓保敝流等伎尓 出立氏 布里佐氣見礼婆 可牟加良夜 曽許婆多敷刀伎 夜麻可良夜 見我保之加良武 須賣可未能 須蘇未乃夜麻能 之夫多尓能 佐吉乃安里蘇尓 阿佐奈藝尓 餘須流之良奈美 由敷奈藝尓 美知久流之保能 伊夜麻之尓 多由流許登奈久 伊尓之敝由 伊麻乃乎都豆尓 可久之許曽 見流比登其等尓 加氣氏之努波米
訓読 射水川(いみづかは) い行き廻れる 玉櫛笥(たまくしげ) 二上山は 春花の 咲ける盛りに 秋の葉の にほへる時に 出で立ちて 振り放(さ)け見れば 神からや そこば貴き 山からや 見が欲しからむ 統(す)め神の 裾廻(すそみ)の山の 渋谿(しふたに)の 崎の荒礒(ありそ)に 朝なぎに 寄する白波 夕なぎに 満ち来る潮の いや増しに 絶ゆることなく いにしへゆ 今のをつつに かくしこそ 見る人ごとに 懸けて偲(しの)はめ
私訳 射水川が流れめぐる玉奇(たまくし)、その言葉の様な玉櫛笥の、その蓋の言葉のひびきのような、二上山は春花の咲く盛りに、秋の葉の色付く時に、出て来て遠く眺めると、神の磐座からか、そこは貴い。山の格からか眺めたいと思われるのか、治める神の山裾の、その山の渋谿の崎の荒磯に、朝凪に打ち寄せる白波、夕凪に満ち来る潮の、その波が、潮が、次々と満ちて来るように絶えることなく、古から今に至るまで、このようであったと、眺める人々は、心に掛けて古を偲びなさい。

集歌3986 之夫多尓能 佐伎能安里蘇尓 与須流奈美 伊夜思久思久尓 伊尓之敝於母保由
訓読 渋谿(しふたに)の崎の荒礒(ありそ)に寄する波いやしくしくにいにしへ思ほゆ
私訳 渋谿の崎の荒磯に寄せる波が一層打ち寄せる、その言葉のひびきのように、重ねがさね昔のことが偲ばれます。

集歌3987 多麻久之氣 敷多我美也麻尓 鳴鳥能 許恵乃孤悲思吉 登岐波伎尓家里
訓読 玉櫛笥(たまくしげ)二上山に鳴く鳥の声の恋しき時は来にけり
私訳 玉櫛笥、その蓋の言葉のような、二上山に鳴く鳥の声を恋しき時がやって来ました。
右、三月卅日依興作之。大伴宿祢家持
左注 右は、三月卅日に興に依りて之を作る。大伴宿祢家持

四月十六日、夜裏、遥聞霍公鳥喧、述懐謌一首
標訓 四月十六日に、夜の裏(うち)に、遥かに霍公鳥の喧(な)くを聞き、懐(おもひ)を述べたる謌一首
集歌3988 奴婆多麻能 都奇尓牟加比氏 保登等藝須 奈久於登波流氣之 佐刀騰保美可聞
訓読 ぬばたまの月に向ひて霍公鳥(ほととぎす)鳴く音遥(はる)けし里(さと)遠(とほ)みかも
私訳 漆黒の月に向かってホトトギスの鳴く声が遠い。里から遠いからか。
右、大伴宿祢家持作之
左注 右は、大伴宿祢家持の之を作る

大目秦忌寸八千嶋之舘、餞守大伴宿祢家持宴謌二首
標訓 大目秦忌寸八千嶋の舘にして、守大伴宿祢家持に餞(はなむけ)せる宴(うたげ)の謌二首
集歌3989 奈呉能宇美能 意吉都之良奈美 志苦思苦尓 於毛保要武可母 多知和可礼奈波
訓読 奈呉の海の沖つ白波しくしくに思ほえむかも立ち別れなば
私訳 奈呉(なご)の海の沖の白波が次々に打ち寄せるように、重ねがさね思われるでしょう。ここで立ち別れたら。

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万葉集 集歌3980から万葉集3985まで

2022年12月26日 | 新訓 万葉集
集歌3980 奴婆多麻乃 伊米尓婆母等奈 安比見礼騰 多太尓安良祢婆 孤悲夜麻受家里
訓読 ぬばたまの夢(いめ)にはもとな相見れど直(ただ)にあらねば恋ひやまずけり
私訳 漆黒の夜の夢には空しくも貴女に逢えるが、直接、逢えなければ、貴女への恋心は止まない。

集歌3981 安之比奇能 夜麻伎敝奈里氏 等保家騰母 許己呂之遊氣婆 伊米尓美要家里
訓読 あしひきの山き隔(へな)りて遠けども心し行けば夢(いめ)に見えけり
私訳 足を引く険しい山を隔てて遠いけれども、心を通わせれば夢に逢いました。

集歌3982 春花能 宇都路布麻泥尓 相見祢波 月日餘美都追 伊母麻都良牟曽
訓読 春花のうつろふまでに相見ねば月日数(よ)みつつ妹待つらむぞ
私訳 春花が散りゆく季節までに私に逢えないと、中上がりまでの月日を数えながら愛しい貴女は私を待っているでしょう。
右、三月廿日夜裏、忽兮起戀情作。大伴宿祢家持
左注 右は、三月廿日の夜の裏(うち)に、忽(たちま)ちに戀の情(こころ)を起して作れり。大伴宿祢家持

立夏四月、既經累日、而由未聞霍公鳥喧。因作恨謌二首
標訓 立夏の四月に、既に累日(るいにち)を經て、由(なほ)未だ霍公鳥(ほととぎす)の喧(な)くを聞かず。因りて作れる恨(うらみ)の謌二首
集歌3983 安思比奇能 夜麻毛知可吉乎 保登等藝須 都奇多都麻泥尓 奈仁加吉奈可奴
訓読 あしひきの山も近きを霍公鳥(ほととぎす)月立つまでに何か来鳴かぬ
私訳 葦や檜の生える山も近いのにホトトギスよ、立夏の月が立つまでどうして来て鳴かぬ。

集歌3984 多麻尓奴久 波奈多知波奈乎 等毛之美思 己能和我佐刀尓 伎奈可受安流良之
訓読 玉に貫く花橘を乏(とも)しみしこの我が里に来鳴かずあるらし
私訳 薬玉に貫く花橘が少ないと、この私が住む里に来て鳴かないのだろう。
霍公鳥者、立夏之日来鳴必定。又越中風土、希有橙橘也。因此、大伴宿祢家持、感發於懐、聊於裁此謌。
三月廿九日
左注 霍公鳥は、立夏の日に来鳴くこと必定なり。又、越中の風土は、橙橘のあること希なり。此に因りて、大伴宿祢家持、感(おもひ)を懐(こころ)に發して、聊(いささ)かに此の謌を裁(つく)れり。
三月廿九日

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