歌番号 1050
詞書 清慎公家のさふらひに、ともし火のもとにさくらの花ををりてさして侍りけるをよみ侍りける
詠人 兼盛弟
原文 飛乃毛止尓 佐遣留佐久良乃 者奈美礼者 比止乃久尓々毛 安良之止曽於毛飛
和歌 ひのもとに さけるさくらの はなみれは ひとのくににも あらしとそおもふ
読下 ひのもとにさけるさくらの色見れは人のくににもあらしとそ思ふ
解釈 このお屋敷の火の明りの下に咲く桜の色合いを見ると、他の地方の国にはない景色だろうと思います。
注意 初句を「日の本」の掛詞ととし四句目の「人の国」を外国と解釈する、国粋の鑑賞もあります。
歌番号 1051
詞書 山さくらを見侍りて
詠人 平きむさね
原文 美也万幾乃 布多波美川波尓 毛由留末天 幾恵世奴由幾止 美恵毛寸留可奈
和歌 みやまきの ふたはみつはに もゆるまて きえせぬゆきと みえもするかな
読下 み山木のふたはみつはにもゆるまてきえせぬ雪と見えもするかな
解釈 あの山の木が二葉三葉と芽生え萌えるまで、その言葉の響きではないが、燃える火で消えもしない雪とばかりに想像できます。
歌番号 1052
詞書 こむくうち侍りける時に、はたやき侍りけるを見て、よみ侍りける
詠人 藤原長能
原文 加多也万尓 波多也久於乃己 加乃美由留 三也万佐久良者 与幾天者多也遣
和歌 かたやまに はたやくをのこ かのみゆる みやまさくらは よきてはたやけ
読下 かた山にはたやくをのこかの見ゆるみ山さくらはよきてはたやけ
解釈 ほんのちょっとした山で焼畑を焼く男、あの見える山桜は避けて、焼畑をしなさい。
歌番号 1053
詞書 石山のたうのまへに侍りけるさくらの木にかきつけ侍りける
詠人 よみ人しらす
原文 宇之呂女多 以可天加部良无 也万佐久良 安可奴尓本日遠 可世尓万可世天
和歌 うしろめた いかてかへらむ やまさくら あかぬにほひを かせにまかせて
読下 うしろめたいかてかへらん山さくらあかぬにほひを風にまかせて
解釈 後ろ髪が引かれる思いです、どうやって家に帰りましょうか、山桜よ、飽きることのない花色を風の思うように任せて揺れている。
歌番号 1054
詞書 敦慶式部卿のみこのむすめ、伊勢かはらに侍りけるか、ちかき所に侍るに、かめにさしたる花をおくるとて
詠人 つらゆき
原文 飛佐之可礼 安多尓知留奈止 佐久良者奈 加女尓佐世礼止 宇川呂日尓个里
和歌 ひさしかれ あたにちるなと さくらはな かめにさせれと うつろひにけり
読下 ひさしかれあたにちるなとさくら花かめにさせれとうつろひにけり
解釈 いつまでも咲いていて欲しい、無駄に散るなと、その桜花の枝を瓶に差したけど、色あせてしまいました。