歌番号 1147 拾遺抄記載
詞書 祭の使にまかりいてける人のもとより、すりはかま、すりにつかはしけるを、をそしとせめければ
詠人 東宮女蔵人左近
原文 可幾利奈久 止久止者寸礼止 安之飛幾乃 也万為乃美川者 奈本曽己本礼留
和歌 かきりなく とくとはすれと あしひきの やまゐのみつは なほそこほれる
読下 限なくとくとはすれと葦引の山井の水は猶そこほれる
解釈 出来る限りは早くはしますが、足を曳くような険しい山の湧き出す清水の水は、今なお、凍っています。(だから、早くに袴を摺り染にすることが出来ないのです)
歌番号 1148 拾遺抄記載
詞書 をみにあたりたる人のもとにまかりたりけれは、女とも、さかつきにひかけをそへていたしたりけれは
詠人 よしのふ
原文 安利安遣乃 己々地己曽寸礼 左可川幾尓 比加計毛曽比天 以天奴止於毛部八
和歌 ありあけの ここちこそすれ さかつきに ひかけもそひて いてぬとおもへは
読下 ありあけの心地こそすれ杯に日かけもそひていてぬとおもへは
解釈 (小忌の役職の人の許で、それを拝見すると)有明時の神事の気持ちがします、盃に日陰葛も添えて、差し出された、その様を見ると。
歌番号 1149 拾遺抄記載
詞書 右大臣恒佐家屏風に、臨時祭かきたる所に
詠人 つらゆき
原文 安之比幾乃 也万為尓寸礼留 己呂毛遠者 加美尓川可不留 志留之止曽遠毛飛
和歌 あしひきの やまゐにすれる ころもをは かみにつかふる しるしとそおもふ
読下 あしひきの山ゐにすれる衣をは神につかふるしるしとそ思ふ
解釈 葦や檜の生える山に生える山藍で摺り染した衣を、神に仕える者の印と思ってみます。
注意 古式による摺り染の衣を御衣と言い、神事で着る伝統の衣装のことを意味します。
歌番号 1150
詞書 題しらす
詠人 よみ人しらす
原文 知者也布留 加美乃以可幾尓 由幾布利天 曽良与利加々留 由不尓曽安利个留
和歌 ちはやふる かみのいかきに ゆきふりて そらよりかかる ゆふにそありける
読下 ちはやふる神のいかきに事ふりてそらよりかかるゆふにそありける
解釈 磐戸を破って現れた神の社の神聖な垣根に雪が降って、まるで空から懸かっている注連の木綿(ゆふ)のような景色でした。
歌番号 1151 拾遺抄記載
詞書 題しらす
詠人 つらゆき
原文 飛止利祢者 久留之幾毛乃止 己利与止也 多比奈留世之毛 由幾乃布留良无
和歌 ひとりねは くるしきものと こりよとや たひなるよしも ゆきのふるらむ
読下 ひとりねはくるしき物とこりよとや旅なる夜しも雪のふるらん
解釈 独り寝は辛いものと思い知り、それに懲りよと言うのでしょうか、旅の途中の夜でも雪が降りそうな空模様です。