記紀歌謡 (原文、読み下し、訓じ付) 古事記歌謡
古事記 歌謡 後半部 歌謡歌番 六〇~百十三
古事記 歌謡六〇
原歌 夜麻斯呂邇 伊斯祁登理夜麻 伊斯祁伊斯祁 阿賀波斯豆麻邇 伊斯岐阿波牟加母
読下 やましろに いしけとりやま いしけいしけ あかはしづまに いしきあはむかも
解釈 山代に い及け鳥山 い及けい及け 吾が愛し妻に い及き遇はむかも
古事記 歌謡六一
原歌 美母呂能 曾能多迦紀那流 意富韋古賀波良 意富韋古賀 波良邇阿流 岐毛牟加布 許許呂袁陀邇迦 阿比淤母波受阿良牟
読下 みもろの そのたかきなる をふゐこかはら をふゐこか はらにあれ きもむかふ こころをたにか あひをもはずあらむ
解釈 御諸の 其の高城なる 大猪子が原 大猪子が 腹にある 肝向う 心をだにか 相思はずあらむ
古事記 歌謡六二
原歌 都藝泥布 夜麻志呂賣能 許久波母知 宇知斯淤富泥 泥士漏能 斯漏多陀牟岐 麻迦受祁婆許曾 斯良受登母伊波米
読下 つぎねふ やましろめの こくはもち うちしをふね ねしろの しろたたむき まかずけばこそ しらずともいはめ
解釈 つぎねふ 山代女の 木鍬持ち 打ちし大根 根白の 白腕 枕かずけばこそ 知らずとも言はめ
古事記 歌謡六三
原歌 夜麻志呂能 都都紀能美夜邇 母能麻袁須 阿賀勢能岐美波 那美多具麻志母
読下 やましろの つつきのみやに ものまをす あかせのきみは なみたくましも
解釈 山代の 筒木の宮に 物申す 吾が兄の君は 涙ぐましも
古事記 歌謡六四
原歌 都藝泥布 夜麻斯呂賣能 許久波母知 宇知斯意富泥 佐和佐和爾 那賀伊幣勢許曾 宇知和多須 夜賀波延那須 岐伊理麻韋久禮
読下 つぎねふ やましろめの こくはもち うちしをふね さわさわに なかいへせこそ うちわたす やかはえなす きいりまゐくれ
解釈 つぎねふ 山代女の 木鍬持ち 打ちし大根 さわさわに 汝が言へせこそ 打ち渡す 八桑枝なす 来入り参い来れ
古事記 歌謡六五
原歌 夜多能 比登母登須宜波 古母多受 多知迦阿礼那牟 阿多良須賀波良 許登袁許曾 須宜波良登伊波米 阿多良須賀志賣
読下 やたの ひともとすげは こもたず たちかあれなむ あたらすかはら ことをこそ すぎはらといはめ あたらすかしめ
解釈 八田の 一本菅は 子持たず 立ちか荒れなむ 惜ら菅原 言をこそ 菅原と言はめ 惜ら清し女
古事記 歌謡六六
原歌 夜多能 比登母登須宜波 比登理袁理登母 意富岐彌斯 與斯登岐許佐婆 比登理袁理登母
読下 やたの ひともとしぎは ひとりをりとも をふきみし よしときこさば ひとりをりとも
解釈 八田の 一本菅は 独り居りとも 大君し 良しと聞こさば 独り居りとも
古事記 歌謡六七
原歌 賣杼理能 和賀意富岐美能 淤呂須波多 他賀多泥呂迦母
読下 めとりの わかをふきみの をろすはた たかたねろかも
解釈 女鳥の 我が大君の 織ろす服 誰が料ろかも
古事記 歌謡六八
原歌 多迦由久夜 波夜夫佐和氣能 美淤須比賀泥
読下 たかゆくや はやふさわけの みをすひかね
解釈 高行くや 速總別の 御襲衣料
古事記 歌謡六九
原歌 比婆理波 阿米邇迦氣流 多迦由玖夜 波夜夫佐和氣 佐耶岐登良佐泥
読下 ひばりは あめにかける たかゆくや はやふさわけ ささきとらさね
解釈 雲雀は 天に翔ける 高行くや 速總別 雀取らさね
古事記 歌謡七〇
原歌 波斯多弖能 久良波斯夜麻袁 佐賀志美登 伊波迦伎加泥弖 和賀弖登良須母
読下 はしたての くらはしまを さかしみと いはかきかねて わかてとらすも
解釈 梯立の 倉椅山を 嶮しみと 岩懸きかねて 我が手取らすも
古事記 歌謡七一
原歌 波斯多弖能 久良波斯夜麻波 佐賀斯祁杼 伊毛登能爐禮波 佐賀斯玖母阿良受
読下 はしたての くらはしやまは さかしけと いもとのほれば さかしくもあらず
解釈 梯立の 倉椅山は 嶮しけど 妹と登れば 嶮しくもあらず
古事記 歌謡七二
原歌 多麻岐波流 宇知能阿曾 那許曾波 余能那賀比登 蘇良美都 夜麻登能久邇爾 加理古牟登岐久夜
読下 たまきはる うちのあそ なこそは よのなかひと そらみつ やまとのくにに かりこむときくや
解釈 たまきはる 内の朝臣 汝こそは 世の仲人 そらみつ 倭の国に 雁来むと聞くや
古事記 歌謡七三
原歌 多迦比迦流 比能美古 宇倍志許曾 斗比多麻閇 麻許曾邇 斗比多麻閇 阿礼許曾波 余能那賀比登 蘇良美都 夜麻登能久邇爾 加理古牟登 伊麻陀岐加受
読下 たかひかる ひのみこ うへしこそ とひたまへ まこそに とひたまへ あれこそは よのなかひと そらみつ やまとのくにに かりこむと いまだきかず
解釈 高光る 日の御子 諾しこそ 問ひ給え 真こそに 問ひ給え 吾こそは 世の仲人 そらみつ 倭の国に 雁来むと 未だ聞かず
古事記 歌謡七四
原歌 那賀美古夜 都毘邇斯良牟登 加理波古牟良斯
読下 なかみこや つふにしらむと かりはこむらし
解釈 汝が御子や 終に知らむと 雁は来むらし
古事記 歌謡七五
原歌 加良怒袁 志本爾夜岐 斯賀阿麻理 許登爾都久理 賀岐比久夜 由良能斗能 斗那賀能伊久理爾 布禮多都 那豆能紀能 佐夜佐夜
読下 からのを しほにやき そかあまり ことにつくり かきひくや ゆらのとの となかのいくりに ふれたつ なづのきの さやさや
解釈 枯野を 塩に焼き 其が余り 琴に作り 掻き弾くや 由良の門の 門中の海石に 振れ立つ なづの木の さやさや
古事記 歌謡七六
原歌 多遲比怒邇 泥牟登斯理勢婆 多都碁母母 母知弖許麻志母能 泥牟登斯理勢婆
読下 たぢひのに ねむとしりせば たつこもも もちてこましもの ねむとしりせば
解釈 多遲比野に 寝むと知りせば 立薦も 持ちて来ましもの 寝むと知りせば
古事記 歌謡七七
原歌 波邇布耶迦 和賀多知美禮婆 迦藝漏肥能 毛由流伊幣牟良 都麻賀伊幣能阿多理
読下 はにふさか わかたちみれば かぎろひの もゆるいへぬら つまかいへのあたり
解釈 赤土坂 我が立ち見れば かぎろひの 燃ゆる家群 妻が家の辺
古事記 歌謡七八
原歌 於富佐迦邇 阿布夜袁登賣袁 美知斗閇婆 多陀邇波能良受 當藝麻知袁能流
読下 をふさかに あふやをとめを みちとへば ただにはのらず ふぎまちをのる
解釈 大坂に 遇うや娘子を 道問へば 直には告らず 當岐麻道を告る
古事記 歌謡七九
原歌 阿志比紀能 夜麻陀袁豆久理 夜麻陀加美 斯多備袁和志勢 志多杼比爾 和賀登布伊毛袁 斯多那岐爾 和賀那久都麻袁 許存許曾婆 夜須久波陀布禮
読下 あしひきの やまたをづくり やまたかみ したびをわしせ したとひに わかとふいもを したなきに わかなくつまを こそこそば やすくはたふれ
解釈 あしひきの 山田を作り 山高み 下樋を走せ 下訪ひに 我が訪ふ妹を 下泣きに 我が泣く妻を 今夜こそは 易く肌触れ
古事記 歌謡八〇
原歌 佐佐波爾 宇都夜阿良禮能 多志陀志爾 韋泥弖牟能知波 比登波加由登母
読下 ささはに うつやあられの たしたしに ゐねてむのちは ひとはかゆとも
解釈 笹葉に 打つや霰の たしだしに 率寝てむ後は 人は離ゆとも
古事記 歌謡八一
原歌 宇流波斯登 佐泥斯佐泥弖婆 加理許母能 美陀禮婆美陀禮 佐泥斯佐泥弖婆
読下 うるはしと さねしさねてば かりこもの みたればみたれ さねしさねてば
解釈 愛しと さ寝しさ寝てば 刈り薦の 乱れば乱れ さ寝しさ寝てば
古事記 歌謡八二
原歌 意富麻幣 袁麻幣須久泥賀 加那斗加宜 加久余理許泥 阿米多知夜米牟
読下 をふまへ をまへすくねか かねとかけ かくよりこね あめたちやめむ
解釈 大前 小前が宿禰 金門蔭 斯く寄り来ね 雨立ち止めむ
古事記 歌謡八三
原歌 美夜比登能 阿由比能古須受 淤知爾岐登 美夜比登登余牟 佐斗毘登母由米
読下 みやひとの あゆひのこすず をちにきと みやひととよむ さとひともゆめ
解釈 宮人を 足結ひの小鈴 落ちにきと 宮人響む 里人もゆめ
古事記 歌謡八四
原歌 阿麻陀牟 加流乃袁登賣 伊多那加婆 比登斯理奴倍志 波佐能夜麻能 波斗能 斯多那岐爾那久
読下 あまたむ かるのをとめ いたなかば ひとしりぬへし はさのやまの はとの したなきになく
解釈 天廻む 軽の嬢子 甚泣かば 人知りぬべし 波佐の山の 鳩の 下泣きに泣く
古事記 歌謡八五
原歌 阿麻陀牟 加流袁登賣 志多多爾母 余理泥弖登富禮 加流袁登賣杼母
読下 あまたむ かるをとめ したたにも よりねてとふれ かるをとめとも
解釈 天廻む 軽嬢子 確々にも 寄り寝て通れ 軽嬢子ども
古事記 歌謡八六
原歌 阿麻登夫 登理母都加比曾 多豆賀泥能 岐許延牟登岐波 和賀那斗波佐泥
読下 あまとふ とりもつかひそ たづかねの きこえむときは わかなとはさね
解釈 天飛ぶ 鳥も使いそ 鶴が音の 聞えむ時は 我が名問はさね
古事記 歌謡八七
原歌 意富岐美袁 斯麻爾波夫良婆 布那阿麻理 伊賀幣理許牟叙 和賀多多彌由米 許登袁許曾 多多美登伊波米 和賀都麻波由米
読下 をふきみを しまにはふらば ふなあまり いかへりこむそ わかたたやゆめ ことをこそ たたみといはめ わかつまはゆめ
解釈 大君を 島に放らば 船余り い帰り来むぞ 我が畳ゆめ 言をこそ 畳と言はめ 我が妻はゆめ
古事記 歌謡八八
原歌 那都久佐能 阿比泥能波麻能 加岐加比爾 阿斯布麻須那 阿加斯弖杼富禮
読下 なつくさの あひねのはまの かきかひに あしふますな あかしてとふれ
解釈 夏草の 阿比泥の浜の 掻き貝に 足踏ますな 明して通れ
古事記 歌謡八九
原歌 岐美賀由岐 氣那賀久那理奴 夜麻多豆能 牟加閇袁由加牟 麻都爾波麻多士
読下 きみかゆき けなかくなりぬ やまたづの むかへをゆかむ まつにはまたし
解釈 君が往き 日長くなりぬ 造木の 迎へを行かむ 待つには待たじ
古事記 歌謡九〇
原歌 許母理久能 波都世能夜麻能 意富袁爾波 波多波理陀弖 佐袁袁爾波 波多波理陀弖 意富袁爾斯 那加佐陀賣流 淤母比豆麻阿波禮 都久由美能 許夜流許夜理母 阿豆佐由美 多弖理多弖理母 能知母登理美流 意母比豆麻阿波禮
読下 こもりくの はつせのやまの をふをには はたはりたて をさををには はたはりたて をふをにし なかさためる をもひづまあはれ つくゆみの こやるこやりも あづさゆみ たてりたてりも のちもとりみる をもひづまあはれ
解釈 隠り処の 泊瀬の山の 大峰には 幡張り立て さ小峰には 幡張り立て 大小にし 仲定める 思い妻あはれ 槻弓の 臥やる臥やりも 梓弓 立てり立てりも 後も取り見る 思い妻あはれ
古事記 歌謡九一
原歌 許母理久能 波都勢能賀波能 加美都勢爾 伊久比袁宇知 斯毛都勢爾 麻久比袁宇知 伊久比爾波 加賀美袁加氣 麻久比爾波 麻多麻袁加氣 麻多麻那須 阿賀母布伊毛 加賀美那須 阿賀母布都麻 阿理登 伊波婆許曾余 伊幣爾母由加米 久爾袁母斯怒波米
読下 こもりくの はつせのかはの かみつせに いくひをうち しもつせに まくひをうち いくひには かかみをかけ まくひには またまをかけ またまなす あかもふいも かかみなす あかもふつま ありと いはばこそよ いへにもゆかめ くにをもしのはめ
解釈 隠り処の 泊瀬の河の 上つ瀬に 斎杙を打ち 下つ瀬に 真杙を打ち 斎杙には 鏡を懸け 真杙には 真玉を懸け 真玉なす 吾が思う妹 鏡なす 吾が思う妻 有りと 言はばこそよ 家にも行かめ 国をも偲はめ
古事記 歌謡九二
原歌 久佐加辨能 許知能夜麻登 多多美許母 幣具理能夜麻能 許知碁知能 夜麻能賀比爾 多知耶加由流 波毘呂久麻加斯 母登爾波 伊久美陀氣淤斐 須惠幣爾波 多斯美陀氣淤斐 伊久美陀氣 伊久美波泥受 多斯美陀氣 多斯爾波韋泥受 能知母久美泥牟 曾能淤母比豆麻 阿波禮
読下 くさかへの こちのやまと たたみこも へくりのやまの こちごちの やまのかひに たちさかゆる はひろくまかし もとには いくみたけをひ すゑへには たしみたけをひ いくみたけ いくみはねず たしみたけ たしにはゐねず のちもくみねむ そのをもひづま あはれ
解釈 日下部の 此方の山と 畳薦 平群の山の 此方此方の 山の峡に 立ち栄ゆる 葉広熊白檮 本には い茂み竹生ひ 末辺には た繁竹生ひ い茂み竹 い隠みは寝ず た繁竹 確には率寝ず 後も隠み寝む 其の思ひ妻 あはれ
古事記 歌謡九三
原歌 美母呂能 伊都加斯賀母登 賀斯賀母登 由由斯伎加母 加志波良袁登賣
読下 みもろの いつかしかもと かしかもと ゆゆしきかも かしはらをとめ
解釈 御諸の 厳白檮が下 白檮が下 忌々しきかも 橿原乙女
古事記 歌謡九四
原歌 比氣多能 和加久流須婆良 和加久閇爾 韋泥弖麻斯母能 淤伊爾祁流加母
読下 ひけたの わかくるすばら わかくへに ゐねてましもの をいにけるかも
解釈 引田の 若栗栖原 若くへに い寝てましもの 老いにけるかも
古事記 歌謡九五
原歌 美母呂爾 都久夜多麻加岐 都岐阿麻斯 多爾加母余良牟 加微能美夜比登
読下 みもろに つくやたまかき つきあまし たにかもよらむ かみのみやひと
解釈 御諸に 築くや玉垣 つき余し 誰にかも依らむ の宮人
古事記 歌謡九六
原歌 久佐迦延能 伊理延能波知須 波那婆知須 尾能佐加理毘登 登母志岐呂加母
読下 くさかえの いりえのはちす はなばちす みのさかりひと ともしきろかも
解釈 日下江の 入江の蓮 花蓮 身の盛り人 羨しきろかも
古事記 歌謡九七
原歌 阿具良韋能 加尾能美弖母知 比久許登爾 麻比須流袁美那 登許余爾母加母
読下 あくらゐの かみのみてもち ひくことに まひするをみな ここよにもかも
解釈 呉床居の の御手もち 弾く琴に 舞する女 常世にもがも
古事記 歌謡九八
原歌 美延斯怒能 袁牟漏賀多氣爾 志斯布須登 多禮曾 意富麻幣爾麻袁須 夜須美斯志 和賀淤富岐美能 斯志麻都登 阿具良爾伊麻志 斯漏多閇能 蘇弖岐蘇那布 多古牟良爾 阿牟加岐都岐 曾能阿牟袁 阿岐豆波夜具比 加久能碁登 那爾於波牟登 蘇良美都 夜麻登能久爾袁 阿岐豆志麻登布
読下 みえしのの をむろかたけに ししふすと たれそ をふまへにまをす やすみしし わかをふきみの ししまつと あくらにいまし しろたへの そてきそなふ たこむらに あむかきつき そのあむを あきづはやくひ かくのこと なにをはむと そらみつ やまとのくにを あきづしまとふ
解釈 み吉野の 小室が岳に 猪鹿伏すと 誰そ 大前に奏す やすみしし わが大君の 猪鹿待つと 呉床に坐し 白栲の 袖着そなふ 手腓に 虻掻き着き 其の虻を 蜻蛉早咋い 斯くの如 名に負はむと そらみつ 倭の国を 蜻蛉島とふ
古事記 歌謡九九
原歌 夜須美斯志 和賀意富岐美能 阿蘇婆志斯 志斯能 夜美斯志能 宇多岐加斯古美 和賀爾宜能煩理斯 阿理袁能 波理能紀能延陀
読下 やすみしし わかをふきみの あそばしし ししの やみししの うたきかしこみ わかにけのほりし ありをの はりのきのえた
解釈 やすみしし 我が大君の 遊ばしし 猪の 病み猪の うたき畏み 我が逃げ登りし 在り丘の 榛の木の枝
古事記 歌謡一〇〇
原歌 袁登賣能 伊加久流袁加袁 加那須岐母 伊本知母賀母 須岐波奴流母能
読下 をとめの いかくるをかを かなすきも いほちもかも すきはのるもの
解釈 乙女の い隠る岡を 金鉏も 五百箇もがも 鉏き撥ぬるもの
古事記 歌謡一〇一
原歌 麻岐牟久能 比志呂乃美夜波 阿佐比能 比伝流美夜 由布比能 比賀氣流美夜 多氣能泥能 泥陀流美夜 許能泥能 泥婆布美夜 夜本爾余志 伊岐豆岐能美夜 麻紀佐久 比能美加度 爾比那閇夜爾 淤斐陀弖流 毛毛陀流 都紀賀延波 本都延波 阿米袁淤幣理 那加都延波 阿豆麻袁淤幣理 志豆延波 比那袁於幣理 本都延能 延能宇良婆波 那加都延爾 淤知布良婆閇 那加都延能 延能宇良婆波 斯毛都延爾 淤知布良婆閇 斯豆延能 延能宇良婆波 阿理岐奴能 美幣能古賀 佐佐賀世流 美豆多麻宇岐爾 宇岐志阿夫良 淤知那豆佐比 美那許袁呂許袁呂爾 許斯母 阿夜爾加志古志 多加比加流 比能美古 許登能 加多理碁登母 許袁婆
読下 まきむくの ひしろのみやは あさひの ひてるみや ゆふひの ひかけるみや たけのねの ねだるみや このねの ねばふみや やふによし いきずきのみや まきさく ひのみかと にひなへやに をひだてる ももだる つきがえは ほつえは あめををへり なかつえは あずまををへり しずえは ひなををえり ほつえの えのうらばは なかつえに をちふらばへ なかつえは えのうらばは しもつえに をちふらばへ しずえの えのうらばは ありきぬの みへのこがささがせる みずたまうきに うきしあふら をちなずさひ みなこをろこをろに こしも あやにかしこし たかひかる ひのみこ ことのかたりごとも こをば
解釈 纏向の 日代の宮は 朝日の 日照る宮 夕日の 日光る宮 竹の根の 根足る宮 木の根の 根延ふ宮 八百土よし い杵築きの宮 真木栄く 檜の御門 新嘗屋に 生ひ立てる 百足る 槻が枝は 上つ枝は 天を覆へり 中つ枝は 東を覆へり 下づ枝は 鄙を覆へり 上つ枝の 枝の末葉は 中つ枝に 落ち触らばへ 中つ枝の 枝の末葉は 下つ枝に 落ち触らばへ 下づ枝の 枝の末葉は 在り衣の 三重の子が 捧がせる 瑞玉盞に 浮きし脂 落ちなづさひ 水こおろこおろに 是しも あやに畏し 高光る 日の御子 事の 語り言も 是をば
古事記 歌謡一〇二
原歌 夜麻登能 許能多氣知爾 古陀加流 伊知能都加佐 爾比那閇夜爾 淤斐陀弖流 波毘呂 由都麻都婆岐 曾賀波能 比呂理伊麻志 曾能波那能 弖理伊麻須 多加比加流 比能美古爾 登余美岐 多弖麻都良勢 許登能 加多理碁登母 許袁婆
読下 やまとの このたけちに こだかる いちのつかさ にひなへやに をひだてる はひろ ゆつまつばき そがはの ひろりいまし そのはなの てりいます たかひかる ひのみこに とよみき たてまつらせ ことの かたりことも こをば
解釈 倭の 此の高市に 小高る 市の高処 新嘗屋に 生ひ立てる 葉広 斎つ真椿 其が葉の 広り坐し 其の花の 照り坐す 高光る 日の御子に 豊御酒 奉らせ 事の 語り言も 是をば
古事記 歌謡一〇三
原歌 毛毛志記能 淤富美夜比登波 宇豆良登理 比禮登理加氣弖 麻那婆志良 袁由岐阿閇 爾波須受米 宇受須麻理韋弖 祁布母加母 佐加美豆久良斯 多加比加流 比能美夜比登 許登能 加多理碁登母 許袁婆
読下 ももしきの をふみやひとは うずらとり ひれとりかけて まそばしら をゆきあへ にはすずめうずすまりいて けふもかも さかみずくらし たかひかる ひのみやひと ことの かたりごとも こをば
解釈 百磯城の 大宮人は 鶉鳥 領布取り懸けて 真柱 尾行き合へ 庭雀 群集り居て 今日もかも 酒水食らし 高光る 日の宮人 事の 語り言も 是をば
古事記 歌謡一〇四
原歌 美那曾曾久 淤美能袁登賣 本陀理登良須母 本陀理斗理 加多久斗良勢 斯多賀多久 夜賀多久斗良勢 本陀理斗良須古
読下 みなそそく をみのをとめ ほだりとらすも ほだりとり かたくとらせ したがたく やがたくとらせ ほだりとらすこ
解釈 水潅ぐ 臣の乙女 絆り取らすも 絆り取り 堅く取らせ 下堅く 弥堅く取らせ 絆り取らす子
古事記 歌謡一〇五
原歌 夜須美斯志 和賀淤富岐美能 阿佐斗爾波 伊余理陀多志 由布斗爾波 伊余理陀多須 和岐豆岐賀 斯多能 伊多爾母賀 阿世袁
読下 やすみしし わがをふきみの あさとには いよりたたし ゆふとには いよりたたす わきずきがしたの いたにもが あせを
解釈 やすみしし 我が大君の 朝門には い寄り立たし 夕門には い寄り立たす 脇机が下の 板にもが 吾兄を
古事記 歌謡一〇六
原歌 意富美夜能 袁登都波多伝 須美加多夫祁理
読下 をふみやの をとつはたて すみかたふけり
解釈 大宮の おとつ端手 隅傾けり
古事記 歌謡一〇七
原歌 意富多久美 袁遲那美許曾 須美加多夫祁禮
読下 をふたたみ をぢなみこそ すみかたふけれ
解釈 大匠 劣みこそ 隅傾けれ
古事記 歌謡一〇八
原歌 意富岐美能 許許呂袁由良美 淤美能古能 夜幣能斯婆加岐 伊理多多受阿理
読下 をふきみの こころをゆるみ をみのこの やへのしばかき いりたたずあり
解釈 大君の 心を緩み 臣の子の 八重の柴垣 入り立たずあり
古事記 歌謡一〇九
原歌 斯本勢能 那袁理袁美禮婆 阿蘇毘久流 志毘賀波多伝爾 都麻多弖理美由
読下 しほせの なをりをみれば あそびくる しびがはたてに つまたてりみゆ
解釈 潮瀬の 余波をみれば 遊び来る 鮪が端手に 妻立てり見ゆ
古事記 歌謡一一〇
原歌 意富岐美能 美古能志婆加岐 夜布士麻理 斯麻理母登本斯 岐禮牟志婆加岐 夜氣牟志婆加岐
読下 をふきみの みこのしばかき やふしまり しまりもとほし きれむしばかき やけむしばかき
解釈 大君の 御子の柴垣 八節縛り 縛り廻し 切れむ柴垣 焼けむ柴垣
古事記 歌謡一一一
原歌 意布袁余志 斯毘都久阿麻余 斯賀阿礼婆 宇良胡本斯祁牟 志毘都久志毘
読下 をふをよし しびつくあまよ しがあれば うらこほしけむ しびつくしび
解釈 大魚よし 鮪突く海人よ 其があれば 心恋しけむ 鮪突く志毘
古事記 歌謡一一二
原歌 阿佐遲波良 袁陀爾袁須疑弖 毛毛豆多布 奴弖由良久母 於岐米久良斯母
読下 あさぢはら をだにをすぎて ももつたふ ぬてゆらくも おきめくらしも
解釈 浅茅原 小谷を過ぎて 百伝う 鐸響くも 置目来らしも
古事記 歌謡一一三
原歌 意岐米母夜 阿布美能於岐米 阿須用理波 美夜麻賀久理弖 美延受加母阿良牟
読下 おきめもや あふみのおきめ あすよりは みやまかくりて みえずかもあらむ
解釈 置目もや 淡海の置目 明日よりは み山隠りて 見えずかもあらむ
古事記 歌謡 後半部 歌謡歌番 六〇~百十三
古事記 歌謡六〇
原歌 夜麻斯呂邇 伊斯祁登理夜麻 伊斯祁伊斯祁 阿賀波斯豆麻邇 伊斯岐阿波牟加母
読下 やましろに いしけとりやま いしけいしけ あかはしづまに いしきあはむかも
解釈 山代に い及け鳥山 い及けい及け 吾が愛し妻に い及き遇はむかも
古事記 歌謡六一
原歌 美母呂能 曾能多迦紀那流 意富韋古賀波良 意富韋古賀 波良邇阿流 岐毛牟加布 許許呂袁陀邇迦 阿比淤母波受阿良牟
読下 みもろの そのたかきなる をふゐこかはら をふゐこか はらにあれ きもむかふ こころをたにか あひをもはずあらむ
解釈 御諸の 其の高城なる 大猪子が原 大猪子が 腹にある 肝向う 心をだにか 相思はずあらむ
古事記 歌謡六二
原歌 都藝泥布 夜麻志呂賣能 許久波母知 宇知斯淤富泥 泥士漏能 斯漏多陀牟岐 麻迦受祁婆許曾 斯良受登母伊波米
読下 つぎねふ やましろめの こくはもち うちしをふね ねしろの しろたたむき まかずけばこそ しらずともいはめ
解釈 つぎねふ 山代女の 木鍬持ち 打ちし大根 根白の 白腕 枕かずけばこそ 知らずとも言はめ
古事記 歌謡六三
原歌 夜麻志呂能 都都紀能美夜邇 母能麻袁須 阿賀勢能岐美波 那美多具麻志母
読下 やましろの つつきのみやに ものまをす あかせのきみは なみたくましも
解釈 山代の 筒木の宮に 物申す 吾が兄の君は 涙ぐましも
古事記 歌謡六四
原歌 都藝泥布 夜麻斯呂賣能 許久波母知 宇知斯意富泥 佐和佐和爾 那賀伊幣勢許曾 宇知和多須 夜賀波延那須 岐伊理麻韋久禮
読下 つぎねふ やましろめの こくはもち うちしをふね さわさわに なかいへせこそ うちわたす やかはえなす きいりまゐくれ
解釈 つぎねふ 山代女の 木鍬持ち 打ちし大根 さわさわに 汝が言へせこそ 打ち渡す 八桑枝なす 来入り参い来れ
古事記 歌謡六五
原歌 夜多能 比登母登須宜波 古母多受 多知迦阿礼那牟 阿多良須賀波良 許登袁許曾 須宜波良登伊波米 阿多良須賀志賣
読下 やたの ひともとすげは こもたず たちかあれなむ あたらすかはら ことをこそ すぎはらといはめ あたらすかしめ
解釈 八田の 一本菅は 子持たず 立ちか荒れなむ 惜ら菅原 言をこそ 菅原と言はめ 惜ら清し女
古事記 歌謡六六
原歌 夜多能 比登母登須宜波 比登理袁理登母 意富岐彌斯 與斯登岐許佐婆 比登理袁理登母
読下 やたの ひともとしぎは ひとりをりとも をふきみし よしときこさば ひとりをりとも
解釈 八田の 一本菅は 独り居りとも 大君し 良しと聞こさば 独り居りとも
古事記 歌謡六七
原歌 賣杼理能 和賀意富岐美能 淤呂須波多 他賀多泥呂迦母
読下 めとりの わかをふきみの をろすはた たかたねろかも
解釈 女鳥の 我が大君の 織ろす服 誰が料ろかも
古事記 歌謡六八
原歌 多迦由久夜 波夜夫佐和氣能 美淤須比賀泥
読下 たかゆくや はやふさわけの みをすひかね
解釈 高行くや 速總別の 御襲衣料
古事記 歌謡六九
原歌 比婆理波 阿米邇迦氣流 多迦由玖夜 波夜夫佐和氣 佐耶岐登良佐泥
読下 ひばりは あめにかける たかゆくや はやふさわけ ささきとらさね
解釈 雲雀は 天に翔ける 高行くや 速總別 雀取らさね
古事記 歌謡七〇
原歌 波斯多弖能 久良波斯夜麻袁 佐賀志美登 伊波迦伎加泥弖 和賀弖登良須母
読下 はしたての くらはしまを さかしみと いはかきかねて わかてとらすも
解釈 梯立の 倉椅山を 嶮しみと 岩懸きかねて 我が手取らすも
古事記 歌謡七一
原歌 波斯多弖能 久良波斯夜麻波 佐賀斯祁杼 伊毛登能爐禮波 佐賀斯玖母阿良受
読下 はしたての くらはしやまは さかしけと いもとのほれば さかしくもあらず
解釈 梯立の 倉椅山は 嶮しけど 妹と登れば 嶮しくもあらず
古事記 歌謡七二
原歌 多麻岐波流 宇知能阿曾 那許曾波 余能那賀比登 蘇良美都 夜麻登能久邇爾 加理古牟登岐久夜
読下 たまきはる うちのあそ なこそは よのなかひと そらみつ やまとのくにに かりこむときくや
解釈 たまきはる 内の朝臣 汝こそは 世の仲人 そらみつ 倭の国に 雁来むと聞くや
古事記 歌謡七三
原歌 多迦比迦流 比能美古 宇倍志許曾 斗比多麻閇 麻許曾邇 斗比多麻閇 阿礼許曾波 余能那賀比登 蘇良美都 夜麻登能久邇爾 加理古牟登 伊麻陀岐加受
読下 たかひかる ひのみこ うへしこそ とひたまへ まこそに とひたまへ あれこそは よのなかひと そらみつ やまとのくにに かりこむと いまだきかず
解釈 高光る 日の御子 諾しこそ 問ひ給え 真こそに 問ひ給え 吾こそは 世の仲人 そらみつ 倭の国に 雁来むと 未だ聞かず
古事記 歌謡七四
原歌 那賀美古夜 都毘邇斯良牟登 加理波古牟良斯
読下 なかみこや つふにしらむと かりはこむらし
解釈 汝が御子や 終に知らむと 雁は来むらし
古事記 歌謡七五
原歌 加良怒袁 志本爾夜岐 斯賀阿麻理 許登爾都久理 賀岐比久夜 由良能斗能 斗那賀能伊久理爾 布禮多都 那豆能紀能 佐夜佐夜
読下 からのを しほにやき そかあまり ことにつくり かきひくや ゆらのとの となかのいくりに ふれたつ なづのきの さやさや
解釈 枯野を 塩に焼き 其が余り 琴に作り 掻き弾くや 由良の門の 門中の海石に 振れ立つ なづの木の さやさや
古事記 歌謡七六
原歌 多遲比怒邇 泥牟登斯理勢婆 多都碁母母 母知弖許麻志母能 泥牟登斯理勢婆
読下 たぢひのに ねむとしりせば たつこもも もちてこましもの ねむとしりせば
解釈 多遲比野に 寝むと知りせば 立薦も 持ちて来ましもの 寝むと知りせば
古事記 歌謡七七
原歌 波邇布耶迦 和賀多知美禮婆 迦藝漏肥能 毛由流伊幣牟良 都麻賀伊幣能阿多理
読下 はにふさか わかたちみれば かぎろひの もゆるいへぬら つまかいへのあたり
解釈 赤土坂 我が立ち見れば かぎろひの 燃ゆる家群 妻が家の辺
古事記 歌謡七八
原歌 於富佐迦邇 阿布夜袁登賣袁 美知斗閇婆 多陀邇波能良受 當藝麻知袁能流
読下 をふさかに あふやをとめを みちとへば ただにはのらず ふぎまちをのる
解釈 大坂に 遇うや娘子を 道問へば 直には告らず 當岐麻道を告る
古事記 歌謡七九
原歌 阿志比紀能 夜麻陀袁豆久理 夜麻陀加美 斯多備袁和志勢 志多杼比爾 和賀登布伊毛袁 斯多那岐爾 和賀那久都麻袁 許存許曾婆 夜須久波陀布禮
読下 あしひきの やまたをづくり やまたかみ したびをわしせ したとひに わかとふいもを したなきに わかなくつまを こそこそば やすくはたふれ
解釈 あしひきの 山田を作り 山高み 下樋を走せ 下訪ひに 我が訪ふ妹を 下泣きに 我が泣く妻を 今夜こそは 易く肌触れ
古事記 歌謡八〇
原歌 佐佐波爾 宇都夜阿良禮能 多志陀志爾 韋泥弖牟能知波 比登波加由登母
読下 ささはに うつやあられの たしたしに ゐねてむのちは ひとはかゆとも
解釈 笹葉に 打つや霰の たしだしに 率寝てむ後は 人は離ゆとも
古事記 歌謡八一
原歌 宇流波斯登 佐泥斯佐泥弖婆 加理許母能 美陀禮婆美陀禮 佐泥斯佐泥弖婆
読下 うるはしと さねしさねてば かりこもの みたればみたれ さねしさねてば
解釈 愛しと さ寝しさ寝てば 刈り薦の 乱れば乱れ さ寝しさ寝てば
古事記 歌謡八二
原歌 意富麻幣 袁麻幣須久泥賀 加那斗加宜 加久余理許泥 阿米多知夜米牟
読下 をふまへ をまへすくねか かねとかけ かくよりこね あめたちやめむ
解釈 大前 小前が宿禰 金門蔭 斯く寄り来ね 雨立ち止めむ
古事記 歌謡八三
原歌 美夜比登能 阿由比能古須受 淤知爾岐登 美夜比登登余牟 佐斗毘登母由米
読下 みやひとの あゆひのこすず をちにきと みやひととよむ さとひともゆめ
解釈 宮人を 足結ひの小鈴 落ちにきと 宮人響む 里人もゆめ
古事記 歌謡八四
原歌 阿麻陀牟 加流乃袁登賣 伊多那加婆 比登斯理奴倍志 波佐能夜麻能 波斗能 斯多那岐爾那久
読下 あまたむ かるのをとめ いたなかば ひとしりぬへし はさのやまの はとの したなきになく
解釈 天廻む 軽の嬢子 甚泣かば 人知りぬべし 波佐の山の 鳩の 下泣きに泣く
古事記 歌謡八五
原歌 阿麻陀牟 加流袁登賣 志多多爾母 余理泥弖登富禮 加流袁登賣杼母
読下 あまたむ かるをとめ したたにも よりねてとふれ かるをとめとも
解釈 天廻む 軽嬢子 確々にも 寄り寝て通れ 軽嬢子ども
古事記 歌謡八六
原歌 阿麻登夫 登理母都加比曾 多豆賀泥能 岐許延牟登岐波 和賀那斗波佐泥
読下 あまとふ とりもつかひそ たづかねの きこえむときは わかなとはさね
解釈 天飛ぶ 鳥も使いそ 鶴が音の 聞えむ時は 我が名問はさね
古事記 歌謡八七
原歌 意富岐美袁 斯麻爾波夫良婆 布那阿麻理 伊賀幣理許牟叙 和賀多多彌由米 許登袁許曾 多多美登伊波米 和賀都麻波由米
読下 をふきみを しまにはふらば ふなあまり いかへりこむそ わかたたやゆめ ことをこそ たたみといはめ わかつまはゆめ
解釈 大君を 島に放らば 船余り い帰り来むぞ 我が畳ゆめ 言をこそ 畳と言はめ 我が妻はゆめ
古事記 歌謡八八
原歌 那都久佐能 阿比泥能波麻能 加岐加比爾 阿斯布麻須那 阿加斯弖杼富禮
読下 なつくさの あひねのはまの かきかひに あしふますな あかしてとふれ
解釈 夏草の 阿比泥の浜の 掻き貝に 足踏ますな 明して通れ
古事記 歌謡八九
原歌 岐美賀由岐 氣那賀久那理奴 夜麻多豆能 牟加閇袁由加牟 麻都爾波麻多士
読下 きみかゆき けなかくなりぬ やまたづの むかへをゆかむ まつにはまたし
解釈 君が往き 日長くなりぬ 造木の 迎へを行かむ 待つには待たじ
古事記 歌謡九〇
原歌 許母理久能 波都世能夜麻能 意富袁爾波 波多波理陀弖 佐袁袁爾波 波多波理陀弖 意富袁爾斯 那加佐陀賣流 淤母比豆麻阿波禮 都久由美能 許夜流許夜理母 阿豆佐由美 多弖理多弖理母 能知母登理美流 意母比豆麻阿波禮
読下 こもりくの はつせのやまの をふをには はたはりたて をさををには はたはりたて をふをにし なかさためる をもひづまあはれ つくゆみの こやるこやりも あづさゆみ たてりたてりも のちもとりみる をもひづまあはれ
解釈 隠り処の 泊瀬の山の 大峰には 幡張り立て さ小峰には 幡張り立て 大小にし 仲定める 思い妻あはれ 槻弓の 臥やる臥やりも 梓弓 立てり立てりも 後も取り見る 思い妻あはれ
古事記 歌謡九一
原歌 許母理久能 波都勢能賀波能 加美都勢爾 伊久比袁宇知 斯毛都勢爾 麻久比袁宇知 伊久比爾波 加賀美袁加氣 麻久比爾波 麻多麻袁加氣 麻多麻那須 阿賀母布伊毛 加賀美那須 阿賀母布都麻 阿理登 伊波婆許曾余 伊幣爾母由加米 久爾袁母斯怒波米
読下 こもりくの はつせのかはの かみつせに いくひをうち しもつせに まくひをうち いくひには かかみをかけ まくひには またまをかけ またまなす あかもふいも かかみなす あかもふつま ありと いはばこそよ いへにもゆかめ くにをもしのはめ
解釈 隠り処の 泊瀬の河の 上つ瀬に 斎杙を打ち 下つ瀬に 真杙を打ち 斎杙には 鏡を懸け 真杙には 真玉を懸け 真玉なす 吾が思う妹 鏡なす 吾が思う妻 有りと 言はばこそよ 家にも行かめ 国をも偲はめ
古事記 歌謡九二
原歌 久佐加辨能 許知能夜麻登 多多美許母 幣具理能夜麻能 許知碁知能 夜麻能賀比爾 多知耶加由流 波毘呂久麻加斯 母登爾波 伊久美陀氣淤斐 須惠幣爾波 多斯美陀氣淤斐 伊久美陀氣 伊久美波泥受 多斯美陀氣 多斯爾波韋泥受 能知母久美泥牟 曾能淤母比豆麻 阿波禮
読下 くさかへの こちのやまと たたみこも へくりのやまの こちごちの やまのかひに たちさかゆる はひろくまかし もとには いくみたけをひ すゑへには たしみたけをひ いくみたけ いくみはねず たしみたけ たしにはゐねず のちもくみねむ そのをもひづま あはれ
解釈 日下部の 此方の山と 畳薦 平群の山の 此方此方の 山の峡に 立ち栄ゆる 葉広熊白檮 本には い茂み竹生ひ 末辺には た繁竹生ひ い茂み竹 い隠みは寝ず た繁竹 確には率寝ず 後も隠み寝む 其の思ひ妻 あはれ
古事記 歌謡九三
原歌 美母呂能 伊都加斯賀母登 賀斯賀母登 由由斯伎加母 加志波良袁登賣
読下 みもろの いつかしかもと かしかもと ゆゆしきかも かしはらをとめ
解釈 御諸の 厳白檮が下 白檮が下 忌々しきかも 橿原乙女
古事記 歌謡九四
原歌 比氣多能 和加久流須婆良 和加久閇爾 韋泥弖麻斯母能 淤伊爾祁流加母
読下 ひけたの わかくるすばら わかくへに ゐねてましもの をいにけるかも
解釈 引田の 若栗栖原 若くへに い寝てましもの 老いにけるかも
古事記 歌謡九五
原歌 美母呂爾 都久夜多麻加岐 都岐阿麻斯 多爾加母余良牟 加微能美夜比登
読下 みもろに つくやたまかき つきあまし たにかもよらむ かみのみやひと
解釈 御諸に 築くや玉垣 つき余し 誰にかも依らむ の宮人
古事記 歌謡九六
原歌 久佐迦延能 伊理延能波知須 波那婆知須 尾能佐加理毘登 登母志岐呂加母
読下 くさかえの いりえのはちす はなばちす みのさかりひと ともしきろかも
解釈 日下江の 入江の蓮 花蓮 身の盛り人 羨しきろかも
古事記 歌謡九七
原歌 阿具良韋能 加尾能美弖母知 比久許登爾 麻比須流袁美那 登許余爾母加母
読下 あくらゐの かみのみてもち ひくことに まひするをみな ここよにもかも
解釈 呉床居の の御手もち 弾く琴に 舞する女 常世にもがも
古事記 歌謡九八
原歌 美延斯怒能 袁牟漏賀多氣爾 志斯布須登 多禮曾 意富麻幣爾麻袁須 夜須美斯志 和賀淤富岐美能 斯志麻都登 阿具良爾伊麻志 斯漏多閇能 蘇弖岐蘇那布 多古牟良爾 阿牟加岐都岐 曾能阿牟袁 阿岐豆波夜具比 加久能碁登 那爾於波牟登 蘇良美都 夜麻登能久爾袁 阿岐豆志麻登布
読下 みえしのの をむろかたけに ししふすと たれそ をふまへにまをす やすみしし わかをふきみの ししまつと あくらにいまし しろたへの そてきそなふ たこむらに あむかきつき そのあむを あきづはやくひ かくのこと なにをはむと そらみつ やまとのくにを あきづしまとふ
解釈 み吉野の 小室が岳に 猪鹿伏すと 誰そ 大前に奏す やすみしし わが大君の 猪鹿待つと 呉床に坐し 白栲の 袖着そなふ 手腓に 虻掻き着き 其の虻を 蜻蛉早咋い 斯くの如 名に負はむと そらみつ 倭の国を 蜻蛉島とふ
古事記 歌謡九九
原歌 夜須美斯志 和賀意富岐美能 阿蘇婆志斯 志斯能 夜美斯志能 宇多岐加斯古美 和賀爾宜能煩理斯 阿理袁能 波理能紀能延陀
読下 やすみしし わかをふきみの あそばしし ししの やみししの うたきかしこみ わかにけのほりし ありをの はりのきのえた
解釈 やすみしし 我が大君の 遊ばしし 猪の 病み猪の うたき畏み 我が逃げ登りし 在り丘の 榛の木の枝
古事記 歌謡一〇〇
原歌 袁登賣能 伊加久流袁加袁 加那須岐母 伊本知母賀母 須岐波奴流母能
読下 をとめの いかくるをかを かなすきも いほちもかも すきはのるもの
解釈 乙女の い隠る岡を 金鉏も 五百箇もがも 鉏き撥ぬるもの
古事記 歌謡一〇一
原歌 麻岐牟久能 比志呂乃美夜波 阿佐比能 比伝流美夜 由布比能 比賀氣流美夜 多氣能泥能 泥陀流美夜 許能泥能 泥婆布美夜 夜本爾余志 伊岐豆岐能美夜 麻紀佐久 比能美加度 爾比那閇夜爾 淤斐陀弖流 毛毛陀流 都紀賀延波 本都延波 阿米袁淤幣理 那加都延波 阿豆麻袁淤幣理 志豆延波 比那袁於幣理 本都延能 延能宇良婆波 那加都延爾 淤知布良婆閇 那加都延能 延能宇良婆波 斯毛都延爾 淤知布良婆閇 斯豆延能 延能宇良婆波 阿理岐奴能 美幣能古賀 佐佐賀世流 美豆多麻宇岐爾 宇岐志阿夫良 淤知那豆佐比 美那許袁呂許袁呂爾 許斯母 阿夜爾加志古志 多加比加流 比能美古 許登能 加多理碁登母 許袁婆
読下 まきむくの ひしろのみやは あさひの ひてるみや ゆふひの ひかけるみや たけのねの ねだるみや このねの ねばふみや やふによし いきずきのみや まきさく ひのみかと にひなへやに をひだてる ももだる つきがえは ほつえは あめををへり なかつえは あずまををへり しずえは ひなををえり ほつえの えのうらばは なかつえに をちふらばへ なかつえは えのうらばは しもつえに をちふらばへ しずえの えのうらばは ありきぬの みへのこがささがせる みずたまうきに うきしあふら をちなずさひ みなこをろこをろに こしも あやにかしこし たかひかる ひのみこ ことのかたりごとも こをば
解釈 纏向の 日代の宮は 朝日の 日照る宮 夕日の 日光る宮 竹の根の 根足る宮 木の根の 根延ふ宮 八百土よし い杵築きの宮 真木栄く 檜の御門 新嘗屋に 生ひ立てる 百足る 槻が枝は 上つ枝は 天を覆へり 中つ枝は 東を覆へり 下づ枝は 鄙を覆へり 上つ枝の 枝の末葉は 中つ枝に 落ち触らばへ 中つ枝の 枝の末葉は 下つ枝に 落ち触らばへ 下づ枝の 枝の末葉は 在り衣の 三重の子が 捧がせる 瑞玉盞に 浮きし脂 落ちなづさひ 水こおろこおろに 是しも あやに畏し 高光る 日の御子 事の 語り言も 是をば
古事記 歌謡一〇二
原歌 夜麻登能 許能多氣知爾 古陀加流 伊知能都加佐 爾比那閇夜爾 淤斐陀弖流 波毘呂 由都麻都婆岐 曾賀波能 比呂理伊麻志 曾能波那能 弖理伊麻須 多加比加流 比能美古爾 登余美岐 多弖麻都良勢 許登能 加多理碁登母 許袁婆
読下 やまとの このたけちに こだかる いちのつかさ にひなへやに をひだてる はひろ ゆつまつばき そがはの ひろりいまし そのはなの てりいます たかひかる ひのみこに とよみき たてまつらせ ことの かたりことも こをば
解釈 倭の 此の高市に 小高る 市の高処 新嘗屋に 生ひ立てる 葉広 斎つ真椿 其が葉の 広り坐し 其の花の 照り坐す 高光る 日の御子に 豊御酒 奉らせ 事の 語り言も 是をば
古事記 歌謡一〇三
原歌 毛毛志記能 淤富美夜比登波 宇豆良登理 比禮登理加氣弖 麻那婆志良 袁由岐阿閇 爾波須受米 宇受須麻理韋弖 祁布母加母 佐加美豆久良斯 多加比加流 比能美夜比登 許登能 加多理碁登母 許袁婆
読下 ももしきの をふみやひとは うずらとり ひれとりかけて まそばしら をゆきあへ にはすずめうずすまりいて けふもかも さかみずくらし たかひかる ひのみやひと ことの かたりごとも こをば
解釈 百磯城の 大宮人は 鶉鳥 領布取り懸けて 真柱 尾行き合へ 庭雀 群集り居て 今日もかも 酒水食らし 高光る 日の宮人 事の 語り言も 是をば
古事記 歌謡一〇四
原歌 美那曾曾久 淤美能袁登賣 本陀理登良須母 本陀理斗理 加多久斗良勢 斯多賀多久 夜賀多久斗良勢 本陀理斗良須古
読下 みなそそく をみのをとめ ほだりとらすも ほだりとり かたくとらせ したがたく やがたくとらせ ほだりとらすこ
解釈 水潅ぐ 臣の乙女 絆り取らすも 絆り取り 堅く取らせ 下堅く 弥堅く取らせ 絆り取らす子
古事記 歌謡一〇五
原歌 夜須美斯志 和賀淤富岐美能 阿佐斗爾波 伊余理陀多志 由布斗爾波 伊余理陀多須 和岐豆岐賀 斯多能 伊多爾母賀 阿世袁
読下 やすみしし わがをふきみの あさとには いよりたたし ゆふとには いよりたたす わきずきがしたの いたにもが あせを
解釈 やすみしし 我が大君の 朝門には い寄り立たし 夕門には い寄り立たす 脇机が下の 板にもが 吾兄を
古事記 歌謡一〇六
原歌 意富美夜能 袁登都波多伝 須美加多夫祁理
読下 をふみやの をとつはたて すみかたふけり
解釈 大宮の おとつ端手 隅傾けり
古事記 歌謡一〇七
原歌 意富多久美 袁遲那美許曾 須美加多夫祁禮
読下 をふたたみ をぢなみこそ すみかたふけれ
解釈 大匠 劣みこそ 隅傾けれ
古事記 歌謡一〇八
原歌 意富岐美能 許許呂袁由良美 淤美能古能 夜幣能斯婆加岐 伊理多多受阿理
読下 をふきみの こころをゆるみ をみのこの やへのしばかき いりたたずあり
解釈 大君の 心を緩み 臣の子の 八重の柴垣 入り立たずあり
古事記 歌謡一〇九
原歌 斯本勢能 那袁理袁美禮婆 阿蘇毘久流 志毘賀波多伝爾 都麻多弖理美由
読下 しほせの なをりをみれば あそびくる しびがはたてに つまたてりみゆ
解釈 潮瀬の 余波をみれば 遊び来る 鮪が端手に 妻立てり見ゆ
古事記 歌謡一一〇
原歌 意富岐美能 美古能志婆加岐 夜布士麻理 斯麻理母登本斯 岐禮牟志婆加岐 夜氣牟志婆加岐
読下 をふきみの みこのしばかき やふしまり しまりもとほし きれむしばかき やけむしばかき
解釈 大君の 御子の柴垣 八節縛り 縛り廻し 切れむ柴垣 焼けむ柴垣
古事記 歌謡一一一
原歌 意布袁余志 斯毘都久阿麻余 斯賀阿礼婆 宇良胡本斯祁牟 志毘都久志毘
読下 をふをよし しびつくあまよ しがあれば うらこほしけむ しびつくしび
解釈 大魚よし 鮪突く海人よ 其があれば 心恋しけむ 鮪突く志毘
古事記 歌謡一一二
原歌 阿佐遲波良 袁陀爾袁須疑弖 毛毛豆多布 奴弖由良久母 於岐米久良斯母
読下 あさぢはら をだにをすぎて ももつたふ ぬてゆらくも おきめくらしも
解釈 浅茅原 小谷を過ぎて 百伝う 鐸響くも 置目来らしも
古事記 歌謡一一三
原歌 意岐米母夜 阿布美能於岐米 阿須用理波 美夜麻賀久理弖 美延受加母阿良牟
読下 おきめもや あふみのおきめ あすよりは みやまかくりて みえずかもあらむ
解釈 置目もや 淡海の置目 明日よりは み山隠りて 見えずかもあらむ
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