竹取翁と万葉集のお勉強

楽しく自由に万葉集を楽しんでいるブログです。
初めてのお人でも、それなりのお人でも、楽しめると思います。

資料編 延喜式祝詞 祈年祭・中臣寿詞・龍田風神祭

2021年03月20日 | 資料書庫
資料編 延喜式祝詞 祈年祭・中臣寿詞・龍田風神祭

最初に、本資料は、萬葉集の人麻呂の草壁皇子の挽歌を読む為のものです。従って、祈年祭、中臣寿詞および龍田風神祭の祝詞を以下に記しますが、宣命体表示にはしていません。恣意により和文漢文体表示としています。つまり、送字は記していません。大意は、書き下し文を参照願います。

祈年祭  (原文)

 集侍神主・祝部等、諸聞食宣。(神主・祝部等、共稱唯。餘宣准此。)
 高天原神留坐、皇睦神漏伎命・神漏彌命以、天社・國社稱辭竟奉、皇神等前白、今年二月、御年初將賜為而、皇御孫命宇豆幣帛、朝日豊逆登稱辭竟奉宣。
 御年皇神等前白、皇神等依奉奥津御年、手肱水沫畫垂、向股泥畫寄、取作奥津御年、八束穂伊加志穂、皇神等依奉者、初穂千穎八百穎奉置、瓶閉高知、瓶腹滿雙、汁穎稱辭竟奉。大野原生物者、甘菜・辛菜、靑海原住物者、鰭廣物・鰭狹物、奥津藻菜・邊津藻菜至、御服者、明妙・照妙・和妙・荒妙、稱辭竟奉。御年皇神前、白馬・白猪・白鶏、種種色物備奉、皇御孫命宇豆幣帛、稱辭竟奉宣。
 大御巫辭竟奉、皇神等前白、神魂・高御魂・生魂・足魂・玉留魂・大宮乃賣・大御膳都神・辭代主、御名者白而、辭竟奉者、皇御孫命御世、手長御世、堅磐常磐斎奉、茂御世幸奉故、皇吾睦神漏伎命・神漏彌命、皇御孫命宇豆幣帛、稱辭竟奉宣。
 座摩御巫稱辭竟奉、皇神等前白、生井・榮井・津長井・阿須波・婆比支、御名者白、辭竟奉、皇神敷坐、下都磐根宮柱太知立、高天原千木高知、皇御孫命瑞御舎仕奉、天御蔭・日御蔭隠坐、四方國安國平知食故、皇御孫命宇豆幣帛、稱辭竟奉宣。
 御門御巫稱辭竟奉、皇神等前白、櫛磐間門命・豊磐間門命、御名者白、辭竟奉者、四方御門、湯都磐村如塞坐、朝者御門開奉、夕者御門閉奉、疎夫留物自下往者下守、自上往者上守、夜守・日守守奉故、皇御孫命宇豆幣帛、稱辭竟奉宣。
生嶋御巫辭竟奉、皇神等前白、生國・足國、御名者白、辭竟奉者、皇神敷坐嶋八十嶋者、谷蟆狹度極、鹽沫留限、狹國者廣、峻國者平、嶋八十嶋堕事夭、皇神等依奉故、皇御孫命宇豆幣帛、稱辭竟奉宣。
 辭別、伊勢坐天照大御神大前白、皇神見霽坐四方國者、天壁立極、國退立限、靑雲靄極、白雲墜坐向伏限、靑海原者、棹柁不干、舟艫至留極、大海舟滿都都氣、自陸往道者、荷緒縛堅、磐根木根履佐久彌、馬爪至留限、長道夭間立都都氣、狹國者廣、峻國者平、遠國者八十綱打挂引寄如事、皇大御神寄奉、荷前者、皇大御神大前、如横山打積置、残平聞看。又皇御孫命御世、手長御世、堅磐常磐斎奉、茂御世幸閉奉故、皇吾睦神漏伎・神漏彌命、宇事物頚根衝抜、皇御孫命宇豆幣帛、稱辭竟奉宣。
 御縣坐皇神等前白、高市・葛木・十市・志貴・山邊・曾布、御名者白、此六御縣生出、甘菜・辛菜持参來、皇御孫命長御膳遠御膳聞食故、皇御孫命宇豆幣帛、稱辭竟奉宣。
 山口坐皇神等前白、飛鳥・石村・忍坂・長谷・畝火・耳夭、御名者白、遠山・近山生立大木・小木、本末打切、持参來、皇御孫命瑞御舎仕奉、天御蔭・日御蔭隠坐、四方國、安國平知食故、皇御孫命宇豆幣帛、稱辭竟奉宣。
 水分坐皇神等前白、吉野・宇陀・都祁・葛木、御名者白、辭竟奉者、皇神等寄奉奥都御年、八束穂伊加志穂寄奉者、皇神等、初穂、穎汁、瓶閉高知、瓶腹滿雙、稱辭竟奉、遺皇御孫命朝御食・夕御食加牟加比、長御食遠御食、赤丹穂聞食故、皇御孫命宇豆幣帛稱辭竟奉、諸聞食宣。
 辭別、忌部弱肩太多須支取挂、持由麻波利仕奉幣帛、神主・祝部等受賜、事不過捧持奉宣。


祈年祭  (書き下し文)

 集侍はれる神主・祝部等、諸聞こし食せと宣る。(神主・祝部等、共に唯と稱せ。餘の宣るといふも、此に准へ。)
 高天原に神留り坐す皇睦神漏伎命・神漏彌の命以て、天社と國社と稱辭竟へ奉る皇神等の前に白さく、今年二月に御年初め賜はむと為て、皇御孫命の宇豆の幣帛を、朝日の豊逆登に稱辭竟へ奉らくと宣る。
 御年皇神等の前に白さく、皇神等の依さし奉らむ奥津御年を、手肱に水沫畫き垂り、向股に泥畫き寄せて、取作らむ奥津御年を、八束穂の伊加志穂に、皇神等の依さし奉らば、初穂をば千穎八百穎に奉り置きて、瓶の上高知り、瓶の腹滿て雙べて、汁にも穎にも稱辭竟へ奉らむ。大野原に生ふる物は甘菜・辛菜、靑海原に住む物は、鰭の廣物・鰭の狹物、奥津藻菜・邊津藻菜に至るまでに、御服は明妙・照妙・和妙・荒妙に稱辭竟へ奉らむ。御年皇神の前に、白馬・白猪・白鶏、種種の色物を備へ奉りて、皇御孫命の宇豆の幣帛を稱辭竟へ奉らくと宣る。
 大御巫の辭竟へ奉る皇神等の前に白さく、神魂・高御魂・生魂・足魂・玉留魂・大宮の賣・大御膳つ神・辭代主と御名は白して、辭竟へ奉らくは、皇御孫命の御世を手長の御世と、堅磐に常磐に斎ひ奉り、茂し御世に幸はへ奉るが故に、皇吾睦神漏伎命・神漏彌命と、皇御孫命の宇豆の幣帛を稱辭竟へ奉らくと宣る。
 座摩の御巫の稱辭竟へ奉る皇神等の前に白さく、生井・榮井・津長井・阿須波・婆比支と御名は白して、辭竟へ奉らくは、皇神の敷き坐す下つ磐根に宮柱太知り立て、高天原に千木高知りて、皇御孫命の瑞の御舎を仕へ奉りて、天御蔭・日御蔭と隠り坐して、四方の國を安國と平けく知し食すが故に、皇御孫命の宇豆の幣帛を、稱辭竟へ奉らくと宣る。
 御門の御巫の稱辭竟へ奉る皇神等の前に白さく、櫛磐間門命・豊磐間門命と御名は白して、辭竟へ奉らくは、四方の御門に、湯つ磐村の如く塞り坐して、朝には御門を開き奉り、夕には御門を閉て奉りて、疎ふる物の下より往かば下を守り、上より往かば上を守り、夜の守・日の守に守り奉るが故に、皇御孫命の宇豆の幣帛を稱辭竟へ奉らくと宣る。
 生嶋の御巫の辭竟へ奉る皇神等の前に白さく、生國・足國と御名は白して辭竟へ奉らくは、皇神の敷き坐す嶋の八十嶋は、谷蟆の狹度る極、鹽沫の留る限、狹き國は廣く、峻しき國は平けく、嶋の八十嶋堕つる事無く、皇神等の依さし奉るが故に、皇御孫命の宇豆の幣帛を稱辭竟へ奉らくと宣る。
 辭別きて、伊勢に坐す天照大御神の大前に白さく、皇神の見霽かし坐す四方の國は、天の壁立つ極、國の退立つ限、靑雲の靄く極、白雲の墜り坐向伏す限、靑海原は棹柁干さず、舟の艫の至り留る極、大海原に舟滿ち都都氣て、陸より往く道は荷の緒縛ひ堅めて、磐根木根履み佐久彌て、馬の爪の至り留る限、長道間無く立ち都都氣て、狹き國は廣く、峻しき國は平けく、遠き國は八十綱打挂けて引き寄する事の如く、皇大御神の寄さし奉らば、荷前は皇大御神の大前に、横山の如く打積み置きて、残りをば平けく聞こし看さむ。又、皇御孫命の御世を、手長の御世と、堅磐に常磐に斎ひ奉り、茂し御世に幸はへ奉るが故に、皇吾睦神漏伎・神漏彌命と、鵜じ物頚根衝き抜きて、皇御孫命の宇豆の幣帛を稱辭竟へ奉らくと宣る。
 御縣に坐す皇神等の前に白さく、高市・葛木・十市・志貴・山邊・曾布と御名は白して、此の六御縣に生り出づる甘菜・辛菜を持ち参來て、皇御孫命の長御膳の遠御膳と聞こし食すが故に、皇御孫命の宇豆の幣帛を稱辭竟へ奉らくと宣る。
 山口に坐す皇神等の前に白さく、飛鳥・石村・忍坂・長谷・畝火・耳無と御名は白して、遠山・近山に生ひ立てる大木・小木を、本末打切りて持ち参來て、皇御孫命の瑞の御舎仕へ奉りて、天御蔭・日御蔭と隠り坐して、四方の國を安國と平けく知し食すが故に、皇御孫命の宇豆の幣帛を稱辭竟へ奉らくと宣る。
 水分に坐す皇神等の前に白さく、吉野・宇陀・都祁・葛木と御名は白して辭竟へ奉らくは、皇神等の寄さし奉らむ奥つ御年を、八束穂の伊加志穂に寄さし奉らば、皇神等に、初穂は穎にも汁にも、瓶の上高知り、瓶の腹滿て雙べて、稱辭竟へ奉りて、遺りをば皇御孫命の朝御食・夕御食の加牟加比に、長御食の遠御食と、赤丹穂に聞こし食すが故に、皇御孫命の宇豆の幣帛を稱辭竟へ奉らくを、諸聞こし食せと宣る。
 辭別きて、忌部の弱肩に太多須支取挂けて、持由麻波利仕へ奉れる幣帛を、神主・祝部等受け賜りて、事過たず捧げ持ちて奉れと宣る。



中臣寿詞  (原文)

 現御神大八嶋國所知食大倭根子天皇御前、天神寿詞稱辭定奉申。
 高天原神留坐皇親神漏岐・神漏美命持、八百萬神等神集賜、皇孫尊、高天原事始、豊葦原瑞穂國、安國平所知食、天都日嗣天都高御座御坐、天都御膳長御膳遠御膳、千秋五百秋、瑞穂平安由庭所知食事依奉、天降坐後、中臣遠祖天児屋根命、皇御孫尊御前奉仕、天忍雲根神、天二上奉上、神漏岐・神漏美命前受給申、皇御孫尊御膳都水、宇都志國水天都水加奉申事教給依、天忍雲根神天浮雲乘、天二上上坐、神漏岐・神漏美命前申、天玉櫛事依奉、此玉櫛刺立、自夕日至朝日照、天都詔刀太諸刀言以告。如此告、麻知弱蒜由都五百篁生出。自其下天八井出。此持、天都水所聞食事依奉。
 如此依奉任任、所聞食由庭瑞穂、四國卜部等、太兆卜事持奉仕、悠紀近江國野洲、主基丹波國氷上斎定、物部人等・酒造児・酒波・粉走・灰焼・薪採・相作・稲實公等、大嘗会斎庭持斎参來、今年十一月中卯日、由志理・伊都志理持、恐恐清麻波利奉仕、月内日時撰定、献悠紀・主基黒木・白木大御酒、大倭根子天皇天都御膳長御膳遠御膳、汁實、赤丹穂所聞食、豊明明御坐、天神寿詞、天津社・國津社稱辭定奉皇神等、千秋五百秋相嘗相宇豆乃比奉、堅磐常磐斎奉、伊賀志御世榮奉、自康治元年始、天地月日共、照明御坐事、本末不傾、茂槍中執持、奉仕中臣祭主正四位上行神祇大副大中臣朝臣清親、寿詞稱辭定奉申。
 又申、天皇朝廷奉仕親王等・王等・諸臣・百官人等、天下四方國百姓諸諸集侍、見食、尊食、歡食、聞食、天皇朝廷、茂世八桑枝如立榮奉仕祷所聞食、恐恐申給申。


中臣寿詞  (書き下し文)

 現御神と大八嶋國知食す大倭根子天皇が御前に、天神の寿詞を稱辭定め奉らくと申す。
 高天原に神留り坐す皇親神漏岐・神漏美の命を持ちて、八百萬の神等を神集へ賜ひて、皇孫尊は、高天原に事始めて、豊葦原の瑞穂の國を安國と平けく知食して、天つ日嗣の天つ高御座に御坐して、天つ御膳の長御膳の遠御膳と、千秋の五百秋に、瑞穂を平けく安けく、斎庭に知し食せと、事依し奉りて、天降し坐しし後に、中臣の遠つ祖天児屋根命、皇御孫尊の御前に仕へ奉りて、天忍雲根神を天の二上に上せ奉りて、神漏岐・神漏美命の前に受け給り申ししに、皇御孫尊の御膳つ水は、宇都志國の水に、天つ水を加へて奉らむと申せと事教へ給ひしに依りて、天忍雲根神、天の浮雲に乘りて、天の二上に上り坐して、神漏岐・神漏美命の前に申せば、天の玉櫛を事依し奉りて、此の玉櫛を刺立て、夕日より朝日照るに至るまで、天つ詔との太詔と言を以て告れ。此に告らば、麻知は弱蒜に斎つ五百篁生ひ出でむ。其の下より天の八井出でむ。此を持ちて、天つ水と聞こし食せと、事依し奉りき。
 此に依し奉りし任任に聞こし食す由庭の瑞穂を、四國の卜部等、太兆の卜事を持ちて仕へ奉りて、悠紀に近江國の野洲、主基に丹波國の氷上を斎ひ定めて、物部の人等・酒造児・酒波・粉走・灰焼・薪採・相作・稲實公等、大嘗会の斎庭に持ち斎はり参來て、今年の十一月の中つ卯日に、由志理・伊都志理持ち、恐み恐みも清麻波利に仕へ奉り、月の内に日時を撰び定めて、献る悠紀・主基の黒木・白木の大御酒を、大倭根子天皇が天つ御膳の長御膳の遠御膳と、汁にも實にも、赤丹の穂にも聞こし食して、豊の明りに明り御坐して、天つ神の寿詞を、天つ社・國つ社と稱辭定め奉る皇神等も、千秋の五百秋の相嘗に相宇豆の比奉り、堅磐常磐に斎ひ奉りて、伊賀志御世に榮えしめ奉り、康治元年より始めて、天地月日と共に照し明らし御坐さむ事に、本末傾けず茂槍の中執り持ちて仕へ奉る、中臣の祭主正四位上行神祇大副大中臣朝臣清親、寿詞を稱辭定め奉らくと申す。
 又申さく、天皇が朝廷に仕へ奉れる、親王等・王等・諸臣・百官人等、天の下の四方の國の百姓、諸諸集侍はりて、見食べ、尊み食べ、歡び食べ、聞き食べ、天皇が朝廷に、茂世に、八桑枝の立榮え仕へ奉るべき祷を聞こし食せと、恐み恐みも申し給はくと申す。


龍田風神祭  (原文)

 龍田稱辭竟奉、皇神前白、
 志貴嶋大八嶋國知皇御孫命、遠御膳長御膳、赤丹穂聞食五穀物始、天下公民作物、草片葉至不成、一年二年不在、歳眞尼傷故、百物知人等、卜事出神御心者、此神白負賜。
 此物知人等、卜事以卜、出神御心夭白聞看、皇御孫命詔、神等天社・國社、忘事無、遺事無、稱辭竟奉思行、誰神、天下公民作作物、不成傷神等、我御心悟奉、宇氣比賜。
 是以、皇御孫命大御夢悟奉、天下公民作作物、悪風荒水相、不成傷、我御名者、天御柱命・國御柱命、御名者悟奉、吾前奉幣帛者、御服者、明妙・照妙・和妙・荒妙、五色物、楯・戈・御馬御鞍具、品品幣帛備、吾宮者、朝日日向處、夕日日隠處、龍田立野小野、吾宮定奉、吾前稱辭竟奉者、天下公民作作物者、五穀始、草片葉至、成幸奉悟奉。
 是以、皇神辭教悟奉處、宮柱定奉、此皇神前稱辭竟奉、皇御孫命宇豆幣帛令捧持、王・臣等為使、稱辭竟奉、皇神前白賜事、神主・祝部等諸聞食宣。
 奉宇豆幣帛者、比古神、御服、明妙・照妙・和妙・荒妙、五色物、楯・戈・御馬御鞍具、品品幣帛献、比賣神御服備、金麻笥・金端・金桛、明妙・照妙・和妙・荒妙、五色物、御馬・御鞍具、雑幣帛奉、御酒者、瓶閉高知、瓶腹滿雙、和稲・荒稲、山住物者、毛和物・毛荒物、大野原生物者、甘菜・辛菜、靑海原住物者、鰭廣物・鰭狹物、奥都藻菜・邊都藻菜至、如横山打積置、奉此宇豆幣帛、安幣帛足幣帛、皇神御心、平聞食、天下公民作作物、悪風荒水不相賜、皇神成幸賜者、初穂者、瓶閉高知り、瓶腹滿雙、汁穎、八百稲・千稲引居置、秋祭奉、王・卿等、百官人等、倭國六縣刀禰、男女至、今年四月(七月者云今年七月) 諸参集、皇神前、宇事物頚根築抜、今日朝日豊逆登、稱辭竟奉、皇御孫命宇豆幣帛、神主・祝部等、被賜、惰事無奉宣命、諸聞食宣。


龍田風神祭  (書き下し文)

 龍田に稱辭竟へ奉る皇神の前に白さく、
 志貴嶋に大八嶋國知しめしし皇御孫命の遠御膳の長御膳と、赤丹の穂に聞こし食す五穀物を始めて、天下の公民の作る物を、草の片葉に至るまで成さざること、一年二年に在らず、歳數多く傷へるが故に、百の物知り人等の卜事に出でむ神の御心は、此の神と白せと負せ賜ひき。
 此を物知り人等の卜事を以て卜へども、出づる神の御心も無しと白すと聞こし看して、皇御孫命の詔りたまはく、神等をば天社と國社と忘るる事無く、遺つる事無く、稱辭竟へ奉ると思ほし行はすを、誰の神ぞ、天下の公民の作りと作る物を成さず傷へる神等は、我が御心ぞと悟し奉れと宇氣比賜ひき。
 是を以て皇御孫命の大御夢に悟し奉らく、天下の公民の作りと作る物を、悪しき風荒き水に相はせつつ、成さず傷へるは、我が御名は天の御柱の命・國の御柱の命と、御名は悟し奉りて、吾が前に奉らむ幣帛は、御服は明妙・照妙・和妙・荒妙、五色物、楯・戈、御馬に御鞍具へて、品品の幣帛備へて、吾が宮は朝日の日向ふ處、夕日の日隠る處の龍田の立野の小野に、吾が宮は定め奉りて、吾が前を稱辭竟へ奉らば、天下の公民の作りと作る物は、五穀を始めて、草の片葉に至るまで、成し幸はへ奉らむと悟し奉りき。
 是を以て皇神の辭教へ悟し奉りし處に、宮柱定め奉りて、此の皇神の前に稱辭竟へ奉りに、皇御孫命の宇豆の幣帛を捧げ持たしめて、王・臣等を使と為て、稱辭竟へ奉らくと、皇神の前に白し賜ふ事を、神主・祝部等諸聞こし食せと宣る。
 奉る宇豆の幣帛は、比古神に御服は明妙・照妙・和妙・荒妙、五色物、楯・戈、御馬に御鞍具へて、品品の幣帛献り、比賣神に御服備へ、金の麻笥・金の端・金の桛、明妙・照妙・和妙・荒妙、五色物、御馬に御鞍具へて、雑の幣帛奉りて、御酒は・閉高知り、・腹滿て雙べて、和稲・荒稲に、山に住む物は、毛の和物・毛の荒物、大野原に生ふる物は、甘菜・辛菜、靑海原に住む物は、鰭の廣物・鰭の狹物、奥都藻菜・邊都藻菜に至るまでに、横山の如く打積み置きて、奉る此の宇豆の幣帛を、安幣帛の足幣帛と、皇神の御心に平けく聞こし食して、天下の公民の作りと作る物を、悪しき風荒き水に相はせ賜はず、皇神の成し幸はへ賜はば、初穂は瓶の上高知り、瓶の腹滿て雙べて、汁にも穎にも、八百稲・千稲に引居ゑ置きて、秋祭に奉らむと、王・卿等、百官人等、倭國の六縣の刀禰、男女に至るまでに、今年の四月(七月には今年の七月と云へ) 諸参集はりて、皇神の前に鵜じ物頚根築き抜きて、今日の朝日の豊逆登に、稱辭竟へ奉る皇御孫命の宇豆の幣帛を神主・祝部等被け賜りて、惰る事無く奉れと宣りたまふ命を、諸聞こし食せと宣る。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 万葉集 集歌1603から集歌1607... | トップ | 万葉雑記 番外雑話 楊朱を... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

資料書庫」カテゴリの最新記事