竹取翁と万葉集のお勉強

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資料編 天徳四年 内裏歌合(原文、和歌、解釈付)

2020年06月07日 | 資料書庫
資料編 天徳四年 内裏歌合(原文、和歌、解釈付)

 天徳四年内裏歌合とは、天徳四年(九六〇)三月三十日に、村上天皇によって宮中清涼殿で行われた歌合を指します。
 この歌合では事前の歌題の提示から当日まで一月の期間をおき、歌会当日の歌合せの進め方や左右双方の衣裳、歌を書いた色紙を置く州浜(飾り台)など、盛大なイベントとして綿密に準備され、この歌合の次第が後世の歌合の基準となります。和歌の歴史では先行する昌泰元年秋(八九八)に行われた宇多上皇主催の亭子院女郎花合と称される事前に提出された歌を合わせる選歌合と称される歌合とは趣を異にします。
 この天徳四年の内裏歌合の準備の為に三月初めに示された題は霞、鶯 、柳、桜 、款冬(山吹)、藤、暮春、首夏、郭公、卯花、夏草、恋の十二題です。記録では当日の歌合わせでは鶯と郭公が各二番、桜が三番、恋が五番の組み合わせがあり、それ以外の題では一番ずつの組み合わせで、計二十番で優劣を競っています。判者は左大臣藤原実頼、その補佐に大納言源高明が勤め、歌を披露する講師は左方を源延光、右方を源博雅が勤めています。また、それぞれ左右の歌人を応援する方人には歌人たちに縁を持つ女房たちが分かれて集い、それぞれ左方は赤(朱)、右方は青(緑)を基調に「かさねの色」を多用した唐衣裳装束を揃えるなどして趣向を凝らし華やかさを競ったと伝わります。なお、この時代、女性の十二単装束は生まれていませんが、十二単ではありませんが薄絹で五単ほどは重ねて華やかさと個性を出したとされます。
 この天徳四年の内裏歌合では事前に左右の組に当時の有力歌人が分けられ、その左組、右組に選抜された歌人達が提示された歌題に合わせて秀歌を準備します。そうして歌会の当日に題に相応しい秀歌を組として選抜・披露し、相手方との歌の優劣を競う姿を取ります。天徳四年の内裏歌合以前では歌合の主催者の許に事前に歌を提出し、歌合の主催者が歌の趣向が似たもの二首を選び出し、組とし、その組毎に歌の優劣を判定し、歌合の当日に披露と評価の背景を説明するような次第でした。ある種の和歌の秀歌講習会のような雰囲気です。そのために歌合する左右一対の歌ですが同じ歌人が詠ったものを選択することもありました。そこには二人の歌人が同じテーマで歌を詠い技量や歌の優劣を競う姿はありません。
 ところがこの天徳四年の内裏歌合では、完全に二人の歌人が同じテーマで歌を詠い優劣を競う方法を採用しています。今日の私たちが想像する歌合の姿です。つまり、和歌の世界では天徳四年以前と以降では違う世界の可能性があるのです。奈良時代までの和歌の宴は男女が左右に分かれて歌垣歌のような姿で歌を掛け合い、歌物語を紡ぐ姿があり、平安時代初期では和歌の秀歌とはどのようなものかを人々が和歌をテーマとした宴で合意形成する姿がありました。ところが、この天徳四年の時点では秀歌の基準は定まり、その秀歌の基準に従って歌人の技量を競う段階に達しています。全くに和歌への態度が違います。

天徳四年の内裏歌合で伝わる次第は次の通りです。
題 霞、鶯、柳、桜、款冬、藤、暮春、首夏、郭公、卯花、夏草、恋
歌人 左 朝忠卿、坂上望城、橘好古、大中臣能宣、少弐命婦、壬生忠見、源順、本院侍従
右 平兼盛、藤原元真、中務、藤原博古、清原元輔
講師 左 源延光
右 源博雅
判者 左大臣(藤原実頼) 補佐 大納言源高明

 ここで紹介するものは国際日本文化研究センター(「日文研」)の和歌データベースのものを底本とし、『日本古典文学大系 歌合集 (岩波書店)』(「歌合集」)を使用して資料整理を行っています。なお、歌合当日に歌の順番を間違えて披露する事態が起き、三番組み合わせの鶯の右方の歌「さほひめ」が鶯の歌として紹介されたために、新編国歌大観 第五巻 歌合編 (角川書店)(「国歌大観」)ではこの「さほひめ」の歌を歌番号6と歌番号9と二重に示しています。そのため、「国歌大観」に載せる歌数は41首となっています。

資料参照:
 内裏歌合 (国際日本文化研究センター 960年 天徳四年)
 天徳四年三月三十日内裏歌合 (日本古典文学大系 歌合集 岩波書店)
 新編国歌大観 第五巻 歌合編 (角川書店)


一番 霞
歌番号〇一
左:藤原朝忠卿(勝)
原歌 くらはしの やまのかひより はるかすみ としをつみてや たちわたるらむ
和歌 倉橋の山のかひより春霞としをつみてやたちわらるらむ
解釈 倉橋の山の谷合から春の霞は、新魂の年が積み重ねなるように、立ち渡るでしょう。
歌番号〇二
右:平兼盛
原歌 ふるさとは はるめきにけり みよしのの みかきかはらの かすみこめたり
和歌 ふるさとは春めきにけりみ吉野の御垣かはらの霞こめたり
解釈 古き里は春めいてきたようだ、御吉野のあの宮滝の御垣を積み上げた河原に霞が立ち込めています。

二番 鶯
歌番号〇三
左:源順(勝)
原歌 こほりたに とまらぬはるの たにかせに またうちとけぬ うくひすのこゑ
和歌 こほりだにとまらぬ春の谷風にまだうちとけぬ鶯のこゑ
解釈 氷でさえも解けてそのままに留まらない、その暖かな春の谷風でも、まだ、打ち解けない早春の鶯のぎこちない鳴き声です。
歌番号〇四
右:平兼盛
原歌 わかやとに うくひすいたく なくなるは にはもはたらに はなやちるらむ
和歌 わが屋戸に鶯いたくなくなるは庭もはだらに花や散るらむ
解釈 私の屋敷に鶯が酷くしきりに鳴いているのは、庭もまだらにするほどに梅の花が散っているからだろうか。

三番 鶯
歌番号〇五
左:藤原朝忠卿(勝)
原歌 わかやとの うめかえになく うくひすは かせのたよりに かをやとめまし
和歌 わが屋戸の梅が枝になく鶯は風のたよりに香をやとめこし
解釈 私の屋敷の梅の枝で鳴く鶯は、風の便りのように漂う梅の香りを求めて来たのでしょうか。
歌番号〇六
右:平兼盛
原歌 しろたへの ゆきふりやまぬ うめかえに いまそうくひす はなとなくなる
和歌 しろたへの雪ふりやまぬ梅が枝に今ぞ鶯春となくなる
解釈 白妙のように柔らかく積もる雪が降り止まない、その梅の枝に、今、鶯が、もう、春ですと鳴いています。

四番 柳
歌番号〇七
左:坂上望城
原歌 あらたまの としをへつらむ あをやきの いとはいつれの はるかたゆへき
和歌 あらたまの年をつむらむ青柳のいとはいづれの春かたゆべき
解釈 新魂を年を積み紡ぐようです、その年々の年を紡ぐ青柳の糸はいづれの春に切れるでしょうか、いや、その糸が切れることはありません。
歌番号〇八
右:平兼盛(勝)
原歌 さほひめの いとそめかくる あをやきを ふくなみたりそ はるのやまかせ
和歌 佐保姫のいとそめかくる青柳をふきなみだりそ春の山風
解釈 佐保姫が糸を染めて干し掛けているような、その美しい糸のような青柳を吹き乱すな、春の山風よ。
注意 この歌は歌合の時に順番を間違えて三番 鶯で紹介された歴史があり、場合により歌番号〇六と歌番号〇八を入れ替わっているものがあります。

五番 桜
歌番号〇九
左:藤原朝忠卿(勝)
原歌 あたなりと つねはしりにき さくらはな をしむほとたに のとけからなむ
和歌 あだなりとつねはしりにき桜花をしむほどだにのどけからなむ
解釈 儚いものだとは常に知っていた、でも、その桜の花の散るのを淡々と惜しむ程度に、心は落ち着いていて欲しいものです。(でも、今日か明日かと散るのを気にしてしまいます。)
歌番号一〇
右:清原元輔
原歌 よとともに ちらすもあらなむ さくらはな あかぬこころは いつかたゆへき
和歌 よとともに散らずもあらなむさくら花あかぬ心はいつかたゆべき
解釈 時の流れとともには散らずにいて欲しい、その桜花、見飽きぬ気持ちは、いつかは絶えるでしょうか、いや、決して見飽きることはありません。

六番 桜
歌番号一一
左:大中臣能宣(持)
原歌 さくらはな かせにしちらぬ ものならは おもふことなき はるにそあらまし
和歌 桜花風にし散らぬものならば思ふことなき春にぞあらまし
解釈 桜の花が風に散り舞うことが無ければ、今日には散るのか、明日は散るのかと、心を悩ますことも無い、春になるのではないだろうか。(いやはや、桜の花で心が急くばかりです。)
歌番号一二
右:平兼盛(持)
原歌 さくらはな いろみるほとに よをしへは としのゆくをも しらてやみなむ
和歌 桜花色みゆるほどによをしへば歳のゆくをも知らでやみなむ
解釈 時を忘れて桜の花色をじっくりと眺め見るほどに、このような時間を過ごしていれば、時が過ぎて年を取ることも知らないで済んだでしょうに。

七番 桜
歌番号一三
左:少弐命婦(勝)
原歌 あしひきの やまかくれなる さくらはな ちりのこれりと かせにしらすな
和歌 あしひきの山がくれなる桜花散りのこれりと風に知らすな
解釈 葦や檜が生える里の山の木々に隠れるように咲く桜花、まだ、花は散り残っていると、風に乗せて他の人に知らせるのではない。(私一人でじっくりと楽しみたいですから)
歌番号一四
右:中務
原歌 としことに わかきつつみる さくらはな かすみもいまは たちなかくしそ
和歌 としごとにきつゝ我が見る桜花かすみも今はたちなかくしそ
解釈 毎年に私がやって来て眺める桜花、霞よ、今は立ちてその桜を隠さないでください。

八番 款冬(山吹)
歌番号一五
左:源順(勝)
原歌 はるかすみ ゐてのかはなみ たちかへり みてこそゆかめ やまふきのはな
和歌 春がすみ井手の川波たちかへり見てこそゆかめやまぶきの花
解釈 春霞が棚引く井手の郷を流れる川に波が立ち、その風景を立ち返って眺めてから帰って行きましょう、その景色に咲く山吹の花よ。
歌番号一六
右:平兼盛
原歌 ひとへつつ やへやまふきは ひらけなむ ほとへてにほふ はなとたのまむ
和歌 ひとへづゝやへ山ぶきはひらけなむほどへてにほふ花とたのまむ
解釈 一重ずつに八重山吹はゆっくりと咲いて欲しいものです、そして、解け咲き誇った花の姿を期待しましょう。

九番 藤
歌番号一七
左:藤原朝忠卿
原歌 むらさきに にほふふちなみ うちはへて まつにそちよの いろはかはれる
和歌 むらさきににほふ藤なみうちはえてまつにぞちよの色はかはれる
解釈 紫に色に咲き誇る藤波が景色に映えに映えて、常緑の松には千代の祝が有りますが、それに代わるほどです。
歌番号一八
右:平兼盛(勝)
原歌 われゆくて いろみるはかり すみよしの きしのふちなみ をりなつくしそ
和歌 我ゆきて色みるばかり住吉のきしの藤波をりなつくしそ
解釈 私が行ってその花の景色を眺めるまで、住吉の岸に咲く藤波を美しいからと手折り尽くさないでください。

十番暮春
歌番号一九
左:藤原朝忠卿(勝)
原歌 はなたにも ちらてわかるる はるならは いとかくけふは をしまましやは
和歌 はなだにもちらでわかるゝ春ならばいとかく今日はをしまましやは
解釈 花だとしても、散ってこの季節と別れるその花であるなら、これほどひどく今日と言う日を惜しむことがあるでしょうか。
歌番号二〇
右:藤原博古
原歌 ゆくはるの とまりをしふる ものならは われもふなてて おくれさらまし
和歌 ゆく春のとまりをしふるものならば我もふなでておくれざらまし
解釈 (散る花が)過ぎ行く春の中で泊まりをして時を過ごすものであるならば、私も船出の宿りの中で時を過ごしたのですが。(それでも春は過ぎて行きました)

十一番 首夏
歌番号二一
左:大中臣能宣(持)
原歌 なくこゑは またきかねとも せみのはの うすきころもを たちそきてける
和歌 なく声はまだきかねどもせみのはの薄き衣をたちぞきてける
解釈 鳴く声はまだ聴いていませんが、蝉の羽は薄い衣を裁って着ていました。
歌番号二二
右:中務(持)
原歌 なつころも たちいつるけふは はなさくら かたみのいろも ぬきやかふらむ
和歌 夏ごろもたちいづるけふは花ざくらかたみの色もぬぎやかふらむ
解釈 薄い夏衣を裁って着る、その今日は、桜の花の思い出の薄桃の色も脱ぎ捨てて、薄き緑の夏衣に衣替えするでしょう。

十二番 卯花
歌番号二三
左:壬生忠見
原歌 みちとほみ ひともかよはぬ おくやまに さけるうのはな たれとをらまし
和歌 みちとほみ人もかよはぬ奥山にさけるうの花誰とをらまし
解釈 通い路が遠いので人も通って来ない奥山に咲いている、卯の花、その花を誰と手折りましょうか。
歌番号二四
右:平兼盛(勝)
原歌 あらしのみ さむきみやまの うのはなは きえせぬゆきと あやまたれける
和歌 あらしのみさむきみやまのうの花はきえせぬ雪とあやまたれつゝ
解釈 ただ、嵐が吹くだけの寒い深山に咲く卯の花は、その白さに消え残る雪かと、見誤りました。

十三番 郭公(ほとゝぎす)
歌番号二五
左:坂上望城(持)
原歌 ほのかにそ なきわたるなる ほとときす みやまをいつる けさのはつこゑ
和歌 ほのかにぞなきわたるなる郭公み山をいづるけさのはつ声
解釈 微かに聞こえるように鳴き渡るホトトギス、住処の深山を飛び出ての、今日の初声です。
歌番号二六
右:平兼盛(持)
原歌 みやまいてて よはにやきつる ほとときす あかつきかけて こゑのきこゆる
和歌 み山いでてよはにやいつる郭公あかつきかけて声のきこゆる
解釈 住処の深山を飛び出て夜中にやって来たホトトギス、暁にかけて、その鳴き声が聞こえます。

十四番 郭公
歌番号二七
左:壬生忠見(持)
原歌 さよふけて ねさめさりせは ほとときす ひとつてにこそ きくへかりけれ
和歌 さ夜ふけてねざめざりせば郭公人づてにこそきくべかりけれ
解釈 夜が更けてから寝覚めることが無かったら、聞き逃したでしょうホトトギスの鳴き声、それは人伝で鳴き声の様子を聞くものではありませんでした。
歌番号二八
右:藤原元真(持)
原歌 ひとならは まててふへきを ほとときす ふたこゑとたに きかてすきぬる
和歌 人ならばまててふべきを郭公ふた声とだにきかですぎぬる
解釈 人ならしばし待てと言うべきですが、ホトトギスは一声だけ鳴いて、二声も聞かすことなく飛び過ぎて行く。

十五番 夏草
歌番号二九
左:壬生忠見(勝)
原歌 なつくさの なかをつゆけみ かきわけて かるひとなしに しけるのへかな
和歌 夏草のなかをつゆけみかきわけてかる人なしにしげる野辺かな
解釈 早朝の夏草の中の、その露濡れた中を掻き分けて妻問いから帰る、その草を刈る人もいなくて、茂っている野辺の様子です。
歌番号三十
右:平兼盛
原歌 なつふかく なりそしにける おはらきの もりのしたくさ なへてひとかる
和歌 夏ふかくなりぞしにけるおはらぎのもりのした草なべて人かる
解釈 夏の季節が深くなったようです、大原の木を伐り出す森の下草を、一斉に人々が刈っている。

十六番 恋
歌番号三一
左:藤原朝忠卿(勝)
原歌 ひとつてに しらせてしかな かくれぬの みこもりにのみ こひやわたらむ
和歌 人づてに知らせてしがなかくれぬのみこもりにのみこひや渡らむ
解釈 人伝でも気づかせたいものです、人知れず草に覆われ隠れている沼、そのような水籠りの言葉の響きではないが、心に恋心を籠らせて、貴女に恋焦がれています。
歌番号三二
右:中務
原歌 うはたまの よるのゆめたに まさしくは わかおもふことを ひとにみせはや
和歌 むばたまの夜の夢だにまさしくば我が思ふことを人にみせばや
解釈 烏羽玉のような漆黒の闇の夜に見る夢であっても、貴方に会うことが、それが正夢ならば、私が思うこの恋心をあの人に気付かせたいものです。

十七番 恋
歌番号三三
左:大中臣能宣(勝)
原歌 こひしきを なににつけてか なくさめむ ゆめにもみえす ぬるよなけれは
和歌 こひしきをなににつけてかなぐさめむ夢にも見えずぬるよなければ
解釈 あの人に恋焦がれる気持ちを何にかこつけて私の心を慰めましょうか、恋焦がれて夜も眠れずに夢を見られないので、その夢の中にも逢えない、そのような夢を見るほどに眠れる夜が無いので。
歌番号三四
右:中務
原歌 きみこふる こころはそらに あまのはら かひなくてふる つきひなりけり
和歌 君こふる心はそらにあまのはらかひなくてふる月日なりけり
解釈 貴方を恋焦がれる気持ちで心は空です、その空の言葉の響きではありませんが、空の牽牛と織姫との天の原のように願っても出会うことに甲斐がなく日々が過ぎていく、この月日であります。

十八番 恋
歌番号三五
左:本院侍従(持)
原歌 ひとしれす あふをまつまに こひしなは なににかへたる いのちとかいはむ
和歌 人しれずあふをまつまにこひしなば何にかへたる命とかいはむ
解釈 恋心を人に気付かれることなく、貴方と逢うことを待つ間に恋患いで死んでしまったら、終わった寿命で、それを何に換えた命だったと言いましょうか。ただ、人知れず恋焦がれただけでしょうか。
歌番号三六
右:中務(持)
原歌 ことならは くもゐのつきと なりななむ こひしきかけや そらにみゆると
和歌 ことならば雲ゐの月となりななむこひしきかげやそらに見ゆると
解釈 逢えない、そのようなことでしたら貴方は手の届かない雲井の月になって欲しいものです、そうすれば、恋焦がれた貴方のお姿を空にはっきりと見ることが出来るとなります。

十九番 恋
歌番号三七
左:藤原朝忠卿(勝)
原歌 あふことの たえてしなくは なかなかに ひとをもみをも うらみさらまし
和歌 あふことのたえてしなくばなかなかに人をもみをもうらみざらまし
解釈 貴女ともう逢うことが絶えてしなくなれば、反ってこのように、貴女も私も、互いの振る舞いを恨む思いはないでしょうね。
歌番号三八
右:藤原元真
原歌 きみこふと かつはきえつつ ふるものを かくてもいける みとやなるらむ
和歌 君こふとかつはきえつつふるものをかくてもいけるみとやなるらむ
解釈 貴女を恋焦がれると、恋の思いは浮かび、また、消える、そのような日々を暮らして、このように生きて行く、そのような身の上になるのでしょうね。
注意 末句で「日文研」の「みとやなるらむ」と「歌合集」の「みとやみるらむ」の異同が有ります。ここでは「日文研」の方を採用しています。

二十番 恋
歌番号三九
左:壬生忠見
原歌 こひすてふ わかなはまたき たちにけり ひとしれすこそ おもひそめしか
和歌 こひすてふ我がなはまだきたちにけり人しれずこそおもひそめしか
解釈 恋をしていると噂話に私の名が早くも立ってしまった、あの人に気が付かれないようにと大切に、恋心を思い潜めていたのに。
歌番号四十
右:平兼盛(勝)
原歌 しのふれと いろにいてにけり わかこひは ものやおもふと ひとのとふまて
和歌 しのぶれどいろに出でにけり我がこひはものやおもふと人のとふまで
解釈 忍んで恋心を隠していたけど態度に現れてしまったようです、私の恋心は。貴方は誰に恋をしているのかと、貴女が私に聞き咎めるほどに。

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1 コメント

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訂正のお詫びについて (作業員)
2023-11-15 07:02:48
それぞれの歌に現代語訳付を私訳ですが行った結果、和歌への解釈を変えたものがあります。
申し訳ありませんでした。
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