歌番号 1204 拾遺抄記載
詞書 東三条にまかりいてて、あめのふりける日
詠人 承香殿女御
原文 安女奈良天 毛留比止毛奈幾 和可也止遠 安佐知可波良止 美留曽加奈之幾
和歌 あめならて もるひともなき わかやとを あさちかはらと みるそかなしき
読下 雨ならてもる人もなきわかやとをあさちかはらと見るそかなしき
解釈 雨が降っているので雨が屋根から漏る、この言葉の響きではないが、屋敷を守る人もいない、私の屋敷を浅茅の生い茂った原と見られるのが辛いことです。
歌番号 1205
詞書 まかりかよふ所の雨のふりけれは
詠人 大納言朝光
原文 伊尓之部者 多可布留左止曽 於保川可奈 也止毛留安女尓 止日天之良八也
和歌 いにしへは たかふるさとそ おほつかな やともるあめに とひてしらはや
読下 いにしへはたかふるさとそおほつかなやともる雨にとひてしらはや
解釈 昔は、いったい、誰の故郷(お屋敷)なのだろうか、よく判らないが、屋戸を守る、その言葉の響きではないが、屋敷の雨漏りさせるその雨に聞いてみたいものです。
歌番号 1206
詞書 中納言平惟仲ひさしくありて、せうそこして侍りける返事にかかせ侍りける
詠人 高階成忠女
原文 由女止乃美 遠毛飛奈利尓之 与乃奈可遠 奈尓以満佐良尓 於止呂可寸良无
和歌 ゆめとのみ おもひなりにし よのなかを なにいまさらに おとろかすらむ
読下 夢とのみ思ひなりにし世の中をなに今更におとろかすらん
解釈 貴方との関係は夢とばかりに思っていましたが、私が生きるこの世の日々を、今更ながらに驚かすのですか。
歌番号 1207
詞書 題しらす
詠人 源公忠朝臣
原文 比止毛美奴 堂己呂尓武可之 幾美止和可 世奴和左/\遠 世之曽己比之幾
和歌 ひともみぬ ところにむかし きみとわか せぬわさわさを せしそこひしき
読下 人も見ぬ所に昔きみとわかせぬわさわさをせしそこひしき
解釈 人も見咎めない処で、昔、「あなた」と私が、他の人ではしないようなことを、色々としたことが懐かしく思います。
注意 四句目の「せぬわさわさ」の「わさ」の文学での公式解釈は芸能事です。ただ、「君」の性別、時間と場所を深く追求しないことになっています。なお、源公忠は名前が判っているだけでも九人の子供がいますから、「君」とは同性愛者ではなく、身分が似た女性なのでしょう。
歌番号 1208
詞書 左大将済時かあひしりて侍りける女、つくしにまかりくたりたりけるに、実方朝臣宇佐、使にてくたり侍りけるにつけて、とふらひにつかはしたりけれは
詠人 藤原後生か女
原文 遣不万天八 伊幾乃万川者良 以幾多礼止 和可三乃宇左尓 奈个幾天曽布留
和歌 けふまては いきのまつはら いきたれと わかみのうさに なけきてそふる
読下 けふまてはいきの松原いきたれとわか身のうさになけきてそふる
解釈 今日までは、筑前の生の松原、その言葉の響きのように、生きて来たが、豊前の宇佐ではないが、我が身の憂さに嘆いて暮らしています。
歌番号 1209
詞書 成房朝臣、法師にならむとて、いひむろにまかりて、京の家にまくらはこをとりにつかはしたりけれは、かきつけて侍りける
詠人 則忠朝臣女
原文 以幾堂留可 志奴留可以可尓 於毛本恵寸 三与利保可奈留 堂万久之計可那
和歌 いきたるか しぬるかいかに おもほえす みよりほかなる たまくしけかな
読下 いきたるかしぬるかいかにおもほえす身よりほかなるたまくしけかな
解釈 生きているのか、死んでいるのか、どのようになっているのか渡しません、これは、我が身の髪から外した美しい櫛を仕舞う櫛笥です。