竹取翁と万葉集のお勉強

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『懷風藻』 原文並びに書き下し文 (前半)

2012年12月30日 | 資料書庫
『懷風藻』 原文並びに書き下し文 (前半)

はじめに
 ご紹介のように『万葉集』を鑑賞するにあたって、同時代性を持つ参照資料において確かな資料は『古事記』、『懐風藻』、『日本書紀』、『続日本紀』や『古語拾遺』ほどしかないとされています。今日のインターネットの時代においても『懐風藻』の序を含む原文については一般の人間が容易にダウンロード出来るものは限られているようです。そこで、『万葉集』の鑑賞の便を図る為に原文とその読み下したものを参考として掲示しています。
 当然、ここでの読み下しは正規の教育を受けていない者が行った個人作業ですので学問ではありません。正確なものや現代語訳は、『懐風藻 全訳注』(江口孝夫 講談社学術文庫)などを購入の上、確認を願います。この原文並びに書き下し文は、『万葉集』の鑑賞における補助的資料提供が目的ですので、『懐風藻』に載る漢詩の鑑賞等を目的とするものからは程遠いことをご承知ください。
 なお、ブログ掲載では二万字の制限があるため、前半と後半に分けておりますが、その区分けには字数以外の根拠はありません。


懷風藻序          懐風藻の序

逖聽前修、遐觀載籍      逖に前修を聽き、遐く載籍を觀るに
襲山降蹕之世、橿原建邦之時  襲山に蹕を降す世、橿原に邦を建てし時に
天造艸創、人文未作      天造艸創、人文未だ作らず
至於神后征坎品帝乘乾     神后坎を征し品帝乾に乘ずるに至りて
百濟入朝啓於龍編於馬厩    百濟入朝して龍編を馬厩に啓き
高麗上表圖烏冊於鳥文     高麗上表して烏冊を鳥文に図しき
王仁始導蒙於輕島、      王仁始めて蒙を輕島に導き
辰爾終敷教於譯田       辰爾終に教へを譯田に敷く
遂使俗漸洙泗之風、      遂に使して俗をして洙泗の風に漸み
人趨齊魯之學         人をして齊魯の學に趨かしむ
逮乎聖太子、        聖太子に逮みて
設爵分官、肇制禮義      爵を設け官を分ち、肇めて禮義を制す
然而、專崇釋教、未遑篇章   然れども、專ら釋教を崇めて、未だ篇章に遑あらず
及至淡海先帝之受命也     淡海先帝の命を受くるに至るに及びや
恢開帝業、弘闡皇猷      帝業を恢開し、皇猷を弘闡して
道格乾坤、功光宇宙      道乾坤に格り、功宇宙に光れり
既而以為、調風化俗、     既して以つて為す、風を調へ俗を化することは
莫尚於文           文より尚きは莫く
潤光身、孰先於學      に潤ひ身を光らすことは、孰れか學より先ならんと
爰則、建庠序、徵茂才、    爰に則ち、庠序を建て、茂才を徵して
定五禮、興百度        五禮を定め、百度を興す
憲章法則、規模弘遠、     憲章法則、規模弘遠なること
夐古以來、未之有也      夐古以來、未だこれ有らざるなり
於是、三階平煥、四海殷昌、  是に於いて、三階平煥、四海殷昌
旒無為、巖廊多暇      旒無為にして、巖廊暇多し
旋招文學之士、時開置醴之遊  文學の士を旋招し、時に置醴の遊びを開く
當此之際、          此の際に当りて
宸瀚垂文、賢臣獻頌      宸瀚文を垂れ、賢臣頌を獻ず
雕章麗筆、非唯百篇      雕章麗筆、唯百篇のみにあらず
但時經亂離、悉從煨燼     但し時、亂離を經て、悉く煨燼に從ふ
言念湮滅、軫悼傷懷      言の湮滅を念じ、軫悼して懷ひを傷む
自茲以降、詞人間出      茲より以降、詞は人間に出す
龍潛王子、翔雲鶴於風筆    龍潛の王子、雲鶴を風筆に翔らし
鳳翥天皇、泛月舟於霧渚    鳳翥の天皇、月舟を霧渚に泛ぶ
神納言之悲白鬢、       神納言が白鬢を悲しみ
藤太政之詠玄造        藤太政が玄造を詠ぜる
騰茂實於前朝、        茂實を前朝に騰せ
飛英聲於後代         英聲を後代に飛ばす
余以薄官餘、遊心文囿    余、薄官の餘間を以て、心を文囿に遊ばしむ
閱古人之遺跡、        古人の遺跡を閱し
想風月之舊遊         風月の舊遊を想ふ
雖音塵眇焉、而餘翰斯在    雖、音塵眇焉たりといへども、餘翰ここに在り
撫芳題而遙憶、        芳題を撫して遙かに憶ひ
不覺淚之泫然         淚の泫然たるを覺へず
攀縟藻而遐尋、        縟藻を攀ぢて遐く尋ね
惜風聲之空墜         風聲の空しく墜ることを惜しむ
遂乃收魯壁之餘磊、      遂に乃ち魯壁の餘磊を收め
綜秦灰之逸文         秦灰の逸文を綜ぶ
遠自淡海、云暨平都      遠く淡海より、平都におよぶと云う
凡一百二十篇、勒成一卷    凡そ一百二十篇、勒して一卷と成す
作者六十四人、具題姓名、   作者六十四人、具さに姓名を題し
并顯爵里、冠于篇首      并せて爵里を顯はして、篇首に冠らしむ
余撰此文意者、        余は此の文を撰する意は
為將不忘先哲遺風       將に先哲の遺風を忘れざらむと為す
故以懷風名之云爾       故に懷風の名を以つて、これを云ふことしかり
于時天平勝寶三年歳在辛卯冬十一月也。
               時に天平勝寶三年歳辛卯に在る冬十一月なり


淡海朝大友皇子 二首

皇太子者、淡海帝之長子也。   皇太子は淡海帝の長子なり
魁岸奇偉、風範弘深、      魁岸奇偉、風範弘深
眼中精耀、顧盼煒。      眼中精耀、顧盼煒
唐使劉高、見而異曰、     唐の使、劉高見て異なりとして曰く
此皇子、風骨不似世間人。    此の皇子、風骨世間の人に似ず
實非此國之分。         實に此の國の分に非らず。と
嘗夜夢、天中洞啓、朱衣老翁、  嘗て夜夢みらく、天中洞啓し、朱衣の老翁
捧日而至。           日を捧げて至り
授王子。忽有人、       げて王子に授く。忽ち人有り
從腋底出來、奪將去。      腋底より出で來て、奪ひ將ち去らむ
覺驚異、具語藤原內大臣。    覺めて驚異し、具に藤原內大臣に語る
歎曰、             歎じて曰く
恐聖朝萬歲之後、有巨猾間釁。  恐らくは聖朝萬歲の後、巨猾の間釁有らむ
然臣平生曰、豈有如此事乎。   然れども臣平生曰く、豈此事の如く有らむや。と
臣聞、天道無親唯善是輔。    臣聞く、天道に親無し、唯善は是を輔くと
願大王勤修、灾異不足憂也。  願くは大王勤めてを修めよ、灾異憂ふるに足らざるや
臣有息女、願納後庭、      臣に息女有り、願くは後庭に納れて
以克箕帚之妾。         以つて箕帚の妾に克てむ。と
遂結姻戚、以親愛之。      遂に姻戚を結びて、以つてこれを親愛す
年甫弱冠、拜太政大臣、     年甫めて弱冠、太政大臣を拜す
總百揆以試之。         百揆を總べて以つてこれを試む
皇子博學多通、有文武材幹。   皇子博學多通、文武の材幹有り
始親萬機、群下畏莫不肅然。   始めて萬機に親しむ、群下畏れて肅然たらざる莫し
年二十三、立為皇太子。     年二十三にして、立ちて皇太子と為る
廣延學士沙宅紹明、塔本春初、  廣く學士沙宅紹明、塔本春初、
吉太尚、許率母、木素貴子等、  吉太尚、許率母木素貴子等を延きて
以為賓客。           以つて賓客と為す
太子天性明悟、雅愛博古。    太子の天性明悟、雅より博古を愛す
下筆成章、出言為論。      筆を下せば章と成り、言を出せば論と為る
時議者歎其洪學、        時に議する者其の洪學を歎ず
未幾文藻日新。         未だ幾ばくならずして文藻日に新たなり
會壬申年亂、天命不遂。     壬申の年の亂に會ひて、天命を遂げず
時年二十五。          時に年二十五

詩番号1
五言 侍宴 一絶 宴に侍す
皇明光日月          皇明 日月と光り
帝載天地          帝 天地に載す
三才並泰昌          三才 並びに泰昌
萬國表臣義          萬國 臣義を表す

詩番号2
五言 述懷 懷ひを述ぶ
道承天訓          道 天訓を承け
鹽梅寄真宰          鹽梅 真宰に寄す
羞無監撫術          羞づらくは監撫の術無きことを
安能臨四海          安むぞ能く四海に臨まむ


河島皇子 一首

皇子者、淡海帝之第二子也。  皇子は淡海帝の第二子なり
志懷溫裕、局量弘雅      志懷溫裕、局量弘雅
始與大津皇子、為莫逆之契   始め大津皇子と莫逆の契りをなし
及津謀逆、島則告變      津の逆を謀るに及びて、島則ち變を告ぐ
朝廷嘉其忠正、        朝廷其の忠正を嘉し
朋友薄其才情、        朋友其の才情を薄し
議者未詳厚薄。        議者未だ厚薄を詳かにせず
然余以為           然、余おもへらく
忘私好而奉公者、       私好を忘れて公に奉ずる者は
忠臣之雅事          忠臣の雅事
背君親而厚交者、       君親に背きて交を厚する者は
悖之流耳          悖の流のみ
但、未盡爭友之益、      但し、未だ爭友の益を盡さざるに
而陷其塗炭者、余亦疑之。   其の塗炭に陷るる者は、余またこれを疑う
位終于淨大參。        位淨大參に終ふ
時年三十五。         時に年三十五

詩番号3
五言 山齋 一絶
塵外年光滿          塵外 年光滿ち
林間物候明          林間 物候明し
風月澄游席          風月 游席に澄み
松桂期交情          松桂 交情を期す


大津皇子 四首

皇子者、淨御原帝之長子也   皇子は淨御原帝の長子なり
狀貌魁梧、器宇峻遠      狀貌魁梧、器宇峻遠
幼年好學、博覽而能屬文    幼年にして學を好み、博覽にして能く文を屬す
及壯愛武、多力而能撃劍    壯に及よびて武を愛し、多力にして能く劍を撃つ
性頗放蕩、不拘法度      性頗ぶる放蕩にして、法度に拘らず
降節禮士、由是人多附託    節を降して士を禮す、是の由に人多く附託す
時、有新羅僧行心、解天文卜筮 時に、新羅の僧行心有り、天文卜筮を解す
詔皇子曰、          皇子に詔げて曰く、
太子骨法、不是人臣之相    太子骨法、是れ人臣の相にあらず
以此久在下位、恐不全身    此を以つて久しく下位に在るは恐くは身を全せず
因進逆謀、迷此詿誤、     因りて逆謀に進む、此の詿誤に迷ひて
遂圖不軌、鳴呼惜哉。     遂に不軌を図る、鳴呼惜しいかな
蘊彼良才、不以忠孝保身    彼の良才を蘊みて、忠孝を以つて身を保たず
近此奸豎、卒以戮辱自終    此の奸豎に近づきて、卒に戮辱を以つて自から終る
古人慎交遊之意、因以深哉   古人の交遊を慎しむの意、因りて以つて深きかな
時、年二十四         時に、年二十四

詩番号4
五言 春苑言宴 一首 春苑宴を言(うた)ふ
開衿臨靈沼         衿を開きて靈沼に臨み
游目步金苑         目を游せて金苑に步す
澄清苔水深         澄清 苔水深く
晻曖霞峰遠         晻曖 霞峰遠し
驚波共絃響         驚波 絃共に響き
哢鳥與風聞         哢鳥 風與に聞ゆ
群公倒載歸         群公 倒に載せて歸る
彭澤宴誰論         彭澤の宴誰か論ぜむ

詩番号5
五言 游獵 一首 獵に游ぶ
朝擇三能士         朝に三能の士を擇び
暮開萬騎筵         暮に萬騎の筵を開く
喫臠俱豁矣         臠を喫して俱に豁矣
傾盞共陶然         盞を傾けて共に陶然
月弓輝谷裏         月弓 谷裏に輝き
雲旌張嶺前         雲旌 嶺前に張る
曦光巳陰山         曦光 巳に山に陰る
壯士且留連         壯士 且く留連す

詩番号6
七言 述志 志を述ぶ
天紙風筆畫雲鶴       天紙風筆 雲鶴を画き
山機霜杼織葉錦       山機霜杼 葉錦を織る
[後人聯句]         [後人の聯句]
赤雀含書時不至       赤雀 書を含みて 時に至らず
潛龍勿用未安寢       潛龍 用ゐること勿く 未だ安寢せず

詩番号7
五言 臨終 一絶 終ひに臨む
金烏臨西舍         金烏 西舍に臨み
鼓聲催短命         鼓聲 短命を催す
泉路無賓主         泉路 賓主は無し
此夕誰家向         此夕 誰家に向ふ


吳學生釋智藏 二首

智藏師者、俗姓禾田氏。   智藏師は俗姓を禾田氏
淡海帝世、遺學唐國。    淡海帝の世、唐國に遺學す
時、吳越之間、有高學尼、  時に、吳越に間に高學の尼有り
法師就尼受業。       法師尼に就いて業を受く。
六七年中、學業穎秀。    六七年の中、學業穎秀し
同伴僧等、頗有忌害之心。  同伴の僧等頗ぶる忌害の心あり
法師察之、計全軀之方、   法師これを察し、軀を全くするの方を計り
遂披髮陽狂、奔蕩道路。   遂に髮を披り陽り狂し、道路に奔蕩す
密寫三藏要義、盛以木筒、  密かに三藏の要義を寫し、盛るに木筒を以てし
著漆秘封、負擔遊行、    漆を著けて秘封し、負擔して遊行す
同伴輕蔑、以為鬼狂、    同伴輕蔑して、以て鬼狂なりと為して
遂不為害所以。       遂に害をなさず
太后天皇世、師向本朝。   太后天皇の世、師本朝に向ふ
同伴登陸、曝涼經書。    同伴陸に登りて經書を曝涼す
法師開襟對風曰、      法師襟を開きて風に對して曰く
我亦曝涼經典之奧義。    我もまた經典の奧義を曝涼す。と
衆皆嗤笑、以為妖言     衆皆嗤笑して、以て妖言と為す
臨於試業、昇座敷演、    業を試みらるるに臨みて、座に昇りて敷演す
辭義峻遠、音詞雅麗、    辭義峻遠して、音詞雅麗
應對如流、皆屈服莫不驚駭  應對流れる如く、皆屈服し驚駭せざるものなし
帝嘉之拜僧正。       帝これを嘉して僧正に拜す
時歲七十三。        時に歲七十三

詩番号8
五言 翫花鶯 一首 花鶯を翫ぶ
桑門寡言晤         桑門 言晤寡し
策杖事迎逢         杖を策きて迎逢を事とす
以此芳春節         此の芳春の節を以つて
忽値竹林風         忽ちに竹林の風に値ふ
求友鶯嫣樹         友を求めて鶯樹に嫣ひ
含香花笑叢         香を含みて花叢に笑む
雖喜遨遊志         ただ遨遊の志を喜ぶと雖へども
還媿乏雕蟲         還つて雕蟲の乏しきを媿づ

詩番号9
五言 秋日言志 一首 秋日志を言ふ
欲知得性所         性を得る所を知ると欲し
來尋仁智情         來つて仁智の情を尋ねぬ
氣爽山川麗         氣爽かにして山川麗し
風高物候芳         風高かにして物候芳し
燕巢辭夏色         燕巢 夏色を辭し
雁渚聽秋聲         雁渚 秋聲を聽く
因茲竹林友         茲に因りて竹林の友
榮辱莫相驚         榮辱 相驚くこと莫かれ


葛野王 二首

王子者、淡海帝之孫、    王子は淡海帝の孫
大友太子之長子也、     大友太子の長子なり
母淨御原之帝長女十市內親王 母は淨御原の帝の長女十市內親王なり
器範宏邈、風鑒秀遠     器範宏邈、風鑒秀遠
材稱棟幹、地兼帝戚     材棟幹に稱ひ、地帝戚を兼ぬ
少而好學、博涉經史     少くして學を好み、博く經史に涉る
頗愛屬文、兼能書畫     頗る文を屬することを愛し、兼ねて書画を能くす
淨原帝嫡孫、授淨太肆、   淨原帝の嫡孫にして淨太肆を授けられ
拜治部卿          治部卿を拜せられる
高市皇子薨後、       高市皇子薨じて後、
皇太后引王公卿士於禁中、  皇太后、王公卿士を禁中に引きて
謀立日嗣。         日嗣を立てむことを謀る
時群臣各挾私好、衆議紛紜  時に群臣は各私好を挾みて、衆議紛紜たり
王子進奏曰、        王子進奏して曰く
我國家為法也、神代以此典。 我國家の法たるや、神代より此の典を以つて
仰論天心、誰能敢測。    仰いで天心を論す、誰か能く敢へて測らむ
然以人事推之、       然も人事を以つて之を推さば
從來子孫相承、以襲天位。  從來子孫相承して、以て天位を襲ぐ
若兄弟相及、則亂、     若し兄弟相及ぼさば、則ち亂れむ
聖嗣自然定矣。       聖嗣自然に定まれり
此外誰敢間然乎       此の外誰か敢へて間然せむや。と
弓削皇子在座、欲有言。   弓削皇子座に在り、言ふこと有らむと欲す
王子叱之乃止        王子これを叱して乃ち止む
皇太后嘉其一言定國、    皇太后、其の一言にて國を定むることを嘉して
特閱授正四位、拜式部卿。  特閱して正四位を授け、式部卿に拜す
時年三十七         時に年三十七

詩番号10
五言 春日翫鶯梅 一首 春日鶯梅を翫ぶ
聊乘休假景         聊に休假の景に乘じて
入苑望青陽         苑に入つて青陽を望む
素梅開素靨         素梅 素靨を開き
嬌鶯弄嬌聲         嬌鶯 嬌聲を弄す
對此開懷抱         此に對して懷抱を開き
優足暢愁情         優に愁情を暢ぶに足る
不知老將至         老の將に至らむを知らず
但事酌春觴         但だ春觴を酌むを事とす

詩番号11
五言 遊龍門山 一首 龍門山に遊ぶ
命駕遊山水         駕を命じ山水に遊び
長忘冠冕情         長く冠冕の情を忘る
安得王喬道         安むぞ王喬の道を得む
控鶴入蓬瀛         鶴を控きて蓬瀛に入む


大納言直大二中臣朝臣大島 [二首,自茲以降諸人未得傳記]
       [二首、ここより以降諸人の傳記を未だ得ず]
詩番号12
五言 詠孤松 一首 孤松を詠ず
隴上孤松翠         隴上 孤松翠に
凌雲心本明         凌雲 心本明し
餘根堅厚地         餘根 厚地を堅め
貞質指高天         貞質 高天を指す
弱枝異冥草         弱枝 冥草を異し
茂葉同柱榮         茂葉 柱榮に同じ
孫楚高貞節         孫楚 貞節を高うし
隱居脫笠輕         隱居 笠輕を脫する

詩番号13
五言 山齋 一首
宴飲遊山齋         宴飲 山齋に遊び
遨遊臨野池         遨遊 野池に臨み
雲岸寒猿嘯         雲岸 寒猿嘯き
霧浦杝聲悲         霧浦 杝聲悲し
葉落山逾靜         葉落ちて山いよいよ靜かに
風涼琴益微         風涼して琴ますます微なり
各得朝野趣         おのおの朝野の趣きを得たり
莫論攀桂期         攀桂の期を論ずること莫かれ


正三位大納言紀朝臣麻呂 一首 [年四十七]
詩番号14
五言 春日應詔 一首 春日 詔に應す
惠氣四望浮         惠氣 四望に浮び
重光一園春         重光 一園に春く
式宴依仁智         式宴 仁智に依り
優遊催詩人         優遊 詩人を催す
崑山珠玉盛         崑山 珠玉盛むに
瑤水花藻陳         瑤水 花藻陳なる
階梅闘素蝶         階梅 素蝶を闘し
塘柳掃芳塵         塘柳 芳塵を掃す
天十堯舜         天 堯舜を十にし
皇恩霑萬民         皇恩 萬民を霑ほす


文武天皇 三首 [年二十五]
詩番号15
五言 詠月 一首 月を詠ず
月舟移霧渚         月舟 霧渚に移り
楓楫泛霞濱         楓楫 霞濱に泛ぶ
臺上澄流耀         臺上 澄み流る耀
酒中沈去輪         酒中 沈み去る輪
水下斜陰碎         水下りて斜陰碎け
樹落秋光新         樹落ちて秋光新た
獨以星間鏡         獨り星間の鏡を以ちて
還浮雲漢津         還た雲漢の津に浮かぶ

詩番号16
五言 述懷 一首 懷ひを述ぶ
年雖足戴冕         年 冕を戴くに足ると雖へども
智不敢垂裳         智 敢へて裳を垂れず
朕常夙夜念         朕常に夙夜に念ふ
何以拙心匡         何を以つて拙心を匡さむ
猶不師往古         猶往古を師とせずむば
何救元首望         何ぞ元首の望みを救はむ
然毋三絶務         然も三絶の務なし
且欲臨短章         しばらく短章に臨まむと欲す

詩番号17
五言 詠雪 一首 雪を詠む
雲羅囊珠起         雲羅 珠を裹みて起り
雪花含彩新         雪花 彩を含みて新た
林中若柳絮         林中 柳絮の若く
梁上似歌塵         梁上 歌塵に似る
代火輝霄漢         火に代りて霄漢に輝き
逐風迴洛濱         風を逐ひて洛濱に迴る
園裏看花李         園裏 花李を看れば
冬條尚帶春         冬條 尚春を帶びる


從三位中納言大神朝臣高市麻呂 一首 [年五十]
詩番号18
五言 從駕 應詔 駕に從ふ 詔に應す
臥病已白鬢         病に臥して已に白鬢
意謂入黄塵         意に謂ふ 黄塵に入らむと
不期逐恩詔         期せずして恩詔を逐ひ
從駕上林春         駕に從ふ 上林の春
松巖鳴泉落         松巖 鳴泉落ち
竹浦笑花新         竹浦 笑花新た
臣是先進輩         臣は是れ先進の輩
濫陪後車賓         濫りに陪す 後車の賓


大宰大貳從四位上巨勢朝臣多益須 二首 [年四十八]
詩番号19
五言 春日 應詔 春日  詔に應す
玉管吐陽氣         玉管 陽氣を吐き
春色啓禁園         春色 禁園を啓く
望山智趣廣         山に望みて智趣廣く
臨水仁懷敦         水に臨みて仁懷敦し
松風催雅曲         松風 雅曲を催し
鶯弄添談論         鶯弄 談論を添ふ
今日良醉         今日良しきに醉ふ
誰言湛露恩         誰か言ふ湛露の恩と

詩番号20
五言 春日 應詔 春日  詔に應す
姑射遁太賓         姑射 太賓に遁れ
崆巖索神仙         崆巖 神仙を索む
豈若聽覽隙         豈若 聽覽の隙に
仁智寓山川         仁智 山川に寓し
神衿弄春色         神衿 春色を弄す
清蹕歴林泉         清蹕 林泉を歴る
登望繡翼徑         登りて繡翼の徑を望み
降臨錦鱗淵         降りて錦鱗の淵に臨む
絃竹時盤桓         絃竹 時に盤桓し
文酒乍留連         文酒 乍に留連す
風入琴臺         風 琴臺に入り
蓂日照歌筵         蓂日 歌筵に照る
岫室開明鏡         岫室 明鏡を開き
松殿浮翠煙         松殿 翠煙に浮ぶ
幸陪瀛洲趣         幸ひに陪す瀛洲の趣き
誰論上林篇         誰か論せむ上林の篇を


正四位下治部卿犬上王 一首
詩番号21
五言 遊覽山水 山水を遊覽す
蹔以三餘暇         蹔く三餘の暇を以つて
遊息瑤池濱         遊息す 瑤池の濱
吹臺弄鶯始         吹臺 弄鶯始め
桂庭舞蝶新         桂庭 舞蝶新たなり
浴鳬雙迴岸         浴鳬 雙みて岸を迴り
窺鷺獨銜鱗         窺鷺 獨り鱗を銜む
雲罍酌煙霞         雲罍 煙霞を酌み
花藻誦英俊         花藻 英俊を誦す
留連仁智間         留連 仁智の間
縱賞如談倫         縱賞 倫と談ずるが如し
雖盡林池樂         林池の樂みを盡すと雖へども
未翫此芳春         未だ此の芳春を翫ばず


正五位上紀朝臣古麻呂 二首 [年五十九]
詩番号22
七言 望雪 一首 雪を望む
無為聖重寸陰       無為の聖寸陰を重むじ
有道神功輕球琳       有道の神功球琳を輕むず
垂拱端坐惜歳暮       垂拱端坐して歳暮を惜み
披軒蹇簾望遙岑       披軒蹇簾して遙岑を望み
浮雲靉靆縈巖岫       浮雲靉靆として巖岫を縈り
驚飆蕭瑟響庭林       驚飆蕭瑟として庭林に響く
落雪霏霏一嶺白       落雪霏霏として一嶺白しく
斜日黯黯半山金       斜日黯黯として半山金なり
柳絮未飛蝶先舞       柳絮未だ飛ず蝶先づ舞ひ
梅芳猶遲花早臨       梅芳猶ほ遲く花早く臨む
夢裏鈞天尚易涌       夢裏の鈞天尚ほ涌み易し
松下清風信難斟       松下の清風信に斟み難し

詩番号23
五言 秋宴 得聲清驚情四字 一首
秋宴  聲・清・驚・情の四字を得たり
明離照旻天         明離 旻天を照し
重震啓秋聲         重震 秋聲を啓く
氣爽煙霧發         氣爽かにして煙霧發し
時泰風雲清         時泰かにして風雲清し
玄燕翔已返         玄燕 翔つて已に返り
寒蝉嘯且驚         寒蝉 嘯いて且に驚く
忽逢文雅席         忽ちに文雅の席に逢ひ
還愧七歩情         還りて七歩の情に愧づ


大學博士從五位下美努連淨麿 一首
詩番号24
五言 春日 應詔 春日 詔に應す
玉燭凝紫宮         玉燭 紫宮に凝り
淑氣潤芳春         淑氣 芳春に潤ふ
曲浦戲嬌鴛         曲浦 嬌鴛戲れ
瑤池躍潛鱗         瑤池 潛鱗躍る
階前桃花映         階前 桃花映じ
塘上柳條新         塘上 柳條新た
輕煙松心入         輕煙 松心に入り
囀鳥葉裏陳         囀鳥 葉裏に陳ぶ
絲竹遏廣樂         絲竹 廣樂を遏め
率舞洽往塵         率舞 往塵は洽し
此時誰不樂         此時 誰か樂しまざらむ
普天蒙厚仁         普天 厚仁を蒙る


判事紀朝臣末茂 一首 [年三十一]
詩番号25
五言 臨水觀魚 水に臨みて魚を觀る
結宇南林側         宇を結ぶ 南林の側
垂釣北池潯         釣を垂る 北池の潯
人來戲鳥沒         人來れば戲鳥沒し
船渡萍沈         船渡れば萍沈む
苔搖識魚在         苔搖ぎて魚の在るを識り
緡盡覺潭深         緡盡きて潭の深きを覺る
空嗟芳餌下         空しく嗟く 芳餌の下
獨見有貪心         獨り貪心有るを見む


釋辨正 二首

辨正法師者、俗姓秦氏。    辨正法師は俗姓を秦氏
性滑稽、善談論。       性滑稽にして談論に善し
少年出家、頗洪玄學。     少年にして出家、頗る玄學を洪にす
太寶年中、遣學唐國。     太寶年中、唐國に遣學す
時遇李隆基龍潛之日、     時に李隆基 龍潛の日に遇ふ
以善圍棊、屢見賞遇。     囲碁を善くするを以つて、しばしば賞遇せらる
有子朝慶朝元。        子に朝慶・朝元有り
法師及慶在唐死。       法師および慶、唐に在りて死す
元歸本朝、仕至大夫。     元本朝に歸りて、仕へて大夫に至る
天平年中、          天平年中
拜入唐判官、到大唐見天子。  入唐判官に拜せらる、大唐に到りて天子に見ゆ
天子以其父、故特優詔、    天子其の父を以つて、故に特に優詔して、
厚賞賜。           厚く賞賜す
還至本朝、尋卒。       本朝に還り至りて、尋いで卒す

詩番号26
五言 與朝主人 朝主人に與ふ
鐘鼓沸城闉         鐘鼓 城闉に沸き
戎蕃預國親         戎蕃 國親に預る
神明今漢主         神明 今の漢の主じ
柔遠靜胡塵         柔遠 胡の塵を靜む
琴歌馬上怨         琴歌 馬上の怨
楊柳曲中春         楊柳 曲中の春
唯有關山月         唯關山の月のみ有りて
偏迎北塞人         偏へに北塞の人を迎ふ

詩番号27
五言 在唐憶本郷 一絶 在唐憶本郷
日邊瞻日本         日邊 日本を瞻み
雲裏望雲瑞         雲裏 雲瑞を望む
遠游勞遠國         遠游 遠國に勞し
長恨苦長安         長恨 長安に苦む


正五位下大學頭調忌寸老人 一首
詩番号28
五言 三月三日 應詔 三月三日 詔に應す
玄覽動春節         玄覽 春節に動き
宸駕出離宮         宸駕 離宮を出づ
勝境既寂絶         勝境 既に寂絶し
雅趣亦無窮         雅趣 亦窮り無し
折花梅苑側         花を折る 梅苑の側
酌醴碧瀾中         醴を酌む 碧瀾の中
神仙非存意         神仙 意を存するに非ず
廣濟是攸同         廣濟 是を同するを攸す
鼓腹太平日         鼓腹 太平の日
共詠太平風         共詠 太平の風


贈正一位太政大臣藤原朝臣史 五首 [年六十二]
詩番号29
五言 元日 應詔 一首 元日 詔應
正朝觀萬國         正朝 萬國を觀み
元日臨兆民         元日 兆民に臨む
斉政敷玄造         政を斉へて玄造を敷き
撫機御紫宸         機を撫して紫宸を御す
年華已非故         年華 已に故きにあらず
淑氣亦惟新         淑氣 またこれ新たなり
鮮雲秀五彩         鮮雲 五彩秀で
麗景耀三春         麗景 三春耀く
濟濟周行士         濟濟たる周行の士
穆穆我朝人         穆穆たる我朝の人
感遊天澤         に感じて天澤に遊び
飲和惟聖塵         和を飲みて聖塵を惟ふ

詩番号30
五言 春日侍宴 應詔 一首 春日宴に侍す 詔に應す
淑氣光天下         淑氣 天下に光り
風扇海濱         風 海濱に扇ぐ
春日歡春鳥         春日 春を歡ぶの鳥
蘭生折蘭人         蘭生 蘭を折るの人
鹽梅道尚故         鹽梅 道尚故り
文酒事猶新         文酒 事猶新た
隱逸去幽藪         隱逸 幽藪を去り
沒賢陪紫宸         沒賢 紫宸に陪す

詩番号31
五言 遊吉野 二首 吉野に遊ぶ
飛文山水地         文を飛ばす山水の地
命爵薜蘿中         爵を命ずる薜蘿の中
漆姫控鶴舉         漆姫 鶴を控きて舉り
柘媛接魚通         柘媛 魚に接して通ず
煙光巖上翠         煙光 巖上に翠
日影漘前紅         日影 漘前に紅
翻知玄圃近         翻つて知る 玄圃の近きを
對翫入松風         對して翫す 松に入る風を

詩番号32
五言 遊吉野 吉野に遊ぶ
夏身夏色古         夏身 夏色古り
秋津秋氣新         秋津 秋氣新た
昔者同汾后         昔 汾后に同く
今之見吉賓         今 吉賓を見ゆ
靈仙駕鶴去         靈仙 鶴に駕して去り
星客乘査返         星客 査に乘りて返る
渚性流水         渚性 流水をみ
素心開靜仁         素心 靜仁を開く

詩番号33
五言 七夕 一首
雲衣兩觀夕         雲衣 兩たび夕を觀し
月鏡一逢秋         月鏡 一たび秋に逢ふ
機下非曾故         機を下るは 曾の故に非ず
援息是威猷         援を息むは 是れ威猷
鳳蓋隨風轉         鳳蓋 風に隨ひて轉じ
鵲影逐波浮         鵲影 波に逐ふて浮び
面前開短樂         面前 短樂を開き
別後悲長愁         別後 長愁を悲む


正六位上左史荊助仁 一首 [年三十七]
34
五言 詠美人 美人を詠す
巫山行雨下         巫山 行雨下り
洛浦迴雪霏         洛浦 迴雪霏ぶ
月泛眉間魄         月は泛ぶ 眉間の魄
雲開髻上暉         雲は開く 髻上の暉
腰遂楚王細         腰は楚王の細を遂ひ
體隨漢帝飛         體は漢帝の飛に隨ふ
誰知交甫珮         誰か知る交甫の珮
留客令忘歸         客を留め歸るを忘れしむ


大學博士從五位下刀利康嗣 一首 [年八十一]
詩番号35
五言 侍宴 宴に侍す
嘉辰光華節         嘉辰 光華の節
淑氣風日春         淑氣 風日の春
金堤拂弱柳         金堤 弱柳を拂ひ
玉沼泛輕鱗         玉沼 輕鱗に泛ぶ
爰降豐宮宴         爰に降る 豐宮の宴
廣垂柏梁仁         廣く垂る 柏梁の仁
八音寥亮奏         八音 寥亮として奏で
百味馨香陳         百味 馨香として陳る
日落松影闇         日落ちて 松影闇く
風和花氣新         風和して 花氣新た
俯仰一人         俯仰す 一人の
唯壽萬歳真         唯壽ぐ 萬歳の真


皇太子學士從五位下伊與部馬養 一首 [年四十五]
詩番号36
五言 從駕 應詔 駕に從ふ 詔に應す
堯帝叶仁智         堯帝 仁智に叶ひ
仙蹕玩山川         仙蹕 山川を玩ぶ
疊嶺杳不極         疊嶺 杳として極らず
驚波斷復連         驚波 斷として復連す
雨晴雲卷蘿         雨晴 雲蘿を卷き
霧盡峰舒蓮         霧盡 峰蓮を舒ぶ
舞庭落夏槿         庭に舞ひて 夏槿を落し
歌林驚秋蟬         林に歌ひて 秋蟬に驚く
仙槎泛榮光         仙槎 榮光を泛べ
鳳笙帶祥煙         鳳笙 祥煙を帶ぶ
豈獨瑤池上         豈獨り瑤池の上のみならむや
方唱白雲篇         まさに唱ふ 白雲の篇


從四位下播磨守太石王 一首 [年五十七]
詩番号37
五言 侍宴 應詔 宴に侍す 詔に應す
淑氣浮高閣         淑氣 高閣に浮び
梅花灼景春         梅花 景春に灼く
叡睠留金堤         叡睠 金堤に留り
神澤施群臣         神澤 群臣に施す
琴瑟設仙籞         琴瑟 仙籞を設け
文酒啓水濱         文酒 水濱を啓く
叨奉無限壽         叨に無限の壽を奉じ
倶頌皇恩均         倶に皇恩の均を頌す


大學博士田邊史百枝 一首
詩番号38
五言 春苑 應詔 春苑 詔に應す
聖情敦汎愛         聖情 汎愛に敦く
神功亦難陳         神功 亦陳べ難し
唐鳳翔臺下         唐鳳 臺下に翔け
周魚躍水濱         周魚 水濱に躍る
松風韻添詠         松風 韻詠を添へ
梅花帶身         梅花 身に帶ぶ
琴酒開芳苑         琴酒 芳苑を開き
丹點英人         丹 英人の點す
適遇上林會         適へて上林の會に遇ふ
忝壽萬年春         忝へて萬年の春を壽ぐ


從四位下兵部卿大神朝臣安麻呂 一首 [年五十二]
詩番号39
五言 山齋言志 山齋志を言ふ
欲知間居趣         間居の趣きを知ると欲し
來尋山水幽         來りて山水の幽を尋ねむ
浮沈煙雲外         浮沈 煙雲の外
攀翫野花秋         攀翫 野花の秋
稻葉負霜落         稻葉 霜を負ひて落ち
蝉聲逐吹流         蝉聲 吹を逐ひて流る
祗為仁智賞         ただ仁智の賞を為さむ
何論朝市遊         何ぞ朝市の遊を論ぜむ


從三位左大辨石川朝臣石足 一首 [年六十三]
詩番号40
五言 春苑 應詔 春苑 詔に應す
聖衿愛良節         聖衿 良節を愛し
仁趣動芳春         仁趣 芳春に動じ
素庭滿英才         素庭 英才は滿ち
紫閣引雅人         紫閣 雅人を引く
水清瑤池深         水清して 瑤池深く
花開禁苑新         花開きて 禁苑新た
戲鳥隨波散         戲鳥 波に隨ふて散じ
仙舟逐石巡         仙舟 石を逐ふて巡る
舞袖留翔鶴         舞袖 翔鶴を留め
歌聲落梁塵         歌聲 梁塵に落つ
今日足忘         今日 を忘るるに足る
勿言唐帝民         言ふこと勿かれ唐帝の民と


從四位下刑部卿山前王 一首
詩番号41
五言 侍宴 宴に侍す
至洽乾坤         至 乾坤に洽く
清化朗嘉辰         清化 嘉辰に朗か
四海既無為         四海 既に無為
九域正清淳         九域 正に清淳
元首壽千歳         元首 千歳を壽し
股肱頌三春         股肱 三春を頌す
優優沐恩者         優優 恩に沐する者
誰不仰芳塵         誰か芳塵を仰がざらむ


正五位上近江守釆女朝臣比良夫 一首 [年五十]
詩番号42
五言 春日侍宴 應詔 春日宴に侍す 詔に應す
論道與唐儕         道を論れば唐と儕し
語共虞鄰         を語れば虞と鄰ぶ
冠周埋尸愛         周の尸を埋む愛に冠し
駕殷解網仁         殷の網を解く仁に駕す
淑景蒼天麗         淑景 蒼天麗しく
嘉氣碧空陳         嘉氣 碧空陳なる
葉園柳月         葉はなり 園柳の月
花紅山櫻春         花は紅なり 山櫻の春
雲間頌皇澤         雲間 皇澤を頌し
日下沐芳塵         日下 芳塵に沐す
宜獻南山壽         宜く南山に壽を獻じ
千秋衛北辰         千秋 北辰を衛る


正四位下兵部卿安倍朝臣首名 一首 [年六十四]
詩番号43
五言 春日 應詔 春日 詔に應す
世頌隆平         世 隆平のを頌し
時謠交泰春         時 交泰の春を謠ふ
舞衣搖樹影         舞衣 樹影を搖らし
歌扇動梁塵         歌扇 梁塵を動かす
湛露重仁智         湛露 仁智に重く
流霞輕松筠         流霞 松筠に輕し
凝麾賞無倦         凝麾 賞して倦むこと無し
花將月共新         花將に月と共に新たなり


從二位大納言大伴宿彌旅人 一首 [年六十七]
詩番号44
五言 初春侍宴 初春宴に侍す
政情既遠         政をにして 情既に遠く
廸古道惟新         古に廸ぐりて 道惟れ新た
穆穆四門客         穆穆 四門の客
濟濟三人         濟濟 三の人
梅雪亂殘岸         梅雪 殘岸に亂れ
煙霞接早春         煙霞 早春に接す
共遊聖主澤         共に遊ぶ 聖主の澤
同賀撃壤仁         同に賀す 撃壤の仁


從四位下左中辨兼神祇伯中臣朝臣人足 二首 [年五十]
詩番号45
五言 遊吉野宮 吉野宮に遊ぶ
惟山且惟水         惟山にして且つ惟れ水
能智亦能仁         能く智にして亦能く仁なり
萬代無埃所         萬代 埃の無き所にして
一朝逢柘民         一朝 柘に逢ひし民あり
風波轉入曲         風波 轉曲に入り
魚鳥共成倫         魚鳥 共に倫を成す
此地即方丈         此地 即ち方丈
誰説桃源賓         誰か説かむ桃源の賓

詩番号46
五言 遊吉野宮 吉野宮に遊ぶ
仁山狎鳳閣         仁山 鳳閣に狎れ
智水啓龍樓         智水 龍樓に啓く
花鳥堪沈翫         花鳥 沈翫するに堪へたり
何人不淹留         何人か淹留せざらむ


大伴王 二首
詩番号47
五言 從駕吉野宮 應詔 駕に吉野宮に從ふ  詔に應ず
欲尋張騫跡         張騫が跡を尋ねむと欲し
幸逐河源風         幸に河源の風を逐ふ
朝雲指南北         朝雲 南北を指し
夕霧正西東         夕霧 西東を正す
嶺峻絲響急         嶺峻にして絲響急に
谿曠竹鳴融         谿曠にして竹鳴融る
將歌造化趣         將に歌はむ造化の趣き
握素愧不工         素を握つて不工を愧づ

詩番号48
五言 從駕吉野宮 應詔    駕に吉野宮に從ふ  詔に應ず
山幽仁趣遠         山 幽かにして仁趣遠く
川淨智懷深         川 淨かにして智懷深し
欲訪神仙跡         神仙の跡を訪ねむと欲し
追從吉野潯         追從す 吉野の潯


正五位下肥後守道公首名  [年五十六]
詩番号49
五言 秋宴 一首
望苑商氣艷         望苑 商氣艷かに
鳳池秋水清         鳳池 秋水清らか
晩燕吟風還         晩燕 風に吟じて還り
新雁拂露驚         新雁 露を拂ひて驚く
昔聞濠梁論         昔は濠梁の論を聞き
今辨遊魚情         今は遊魚の情を辨ず
芳筵此僚友         芳筵 此の僚友
追節結雅聲         節を追ひて雅聲を結ぶ


從四位上治部卿境部王 二首 [年二十五]
詩番号50
五言 宴長王宅 一首 長王宅に宴す
新年寒氣盡         新年 寒氣盡き
上月霽光輕         上月 霽光輕し
送雪梅花笑         雪を送つて梅花笑み
含霞竹葉清         霞を含みて竹葉清し
歌是飛塵曲         歌は是れ飛塵の曲
絃即激流聲         絃は即ち激流の聲
欲知今日賞         今日の賞を知らむと欲すば
咸有不歸情         みな不歸の情有り

詩番号51
五言 秋夜宴山池 一首  秋夜山池に宴す
對峰傾菊酒         峰に對して菊酒を傾け
臨水拍桐琴         水に臨みて桐琴を拍つ
忘歸待明月         歸るを忘れ明月を待つ
何憂夜漏深         何ぞ憂へむ 夜漏の深きを



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