Days of taco

やさぐれ&ヘタレtacoの日常と非日常

せつなさとあたたかさ

2024年06月18日 | 読んでいろいろ思うところが
サンキュータツオ
「これやこの」(角川書店)を読む。
この人の本は初めて。随筆の名手だなあ、と。
柳家喜多八と立川左談次という
今は亡き師匠への思いが詰まった
表題のエッセイが絶品でまた。


落語家というのは60歳を過ぎてから
いや70代になってから黄金期を迎えると言われている。
喜多八も左談次もそれぞれ66歳と68歳という
噺家としての絶頂期に亡くなった。
著者は渋谷のユーロスペースで
「渋谷らくご」を主催し、この二人の師匠の
生きざまと死にざまを愛情あふれる筆致で記録する。

じつに素晴らしいエッセイだなあと感じ入っていたら、
そのあとにつづく短いエッセイがまた良くて、
著者の親や親戚、恩師やバイト先の先輩との交流が描かれる。
描かれる人たちはみんな亡くなってしまうのだけど、
そこから浮き上がってくるのは悲しみだけではなく、
思わず笑ってしまうような、いろんな感情がない交ぜになっている。

なかで出色なのは
「空を見ていた」というエッセイで、
3つ上のいとこのユウキちゃんの話。
小さいころは器用で何でもできたユウキちゃんは、
大人になって世間とうまく折り合えず、ついには自死に至る。
以下、引用。

あるとき、雪山で自殺しようとしたらしい。しかしあまりに寒すぎて救助隊を呼び、さらに借金を作ってしまうという始末だった。私はといえば、申しわけないけど、この顛末を聞いて笑ってしまった。やってることがチグハグすぎるユウキちゃんを見て、芸人をやっていてふらふらしていた私は「おもしろがる」という処世術を手にいれていた。お笑いのライブの袖で出番を待っているとき、ついにユウキちゃんの訃報が届いた。自殺だった。今度はきちんとやりきったらしい。山じゃないところで、確実にだれかに見つけてもらえる場所で、ミスのない方法で、実行していた。それを知ったあと、私は何事もなかったかのように笑顔で客席の前に出る。しゃべる。笑わせる。そういう商売だ。私にはユウキちゃんを責める気持ちはどこにもなかった。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« Until the End of the World | トップ | ダバダなひと »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

読んでいろいろ思うところが」カテゴリの最新記事