Days of taco

やさぐれ&ヘタレtacoの日常と非日常

わきまえない女がここにも

2021年03月07日 | 映画など
カーロ・ミラベラ=デイヴィス監督
「Swallowスワロウ」を見る。
痛い。そして素晴らしい。
ある若い主婦の不安と孤独。自己否定。
そこから抜けだそうと、必死でもがく姿。
異物をのみ込む「異食症」の女性を描いた映画ではあるけれど、
そこから一歩も二歩も進んだ着地点に唸る。


何が痛いって、ポスターにあるように
画びょうなどの異物を呑み込む主人公が、とにかく痛い。
ビー玉から始まって、チョークや電池などを飲み込み、
それをトイレで出して、呑み込んだものをひとつずつ
並べていく場面の恐ろしさ。
端から見たら異常に見える行為だけれど、
大きな喜び、というか充足感を得ていくのだ。

まさに玉の輿、とも言えるセレブな夫と
豪邸に住み、何不自由なく生活でき、
おまけに妊娠して、もう幸せ一杯、のはずなのに。
彼女はまったく満たされていないことが描かれる。
夫も、優しくてリベラルに見える彼の両親も、
実はただのクズ人間であり、お金があっても、
社会的地位があっても、高い教育を受けていても、
一人の女性の苦しみにまったく向き合うことができない。

映画は、この恵まれた家庭がものの見事に
崩壊していく展開になっていくけれど、
目を見張るのは、脇を固める登場人物の特異性だ。
主人公の心のケアをするカウンセラーは
ひどくメンタルの弱そうな黒人女性だし、
異物を飲まないように四六時中監視するのは
シリアの戦火から逃れてきた中年男だ。
マイノリティーと言われる人たちが、
同じくマイノリティーである女性を
保護、監視する図式にぞっとするのは自分だけだろうか。

ひとりの女性の
目に見えない孤独とトラウマを描きながらも、
映画はついに、彼女を突き放し、
もっと俯瞰的に、そして大きなスケールで、
女性たちの苦悩ぶりを見せつける結末に
呆気にとられる人も多いだろう。

シネフィル的には、
主人公を演じたヘイリー・ベネットは、
ボブヘアだし、妊娠した若妻という役柄ということで、
どうしても「ローズマリーの赤ちゃん」の
ミア・ファローを連想してしまう。
ある意味、本作は「ローズマリーの赤ちゃん」を
現代の米国でリメイクしたようにも思えるのです。

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