Days of taco

やさぐれ&ヘタレtacoの日常と非日常

走れよ、自分の速さで

2021年11月21日 | 映画など
斉藤久志監督「草の響き」を見る。
原作が佐藤泰志で、舞台が函館。
つまり「海炭市叙景」「そこのみにて光輝く」
「オーバー・フェンス」「きみの鳥はうたえる」
と同じ原作者とロケ地で、なおかつこの4作は秀作ばかりなので、
斉藤監督やメインキャストの人たちには、
さぞかしプレッシャーだったと想像する。
でも、そんな下衆の勘繰りなどどこ吹く風、
まったくもって素晴らしい映画を届けてくれたのです。


走る映画、だと思う。
東出昌大演じる和雄は、精神疾患に悩まされ、
医師の勧めでランニングを始め、没頭する。
「狂ったように走ってるんだから」と
溜息をつく妻の純子の言葉に、
「狂わないように走っているんだ」と返す和雄。

走ることは爽快感に繫がるはずが、
いったいどこを走っているのか、
何のために走っているのか。ゴールはどこなのか。
答えを見つけられないまま、ただ走る主人公。
その姿を見た高校生の彰と弘斗も、走る。
走って何かを見つけようとして、でも見つけられない痛々しさ。
この高校生たちと主人公との接点は、ただ一緒に走るだけ。
ときおり彼らのサイドストーリーが語られ、それが
この映画に深い陰影を与えていく。

人生はかくもしんどいけれど、
それでも走り続けるしかないのだろう。
和雄が走れば走るほど、
肉体が研ぎ澄まされていけばいくほど、
その思いが強くなる映画だったという。

東出昌大も奈緒も
これまでの2人のベストかもしれないと思った次第。
肉体派でありながら繊細な芝居をする東出と、
受けの芝居に徹しつつ、最後に映画のクライマックスを
かっさらっていく奈緒の存在感は素晴らしい。

でも最高の演技をしたのは、2人が飼っている犬のニコだろう。
重苦しい空気のなか、この犬の無軌道な動きに癒やされる。
どんな名優も、子役と動物には勝てないと言うけれど、
本作はまさにその好例ではないだろうか。

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