いとうせいこう「想像ラジオ」(河出文庫)を読む。
昨日が阪神淡路大震災の日だと思ったら、
3.11もまたやってくるんだな。
そういえばせいこうさんのこの本、読んでいなかったな、と。
この小説の語り部は“DJアーク”。
彼はリスナーに向けて、
とりとめのないお喋りをして、音楽をかけ続ける。
たとえばモンキーズの「デイ・ドリーム・ビリーバー」を
かけると言いながら、リスナーの脳内には
清志郎率いるタイマーズの
日本語ヴァージョンが鳴ることもあるようだ。
DJアークはスタジオにいるわけではない。
周りにマイクもターンテーブルもない。
彼がいるのは、山の中に立つ
1本の杉の木のてっぺんなのだ。
あの3.11以降、DJアークはこの木の上から、
想像の電波に乗せて、自らの思い、家族への思いを語っていく。
その言葉をキャッチするリスナーたちも
閉じ込められた建物の中や、水没したクルマの中にいながら、
自分たちの人生に思いを馳せていく。
死者の言葉を聞くということは
こういうことなのかもしれない。
3.11に限らず、それなりの年月を生きてきた人なら、
DJアークとそのリスナーたちの言葉を
自分に重ね合わせながら、
今は亡き人たちの姿や言葉を思い起こすことだろう。
軽快でリズミカルなDJアークの語りは、
ラッパーでもあるせいこうさんならでは。
小説の文字を追いながらも、音を聞いている感覚になる。
やっぱり聞く力が卓越しているんだろうな。
以降、せいこうさんが東北の人たちの言葉に
耳を傾けていくのも納得できるのです。