田中絹代監督「乳房よ永遠なれ」を見る。
乳がんに冒された実在の女流歌人がモデル。
いわゆる難病モノだけれど、
女としての生と性が生々しく、
かつ艶めかしく映し出されていることに、
そして、これが64年前に撮られた映画であることに、
ただひたすら驚き、見入ってしまう。
貞淑な妻であり、優しい母であったふみ子(月丘夢路)が、
夫との不仲のため離婚。シングルマザーとなった矢先に乳がんが発覚し、
手術で乳房を切除、女としてのアイデンティティを失いつつも、
彼女を慕う新聞記者の大月(葉山良二)とつかの間の愛を交わす。
死期が近づけば近づくほど、女としての喜びを得ようとするふみ子。
演じる月丘夢路の艶めかしさといったら、ない。
監督の田中絹代は言わずと知れた
日本を代表する大女優だけど、
こんな緊迫した官能的な映画が撮れるなんて。
50年代の日本映画はまさに全盛期で、
スタッフキャストに恵まれていたとはいえ、
映画監督としても並々ならぬ力量があることを再認識。
絹代監督は「恋文」「月は上りぬ」といったほのぼのとして
温かみのあるライトコメディもたいへん素晴らしかったけど、
本作の凄みにひたすら圧倒される。
監督した映画は全6本。
他のもきっと面白いんですよね、シネフィルの皆さん?