池田敏春監督「人魚伝説」を見る。
1984年制作というから、32年も前の映画になるのか。
長谷川和彦や大森一樹、相米慎二、黒沢清など、
当時、新進気鋭の監督たちが設立した
ディレクターズ・カンパニーの第一作。
陰惨な内容も影響したか、興業成績も芳しくなく、
その後滅多に上映されることのなかった映画だけど、
近年、Blu-ray化などもあり、再評価の気運が高まっているようで。
陰惨と書いたけど、そんな形容では言い表せないほど、
殺戮に次ぐ殺戮。水しぶきと血しぶきが飛び交う。
夫を殺された女が復讐に燃え、
その姿を捉えたカメラが暴走する。
女が戦う相手は、夫を殺した連中のみならず、
漁師たちの海を破壊して原発を誘致し、
その利権をむさぼる俗物たちである。
海女である女は、まさに人魚のごとく、海を自在に泳いで潜り、
欲に駆られた者どもを、思う存分殺(や)る。
殺って殺って殺りまくる。
今となっては、とんでもない反原発映画として捉えることも可能だ。
池田敏春監督はロマンポルノの傑作「天使のはらわた・赤い淫画」で、
才気煥発な監督として持て囃され、その勢いで撮ったと思われる本作。
撮影所上がりということで、映画の現場にも強かったのだろう。
主演の白都真理をとことん追いつめ、実際に海に潜らせ、
ハードな濡れ場を演じさせ、全裸で血しぶきを浴びたまま大立ち回り。
こんな映画、今はなかなか撮れないだろうし、見られないと思う。
そんな厳しい(滅茶苦茶とも言う)現場から生まれた本作を見て、
スクリーンから浮かび上がってくるのは、
すさまじい情念と怨念である。
池田監督は、「赤い淫画」と本作を撮ったあと、
監督としてはなかなか恵まれなかったようで、
本作のロケ地・志摩の海岸で
遺体となって発見されたのが2010年。
あまりにも出来過ぎな結末に、やるせなさが募る。
傑作でも名作でもない。
だからと言って、カルト作とか伝説のB級映画とか、
シネフィルの間だけで持ち上げるのもどうかと思う。
聞くところによると、本作は日活アクションの末期に人気を博した、
小澤啓一監督、渡哲也主演「無頼・人斬り五郎」へのオマージュだという。
あのひたすらどす暗い情念がうずまくヤクザ映画を愛した池田監督が
プログラムピクチャーが消滅しかけていた80年代に
敢えて咲かせたあだ花なのかな、と。