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Days of taco

やさぐれ&ヘタレtacoの日常と非日常

俺に力を持たせてくれ

2023年05月14日 | 映画など
トッド・フィールド監督「TAR/ター」を見る。
これまた見事な一人称映画。
すべてはケイト・ブランシェット演じる
超一流の指揮者ターの視点から映し出される事象の数々。
そうかアーティストってこんな心象風景なのか。
権力があるとはこういうことなのか、と。


観客の多くは戸惑うだろう。
というか自分はえらく戸惑ってしまった。

この女の人は誰だろう、ああ、同性婚の相手か。
だとしたらこの女の子は養子なのかな、とか。
そうか、ターは大学で教えているんだ、とか。
彼女を取り巻く状況と人物関係が大まかにわかってくるのは、
映画が中盤にさしかかる頃ではないだろうか。

とはいえ、人物の紹介がはっきりされないので、
ター以外の人が誰なのか。映画にどう関係してくるのか。
ぼーっと見ていると置いてけぼりにされそうだ。
そんな語り口のまま映画は突き進んでいく。

アーティストゆえなのか、
自身の芸術を追究する態度は真摯だが、
だからといって自信に溢れているわけではなく、
常に解答を求めてもがいている感じがある。
もともとパワハラ体質な面も、
その細かな言動から見え隠れする。

微妙な心身のバランスのもと、
なんとか自身のオーケストラを掌握しつづけるが、
強気と弱気が彼女のなかを行ったり来たりするあたりの
リアルさというか、いつ暴発してもおかしくないホラー感。

終盤に出てくるアジアの国、タイだと思われるけど、
功成り名を遂げた彼女が転落の一途をたどり、
強烈なしっぺ返しを食らう場面の残酷さ。
一人称映画と書いたが、本作はとても冷徹な神の視点からの
映画かもしれないな、と。

主役ターを演じたケイト・ブランシェットは
俳優からの引退を表明したとかしないとか。
たしかに、これだけ繊細な役どころを全うしているだけに、
やり切った感じがあるんだろうな、きっと。
コメント (4)
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喜と怒と哀と楽と

2023年05月04日 | 映画など
原一男監督「水俣曼荼羅」を見る。
水俣病がテーマ。三部構成、
6時間12分という長尺にドン引きして、
見ていない人はアレですよ〜勿体ないですよ〜。


水俣病は末梢神経の病気ではなく、
有機水銀が脳の機能を損傷するからだという実証が積み重なるところ。
水俣病が間違った解釈のもと、認定が行われていたせいで、
病気が認められなかった人が多数いることへの驚きと怒り。
国を相手取って、裁判で争う患者や弁護士、支援者たちの思い。
あまりにも水俣病について無知な自分を恥じつつ、
気がついたら映画にどんどん引き込まれていき、
6時間12分が短く感じるほどだったという。

そうだ。思い出した。原一男監督の映画は
語り口が絶品なのだ。そういえば
「さようならCP」も「ゆきゆきて神軍」も
編集がとてつもなく巧みだった。
うっとりするような美しい場面を見せていたと思ったら、
おもわず悲鳴を上げたくなるような
強烈な場面を見せつけてくるわけで。

たとえば、
最高裁で勝訴した
水俣病患者と支援者が、環境省の役人と対面し、
被害者側の怒号が飛び交うなか、
役人たちが姑息なメモ書きを交換しあっている瞬間
弁護団の女性が無理矢理そのメモを奪い取る場面。

水俣病患者の男性が、
結婚した頃のエピソードを妻と一緒に語るとき、
カメラを手にした原監督がほんとに嬉しそうに
「初夜はどうだったんですか?」と聞いてのける場面。

本作の終盤。6時間近く見せられてきて、
結末らしい結末が来るんだろうかと思っていたら、
作家の石牟礼道子さんが登場し、「悶え神」という
役に立たずとも隣にやってきて、
悶え苦しむ神のことについて語り、
石牟礼さん自身がその神ではないかと思わされる場面。

驚き、笑い、
打ちひしがれたり圧倒させられたりする場面が
20分に1回ぐらいはあるわけで、
映画をとことん面白くするぞという
作り手の揺るぎない意志。

水俣の映画といえば、
土本典昭監督の作品群を避けて通るわけにはいかず、
本作も土本監督の、とくに「水俣病 患者さんとその世界」に
オマージュが捧げられている。詩的で美しかった土本作品と
散文的で下品(褒め言葉)な本作。
ともに魅力的であるのは間違いない。

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おっさんはハードボイルドに限る

2023年04月22日 | 映画など
ドン・シーゲル監督「突破口!」を見る。
これもむかしTVで見たきりで、
ウォルター・マッソーの飄々とした感じしか
覚えていなかったけれど、
ともあれ、世の中にこんなに面白い映画があるのか、
とつくづく思い知らされたというか。
もう50年前の映画なんだな。ありがとうストレンジャー。


ウォルター・マッソー演じるケチな銀行強盗が
小さな銀行を襲い小銭をせしめるつもりが、
マフィア絡みの大金を手にしてしまったことから、
殺し屋に狙われてしまう筋立て。

この映画には、いわゆる心理描写というものがない。
マッソーはひたすら悪知恵を働かせ、きびきびと行動するだけで、
女房が死んでも、黒幕の愛人とねんごろになっても、
感情を露わにしないし、カメラも音楽もカット割りも
人物の心境に寄り添わない。

死んだ女房にそっとキスをするマッソーに
シンパシーを抱こうと思ったら、そのあと
女房が乗ったクルマにガソリンをぶっかけて
爆発させる場面にたまげる。余計な同情なんかいらん、
お前ら観客は、ただ映画を見てればいいんだと
いわんばかりの非情さだ。

一発も銃を撃たない主人公なんて、
ドン・シーゲルの映画では珍しいというか、
ひねりが利いているし、マッソーを狙う
殺し屋のジョン・ドン・ベイカーは、
人殺しをにやけながら行う変態野郎で
それ以上でもそれ以下でもない。その潔さといったらない。

飛行機乗りの過去を持つマッソーが
プロペラ機で舞いあがり、ベイカーとカーチェイスする場面の
ダイナミックさと開放感に、ああ面白い映画を見たなあ、
と嘆息するばかりだったのです。

それにしてもウォルター・マッソー。
この俳優さん、60年代後半から70年代は絶好調で、
本作をはじめ、「サブウェイ・パニック」
「マシンガン・パニック」「コッチおじさん」
「フロントページ」「サボテンの花」
そして「がんばれ!ベアーズ」など名作が目白押し。
強面だけどおもしろおかしい個性が炸裂しているのです。

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ダダ漏れが止まらない

2023年04月18日 | 映画など
城定秀夫監督「銀平町シネマブルース」を見る。
ふうん。ひなびた地方の町にある
ミニシアターに集う人々の群衆劇ですってね。
そんなのいい映画に決まってるじゃないですか。
で、いま見終わったんですけどね、
体じゅうのいろんなところから液体がチビリまくりの
ビショビショでございます。だって、だってなんだもん。


ホラー映画でちょっと名を馳せた映画監督が主人公。
とある理由で監督ができなくなり、
借金を抱えてホームレス寸前になるが、
映画館の館主に拾われ、バイトとして働くことになる。
この主人公が映画への思いを取り戻し再生していくとともに、
映画館に出入りするさまざまな人たちの
細かなドラマが積み重なっていく。
100分ほどの映画なのに、20人近くの登場人物が
よくもまあ見事に散りばめられているなあと思ったら、
脚本はいまおかしんじ。さすがだと思う。

経営が悪化した映画館のために、
映画祭を企画して、クラファンで盛り上げたりと
個人経営のミニシアターのリアルな現状も垣間見える。

俳優はみんな素晴らしく、
一人ひとり挙げるとキリがないけれど、
本作を見たひとは、必ず共感できる人物が見つかると思う。
映画館のファンクラブに
映画監督志望の中学生がいて、
声変わりしてないところがほっこりするし、
映写技師を演じた渡辺裕之がやたらに渋くて、
でもこの人はもういないんだなとしみじみしたり、
売れない役者を演じた中島渉。やっぱりコメディセンス抜群だなとか。
いい映画にはやっぱり片岡礼子さんが出てるな、とか。

特筆すべきは、主人公のホームレス仲間で、
映画だけが生き甲斐の
どうしようもない駄目なおっさんを演じた宇野祥平。
城定作品の常連で、本作でもいい味を出してくれました。
というか、見ていて「真夜中のカーボーイ」の
ダスティン・ホフマンを彷彿とさせるというか、
おかしくて、哀しくて、惨めったらしいのが、いい。
「カサブランカ」を見て号泣する禿頭のおっさんが
これほど美しく撮られているとは。

彼を見たシネフィルは、ああオレも(あたいも)、
宇野祥平みたいになりてえな、と理想を語るだろうけど、
それ、たぶん無理ですよ。
シネフィルの多くは小市民だから、
いざというときは映画なんか知らないよ、と
そそくさと安全地帯に逃げ込むのがオチだったりしませんか。
自分もそうです。残念ながら。
だからこそ、本作の宇野祥平は素晴らしいのです。

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家族と逆光とキスマーク

2023年04月12日 | 映画など
スティーブン・スピルバーグ監督
「フェイブルマンズ」を見る。
スピルバーグがこれだけ個人的な映画を撮るとは。
もう76歳だからなあ、スピルバーグ。
人生を振り返りたくなったんだろうか。
とまあ、さぞかしノスタルジックな
感動作だと決めつけていたら、
かなり歯ごたえのある映画でびっくり仰天。


家族の映画であり、映画の映画でもある。
そして、映写機から放たれる光で満たされた映画であり、
逆光が大好きなスピルバーグの本領発揮ともいえる。

「地上最大のショウ」の列車転覆シーンを見て、
映画の魅力に取り憑かれたサミー少年は、
8ミリ映画を撮り始め、撮影と演出次第で
あらゆるものが表現できることを会得していく。
映画は観客の心をつかむが、
ときにはあらぬ方向に誘導することもある。
本作は、映画がそもそも持つ功罪について語っていく。

最愛の母親がクルマのヘッドライトに照らされて、
踊る場面の美しさが映し出されるのも映画であり、
その母親が父親以外の男と繫がっていたことがわかるのも、
主人公が撮ったフィルムの中なのだ。
なんでも写してしまう映画の残酷さも示される。

オタクでひ弱な主人公が、卒業パーティーで
スクールカーストでいちばん上にいる
クラスメートを主役にした映画を上映するクライマックス。
どんなにいけ好かない男でも、
ヒーローのように写るのが映画であり、
その姿を見たクラスメートが、
本当の自分ではないと泣く場面が悲痛きわまりない。

このシークエンス、
「桐島、部活やめるってよ」に
そっくりなのだけど、スピルバーグ見てるんじゃないかな。
あるいは朝井リョウの原作を読んでいるのかも。
そういう意味で本作は、「桐島」、そして
「少女は卒業しない」の3本立てで見るのが正しい。

閑話休題。
シネフィルモードが炸裂してすみません。

ともあれラスト。
キスマークをつけた晩年のジョン・フォードが
主人公に映画の極意を伝える場面。
あれは実話なのかどうかはともかく、
そうか、映画ってそういうことなんだ、と
スピルバーグの目を通して教えられた気がしたのです。

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ヴァンプ天国

2023年04月05日 | 映画など
川島雄三監督「昨日と明日の間」を見る。
54年制作というからほぼ70年前の映画なんだな。
鶴田浩二を中心とした三角(四角)関係が、
二転三転するハイテンポなラブコメディ。


モダンでアヴァンギャルドな
オープニングに度肝を抜かれていたら、
ガラス張りの舗道を歩く
鶴田浩二と淡島千景の足元を下からとらえたショットや
映画館のスクリーンの裏側を背景にして
物語が進むシークエンスなど
鈴木清順みたいだと思ったら、
「野獣の青春」や「刺青一代」より、
本作のほうが10年ぐらい早いんだな。
キテレツな映像感覚は、70年後のいま見ても新鮮そのもの。

起業家の鶴田浩二と、人妻月丘夢路の
恋路を描いた映画ではあるけれど、
そこに腐れ縁の恋人、淡島千景と、
月丘夢路の夫で資産家の進藤英太郎がからむ。
さらに、鶴田浩二が起業する航空会社設立の
ドタバタなエピソードが渦巻き、実にあわただしいが、
破綻と混沌が真骨頂の川島映画にしては、
かなり緻密な構成に唸る。

そして、
ハッピーエンドにもデッドエンドにも
決着しないところが大人の味。
観客を泣かせも笑わせもせず、
苦い結末にたどりつきながらも、
淡島千景のヴァンプな歌と踊りで、
なんとも華やいだ気分に導いてくれて、
苦味と甘味が入り交じった感慨に耽るのでした。

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静寂を通り越して

2023年03月28日 | 映画など
中川駿監督「少女は卒業しない」を見る。
河合優実が主演ということで、
世界中のシネフィルが
映画館に殺到しているようだけど、
そんなヨコシマな動機で見た輩(自分、だ)は
この映画の静謐さに、思う存分
打ちひしがれるがいい(打ちひしがれました)。


卒業式を数日後にひかえた、
高3生たちの心のゆらぎをとらえた映画。
とはいえ、そもそも映画や映像で
ゆらぎなんてものが見えるんだろうかと。
でも、よく見える。この映画には。

クラスに馴染めず、図書室だけが居場所の女生徒が、
ほのかに思いを寄せる教師を前に、
何も言えないで押し黙っているなかに。

付き合っている男子生徒と仲違いした女生徒が、
変な意地を張り続けているなかで葛藤しつつも、
思い切って携帯でその彼と話をするなかに。

中二病をこじらせたアホみたいな男子生徒の、
本来彼が持っている清らかな部分に
気づいていながらも、何も言えず、
憧れと諦めを持って彼を見る
軽音楽部の部長のまなざしのなかに。

好きな男子生徒にお弁当をつくり、
ふたりっきりで実験室で食べる女生徒の
幸福に満ちていながら、どこか淋しげな表情のなかに。

クライマックスの卒業式で、
彼女ら彼らの思いが集約され、
映画が一気に弾けるかと思いきや、
作り手たちの視線はあくまでクールに、
ひとり一人の旅立ちを見守る。
そういう意味で、正しい「卒業」の映画だと思ったりする。

それにしても、勿体ない。
だって、映画館はシネフィルらしき
やさぐれたおっさんばかり(自分、だ)で、
若者の観客がちいともいなかったのが残念無念。
配信で見てるのかな。というか見てくださいな。
ちょうどいま卒業&入学シーズンだったりするわけで、
あらたな道に進もうとする人たちに
ぜひ見てもらいたい映画だと強く思うのです。


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その艶姿は永遠に

2023年03月22日 | 映画など
庵野秀明監督「シン・仮面ライダー」を見る。
いろんな人がいろんなコトを言うだろう。
なので、見ようと思っている人は
なるべく情報をシャットアウトした方がいいです。
これから書くことは
ぜーんぶネタバレになるのでご注意をば。
でもね。ひと言だけ言わせてください。
本作は長澤まさみに尽きる! 以上。
って、前も同じようなことを書いたような。


変身ポーズや効果音、劇伴、登場人物の名前など、
昭和のライダーの要素があちこちに散りばめられており、
昔の記憶が呼び起こされて、懐かしいけれど、
ちょっとチクッと心に刺さる。なんか子ども時代の
あまりよろしくない記憶も呼び戻されるからかもしれない。
ライダーカードの思い出とか。

蜘蛛男の造形カッコいいなあと思いつつ、
「クモオーグ」という呼称に違和感。
でも令和の時代に合わせたアップデートということで納得する。

それを言ったら、ショッカーは
SHOCKERという表記になったらしく、検索してみたら

Sustainable Happiness 
Organization with Computational 
Knowledge Embedded Remodeling
(持続可能な幸福をめざす愛の秘密結社)

の略らしい。
悪の組織ショッカーはサステイナブルなのだ。

お馴染みの戦闘員との戦いを、
血みどろの殺し合いとして
リアリティーを追求している反面、
怪人(ではなくオーグですな)との戦闘シーンの
特撮はあえてチープでコミカルに見せる不均衡な感じ。

登場人物は一対一で、画面の両側から向き合って立ち、
対話をするショットが多用される。
それは物語がコミュニケーションやディスカッションで
進んでいるからだと想像する。
庵野監督の映画はいつだってディスコミュニケーションと、
その悲劇(喜劇にもなりうる)をテーマにしてきたと思うし。

ライダー1号の池松壮亮の重い演技と、
2号柄本佑の軽妙な芝居のコントラストは
かつてのテレビシリーズを踏襲していて、
昭和からのファンには好まれると思うし、
ロボット刑事やキカイダーらしきキャラを登場させるなど、
石ノ森作品へのリスペクトもじゅうぶん感じられる。

SHOCKERの首領(というのかな?)を
山本未來が演じていることもあり、
どこか舞踏的というか演劇的な空間での戦いがクライマックス。
東映時代劇や任侠映画の伝統を踏まえ、
型にはまった様式美を追求している感もある。

でも。そんな些末なことはどうでもいい。

この映画で最も重要なのは、
長澤まさみが出ているということだ。
「シン・ウルトラマン」では巨大化して、
映画史にその存在を刻んだ長澤さんが、
本作ではさそり男、いや、さそり女、
もとい「サソリオーグ」として
悪の魅力のみならず、ものすごいお色気と
狂気を炸裂させているのです。
ほんの数分の登場ながら、いちばん美味しいところを
かっさらっていく俳優としてのポテンシャルの高さ。

長澤まさみはきっとこれからも第一線で
俳優の道を歩んでいくだろうし、いずれは
大女優と言われる存在になると思う。
代表作もたくさん積み重なるだろう。
でも、お馬鹿なシネフィルの間では、
あのさそり女の長澤さんは素晴らしかった、
と永遠に語り継がれるような、そんな気がしてならないのです。
って、前も同じようなことを書いたような。
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温故知新どころでは

2023年03月15日 | 映画など
福田純監督「エスパイ」を見る。
なんだか、むかし見た映画を
再見する乗りになってきましたな。
本作は公開時に見て、
ものすごく面白かった記憶があるのだけど、
いまの時代、どう見えるんだろう。
と疑心暗鬼でいたら、面白いどころではない。
超がつく傑作SFアクションではないか。
豪華キャストにキレキレの演出、
特撮とアクションの見事な融合。素晴らしい。


東欧某国の首相暗殺計画を阻止するために
超能力者たちの諜報組織(エスパイ)が、
悪の組織と死闘を繰り広げる。敵も超能力者であり、
肉体アクションにサイキックな特殊効果が加わり、
スリリングなことこの上ない。
思えば「テレポーテーション」という言葉を
初めて覚えたのもこの映画だった。

藤岡弘のアクションの切れ。
新米エスパイ草刈正雄のナーバスな感じ。
常にしかめっ面の上司、加山雄三が無駄に偉そうで、
それはそれで楽しく見られるというか。
悪の組織のボスは若山富三郎。
なぜ自分が悪に染まったか、クライマックスで
その理由を陰々滅々と語る場面は、
後年「ブラックレイン」で演じたヤクザの親分と通じる。

クライマックスでアクションが繰り広げられるのが、
郊外のだだっ広い廃工場であり、
のちにこうしたロケーションは、
特にVシネマでアクションの舞台として
よく使われることになるのだけど、
本作が先駆けだったのではないかと想像する。
でも確証はないので、誰かシネフィルの人、
こっそり教えてくださいな。

とまあ、見どころはたっぷりだし、
のちの映画に与えた影響も少なくないと思われる本作。
でも、最大最強の魅力は由美かおるの存在感でしょう。
体の線がぴっちり出るコスチュームで、
当時ガキンチョだった自分は
それはそれはドキドキしたものだけど、
おっさんになっても相変わらず、
由美さんに悩殺されてしまったという。
サスペンスフルな展開のなかで、
そのダダ漏れのお色気はどういうことなんですか、
と関係各位に問いかけたい。
ともあれ「ノストラダムスの大予言」と共に
彼女の代表作として映画史に残ることは間違いありません。
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虫けらの美学

2023年03月06日 | 映画など
竹中直人監督「無能の人」を見る。
何度も見ている映画で、よく見知っていたはずなのに、
いい映画であることはもちろん、
こんなに名作だったとは。あらためて感じ入った次第。


「この広い宇宙に私たち家族三人みたい…」

本作のキャッチコピーであり、
つげ義春の原作でも印象的な台詞が
風吹ジュンの声で語られて、なんとも沁みる。

生活が困窮し、家族を養えなくなっても、
自身の芸術的なこだわりを理由に、
自分からダメ人間になっていき、耽溺していく主人公。
その姿が情けなければ情けないほど、
羨望の対象になっていくのは何故だろう。

ショットがいちいち決まっている。
主人公一家が多摩川堤防を歩く姿や、
アパート内のやさしい光と、
干される洗濯物や、多摩川水門の荒涼とした感じなど、
撮影監督の佐々木原保志、照明の安河内央之など、
充実したスタッフに支えられていたんだなと思う。
そして35歳の若さで、これだけの名作をものにした
竹中直人監督。あらためて再評価すべき人だと思う。

妻を演じる風吹ジュンがやはり、いい。
ずっと不機嫌で悪態ばかりつく役どころなのに、
なんという可愛らしさだろう。
ダメ男には、まさに理想の妻というか。
「夫婦善哉」の淡島千景と
「フィールド・オブ・ドリームス」のエイミー・マディガン、
そして本作の風吹ジュンが世界三大理想妻だと
シネフィルモードが止まらなくなっちまいました。失礼。

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