ドン・シーゲル監督「突破口!」を見る。
これもむかしTVで見たきりで、
ウォルター・マッソーの飄々とした感じしか
覚えていなかったけれど、
ともあれ、世の中にこんなに面白い映画があるのか、
とつくづく思い知らされたというか。
もう50年前の映画なんだな。ありがとうストレンジャー。
ウォルター・マッソー演じるケチな銀行強盗が
小さな銀行を襲い小銭をせしめるつもりが、
マフィア絡みの大金を手にしてしまったことから、
殺し屋に狙われてしまう筋立て。
この映画には、いわゆる心理描写というものがない。
マッソーはひたすら悪知恵を働かせ、きびきびと行動するだけで、
女房が死んでも、黒幕の愛人とねんごろになっても、
感情を露わにしないし、カメラも音楽もカット割りも
人物の心境に寄り添わない。
死んだ女房にそっとキスをするマッソーに
シンパシーを抱こうと思ったら、そのあと
女房が乗ったクルマにガソリンをぶっかけて
爆発させる場面にたまげる。余計な同情なんかいらん、
お前ら観客は、ただ映画を見てればいいんだと
いわんばかりの非情さだ。
一発も銃を撃たない主人公なんて、
ドン・シーゲルの映画では珍しいというか、
ひねりが利いているし、マッソーを狙う
殺し屋のジョン・ドン・ベイカーは、
人殺しをにやけながら行う変態野郎で
それ以上でもそれ以下でもない。その潔さといったらない。
飛行機乗りの過去を持つマッソーが
プロペラ機で舞いあがり、ベイカーとカーチェイスする場面の
ダイナミックさと開放感に、ああ面白い映画を見たなあ、
と嘆息するばかりだったのです。
それにしてもウォルター・マッソー。
この俳優さん、60年代後半から70年代は絶好調で、
本作をはじめ、「サブウェイ・パニック」
「マシンガン・パニック」「コッチおじさん」
「フロントページ」「サボテンの花」
そして「がんばれ!ベアーズ」など名作が目白押し。
強面だけどおもしろおかしい個性が炸裂しているのです。
ほぼ1年ぶり。
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