ドン・シーゲル監督「殺人者たち」を見る。
むかしTVで見たきりで、クライマックスの
リー・マーヴィンのおそろしい形相しか覚えていなかったけど、
なんということだ。映画自体がおそろしいではないか。
ただひたすら犯罪と暴力に突き進む登場人物たち。
観客はどんどん追い込まれていき、ついには息ができなくなる。

とにかく、痛い映画である。
紅一点のアンジー・ディッキンソンが
まあ絵に描いたような悪女で、
彼女の横っ面を黒幕のロナルド・レーガンが思い切りはたく。
その痛みが観客にダイレクトに伝わるというか、
ラスト近くでもアンジーはクルー・ギャラガーに
思い切り殴られて、これも痛い痛い。
容赦のない暴力と、人の生き死によりカネが大事、
という揺るぎない信念の悪党ばかり。
映画は彼ら彼女らに何の慈悲も与えず、
無様な死に様を観客に見せつける。
アンジーに騙されるレーサー役のジョン・カサヴェテスが、
じっと殺し屋が来るのを待っている。それが本作の冒頭だ。
死の恐怖に耐え、自分の死に様をただ待つだけの姿が
えらく文学的だと思ったら、そうかヘミングウェイが原作か、と。
原作で描かれるのは冒頭のシークエンスだけで、
あとの物語はすべて脚色であり、よくもまあここまで暴力的で
血も涙もない映画ができたものだと驚くばかり。