桜井昌司『獄外記』

布川事件というえん罪を背負って44年。その異常な体験をしたからこそ、感じられるもの、判るものがあるようです。

郷原氏のブログに問う

2018-06-20 | Weblog
元検察官である郷原信朗氏は、美濃加茂市長だった藤井さんが被る贈収賄事件の冤罪裁判に係わるなど、その言動も含めて、俺は人として信頼していた。
何度かお会いして話もしたし、俺のラジオ番組に出て頂いたこともある。腐れ検察に精神を穢されたままの人も多い辞め検とは違い、白は白、黒は黒と偏りない判断の出来る人だと尊敬していたが、袴田事件に対する大島隆明決定での思いを書いたブログを読んでガッカリさせられた。
静岡地裁の根拠とされた本田鑑定に付いて、大島隆明決定に全面的に賛同した上に「本田鑑定はスタッフ細胞発見と同じ性質のものだ」とまで書いている。
俺は理学も学ばれたらしい郷原氏とは違い、満足に高校にも行かない無学無知だ。DNA鑑定のことも判らない。だから本田鑑定の部分、部分に対して、あれやこれやを論難する大島決定の過ちへの反論は袴田弁護団にお任せするが、大島決定に双手を上げて賛同する郷原氏の過ちは、どう考えても納得出来ないし、俺に判る過ちを指摘したい。
大島決定は、「味噌タンクから発見されたとする5点の衣類が入った麻袋は捜査当局の捏造」とした静岡地裁決定を否定したが、その根拠は「パジャマで犯行を行ったとする自白に矛盾した衣類の発見だから、そんなリスクを捜査当局は犯さない」ということらしい。
大島隆明も郷原氏も原審の審理経過を知らないのではないのか。
事件から1年2カ月後、この衣類こそ犯行衣類だとして発見された当時、4人もの人を刺し殺した犯行衣類のパジャマには、肩以外に血液の付着が無いことなどから犯行衣類であることに疑問が示され始めた時期だったはずだ。
そこに忽然と現れた5点の衣類!
捜査当局には捏造する、充分過ぎる理由がある。
郷原氏は、未だに警察や検察に信頼を残しておられるようだが、警察も検察も、自分たちの主張を正しいものとするためには、何でもやる。証拠捏造に証拠改ざん、それに証拠隠滅は、冤罪事件における警察と検察の専売特許ではないか。
それを易々と見逃す裁判官、大島隆明のような存在がいるから、今でもあちらこちらで冤罪事件が作られ、堂々と証拠が捏造されるなどして仲間たちは泣いている。
5点の衣類に纏わる捏造疑惑の根拠は、何もDNA鑑定だけではない。
あのズボンを袴田巌さんは履けなかった。大島隆明は、あのサイズでも履けたとかいうが、履ける履けないのレベルではない。原審の東京高裁で実施した検証写真を見れば判るように、袴田巌さんの太股でつっかえてしまい、それ以上にズボンは上がらないことが明白だ。
これが履けたとか、太ったとか、縮んだとかのレベルの話でないことは、誰が見ても明らかだろう。
大島隆明は、本田教授が鑑定記録を破棄した疑問と大阪医科大学の鈴木廣一が示した、これこそ「スタッフ細胞問題的」な本田鑑定否定を盲信し、それを総てと収斂した過ちに陥り、数々の証拠捏造疑惑に目を閉ざして判断をしたのだ。
郷原氏も、同じ過ちに陥っていないだろうか。
袴田事件はDNAが総てではない。数多ある疑惑の1つにしか過ぎない。
俺は、本田教授も存じ上げている。
立派な法医学者と敬意を持っているが、もし「本田鑑定はスタッフ細胞問題と同じ」と考えるならば、本田教授が故意に鑑定事実を捏造した理由は、何だというのだろうか。
鑑定を捏造することは、大学教授の職を放棄する行為に等しい。研究者の立場を捨てることだ。
余りにも愚かな比喩ではないのか。易々と警察と検察の共同作業による証拠捏造を「あり得ない」と否定した大島隆明判断を是認した郷原氏は、本田教授が狂って鑑定捏造をしたとでも言うのだろうか。
ご存知だろうが、本田教授の指導で再鑑定実験をした弁護団は、僅か8時間でDNA鑑定を再現したし、その再鑑定実験ビデオは大島隆明も見ているのに無視した。本田教授の鑑定手法はマヤカシではない。断じてない。
信頼する郷原氏らしからぬと残念過ぎるし、怒りさえ覚える。
郷原氏は認識しておられるだろうが、静岡地裁でDNA鑑定をしたのは、本田教授だけではない。検察側の推薦した山田何某とか言った鑑定人も、本田鑑定と同じ結論の鑑定をした。ところが、何をどう血迷ったのか、裁判で「私の鑑定は信用しないで欲しい」と宣わった。だから、本田鑑定だけを根拠としたに過ぎない。
あのときに山田何某が勇気を持って証言したならば、既に検察の抵抗は終わっていたはずだ。
あたかも袴田巌さんの無実を示した鑑定が本田鑑定だけであるかのように判断する大島隆明は間違っている。それを正しいとする郷原氏も、また間違っている。
郷原氏は、この4年に及んだ意味の無い東京高裁での審理経過は、総てが弁護側に責任があるかのようにも書くが、果たして、そうだろうか。
DNA鑑定のみに固執し、それを潰すことに集中して抵抗したのが検察だ。その術中にはまったのか、自ら陥ったのかは知らないが、大島隆明こそ、ひたすらDNA鑑定だけを取り上げて、他の問題を指摘する弁護団と対立し続けたゆえに、この4年が空費された。
朝日新聞社説を非難するのも、また過ちだ。
再審には規定がないゆえに、裁判官のやり方に任されている。個人個人の裁判官次第で、全く違う裁判になってしまう問題は、同じように冤罪事件を弁護される郷原氏ならば理解しておられるだろうが、我々冤罪体験者は、総ての冤罪者が等しく公正で公平な再審審理を実施する法律の制定を求めている。
大島隆明判断の過ちを認識出来ないらしい郷原氏に求めるのは無理なのかも知れないが、願わくば、我々冤罪者の想いに重なる行動をして頂きたいと願うばかりだ。
郷原氏のブログは袴田事件の闘いを支える、総ての人を愚弄するものだ。断じて容認出来ない!

最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (井浦)
2018-06-20 22:02:14
袴田さんの開始決定を出した静岡地裁裁判長は、その後、名古屋高裁に移り、美濃加茂市長の逆転有罪判決を出していますね。
これには驚いた (orange mystery)
2018-06-21 00:38:45
美濃加茂市長冤罪事件ではあれだけ熱心に活動されている郷原さんが、こんな不当決定を容認するなんて。これは驚きました。

・本田先生以外にも、DNAを検出できたという学者がいらしゃったこと(決して本田先生の独創的な手法ではない)

・問題の5点の衣類が見つかったのは現場近くの味噌タンクの中。事件直後に例の味噌タンクは調べられているのに、その時は血まみれの5点の衣類は見つからなかったこと。(あんなに目立つものを捜査員ともあろう人が見落とすはずがない)

・検察が当初袴田さんの犯行時の着衣としてあげていたものに矛盾が生じ、公判維持できるかどうかの危機に陥ったタイミングで「たまたま」5点の衣類が「発見」されたという不自然。(検察には証拠捏造の動機があった)

これらの事実を忘れてはなりません。

コメントを投稿