桜井昌司『獄外記』

布川事件というえん罪を背負って44年。その異常な体験をしたからこそ、感じられるもの、判るものがあるようです。

別れ

2020-07-12 | Weblog
命あるモノは、みな死ぬ。
俺の兄貴は面白くて、あれは何年前だったか、真剣な顔で「ショウジ、俺は死なない気がするんだよな」と言った。
余りに真剣に言うので、それも驚いたが、いや人間は死ぬからと言っても「そうかなぁ、俺は死なない気がする」と答えた。
本人が死なないと言うのだから、それ以上に話しても意味がないと思って止めたが、その後、暫くして行ったときに「まだ死なない気がする❓️」と聞いたら「うん❗️」と確信を持って変事したので、それ以降は死ぬ話はしていない。
どのように兄が思っていても死ぬ日は来るが、今日は獄友の父親が亡くなられた知らせで弔問した。
冤罪を背負うということは家族も被害者だ。仲間も、家族とは色々とあったと聞くが、親父さんの眠っているような安らかな表情を見て、彼女が「最期を看取れて幸せだった」と言う想いが判った。きっと父親も同じ想いだったに違いない。
俺は両親の死に目に立ち会えずだったから、幸せだったと言える彼女が、かなり羨ましい想いだったよ。