スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

ドストエフスキーとの59の旅&意志の欠如

2014-01-11 19:07:59 | 歌・小説
 亀山郁夫の文学評論を読解するには,亀山自身の人間性の把握が必須であると僕は考えています。そして亀山の人間性を理解するために最適なのは,『ドストエフスキーとの59の旅』だと思います。
                         
 現在の僕は,古書を除けば本はAmazonで購入しています。その際に重視するのは題名と著者で,紹介文や読者のレビューは参考にしません。このために,ときとして予期していたのと内容が大きく異なる本を手にすることが生じます。スピノザ関係でいえば『スピノザという暗号』がそうでしたが,ドストエフスキー関係ではこの本がそれに該当します。
 僕はこの本も,亀山によるドストエフスキー評論であろうと思って購入しました。ところが実際には違っていました。この本は分類するなら文学評論などではなく,亀山による自伝,ないしは半生記です。
 しかしこの本は,普通の自伝とも変わったところがあります。一般的に自伝とか半生記というのは,クロニクルなのであって,時系列に従って内容が進捗していきます。しかしこの本はそうした手法が採用されておらず,亀山の表象像の連結に応じて,語られる出来事がその時点より過去に飛んだり未来に向ったりします。なので書かれていることが生じたことを時系列で追おうとすると,かなりの苦労が必要とされます。
 もちろん亀山は意図的にこうした手法を採用しているといえます。すなわち亀山がこの本で語りたかったのは,自分のドストエフスキー体験を時系列によって示すことではなく,ドストエフスキーに関する自身の表象像が,精神のうちでどのように連関しているのかを示すことだったのでしょう。そもそも自伝的内容の著作を刊行するにあたり,このような手法を採用すること自体が,亀山の人間性をよく表現していると思いますし,僕にはいかにも亀山らしい手法であるように感じられます。
 そこで述べられている亀山の表象像の連関とか想像力に関しては,僕にはリアリティーを欠くと感じられるものがいくつか存在します。ただしそれは,亀山と僕の人間性の相違に由来するものです。つまり僕には亀山のような人間性は,よく理解できない部分を多く含んでいるのであり,そのゆえにこの本はむしろ大いに有益であったといえます。

 弱い意味強い意味の中の弱い意味は,原因が本性の上で結果に「先立つ」という観念を含む場合には,演繹法と帰納法の相違であると考えることができます。原因が十全に認識されるということは,そのものが何らかの結果を生じるということであり,結果が十全に認識されるとは,そのものがほかの原因から発生しているということであるとすれば,両者は論理の筋道を互い違いにしているだけであるといえるからです。
 今度はもう少しだけ具体的に措定してみます。ここでは簡単に原因をA,そして結果をBとします。つまりAはBの十全な原因であるということです。
 スピノザの哲学においては,第二部定理七により,事物の因果関係の連結は,知性のうちで客観的に把握される場合でも,知性の外部で形相的に存在する場合にも同一です。ですからこの場合にAとBが神のどの属性に属しているかは決定する必要はありません。ただし第二部定理六により,AとBは同じ属性に属するという前提は必要です。
 この場合,Aが原因であるというのは,そこからBが生じるからです。一方,Bが結果であるのは,BがAから生じるからにほかなりません。したがって弱い意味と強い意味の中の弱い意味は,やはり同じように知性のうちで認識されていることになります。つまりそれらは公理的性格を有しています。
 ただし,この認識は,AからBが生じなければならないということは何も保証しません。同様にBがAから生じなければならないということについても少しも保証はしてくれません。実際にこれだけのことが知性のうちにあるのだと仮定するならば,同じ知性が,AからBではなくCが発生する可能性を何も否定できないでしょうし,BがAからではなくDからも発生する可能性についても,やはり否定はできないということになります。
 スピノザの哲学では,このような,ある観念に含まれるその観念の肯定ないしは否定のことを,意志といいます。したがって,この観念のうちには,AからはBが発生するということ,また,とくにBはAからだけ発生することを肯定するような意志が,まだ欠けているということになります。

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