スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

音読&批判の一端

2020-05-01 19:24:09 | 歌・小説
 明治時代の新聞には宅配制度がありませんでした。ですから新聞は,売店で買って読むものであったのです。これだと新聞を読む人が限定されるように思えます。ですが必ずしもそうではなかったことが,『漱石と朝日新聞』では明らかにされています。
                                        
 明治時代の初期には,新聞解話会なる会があったそうです。これは自主的に町内で結成されたものもあれば,政府が組織させたものもあったそうです。基本的にだれかが新聞の記事を音読し,それぞれの記事についての解説を加えていくものでした。ただしここで読まれた新聞は当時の大新聞に該当するもので,朝日新聞はそれには含まれていません。ただ重要なのは,ひとりが新聞を音読し,複数人がそれを聞くというスタイルであったという点です。
 役人の家庭では次のようなケースが多かったそうです。まず役人は朝から役所に出勤し,その途中で新聞を購入します。これは現代のサラリーマンが,出勤途中に駅などの売店でスポーツ新聞を買うというのと似たスタイルだといえるでしょう。ところでこの当時,役人というのは昼休みには帰宅するのが通例でした。そのときに新聞を持ち帰ります。役人の家庭にはたいていは書生がいます。そこで家族に向けてその新聞を読み上げるのです。もちろん現代の新聞と当時の新聞とでは記事の量は違いますが,それでも昼休みだけでそれをすべて読み終えてしまうことはできません。役人は午後の仕事に出掛け,またそれを終えて帰宅します。今度は夕食後に書生がまた新聞を音読し,家族が揃ってそれに耳を傾けるのです。
 書生が新聞を音読することにはふたつのメリットがありました。ひとつは世間の情勢を知ることができるということです。そしてもうひとつはことばを覚えていくということです。ですから音読の役回りを家族ではなく,書生が務めることには一定の意味があったといえそうです。
 明治時代の家庭ではこのような仕方で新聞が読まれていました。当時の識字率がいかほどであったかは分かりませんが,たとえ字が読めなくても,音読してもらうことでその内容を知ることができた人も少なくはなかったのです。新聞を読む,というと僕たちは黙読を容易に類推するでしょう。しかし当時はだれかが音読し,それを複数人で聞くものであったのです。

 プラトンPlatoの存在論が一の存在論で,アリストテレスAristotelēsの存在論が多の存在論であるということは,僕に特有の解釈ではありません。近藤も僕と同じように解しているといって間違いありませんし,存在論を哲学的にあるいは形而上学的に解するなら,これは通説といっていいと思います。
 これでみれば,バディウAlain Badiouがいっていること,すなわち一の存在論から多の存在論へと移行するためには,存在論は数学でなければならないということは,哲学的なあるいは形而上学的な存在論が一の存在論であることを前提としなければならないので,成立していないとみることができます。これ自体はおそらく存在論を純粋な哲学や形而上学からみた場合は当然の結論であるように僕には思えます。ただ,バディウの側から弁明することができないわけではありません。それは,プラトンの存在論は数学としてあるいは数学的に考えることができないものであるけれど,アリストテレスのような存在論は,形式的にも理念的にも数学に該当するような存在論であると規定することです。僕はそのような規定ができるかどうかは分かりませんので,バディウがそのように主張できる可能性があるということは認めておきます。したがってこの点についてはこれ以上は追及しません。
 ところで,ここまでのことからすでに,バディウがスピノザの哲学を批判することの一端が僕には分かります。というのは,もし存在論を一の存在論と多の存在論に分類するなら,あるいは同じことですが存在論をプラトン的なものとアリストテレス的なものとに分類するならば,スピノザの哲学の存在論は明らかにプラトン的な一の存在論の方に属するからです。これは次のように説明することができます。
 第一部公理一から,ものは存在するならそれ自身のうちにあるesse in seかほかのもののうちにあるかのどちらかです。ところで,ほかのもののうちにあるものにとってのほかのものは,それ自身のうちにあるもの以外にありません。そのどちらかしか存在しないのですからこれは自明です。したがってこれをいい換えると,存在するものはそれ自身のうちにあるか,それ自身のうちにあるもののうちにあるのです。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 羽田盃&プラトンとアリスト... | トップ | 印象的な将棋⑯-6&スピノザ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

歌・小説」カテゴリの最新記事