スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

ヘーゲルかスピノザか&疑問の前提

2014-12-10 19:04:55 | 哲学
 スピノザが断ったハイデルベルク大学の哲学正教授の地位に,後にヘーゲルが就任したエピソードから,マシュレの『ヘーゲルかスピノザか』は始まっています。考察の中でも何度か取り上げた本なのですが,詳しくは紹介していませんでしたので,遅まきながらここで短評しておきます。
                         
 僕が持っているのは新評論から出版されているもので,新装版とあります。マシュレのフランス語版が出たのが1979年。1986年に日本語訳の初版が出版され,新装版は1988年に第1刷発行となっています。とくに説明されていませんから,装丁だけが変わったものと考えてよいでしょう。
 訳者あとがきの中に,マシュレのことばが引用されています。それによれば,マシュレが本の題名を『ヘーゲルとスピノザ』とせず,『ヘーゲルかスピノザか』としたのは,単に両者の哲学体系を比較するということは問題外なのであり,むしろ両者の間での活発な対決を考えることに意義があるからだとしています。そして同時にこのことばが,この本の内容をよく示しているといえるでしょう。ただし,スピノザとヘーゲルでは,生きた時代がまったく違います。ですから一般的にいえば,対決というのは,ヘーゲルによるスピノザとの対決ということになります。ヘーゲル自身はその対決に勝ったと思っていましたし,ヘーゲルに軍配を上げる学者もいるでしょう。ただ,マシュレはどちらかといえば,勝ったというのはヘーゲルの思いこみにすぎないという立場にあるといえます。
 もしもヘーゲルがその対決を意識していなかったのなら,この本はただ著者の自己満足にすぎません。しかしヘーゲルは,哲学をするためにはまずスピノザ主義者にならなければいけないといったほどスピノザを強く意識していました。だからヘーゲルとスピノザの対決を考察することには,大きな意義があるのです。ただ、僕はヘーゲルの哲学を詳しく研究したことはありませんから,内容についての論評は控えておきます。
                         
 マシュレは現代思想の1996年11月臨時増刊の総特集スピノザでインタビューを受けています。そこでもこの本について触れられています。

 ライプニッツの疑問には,それが成立するためのひとつの条件があります。それが成立していないと,疑問を呈するということ自体が許容されなくなるような条件です。結論からいうとこの条件は成立しているので,それ自体を探求することは無意味なのですが,今回の考察ではある重要性が潜んでいると思われるので,これについても考えておきます。
 ライプニッツの疑問は,たとえばAという実体にXとYというふたつの属性が属することを前提としています。しかし,もしも単一の実体には単一の属性だけが属する,いい換えればある実体は単一の属性によって本性を構成されるということであれば,この仮定自体が不条理であるということになります。なので疑問として成立しないことになるでしょう。そしてこの場合には,第一部定理五が無条件で成立することになります。
 もちろんライプニッツがそこまで愚かな疑問を提出する筈がありません。スピノザは単一の実体が複数の属性によって本性を構成され得るということを是認します。そもそも第一部定義六が,神という実体の本性は無限に多くの属性によって構成されるといっていることから,このことは明らかだといえます。
 ただし,ここでは第一部定義六をライプニッツの疑問が成立している条件であるとは規定しません。というのは,僕はこの定義に関しては,名目的ではなく,実在的であると解するからです。これも何度かいったことですが,第一部定理一一第三の証明が,第一部定義六だけに依拠しているということは,第一部定義六自体のうちに,神が実在するということが含まれていると考えるべきだと思うからです。
 これに対して第一部定理五は実在的には考えることができません。したがって,実体というのが名目的にいわれる場合にも,単一の実体が複数の属性によって本性を構成され得るということを,スピノザが認めているということを明らかにしておく必要があることになります。
 厳密にいいますと,必要があるというのは,疑問のためではありません。むしろ考察のために必要なのです。デカルト,スピノザ,ライプニッツの考え方を比較したいのです。

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