スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

ライプニッツのスピノザ評&背理法による証明

2017-08-14 19:05:07 | 哲学
 グレフィウスの報知に対するライプニッツの返事については,スチュアートが『宮廷人と異端者』の中で,たぶん独特と思えるような論評をしています。ふたつあるので,ひとつずつ紹介していきます。
                                     
 まずスチュアートは,手紙の文面の中の,明らかに教養があると思える人間がこのような低きに堕落するとは嘆かわしいという部分に注目します。この文章は確かにスピノザを論難する内容にはなっているのですが,同時にライプニッツGottfried Wilhelm Leibnizは明らかにスピノザを教養がある人物とみなしていると解釈するのです。
 スチュアートはライプニッツのスピノザに対するこの評価を,スピノザに怒り狂っているライプニッツの仲間の大部分とは違った評価であるといっています。確かにライプニッツが一面ではスピノザを評価していたのは疑い得ないでしょう。そしてライプニッツという宮廷人の仲間たちの多くは,ライプニッツとは違った評価をしていたのかもしれません。でも,それがライプニッツに特有の評価とまではいえないであろうことは,スチュアート自身が仲間の大部分といっていることからも明らかです。これは逆にいえば,スピノザを評価する人も少数ながら存在したという意味だからです。たとえば書簡四十二を読む限り,フェルトホイゼンLambert van Velthuysenはスピノザの教養については一定程度の評価をしていただろうと僕は思います。また,これはここでスチュアートがいっている仲間からは外れるだろうと思いますが,書簡六十七の二を読む限り,ステノNicola Stenoもスピノザの教養を評価しているのは間違いないといえるでしょう。
 ライプニッツがスピノザの教養を評価していたということについては,後にスピノザとライプニッツが文通するようになり,ついには面会したという歴史的事実から明らかでしょう。それはライプニッツにとってスピノザが,哲学的対話を交わすべき人物として認識されていたということの証明だといえるからです。

 同一の本性essentiaを有する複数のものが存在するというのは,数え上げることによって区別できるいくつかのものが存在し,かつそれらは同じ本性を有しているということです。あまりに当然のことをいっているようにみえるかもしれませんが,数え上げることによって区別することが可能であるということが,この場合の論証にはとても重要なのです。
 複数というのはふたつ以上ということであり,それ以上であればいくつでも構いません。人間の知性intellectusは有限finitumなので,たとえ有限数であっても現実的に数え上げることは不可能である,あるいは困難であるという場合はあり得ますが,たとえそのような場合であったとしても,論理的には数によって区別することができるということが分かっているなら十分です。そこでここではその数を10であると仮定してみます。これは2以上の有限数であるならどんな場合でも同様になります。
 次に,単に数えることによって区別することができる10のものがあるというだけではこの場合には十分ではありません。それらが同一の本性を有するということになっているからです。ただし,この本性というのは,たとえば物体corpusというような,きわめて幅の広い本性であっても構いません。しかしここでは10人の人間ということにしておきましょう。どのような場合であれ,同一の本性を有していれば同じように成立するということは先に留意しておいてください。
 第一部公理三は,一定の原因が与えられれば必然的にnecessario結果は発生し,原因が与えられなければ結果が発生することは不可能であるということを示していました。ここでは10人の人間が存在するということが仮定となっています。すなわち,10人の人間が存在するということが必然的に何らかの原因によって決定されているということになります。そしてその原因はそれ自身のうちにあるesse in se,すなわち人間の本性humana natura,natura humanaのうちにあるか,それともその外部にあるかのどちらかです。しかしそれは人間の本性のうちにはあり得ません。もしそれが人間の本性のうちにあると主張するならば,10人が存在するということが人間の本性のうちに含まれるといわなければならないからです。
コメント
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