スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

渡る世間は鬼ばかり&第一部定理一

2011-04-17 18:24:12 | 歌・小説
 僕は大学を卒業して就職した後,少しの期間になりますがその勤務先に併設されていた宿舎で生活をしていました。もう20年近く前のことになります。ここは2人部屋で,隣の部屋で生活することになった同僚のひとりが,テレビドラマの「渡る世間は鬼ばかり」を視ていました。大学を卒業したばかりの人間が視るようなドラマであるという印象が当時の僕にはなかったので,この話を聞いたときにはびっくりしたのですが,物は試しだからと,興味本位ではありましたが,僕も視てみることにしたのです。しかし何回か視ているうちに,どうしてもおかしくなってしまい,すぐにやめたのです。
 僕がこのドラマを視ておかしくなってしまった理由というのは,とにかく登場人物がよく喋る人ばかりだったからです。人間というのはこんなに喋るものではないという気がしまして,アンリアルなものに感じられたのです。
 ドストエフスキーの小説が濃密な理由のひとつとして,会話の分量が多いということを僕は示しました。それでいうなら,ドストエフスキーの小説もまた,アンリアルでおかしなものと感じそうなものですが,実際にはそうはなりませんでした。ではどこに差異があったのかといえば,それは冗長の理由というところにあります。つまり,ドストエフスキーの小説の登場人物の冗長には,僕には確かにある理由というか必然性が感じ取れたのですが,「渡る世間は鬼ばかり」の登場人物の冗長には,それが少しも感じられなかったのです。
 実際に,よく喋る人間が現実的に存在するということ自体は僕も認めます。「渡る世間は鬼ばかり」のように,だれもかれも喋りまくるというのは,本当はおかしいことは思いますが,それ自体は許せないことではありません。しかし,たとえばドストエフスキー小説の登場人物が,自らの考えや情念を的確に表現できないがゆえに冗長になる,そして僕はここにある種のリアルさを感じ取るわけですが,対して「渡る世間は鬼ばかり」の登場人物は,非常に的確に自分の精神に浮かんでいることをことばとして表現しているのです。
 人間というのはこんなに喋るものではない,そしてそれだけではなく,人間というのはこんなに正しく自分の気持ちをことばにできるものではない。僕がこのドラマをおかしいと感じたのには,そういった理由もあったのです。

 一方で,第一部定義三の立場が名目的であるからといって,直ちに第一部定義四も名目的定義であると理解しなければならないというわけではないと僕が考えていることは,すでに説明した通りです。なぜなら,はっきりと名目的部分としか考えられない第一部定理五とか第一部定理六に示されている実体substantiaというのは,第一部定義三で示されている実体であると考えるほかありませんが,第一部定義四に示されている実体というのは,それを認識論と実在論のどちらの立場から解釈するにせよ,第一部定義三で示されている実体ではないと考える余地があると思われるからです。そこでこちらの方の考え方を補強するための議論を進めていくことにします。
 まず,第一部公理一というのは,第一部定義三と第一部定義五から,自然Naturaのうちには実体と様態modiだけが存在し,ほかのものは存在しないということを意味します。しかし同時に,様態はほかのもののうちにあるといわれていて,様態のほかのものは実体しかないといわれているのですから,つまりは実体と,実体のうちにあるものとしての様態だけが存在し,ほかのものは存在しないということも,単にこの公理Axiomaから明らかになっているといえるでしょう。そしてそうであるならば,もしも様態が存在するのであれば,その様態をうちに含むものとしての実体もまた存在していなければならないということ,つまり様態の存在existentiaには実体の存在が必要条件であるということが,すでにこの公理から導かれていると理解できます。これを示しているのが第一部定理一です。
 「実体は本性上その変状に先立つ」。
 すでに上述のことでこの定理Propositioは証明されていますから,ここではそれ以上の説明はしません。
 次に,この証明Demonstratioは,名目的定義である第一部定義三を証明のために必要としています。よってこの定理が実在的であると考えることは不可能です。つまりこの定理の意味は,実体が様態よりも先立って実在しているということではなく,もしもそれらが実在するとしたら,様態の実在には実体の実在が先立っていなければならない,ということになるでしょう。つまり,この段階ではまだ,実体および様態の実在というものが明示されているはいえないということになります。
コメント
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