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京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

子どもの自殺防止策をめぐって(2)

2011-09-10 11:06:50 | 受験・学校

今日は大阪維新の会の教育基本条例(素案)の話ではなくて、子どもの自殺防止に関する話を久しぶりに書きます。この話も長くなりそうなので、時間の許す範囲でコメントを書いて、続きはまた別の機会にします。たぶん、不定期更新になりますが。

さて、文部科学省の初等中等教育局長名で、各都道府県・指定都市教育長、各都道府県知事などに宛てて、今年6月、「児童生徒の自殺が起きたときの背景調査の在り方について(通知)」が出されました。この通知は、「平成22年度児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議」の「まとめ」などを受けて、今後、子どもの自殺や自殺が疑われる死亡事案が起きた時に、各学校や教育委員会が実施する「背景調査」の在り方について周知するものです。また、文科省としては、上記の調査研究協力者会議の報告やこの通知の内容を踏まえて、各都道府県・指定都市教育長などが域内の学校・教育委員会等に対して、「適切な背景調査がなされるよう」指導することも求めています。

では、文科省としては、具体的に子どもの自殺やそれが疑われる死亡事案が発生した時に、学校や教育行政はどのような対応をするべきだと考えているのでしょうか。以下、この通知のうち「1 基本的な考え方」の部分を、色を変えて引用し、黒字でコメントしてておきます。

(1)背景調査は、その後の自殺防止に資する観点から、万が一児童生徒の自殺又は自殺が疑われる死亡事案(以下「自殺等事案」という。)が起きたときに、学校又は教育委員会が主体的に行う必要があること。その際、当該死亡した児童生徒(以下「当該児童生徒」という。)が自殺に至るまでに起きた事実について調査するのみならず、できる限り、それらの事実の影響についての分析評価を行い、自殺防止のための課題について検討することが重要であること。

これでわかるとおり、少なくとも文科省としては、2011年6月以降に起きた子どもの自殺等事案については学校・教育委員会が主体となって、その事実経過を調査し、自殺防止の課題について検討することが必要だと考えているわけです。ですから、各学校や教育委員会が今後、文科省の出したこの通知に沿ってどう動くのか。それぞれの子どもの自殺事案に即して、注意深く見守っていく必要があります。

(2)自殺の要因は一つではなく、その多くは複数の要因からなる複雑な現象であることから、学校及び教育委員会は、背景調査において、当該児童生徒が置かれていた状況として、学校における出来事などの学校に関わる背景が主たる調査となるほか、病気などの個人的な背景や家庭にかかわる背景についても対象となり得ることを認識する必要があること。

この文章、読みようによっては、学校や教育委員会が個人や家庭の背景を重視した調査を行って、そちらに子どもの自殺の要因を導き出すことを可能にしているとも読めます。また、少なくともこのように文科省が書いた以上は、学校や教育委員会の側が、家庭や個人の背景と同じくらい、自殺前に子どもが置かれていた学校の状況についてきちんと調査することが求められている、とも読むことができます。そこで今後、学校や教育委員会の行う調査が、学校の抱える諸課題に対する調査より個人や家庭の背景に関する調査を重視するものにならないよう、その動きを見守る必要があります。

(3)学校、教育委員会又は学校若しくは教育委員会が設置する2(4)の調査委員会(以下「調査の実施主体」という。)は、背景調査に当たり、遺族が、当該児童生徒を最も身近に知り、また、背景調査について切実な心情を持つことを認識し、その要望・意見を十分に聴取するとともに、できる限りの配慮と説明を行う必要があること。また、在校生及びその保護者に対しても、調査の実施主体ができる限りの配慮と説明を行うことが重要であること。

この(3)の文章は、遺族側にとってはきわめて重要です。もしも今後、子どもの自殺事案が起きたときに、その子どもの遺族に対して学校・教育委員会、あるいは調査委員会などが適切な説明・配慮を行うことや、あるいは要望・意見聴取の機会を設けることを怠っているとしたら、それは大きな問題になります。今回の文科省通知の内容で、遺族側にとって一番重要な点は、ここではないでしょうか?

ちなみに、文科省側は子どもの自殺事案が起きたときに、外部の専門家などによる調査委員会の設置について、今回の通知で踏み込んだ案を出しています。この点については、次回以降のブログ更新の際にコメントしたいと思います(とはいえ、不定期更新になりそうですが)。

(4)学校及び教育委員会は、調査委員会を設置して背景調査が行われる場合、調査委員会に積極的に協力することが重要であること。

これは当然と言えばそうですが・・・・。

(5)学校及び教育委員会は、児童生徒の自殺の防止に努めるのみならず、万が一自殺等事案が起きたときに備えて、平素から、事後の緊急の対応や背景調査を行うことができるよう取り組む必要があること。

これも、当然と言えばそのとりです。ですが、文科省が言うことを本気で各地の学校・教育委員会がやろうとしたら、私などは最低でも①過去にさかのぼっての子どもの自殺事案の検証作業を、学校の教職員と外部の専門家、教育行政のスタッフで行うこと。②①の事案の検証については、子どもが死に至るまでの経過の検証とともに、これまでの事後対応(特に遺族への対応と事実関係の調査の在り方)についての検証も行うこと。③①②の作業のために必要な人的・物的・金銭的な裏付けを教育行政の条件整備として行うこと。この3つのことがないと、実際にはこの通知の趣旨のとおり動かないのではないかと思います。ですから、文科省が本気で各地の学校や教育行政について、子どもの自殺事案発生時に適切に対応できるような体制を持たせるような方向で動くのであれば、単に通知を出すだけでなく、上記③の部分にも力を入れてほしいと思います。

今日のところはひとまず、この文科省通知に対するコメントは、いったんここで終えておきます。続きはまた別の機会に書きます。


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