昨日、今日、明日と3日間にわたって、名古屋大学で日本教育学会が開催されています。その1日目である昨日、ラウンドテーブル「大阪府・市の教育政策動向をどうとらえるか」で、私は「大阪府・市の教育政策の動向と子どもの権利保障」というテーマで報告をしました。報告内容及びその後の討議のなかで話した内容は、だいたい、次のとおりです。
私の印象では、先行研究での大阪府・市の教育政策に関する議論は、国旗・国歌の問題や教育行政・職員・学校の3つの基本条例(教育3条例)、学校選択制や学力テストの結果公開、公立高校の学区再編など、学校に関するものが中心であったように思います。このような先行研究の議論から少し視点をずらし、「子どもの権利保障」という視点に立ってみて、さて、どのような議論ができるかを考えてみよう、というのが、今回の報告の趣旨でした。
たとえば「市政改革プラン」で出てきたような市民交流施設、社会教育・生涯学習施設の統廃合や、保育・子育て支援関連の諸事業の縮小、こども相談センターのサテライト(かつての「ほっとスペース」)の事業縮小、そして「子どもの家事業」のこと、等々。こうしたことが、「子どもの権利保障」という観点に立った場合、学校にまつわる諸政策に加えて、大阪の教育政策を論じるときには付け加わります。学校が教育3条例や学力テストの問題などでさまざまな矛盾を抱えるようになっていきますが、そこへ、学校外や就学前の子どもの育つ環境の変化から生まれる矛盾が付け加わるわけですよね。そのなかで、子どもに二重三重のしわよせがやってくることになります。
また、大阪市の教育行政基本条例を見ると、ところどころに「子どもの最善の利益」や「子どもの意見の尊重」といったような、一見、子どもの権利条約の趣旨を尊重したかのような文言が入っています。これは大阪府の教育行政基本条例にはない特徴かと思います。ですが、子どもの意見を聞くことが教員管理につながるとか(たとえば、教員評価や授業評価アンケートをするなど)、「子どもの最善の利益」を「グローバル社会を生き抜く学力形成だ」」と理解する立場に立つとか、そういう理解が大阪市の教育行政基本条例には可能になっているわけです。
そして、大阪市の教育行政基本条例には家庭教育振興に関する条文(8条2項)がありますし、平松氏長期に子どもの虐待防止に関する条例をつくって、子育て支援の充実に向けて動いていますが、その一方で大阪維新の会・市議団は5月に例の「家庭教育支援条例案」をつくって、批判を受けて撤回したとか。また、社会教育や生涯学習に関する条文も大阪市の教育行政基本条例にはありますが(8条3項)、これも先に述べたように、市民利用施設や社会教育・生涯学習施設の統廃合が「市政改革プラン」で打ち出されています。要するに、教育政策それ自体が矛盾だらけなのですね。
ちなみに、橋下知事就任直後にも大阪府は「財政再建プラン案」で府立青少年会館や国際児童文学館の廃止・他施設との統合や、渡日の子ども支援などの予算の削減を行ったこと。また、大阪府には子ども条例があること。そして、大阪府内には箕面市や豊中市、泉南市のように、子ども条例を制定したり、準備段階に入っている自治体もあるので、潜在的には子どもの権利保障を推進しようという力はあること。あるいは、子どもの権利保障を充実してほしいという観点に立って大阪府・市に対してさまざまな働きかけをするなど、市民レベルでの取り組みもあること。こういうことを話をしました。
うまく伝えられたかどうかわかりませんが、こんな感じで、昨日の報告を行いました。自分としては、この数年の大阪府・市の教育政策の動向、というか「橋下教育改革をどう見るか?」ということについての私の整理・まとめが、ラウンドテーブルでの報告でできたように思いました。ひとまず、このブログでお知らせしておきます。