林竹二著作集〈3〉田中正造 (1985年) 彼は議会入り早々鉱毒問題に出会った。彼は被害民が鉱毒のために亡びるのを救うために、ひとすじに鉱業停止を求めて戦った。十年そのために議会で奮闘した。だが無駄だったのは、それが鉱毒問題を通して正面から明治国家に対決する行為であったからである。彼は議会を捨てて直訴という非常の手段に訴えたのち、政府が鉱毒問題の埋葬地に選んで、手段を選ばず抹殺しようとしている谷中村に入った。人民を代表して議会で戦って、人民を守ることができなかった田中正造は、直接人民の中に入って、人民と共に戦おうとしたのである。 だが谷中に入ることと、谷中の人民の中に入る―その一人になるということとは全く別の事であった。 谷中の苦学は、その核心において、田中正造が谷中の人民と成るための自己との戦いであった。正造は九年にわたる谷中の苦学に堪えて、谷中人民の一人になった。それのみでない。彼は谷中残留民の一人にさえなったのである。 この事によって、彼ははじめて谷中人民の戦いに参加することができた。 谷中の戦いの核心は、残留という事実の中にある。谷中住民は、この行為によって、その実行において明治国家と全面的に、きびしく対決した。この戦いは、谷中人民によって始められていた。田中正造は谷中人民が先に立って歩き始めていた道を人民のあとについて歩みはじめた。彼の前に、一切の戦う手段も方法もつきたところで可能な戦いの道が開けた。(中略) 残留民が示した人民の不屈な自治への意志を抜きにしては、日本を根底から再組織する事業は望むべくもない。したがって、国の再生も、人間の再生もない。―これが田中正造が、さいごにたどりついた核心であった。 (以上、『林竹二著作集3 田中正造 その生涯と思想』筑摩書房、1985年、6~7ページ) 私が大阪市内のもと青少年会館で活動している人々のことを見聞きするたび、思い出すのがこの本。 2007年3月末の条例廃止以後も、例えば子ども会やその保護者会、中学生たちの学習会、識字教室、若者たちのギターや和太鼓などのサークルや、あるいは地元住民のスポーツ活動等々、もと青少年会館をさまざまな形で利用し続けている人たちの存在は、まさに、ここで林竹二のいう「谷中村の残留」のように思えてならないのです。 |
2006年から2007年にかけてすすめられた一連の「施策見直し」のあと、それでもなお、もと青少年会館を含む各地区の拠点施設にふみとどまり、さまざまな地域での学習・文化活動を続けていくということ。また、その活動を、これから予定されている市民交流センターへの施設統廃合以後も継続しようということ。そして、それがたとえ少人数からの出発であっても、自分たちだけになってもやりぬこうということ。
そこに、各地区で活動している人々の「不屈の意志」を見るのは、私だけでしょうか?
各地区で細々とではあっても、何らかの形で自前の活動し続けている人々の「不屈の意志」、「どんなことがあっても、許される限り、地元の施設を使い続けよう」とする人々の意志。
ここをふまえないで、はたして今後、ほんとうに私たちの人権を守り抜くための運動や、それを担う人が育つ教育や学習の取り組みがなりたつのだろうか・・・・。
いろんな人権関係の国際条約・宣言や日本国内の法令(自治体条例含む)も、あるいは、さまざまな人権施策を裏付ける各種の審議会答申や行政計画なども、こうした「どんなことがあっても、自分たちにとって大事な営みは、自分たちの力で守り抜こう」とする「不屈の意志」をもった人々の、地道な、粘り強い取り組みにささえられて、はじめて効果を発揮するのではないでしょうか。そして、行政当局の政策立案担当者の中にも、現場最前線の行政職員の中にも、きっと、さまざまな人権関連の施策が打ち切り、縮小にあうなかで、それでも粘り強い取り組みをしている方がいることでしょう。
この「粘り強く活動を続けている人々」に、どれだけ今、どこからか借りてきた言葉ではなく、自らの経験をくぐらせた言葉で語ることができるのだろうか・・・・。
私は今、そんなことをしばしば、思います。また、その問いかけのなかに、自分の思想やこれまで学んできたこと、これから学ぼうとすることがすべて、集約的に現れてくるのではないか、とすら思っています。そして、人権教育といおうが、解放教育といおうが、言葉はどちらでもかまわないのですが、その営みの「根っこ」には、こうした「粘り強く活動を続けている人々」と共に苦しむ、悩む「共苦」ともいうべき作業が必要なのではないでしょうか。
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