おかげさまで、今日の「体罰をみんなで考えるネットワーク2016夏のつどい」は、40人近い方のご参加により、無事に終了することができました。この場をお借りして、ひとことお礼申し上げます。
また、内容的にも今回は第一部・第二部と二部構成で、とても充実したものになりました。報告を準備していただいた田村公江さん(龍谷大学)、中村哲也さん(高知大学)のおふたりに、あらためまして感謝いたします。
さて、第一部・第二部それぞれの概要と、私からのコメントを書いておきます。
<第一部>
第一部では、田村さんに翻訳していただいた「若いアスリートのための権利の章典」を使って、子どものスポーツに関する諸権利について学びました。アメリカの「健康、体育、レクリエーション、ダンスのためのアメリカ連盟」が1979年につくった章典で、いくつかのアメリカのスポーツ団体がホームページ上などで紹介しているものです。その内容は、たとえば次のとおりです。
・スポーツに参加する権利
・子ども各自の成熟度と能力に見合ったレベルでスポーツに参加する権利
・資格を持つ成人の指導者を持つ権利
・成人としてではなく子どもとしてプレイする権利
・自分のスポーツ参加における統率や意思決定に与る(あずかる)権利
・安全で健康的な環境においてスポーツに参加する権利
・スポーツ参加のための適切な準備をする権利
・成功を求めて努力するための等しい機会を持つ権利
・尊厳をもって扱われる権利
・スポーツを楽しむ権利
こうした子どもたちのスポーツに関する諸権利、日本の学校スポーツ及び学校外の地域でのスポーツの両方において、どのような形で実現しているのでしょうか?
今後、私たちのネットワークの「つどい」で、実際に子どもたちの学校内外のスポーツ活動のありようについて、この権利の章典に即して検討してみたいな、と思いました。
なお、私たちのネットワークでは、今年12月に開催予定の「子どもの権利条約フォーラム関西」でも分科会の場をひとつお借りして、この権利の章典について何らかの形で触れる場を設けたいと考えています。そのこともお知らせしておきます。
<第二部>
続いて第二部では「スポーツと体罰の関係史~高校・大学野球を中心に~」と題して、中村さんから日本の近代スポーツのあゆみ、特に学生野球の歴史と「体罰」の関係について、かなり具体的な例もふまえつつご報告をいただきました。
特に、学生野球が日本社会に普及しはじめた当初は「平等な関係」「先輩・後輩関係が緩い」などの特徴があったようですが、それが1920年代以後、全国大会の開催など競技に求められるレベルが上がるにつれて、対外試合に勝利する体制としてのピラミッド型の組織が学生野球のなかに入るようになったとのこと。そのなかで、監督から選手へ、上級生から下級生への体罰が見られるようになったとのことでした。
一方、敗戦後は野球以外の他のスポーツでも競技人口の拡大や競技レベルの上昇が見られるようになり、それにつれて体罰を使ってでも勝利を追及する動きが現れたとのこと。また、野球界でも増える一方の競技人口のなかで、「勝つこと」や「部員数を減らすために自発的にやめさせる」ことなどのために、「しごき」や「体罰」を頼る傾向が見られるようになったとのことでした。
そして近年はスポーツ推薦入試の制度化、生活指導の場と化する部活、そして指導者の体罰への対応の緩さなどの傾向から、引き続き根強く「体罰」が行使され続けているとのことでした。
以上の概要からもわかるとおり、中村さんのご報告は「体罰」を必要とするスポーツ界、特に学校スポーツを運営する側の事情を掘り下げる点に特徴があります。具体的には「勝つこと」や「部員を減らすこと」などの学校スポーツを運営する側の都合で、「効率」的な意味づけが「体罰」につきまとっているのではないかと考え、歴史的にふりかえって考察をされたというわけですね。
このような刺激的なご報告だったので、質疑応答・討論の約1時間も活発な議論が行われました。
その質疑応答・討論をふまえる形で、中村さんはおわりに、スポーツがあらためて「自由と平等を基盤に」成立するものであってほしいし、そのために「体罰」を含むさまざまな問題点を指摘して、その改善を考えていく必要があるとまとめられました。
はからずも、その中村さんの第二部のまとめが、ちょうど田村さんの第一部で取り上げた権利の章典の内容と重なっていたことが、私としてはとても印象的でした。やはり今、子どものスポーツと「体罰」の関係について問われているのは、「子どもたちのスポーツ文化が何を基盤に成立するべきなのか?」ということではないかと思います。そこに「人権」を置くのか、それとも「勝つための効率のよさ」や「(企業で役に立つ)人材養成」を置くのか。こうした理念的なことが今、問われているのではないか。このように司会をしながら、私は考えました。
以上、今日の「体罰をみんなで考えるネットワーク夏のつどい2016」のご報告でした。