さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
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拳闘見聞の日々。

熱情の技巧派、真の頂点に クロフォード、宿敵スペンスを圧倒

2023-07-31 05:05:26 | 海外ボクシング




そんなことで、オンデマンドからTVと、WOWOWをはしごする日曜日。
全試合張り付いて見ていられたわけではありませんが、追っかけ再生なども駆使しつつ「メイン」はしっかりライブで楽しく見ておりました。


技巧のスイッチヒッター、テレンス・クロフォードが、痩身のサウスポー、しかし修羅の如きアタッカーであるエロール・スペンス相手に、サウスポーで構えて立つスタート。
これは結局、終始固定のまま。結果として完全なサウスポー対決となりました。


クロフォードの右リードパンチの正確さ、威力は圧倒的で、2回半ばには、他人事のような表情で闘うのが常のスペンスに、動揺の色が見える。
これまたポーカーフェイスが売り?のクロフォードは、大きな目でじっとスペンスを見ている。
この回、右ボディジャブの応酬から、僅かにバランスを崩した瞬間を逆ワンツーで叩かれたスペンスがダウン。

スペンス、3回から挽回を図って出るが、打つ度に逆ワンツーが来て打たれる。
4回は逆ワンツーのみならず、クロフォードが左フック、ワンツー、ボディへ返し、離れた間はジャブで埋める、という具合に、ワンサイドの様相。
あのスペンスが早々に劣勢、鼻血も出て顔も真っ赤。信じられない光景。


サウスポー対決は右リードジャブの優劣で決まる、という言い尽くされた言葉通りの攻防。
クロフォードのジャブは頻繁に入り、スペンスのそれは効果が乏しい。
スペンスは5回、左フックをクロフォードの首あたりにヒット。6回は身体を寄せてボディから連打と、懸命に攻める。
しかしクロフォード、完全にペースを掴んでいるせいか、動じない。


ポイント劣勢、ヒット数で圧倒され、しかしスペンス攻め続ける。
まさに手負いの虎、というに近い感じだった7回、左を振るって攻めたその出鼻に、クロフォード、ロープを背負った位置から、身体を逃がしもせずに、小さい右アッパーをカウンター。
もう一発左を振ったスペンスが、直後に小さい右をもう一つ当てられ、はじけ飛ぶようにダウン。

スペンス立ち上がって続行するが、クロフォードは長短のパンチを上下に散らし、ヒットを重ねる。
この回終了間際、軌道を変えた右フックを二発決め、ダウンを追加。
ダブルパンチコンビネーション、ではなく、浅いヒットの後、当たったパンチをもう一度外回りから打ち直す、という形。スペンス、もんどり打って倒れる。


この二度のダウンシーンから見えたテレンス・クロフォードというボクサーの内実は、もう、単に巧いとか狙いが鋭いとか言う話ではない。何よりもその冷静さに恐怖しました。
スペンスのような相手であろうが、自分の思う試合運びに乗せてしまえば最後、どんなに強振してこようが恐るるに足らず、単なる標的でしかない、ということか。
そして、このように闘い抜くことこそが、長年に渡り培ってきた、テレンス・クロフォードのボクシングであり、それが今まさに、結実しようとしているのだ、と実感もしました。


8回、絶望的な状況ながら、スペンスは左右の強打を振って迫ってくる。
しかしクロフォード、右リードで突き放し、9回はボディから右フック、左返してまた右フック。
上体を折ったり、揺らいだりするスペンスを的確に続けて捉えると、レフェリーがストップしました。




試合後のクロフォードは、ご陽気な(笑)家族の皆さんと踊ったときを除けば、我々がイメージするアメリカ人的な、周囲のことなど気にせず喜びをまき散らす、という風には見えませんでした。
とりあえず四方に勝利をアピールし終えたら、スペンスの元へ歩み寄って、何ごとか言葉を連ねていて、インタビューでもどこか控えめな印象でした。

世界超一流の力を認められながらも、プロモーターの壁に阻まれ、ビッグマッチに恵まれなかった苦労人。
この試合で敵として戦いながら、対戦合意に至る過程において、敬意や共感の対象ともなったエロール・スペンスへの思いあったが故、なのかもしれません。

オマハという、ボクシングタウンとは言い難い地の出身から、ここまで這い上がってきて、まるで氷のように冷静な闘いぶりでもって、シュガー・レイ・レナードやドン・カリー以来のウェルター級統一王者となっても、しかしその姿には、心中に秘めた、熱い思いが垣間見えたような気がしました。



それにしても、真に世界の頂点を争奪する闘いというのは、どんな展開になっても、その闘いの崇高さが土台にあるが故に、見る者の心を引き付け、平静を失わせ、熱くするものなのだなあ、ということです。
予想外のワンサイドマッチと言えばそうだったしれませんが、敗れたエロール・スペンス(正直、歴戦のダメージも感じた部分はありました)の、終始消えることがなかった果敢にも、闘う男の、王者の誇りが見えたような気がしました。
それはスティーブン・フルトンと井上尚弥の試合でも同様でしたが、ボクシングファンとして、こういう試合は良いものだなあ、と改めて思いました。




あと、個人的にはあまり気にはしない方ですが、P4Pの順位がどうこう、という話は、残念ながらこの人が1位獲っちゃうんだろうなあ、というのが、率直な感想ですね。
解説の村田諒太が、フロイド・メイウェザーでもかなわないのでは、と言っていましたが、本当に同じ時代にいて、闘っていたら?という気になりました。
まあ、メイウェザーなら、相手の良いときは外して組むから(笑)あまり意味のある想定ではなかったりするわけ、ですが...。


そんなことも考えると、改めて、ぎりぎりのタイミングだったかもしれませんが、今回の二人は、実際に闘って見せてくれたのですから、何よりでした。
テレンス・クロフォードとエロール・スペンス、ふたりの偉大な王者に感謝、そして拍手したいと思います。



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5 コメント

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コメントありがとうございます。 (さうぽん)
2023-08-03 18:17:44
>海の猫さん

昨今のヘビー級など、何の冗談かと思いますね。他の階級では対戦があるかと思ったら変な条件ついてたり。でも今回はそういう添加物がない、真の世界タイトルマッチでした。そして勝者クロフォードは、井上尚弥と同様に、世界中を納得させるボクシングを披露してくれましたね。PBCは言えば他のプロモーションが存在しない世界を理想としているのでは、と思います。UFCと似ているのかもしれません。実際そうではない現実との折り合いがついていないのでしょうかね。
PFPの「実際のところ」は、要するに業績の比較ですね。当初の定義が用いられていた頃は、増田茂vsジョー小泉の論争が起こったりもしましたが。
バロンドールも、当初は違う定義だったとかいう話ですね。少し違う話ですが、ジャーナリストの選出じゃなくて選手や監督の投票になった時期は、受賞者が偏る弊害もあったとか。メッシ、ロナウドばかりでなく、2010年はウェズレイ・スナイデルないしはイニエスタ、13年はアリエン・ロッベンが受賞するのが、本来の趣旨だったと。まあ順位付けとかは、とかく色々あるものです。PFPは各媒体ありますが、リング誌のは有識者が話し合った上で投票、というから、形としては昔日のバロンドールに近いのでしょうね。少数の人間が決めた方が収まりは良い、という事例でしょうね。良し悪しありますが。


>モノクマさん

確かに優劣が形勢に出るのが早かったですね。もしそれがあるとしたら、スペンスのローラー作戦が目に見えてクロフォードを追い立てる場合かと思っていたんですが。
試合後になって、減量苦や歴戦のダメージの影響を言う声も聞こえてきますね。負けた試合で良く見えるわけもないですが、確かに身体付きひとつとっても、大きく見えませんでした。
再戦条項については、そういえば試合前に何かあったなあ、という感じですが、あれだけ差がついて、打ち込まれてのストップですから、現実的ではないように思いますが...階級変えて、というのも正直、ピンとこないですね。ジャロン・エニスが最強挑戦者なのだから、予想どうとかいうんじゃなく、受けて、やればいいと思うくらいです。今回の試合見て、エニスじゃかないそうもないからどうのこうの、という声もあるようですが、そりゃやってその通りになるかもしれないけど、そんなの余計なお世話だろう、と思いますね。
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Unknown (モノクマ)
2023-08-01 07:19:25
クロフォードが衰える前になんとか間に合って良かったです

ウェルター級での両者の試合を見ればクロフォードが有利であろうと思っていましたが、中盤から終盤になるにつれ差が出るような試合を予想していたので、想像より早いRでスペンスを圧倒し始めてしまい、驚きましたし、あのタイミングの良さと当てるうまさはやはりすごいですね

スペンスは事故の後遺症だったり減量苦だったりと一部では色々言われいますが、数年前のような力強さを今回の試合では感じませんでした。クロフォードの技術がそうさせた部分も大いにあると思いますが

今後、負けた方に権利がある3戦目までの再戦条項はどうなるんでしょうね。クロフォードもウェルターではエニスくらいしか自分の評価をさらに高める選手はいなさそうですし、やるとしてもSウェルターに舞台を移しそうですかね。そうなると新顔との絡みも気になりますが、クロフォードの残りの時間があまり残っていないと思うので、今回のように待つことなくどんどん試合が組めると嬉しいです
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Unknown (海の猫)
2023-07-31 16:54:34
クロフォードの圧勝は本当に嬉しい。優れたボクサーがそれを証明する場(対戦相手)を与えられ、その力をいかんなく発揮する。本来であれば、数年前に実現すべきカードではありましたが、ギリギリ間に合った。これは「ボクシングの勝利」とすら思います。

実際には対戦せずに「俺の方が強い」「あいつは逃げている」、こんなボクサーの多いこと。PBCはプロモーション全体でそういう空気に持っていこうとするので嫌いなのですよ。この一週間は、単にクロフォード、井上の勝利やPFP争い以上の意味があったと思います。もちろん、試合実現に向けて積極的に動いたスペンスとフルトンも称賛されるべきで、ここからボクシング界が正常な方向に向かって欲しい。

余談ですが、日本メディアはPFPを「同じ体重なら誰が最強か」と説明するのをいい加減やめて欲しいですね。元々はそういう発想だったかもしれませんが、今はそういう考え方で決めているランキングではなく、「今最も優れたボクサーは誰か」とすべきで。同じ体重なら〜とか言うから、「架空」「お遊び」なんて言う人たちが出てくる。サッカーのバロンドールを誰も「無意味」なんて言わないでしょう。そういう類のものかと。
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コメントありがとうございます。 (さうぽん)
2023-07-31 11:44:55
>アラフォーファンさん

相手の強振、強打に全然脅かされず、身体を逃がしもせずに逆ワンツー、右アッパー、その他諸々のカウンター、リターンを当てて行くあの冷静さは、まさに世界チャンピオン、という言葉に相応しいものです。ランキングも井上にとっては残念ながら、1位で妥当でしょう。むしろ比較されている段階で、井上も凄い、という理解で良いんじゃないでしょうか。
セミは地獄のような試合でしたね(笑)。相手がまた何というか、これで勝ち(に、してもらえる)と思うのか、という甘さありありで...案の定、という判定も含め、一番見たくない試合でしたね。メインとの落差たるや、と。
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Unknown (アラフォーファン)
2023-07-31 06:47:31
毎回毎回驚かされます。
あの逆ワンツーでダウン取るパターンなんてほぼ見ない。今までこの方より金露とかが評価されてましたが、毎回私は彼がPFP一位と言ってました。これで文句なしですよね。
右左、距離問わずどこでも当てるパンチを選び実行できる。一撃必殺ではない。必ずナックルを当てて効かせることが主。だから力まない。とはいえスペンスがここまで何もできないとは。最強ですね。
セミまでがつまらない試合だからどうなると思いましたがメインはもう最高すぎる。
素晴らしいお方です
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