昨日は世界ライトヘビー級、三団体統一戦がWOWOWでライブ配信されまして、毎度の通り楽しく見ておりました。
WBC、IBF王者、チェチェンの鉄拳アルツール・ベテルビエフが、アメリカの闘魂ファイター、ジョー・スミスを2回KO。
三団体の王座を手にし、カネロ・アルバレスを破ったWBA王者ディミトリー・ビボル戦へ一歩前進...かどうかはともかくとして、レコードも18戦18勝18KOに伸ばし、その強打者ぶりを見せました。
ジョー・スミスは初回スタートから、長いリーチを伸ばしてワンツーを繰り出し、ベテルビエフの顎に強打を決めようと、仕掛けて出ました。
試合が始まってすぐに見せた、スミスの意志...ベテルビエフの強打を怖れたところで勝機はない、先に仕掛けて「勝負」するのだ、という意志がはっきり見え、試合は早々から緊迫したものになりました。
また、ベテルビエフは強打者の反面、髭で隠した細い顎が弱点で、過去の試合でも打たれ脆さを見せたことがあります。
たいがい、そういう場面の前に相手を叩き伏せてしまうし、長引いた試合でも、慎重に距離で外し、ガードも堅く、強打で威圧、牽制して、リスクを回避していますが。
今回も、スミスの先制攻撃を見て、即座に足で外しにかかったあたり、単に強打を振りかざすだけではない、適切な対応が出来るところを見せていました。
その上で、右強打で迎え撃って、3度(実質4度でしたが)ダウンを奪って2回に仕留めたわけですが、もし対応を誤って、一度でも好打され、スミスに好機を与えたら、その体力と闘志で相手を圧倒するスミスの強さを、ある程度まで引き出してしまっていたかもしれません。
しかし、強敵が強敵たる力を出す前に、適切に対応し、その上で強打の威力と精度で上回ったベテルビエフは、やはり王者たるに相応しい力の持ち主だった、ということでしょう。
再三決めた、振りの小さい右のクロスのみならず、フィニッシュ前など典型ですが、左右アッパーを「詰め」の攻撃に織り込んで、その上でまた右、というあたりは、好機になればなるほど、凶悪な意図を冷静に実行出来る、真の倒し屋ならではの凄みでした。
ボクシングには、早い回で終わったからといって、ワンサイドマッチとか、楽勝だったと簡単に言えない試合がありますが、昨日の試合もそのひとつだったと思います。
この辺は、大きく括れば、先の井上、ドネア再戦と同じだったかなあ、とも。
強者同士の試合でも、早く終わるときは終わるもの、ですね。
セミのロベイシー・ラミレスは、これまた強敵...普通ならそのはずなんですが、エイブラハム・ノバを5回KO。
相手のパワーショットではなく、リードパンチをアタマひとつ分のヘッドスリップで外し、それを端緒に攻めていく天才ぶりを、まざまざと見せつけました。
フィニッシュの左一発も、凄いタイミングで決めましたが、怖いことにフルショットではない。
後ろ足にけっこう重心が残っていて、仮に外されてお返し来ても、躱す準備が出来ていたはずです。
にもかかわらず、あの強烈なフィニッシュを実現するんですから...。
ただ、物凄い才能を持っていますが、まだ情緒面では子供やなあ、と思ったりもします。
この辺がこなれてしまったあとでは、フェザー級では誰も太刀打ちできないんでは、と思うくらいですが。
何しろ今後、目を離せない選手であることは確かです。
そのうち、WOWOWオンデマンドや放送の生中継に、メインイベンターとして出てくる人なのかもしれませんね。
単なる剛腕ではなく、小さく強い正確なパンチを入れる。だから彼は強いんですよね。
ビボルにもし勝っていたとしても金露は彼とやらない、やるにしてもかなり加齢で落ちた後しかやらないつもりなんだと思いましたが、まああんなコンパクトで強いパンチを単発でなく打たれたら嫌ですよね。多分ガードしても痛いんだろうな。
にしても、ゴロフキン様もペテルビエフも、あの打ち方で何で効かせられるの?というパンチを打てる、日本人のボクサーも習得して欲しいですよね。
眼前にジョー・スミスのような男が、勝負賭けて右拳を叩きつけてくる様を見て、即座に外してから強打を返し、巧みな組み立ての攻撃で打ち崩す。そりゃ、世界チャンピオンだから当たり前、と言えばそうでしょうが、やっぱり人間業とは思えないですね。並大抵のボクサーじゃない。感嘆あるのみです。
カネロはまあ、本来のクラスじゃないから仕方ないでしょうが...こちらに比べれば与し易しと見たビボルに、実質的に大敗を喫した現実は厳しいですね。コンパクトな強打というのは、打ち方の強さ自体と、あとは当てる角度とタイミングを相当磨いたもの、というところでしょうか。もちろんロシア系や中央アジアのボクサーが皆、勇利やゴロフキン、ベテルビエフのような強打者でもないですから、基本はより正確に当てる心がけ、なのでしょうね。