ということで一昨日、秋の好カードを見るために、後楽園ホールに突撃してきました。
簡単に感想を。
国内のバンタム級シーン、日本タイトルマッチは昨日の決定戦がまたしても中止になるなど「呪い」はいつまで続くのか、という状況ですが、それ以外のOPBFやWBOアジア、そして無冠戦などにおいて、栗原慶太との「頂上決戦」を制したのをはじめ、日本バンタム級チャンピオンとしての仕事をしてきた、と言える井上拓真が、さらに一階級上げて、こちらは背水の陣、という趣の高速強打レフティー、和氣慎吾と闘う一戦。
試合前の予想としては、全体的な技術レベル、安定度では拓真、スピードと爆発力は和氣。
和氣はスピードでまさる展開で、正対した相手を一打で倒せる「スウィート・スポット」を持つ希有な選手だが、防御は足のスピードが落ちたら最後、技術的には心許ない。
長所と短所がはっきりしている相手に、拓真がその良さをいかにやり過ごし、外して、短所を突いて攻略する流れに持って行けるか。
そういう想像をしながら、試合を見ていました。
初回、和氣がワンツーからスタート。拓真もすぐ返す、こちらはコンパクトなパンチ。
和氣が速いワンツー、ストレート。拓真がリターン、カウンター。和氣の左ストレートを際どく外し、左フックカウンター。拓真か。
和氣はもっと左右に回るフットワークが欲しい。速い足で外し、打ち込む流れで、久我勇作を打ちまくったベストパターンを再現したい。
だが拓真は防御がはるかに巧みで、リターン、カウンターの狙いも厳しく、鋭い。
和氣にしたらどうしても、打ち込める手応えが欲しくなってしまう。その分、足が撥ねるのみで、左右に動いていない。
2回、和氣のワンツー、左ダイレクト。振りが小さく速い。拓真は右カウンター。大振りの右ミスが数回。
和氣のポイントだが、拓真の空振りは、よく見ていると徐々に振りが小さくなってもいる。意図してのことか?
3回も和氣の左、ボディから上に返る。拓真は左から狙うが、プレスをかけきれない。この回も和氣。
終盤、拓真は右へ回る和氣を左フックで狙う。兄の尚弥がダスマリナスを初回早々止めたパンチと同じ。
空振りだが、これも狙いのひとつか、と思っていたら...。
4回早々、和氣が若干、止まり気味。そこに拓真が、左ではなく右のロングフック。まともに決まって和氣、ダウン。
ひとつ狙いあり、と見えた直後、違うことをすぐにやる。相手の裏を取る繰り返しを普通にやれる。
これが「巧者」たる井上拓真の真骨頂ということか。
拓真追撃に出る。しかし、リターンやカウンターの「対応」は鋭いが、詰める段になると精度、威力に不足あり。
和氣も左アッパー返してしのぐ。この回拓真10-8。
5回、和氣が立て直し、左ストレート、ワンツー。拓真は攻め落とそうという風でなく、また普通の攻防に戻った感じ。和氣。
6回、前の回に費やした労力故か、和氣が少し止まり気味。それでも左当てて右へ回る。
拓真は和氣の左に対し、左フックカウンター、浅いが際どい。直後、右ボディから左、右フック上に。
拓真が狙いの多彩さ、切り換えられる能力の高さを見せつける。拓真の回。
7回、和氣は懸命に左ストレートを繰り出すが、拓真の「合わせ」に余裕が見える。
和氣左ストレート、拓真右ストレート、互いに外すが際どく交錯、という場面も。
拓真はこの回、左フックが狙い。その攻め口は多彩で、合わせたり飛び込んだり。和氣の奮闘も、ポイントは拓真。
8回、少し膠着。互いに少し離れ気味。拓真の右ショート狙いが数回。振るなら拓真か。
9回、和氣ワンツー繰り返し出る。左ヒット。アッパーも。肩のスナップで打つ速い左、威力は出ないが決まる。和氣。
10回、和氣苦しいか、手数、ヒット率共に落ちる。前の回良いが次は、という繰り返し。果敢に闘うがどうしても波がある。
拓真は右クロス、ロープ背負っても左フックから攻める。右ボディから連打へ。こちらは爆発的ではないが安定している。拓真。
11回、和氣さらに奮起して出る。左ボディストレート。上体が前にのめっているが、拓真はそれを強打で捉えられない。
拓真右カウンターもミス。和氣の奮戦に場内拍手。手数、攻勢で和氣。
最終回、拓真が和氣の左を外して右を決める。良い流れだったが和氣がなお出て、拓真も応じ「打ち合い」になってしまう。
拓真の右から左のコンビがヒット。拓真の回だが、和氣に見せ場を与えてしまった、という印象も。
判定は三者とも117-110で拓真。ラウンド数でいえば9対3。
さうぽん採点はやや和氣に甘く、115-112で拓真。ラウンド数7対5。
しかし内容的には、技術レベルの差埋められず、クリアな拓真の勝利だと見ました。
井上拓真は、やはり巧く、その巧さを安定して出せる、二重の意味で良い選手だというところを、改めて見せました。
まして相手は本来より上の階級、大柄で、しかも速く、パンチがあって、サウスポー。
普通の選手ならほとんど嫌がらせのようなマッチメイクですが、いつも通りに巧さを見せ、外して合わせ、返し、多彩な狙い、攻め口を見せてダウンを奪い、その後も山場はないが谷もなく、クリアに勝利する。
一言、大した選手だ、というしかありません。それはこれまでの試合同様でした。
しかし国内最強、おそらく東洋でも同じでしょうが、ならばその上は、となったときに、一段上の巧さ、頑健さを持つ相手だと...という疑問も持たれていたわけで、それが今回の、上記したような厳しい条件の試合をクリアしたことで解消されたかというと、微妙な印象でもありました。
それは、あの兄との比較があるから余計に、というのではなく、それがなくても...好機の詰めで精度に欠け、組み立ての妙が失せてしまうところに、変わらず出ていました。
パンチ力自体、けっして無いわけでもないのでしょうが、防御で動いて外せる反面、打ち込むときにどう止まるか、そしてまた動くか、その案配が、兄と比べて上手くいっていない、と見えます。
それは技術か、経験か、精神的なものか。おそらく「成功体験」の乏しさと、自身の耐久力をどう見積もるか、という面も含めた、精神面の話なのかもしれません。
プロボクサーとして、国内上位や王者クラスを全て破ってきた実力者である井上拓真にとり、勝利を勝ち取るための最善、その尽くし方が今のボクシングなのだとしたら、それをどうこう言えようはずもないのですが、しかしまたも毎度のとおり、兄との比較をされてしまう辛さが、変わることなくつきまとう。
今後はバンタムに戻すという談話が陣営から出ていましたが、今後の舵取りは陣営としても頭の痛いところでしょうね。
すぐ世界戦と組むと言っても、兄の4団体統一の妨げになってしまうし、階級変えるといっても、世界どうこうとなると難しい。
ホントに矢吹・力石兄弟のように、階級が全然違う、ということであれば、少なくとも比較してどう、という話だけでも避けられたのかもしれませんが...。
敗れた和氣慎吾、残念ながら内容的には厳しく「差」をつけられてしまった敗戦でした。
そして、これは見る者の目玉の勝手なのかもしれませんが、これまで多くの試合で見てきた切れ味、爆発力、一打の決定力が、今回の試合では目減りして見えてもしまいました。
それは井上拓真の技量故に、でもあったでしょうが、初回早々から、過去と比べてどこかこじんまりとした動きで「まだ打たれても疲れてもいないうちから、こんな感じなのか...」と。
神戸の狭くて天井の低い会場で、あの小國以載戦での完勝を見たのが最初ですが、その強打と個性的なルックスで、スター性抜群のボクサーとして長く活躍した間、何度もその試合ぶりを楽しませてもらいました。
今後について定かな話など何も知りませんが、おそらく...なのかもしれません。長きに渡る健闘に、ファンとして感謝したいと思います。
※写真提供は「ミラーレス機とタブレットと」管理人さんです。
いつもありがとうございます。
和氣さんは、大型サウスポーで、速いしカウンターのセンスがある。ただ左のそのスポット以外はというと、、、ガードしない、打たれ弱い上、その辺の弱点をカバーする戦略の緻密さもないので、世界に出るのは難しい。
これを覆す変身を期待しましたが、ここまでなのか。
上乗せできて欲しいですね。
基本、誰と当てても変な試合にはならないですね。今回も記事に書いたとおり、普通のボクサーならあまりにも厳しい要素だらけのマッチメイクなんですが。
好機を掴む前段の攻防は、それこそ世界上位のものがあると思います。しかし、勝ち味が遅い型で固まってしまったかな、とも思います。それならそのままで勝つ、という道を行くとして、日本や東洋なら通る。しかし、というところですね。
和氣はスピードで防御を補い、強打で仕留める選手ですが、今回はどう見るべきなのか...相手の技量か、彼自身の衰えか。いずれにせよ、ラモナル再戦のKO負け、コロナによる影響で再戦、雪辱の機会が得られず、小國との再戦も流れ、そして今回の完敗と、進退の話も当然出る、そういう段階だと思います。
序盤はどちらに転ぶかわからない展開でしたが、4R、和氣が体を振り始めたところで、右をがっつりもらってしまったのは痛かったですね。
心情的には和氣を応援してましたが、終盤以降は、井上拓真がラフに来た場面以外は、攻め手を封じられた感がありました。
和氣の計量後の写真が。以前よりげっそりしていたようにも思いましたが、井上拓真の技術力と対応力を改めて示した試合に見えました。
しかし、負けた3日後に、YouTubeで(和氣本人が)試合の報告をしているのは、「時代なあ」と思うとともに、ボクサーが「自分の口で語る」ことの大事さも感じました。
なお、この試合と時期をほぼ同じくして、古口トレーナーが亡くなっていたというニュースが出ていましたね(和氣選手本人にも伝わっていたとのニュース記事もありました)。何か一言では言い表すのは難しいですが、ボクシングって、「人と人が絡み合って形作られているものだよなあ」なんてことを思いました。
4回のダウンは、その前の左フック空振りも含め、さまざまに伏線があったのだと思います。会場で見ていて、4回早々、和氣が何故か止まったように見えて、あれ?と思った直後でした。映像でどういう印象になるものかは、見てみないとわかりませんが。
単に年齢だけ見ても、体調面でそういう時期にきているのかもしれませんね。見た印象は若いですが。YouTubeはまた見てみます。本人、辛いところでしょうが、大した男ですね...。
ボクシング版江川こと古口哲、あまりに早いですね。本当に、これも何かの因果というか因縁というか。
自分の採点では118―113で井上拓真の勝ちでした。
ブランクや年齢に和氣も勝てなかった、と言う印象です。
井上拓真の方はいつもより攻撃的に見えました。
世界に向けてアピールしたかったのかもしれません。
ただ、井上拓真は顎が高いのが気になりました。
世界では1つの防御の甘さが命取りだと思いますので、不安材料が分かりましたね。
私はまだ映像確認出来ていません。週末もあれこれ忙しく...。
井上拓真は確かに顎上がるときありますね。広い視野で相手を見られる、リラックスして構えて動ける、という利点もあるんでしょうが、結局は勝敗でその是非を言うしかない、ボクシングの過酷さですね。
畑山隆則がKO負けしたラクバ・シンのワンツーの事だと思いました。
テレビで見てても、ラクバ・シンのワンツーは異常に速かったです。
こうした速いパンチを防ぐのは、顎を引く、と言った基本的な動作が必要、と考えます。
国内、東洋レベルでは多少の防御の悪さでも勝てる試合はあっても、世界レベルでは…、と思ってます。