ということで、山中慎介13度目の防衛戦は、かねてから噂のルイス・ネリーに決定。
お盆の京都で世界戦とは、なんとも意表を突くスケジュールで、
観戦しに行くか否かは正直、迷うところではあります。
同じ「府立」でも、大阪にしてくれたら簡単なのに...と思いますが。
さて、ネリーについては三浦勝夫氏による、この記事が今のところ一番詳しいと思われます。
直近のマルティネス戦前に、計量パスに四苦八苦していたこと、
相手のランキングが直前に急上昇したことなどは、事実として知っておくべきことですね。
しかし、試合ぶりをいくつか見ると、山中にとり手強い部分を確実に持つ相手である、
それもまた、間違いないなと思わざるを得ません。
動画を探すと直近4試合がすぐ見つかります。ざっと見た感想などを。
まず2016年7月30日、ダビ・サンチェス戦。サウスポーがネリー、右がサンチェス。
WBC米大陸バンタム級タイトルマッチ。
初回、サンチェスの右フック、ガードの外を巻く一発を喰う。
しかし左強打をねじ込んで反撃。左ショート、次にアッパー気味のパンチで追撃。
2回、打ち合いで左ボディアッパーを決め、攻勢。
3回、連打から左でサンチェスをロープ際へよろめかせる。ダウンではなし。
4回、L字ガードで誘い左アッパー。対角線のコンビを重ねて攻勢、ボディ連打で倒す。
この回終了後、サンチェスが棄権。
元WBA暫定王者相手に、ネリーがその攻撃力を存分に見せた一戦。
2016年10月22日、リッチー・メプラナム戦。
黒トランクス、白ラインがネリー。青地に赤ラインがメプラナム。
サウスポー同士の対戦。この辺から本格的に山中挑戦を見据えていた?
初回、柔軟なメプラナムが、頭の位置を変える防御で外し、攻め込む。
しかしネリーが左一発合わせる。メプラナム、威圧され、前に出られなくなる。
ネリーが重い右ボディを連発して左へ繋げ、攻勢。
2回早々ネリーが出て連打。左アッパーで転がるようにダウン。
立ったがネリー左一発、二度目のダウンでストップ。
体格で勝る相手とはいえ、サウスポー相手にも違和感なく攻め、圧勝。
2016年12月17日、レイモンド・タブゴン戦。
金髪の右構え、タブゴンはこの前の試合で、ファン・エストラーダ相手に判定まで粘った選手。
初回、タブゴンがジャブを突く。ネリー少し見て立ったかと思ったら、
スリーパンチから左右の重いパンチをあれこれ打ちまくる。強引も強引。
この攻めで威圧しておいて両手を下げ、さらに出る。毎度のパターン。
しかし連打の最中、タブゴンの右を合わされ、不覚のダウン。
2回、正対しての攻防で、タブゴンのジャブ、右も入るが、ネリー強引に攻める。
左右ボディ、ワンツー、上にフック連打、ロープに突き飛ばしてボディ攻撃。
3回、タブゴン勇敢に打ち返すが、4回ネリーが左のレバーパンチから右フックを上に。
連打で詰めて、ストップ。
果敢に打ち返すタブゴンにやや手こずった印象。
正対しての攻防における防御勘、または意識の低さという、ネリーの弱点が見えた一戦。
そしてこちらが、三浦勝夫氏の記事にもあった、直近の試合。
今年3月11日、ヘスス・マルティネス戦。サウスポー同士の一戦。
白地に水色のサイドラインがマルティネス。映像は初回30秒くらいから。
初回、ネリーが右リードを多く出す。当然、後続の連打もスムース。確かに4分くらい闘っている。
2回、低い構えの肩越しに、マルティネスの左ヒット。ネリー少し間を置くが、連打で反撃。
3回、ネリーじりじり出て、ボディから左を上に返す。じっくり見てまた同じパンチを決める。
4回、L字ガードからジャブでセットアップ、左ヒットして連打で追撃。
ゴングと同時に左、マルティネス跪く。ゴングに救われた形だが、この回で棄権。
まだまだ荒いが、ネリーなりに攻防が整ってきたとも言える一戦ではあるか。
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ということで、まずは防御から。
ガードの構えは普通の高さだが、あまり繊細な感覚での防御はない。
普通に構えているときは、足はあまり動かさない。
この時のポジショニングは避ける意識より、打てる位置取りの方に意識が傾いている印象。
試合が進むと、両手を下げて前に出たり、足を使う場面が頻繁にある。
低い構えから上下左右に、自在に強いパンチを連打する。
いわば攻撃の威力で威圧することを、防御の代用にしている面がある。
L字ガードから右ジャブを突いたり、左アッパーをカウンターする構えも見せる。
しかし連打の際、防御に穴が開いている。攻めて相手の手を封じているときは良いが
相手に打てる余地が残っているとき、単発ながら好打され(サンチェス戦)、
ダウンを奪われたりする(タブゴン戦)。
攻撃には、総じて威力があり、厚みがある。
ストレート、フック、アッパー、どの種類のパンチも、割と遠くから打てる印象。
攻める展開になると、連打が切れ目なく続く。「ワンツー止まり」を嫌う風。
大抵三発、或いは四発目まで返す。しかもパンチが左右共に重い。
身体の回転、腕の力、遠心力をフルに生かす打ち方で、当て際が強く、威力がある。的中率もけっこう高い。
この連打の組み合わせは、遠くから左右フックのボディを「散らして」おいて、
ストレートないしはアッパーを上、なおかつインサイドに狙い、続いて左右フックを上、アウトサイドから、
というパターンが基本のように見える。
だが、その連打の繋ぎにおいて、どこまで意識してかは不明なれど、右ボディ→左フック上とか、
左ボディ(レバーパンチの場合もあり)→右フック上など、相手にとって防御しにくい、
いわゆる「対角線のコンビネーション」が多数含まれる。
そうかと思えば左アッパー顔面へカウンター→左ボディストレートとか、
こんなんやられたら相手は辛いなぁ、と思うようなパターンの連打も。
ということで、全体的に見ると、パンチの威力を前提に試合を組み立て、回すタイプ、というところです。
強打で相手を威圧出来る展開においては、無類の強さを発揮しています。
反面、展開によっては雑な、理屈に合わないボクシングをしていて、
力づくでその無理を抑え込めない場合は、意外に脆さを、或いはその兆候を見せてもいます。
で、山中慎介がどう対するべきか、ですが...。
相手の構えの違いによって、展開を想像してみました。
まず立ち上がり、普通に構えている時、右ジャブや左ストレートで叩いておきたいですね。
ネリーのパンチは、フックもストレートの距離で飛んでくるような印象もあるので、
距離には十分、気をつけて欲しいですが、このギャップが山中を苦しめることもありそうです。
L字ガードのときは、ジャブによるセットアップを心がけているか、左アッパー狙いか、です。
右肩のショルダーブロックは、上手いのかどうか、なんとも言いにくいですが、
山中の左が当たりそうな気はします。相手の狙いを外して打ちたいところ。
両手を下げたときは、ネリーが好打の手応えを得たときがほとんどです。
つまり山中が劣勢、ピンチの時ということになります。
ただ、山中がリードする展開で、強引に攻めてくる場合は、打ち時、狙い時でもありましょう。
はっきり言えば、この防御で山中の左を防げるとは思えない、それが結論だったりします。
しかし、最近の試合で、再三ダウンしたり、好打を浴びたりしている山中の姿を考えると、
やはり一度や二度は、何らかの形で、ネリーに好機を与えてしまうのでは、と危惧もします。
右ジャブや足捌きを徹底するより、左ストレートの威力で相手を止める、という風なところは、
物凄く大ざっぱに「大別」すれば、山中もネリーと同様...というのは躊躇しますが、
似ていなくもない...ような気もしなくない...と思ったりします。
ことに「最近の」という条件付きで、山中がネリーと同じ「土俵」に上がる、というような場面が
長く続くようだと、ネリーの強打連打に巻き込まれ...という想像が、現実になるかも知れません。
長きに渡る防衛ロードの果てに、具志堅用高の記録と並ぶ一戦において、
山中慎介の心技体が、高い集中を保ち、研ぎ澄まされたものであれば、充分攻略しえる相手だと思います。
ルイス・エスタバの記録を抜く、12度防衛がかかった一戦において、具志堅がマルチン・バルガスに
快勝した試合は、新記録達成への高い意欲がリングで爆発したかのような、見事な勝利でした。
山中慎介が、次の試合で、同じような姿を見せ、快勝することを、まずは何をおいても期待します。
しかし、この挑戦者は、ひとつ間違った方へ展開が転んだら、全てを力づくで破壊してしまう、
理屈では計れない、爆発的な力を持った相手でもあります。
アンセルモ・モレノのような「格」には遠い、と思う反面、キャリアの上昇期にある選手、
という面も含めて、ある部分ではモレノ以上の脅威ではないか、とも。
当日、会場にて、或いはTVの前にて、我々は極めて高い緊張を強いられることになるのでしょう。
単に、試合が楽しみ、待ち遠しい、というだけでない心境に、今はあります。
もちろん、そのような緊張を、鮮やかに打ち砕いて勝利する、山中慎介の姿を見たいものですが...。