以前、一度だけ生で見たことのあるビック・ダルチニアンは、
試合ぶりがどう、勝敗がどうという以前に、その存在感の凄さが記憶に残るボクサーでした。
リングにふらりと現れたとき、遠くの客席にいるこちらにも、
まるで獲物を求めて目を光らせる、野獣のような佇まいが見えたように思えたものです。
そして昨日、TVの画面に映った彼には、またも同じ恐怖を感じました。
バンタム級転向後、思うように勝利を得られず、日本遠征でも山中慎介に敗れた後、
フェザー級において実現した、仇敵とのリマッチ。
しばらく続いた苦闘の日々を、たった一勝で精算出来る機会が目の前にある。
彼は自らの持つ殺傷本能を、全てさらけ出して、ゴングを待っていました。
その相手たるノニト・ドネアもまた、無人の野をゆく連勝をストップされての再起戦。
こういう状況で、ただでさえ、勝利のためにまず「打倒」を目指す両者です。
試合は初戦以上に、一打の致命傷を狙い合う、猛獣と狙撃手のような闘いになりました。
だいたい、各ラウンドはラスト近くになるまで、狙い合い、探り合いが多く、
ラスト10秒前後からヒットの応酬、という流れでした。
共に一打で致命傷を与えるパンチを持ち、またそれを共に狙っているものだから、
試合に流れというものがなく、突発的に起こるアクションを待つ間、
見てるこちらも息が詰まるような思いでした。
9回、激しい打ち合いからドネアの左が決まり、ダルチニアンが前にダウン。
追撃のさなか、ダルチニアンの打ち方を真似たような左を決めたドネア、直後にストップでしたが
勝負が決まった瞬間、何か興奮すると同時に、やっと一息つけるなぁという安堵もありました。
6年ぶりの再戦、共にフライ級時代からすると、当然スピード感はやや落ちましたが、
同時に、一打の決め手を持つ者同士のスリルは、やや形を変えたものの、まったく死んでませんでしたね。
よく「真剣勝負」なんて言いますが、本当に真剣で斬り合うような闘いでした。
勝ったドネアは、フェザー級ではまだまだ未知数というか、相手次第で苦闘もありそうですが、
この日勝ったWBA王者への挑戦ということになるんでしょうかね。
スーパーバンタム級でも最初はちょっと思うように行かず、西岡戦の快勝まで数試合を要しましたし、
徐々に調整していく可能性もあるでしょうね。
そしてダルチニアン、改めてその、唯一無二の存在に拍手です。
単なる勝利だけでなく「打倒」のために、蛮勇をふるって闘うその姿には、
傍目のあれこれつべこべを吹き飛ばす、蠱惑的な魅力、爽快感がありました。
最近は敗北の数も増えましたが、もうそういうこっちゃないですね。忘れ得ぬ王者のひとりでしょう。
一度だけとはいえ、直に見られたことも含め、有り難いボクサーだったなぁ、と思います...。