角館草履の『実演日記』

〓袖すり合うも多生の縁〓
草履実演での日々の出会いには、互いに何かしらの意味があるのでしょう。さて、今日の出会いは…。

愉しむチカラ。

2010年03月12日 | 実演日記


今日の草履は、彩シリーズ23cm土踏まず付き〔四阡円〕
淡い紫基調の桜花プリントをベースに、合わせはエンジのいらかプリントです。
和の情緒たっぷりに、優しい雰囲気の配色ですね。今日のように穏やかな好天に恵まれると、こうした優しい草履を編みたくなります。

人生のいっときを当地で暮らす、あるいは長く県外で暮らし当地へ戻る。こうした方々との出会いは公開実演で珍しくありません。昨日のブログに綴った、広島県の女性が盛岡市で大学生活を送るといったケースも、そんなひとつでしょう。
環境の異なる馴染みの薄い土地であったにしても、「どうにか愉しく暮らしたい」。これは人間の本能にあると思うんです。それはこの先数年間の場合もあるでしょうし、終の棲家として生涯の場合もあるでしょうね。

仙北市田沢湖にお住まいのおばさまおふたりが、草履コーナーに立ち止まりおしゃべりです。おひとりが以前角館草履を贈り物にいただいたそうで、今なお大事に履いてくださっているそうです。
こちらのおばさまは秋田県内のご出身なんですが、ご主人のお仕事の都合で長く首都圏に暮らし、ご主人の実家である田沢湖へ戻られたのが一年前といいます。確かに生まれは当地でも、首都圏暮らしが長ければなにかと不便もあるかと思いました。

するとおばさまは、『あたしは山が大好きで、春になったら駒ケ岳に登るの。山菜採りもしたいし、野菜も作りたいわぁ』。
お話を聞いていると、老後の田舎暮らしに不安なんてこれっぽっちもありませんね。これからの人生を大自然に触れて愉しく過ごす。そんな意気込みさえ伝わってきました。

島根県のご出身で、ご主人の転勤により北秋田市に三年間暮らしたというご夫婦がお越しくださいました。東京のおともだちとおっしゃるおばさまもご一緒です。奥様とおともだちが角館草履を気に入ってくださり、それぞれ定番配色①をお揃いでお買い上げです。
ご夫婦はこれまで何度か西宮家にお越しとのことで、『レストランで食事して、草履も何度か見ていたんですよ。もう来られるか分からないから、記念に買って行くわっ』。
北秋田市生活も残り僅か、四月にはまた転勤で東京へお戻りなんですね。

ご主人へ、『転勤っていうのは、慣れるもんですか?』とお訊ねすると、『まぁねぇ。でも秋田に来るとは思ってもいませんでしたよ』と苦笑いです。住めば都と言いながら、秋田県という土地は必ずしも暮らしやすいとは言えないように思います。
すると奥様、『でもね、こっちにいる間いろんなところを観て歩いたの。岩手県も何度も行ったわぁ』。

こちらのご夫婦の「愉しむチカラ」は、いろんなところを観て歩くプチ旅行だったわけです。どうせ数年暮らさなければならないなら、ここでしか出来ないことや観られないものを愉しむ。これが生きる本能なんでしょうね。

ふと思いました。角館草履のご愛用者には、転勤族や県外に長く暮らした方が案外多いんです。そうした方々は、「ここにしかないモノ」を敏感に感じ取るのかも知れません。

コメント
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