今日の草履は、北海道釧路市の男性のオーダー草履です。奥様と共にメールによるご注文で、ご主人自らご希望が「黒一色」でした。過去初めてではないにしても、かなり稀なご希望です。角館草履自体が珍しいのですから、配色もご愛用者それぞれに個性的でいいと思います。
ご夫婦草履2足揃って、明日の便で出発です。どうぞお楽しみに~(^^)/
こちらのご夫婦とは一週間ほど前に西宮家で出会いました。お住いが釧路とおっしゃいますから、かつてサラリーマン時代に訪ねた思い出話をしたものです。そのときは甥っこさんの子ども用草履をお買い上げくださり、少し迷いながらご自分用はあきらめたご様子でした。そしてご帰宅後、甥っこさんの喜ぶ姿を見て、どうしてもご自分たち用が欲しいと思ったんですね。メールには実演席での会話が綴られてありました。
四日間のお休みが明けて、草履実演並びに西宮家草履コーナーが再開しました。今日から角館では「雛めぐり」が始まり、お天気の良い週末の初日は思ったより多くのお客様がご来店です。今日は三人の方と草履のご縁が生まれましたが、お買い上げがあってもなくてもご来店は嬉しいものです。草履実演に関心をお寄せくださる方はとても多いですから、まず喋っているだけでも寂しくありませんしね。
四日間のお休みは次女の引っ越しに多くの時間を割きました。一月末日で仙台の病院を退職し、このたびマンションも引き上げてきたわけです。思いがけず早い転居となりましたが、これもまた人生、前へ進む一歩と理解しています。
トラックへの荷積みが思いのほか早く終わり、半日ほど時間が空いた私たちは近くのショッピングモールへ出掛けました。本を探したいというカミさんについて行くと、ふと目に留まる本がありました。大河ドラマでちょっとしたブームでしょうか。
吉田松陰の偉業はいまさらですが、遺した言葉を集めている点に興味があり買ってみました。ヒマがあれば本を読んでいた松陰は、読むだけにとどまらずよく抜き書きをしていたそうです。弟子にも必ずメモをとることを義務付け、「書く」ことには相当固執したみたいですね。出した手紙の数もたいへんなもので、そのため「松陰の言葉」がとても多く遺されているわけです。「読む」→「考える」→「書く」は松陰にとって一連の作業でした。ですから頭に残り、いつでも誰に対してでも雄弁でいられたのでしょう。
松陰の最期は、幕府の意向に反する行いにより処刑されたというのが通説です。もちろん間違いではないのですが、尋問する評定所の役人に訊かれてもないことをベラベラ喋りすぎたことで墓穴を掘った節があります。役人もそこまで喋られれば死罪を申し渡すしか道がなくなったというわけですね。
松陰の雄弁は囚人さえ真人間になるほど説得力がありました。「志」を高く持ち、学問から得た知識に自信の考えを加えるのですから、人から借りた言葉ではありません。でも最期はそれが仇になったとすれば、「口は災いの元」と言えるでしょうか。
松陰先生と比較できるものではありませんが、私もまた実演席では「喋る」のがひとつの仕事です。先の釧路のご夫婦も、今日ご縁があったお三方も、皆さんと喋ることで草履をご理解くださり、これからご愛用者となってくださいます。必ずやお役に立つ草履と信じて、私にとってもお客様にとっても、「口は幸いの元」と思いたいものです。