今日の草履は、彩シリーズ22cm土踏まず付き〔四阡円〕
黄色基調の金魚プリントをベースに、合わせはエンジです。
金魚という季節ではなくなりましたが、鮮やかな黄色に赤金魚が可愛いですね。ほとんど残っていなかった22cmで作りましたので、足の小さめなおばさまにいかがでしょう。
三人娘が所属する手踊り社中を主宰するのは、齢80を超えるおばあちゃん先生です。先生の周囲に「年上」はほとんどいなくなり、文字通りその道の「大御所」と呼ばれて相応しいでしょう。
二年ほど前のこと、社中の周囲に言動の好ましくない男性がおりました。私と同世代のその男性は、先生に対しても礼を失する言動が続き、私も眉間にしわを寄せていたものです。
あるとき先生と私の会話の中にその男性のことが出てきて、先生曰く『あの人は行儀が悪すぎる…』。
「行儀が悪い」、その男性を指して言うのに、これほどストンと腑に落ちる言葉はないと思いましたね。齢80を超える先生にして、40歳代半ばは息子以下の年齢。あまりに自然な名文句に、忘れていた言葉を思い出した気がしたものです。
それから私の頭には、この「行儀が悪い」という言葉がしっかりメモリーされました。ときに自身の言動を振り返り、『ちょっと行儀が悪りぃがったべが…』というふうに反省のひとつにも利用しています。
一昨日のこと、ご年長者のご夫婦二組が実演をご覧でした。それぞれのご主人は時計を気にしながら丸太椅子をお立ちでしたが、奥様おふたりはそのままお残りです。うちのおひとりが残りひとつになっていた22cm草履を見ながら、『この色じゃちょっとねぇ…』。どうやら試し履きに使用している定番配色①がお気に入りのようでした。
私が、『届くまで一週間くらい下されば、作ってお送りしますよっ』といつものように伝えると、『だって持って帰りたいものぉ。じゃあ(展示してある)この草履でガマンするから、いくらかまけてくれない?』。
「ガマン」という言葉にいささかカチンと来ながらも、そこは相手がお客様です。『手作りで編める数が決まってるし、値引きっていうのは誰にもしたことがないんですよ』と言いました。
俗に言う「大阪のおばちゃん」と呼ばれる方々も、よく値引き交渉をされますね。でも私の返答に高笑いしながら、すぐに納得してくださいます。こうした会話は商売上フツーにあることですから、納得さえしてくださればなんのわだかまりも残りません。
それがこの日のおばさまだけは違っていました。『ほかにお客さんもいないんだし、まけてくれたことは誰にも言わないわよ。ガマンしてこの色を買うんだし…』。
それこそ私の「ガマン」が限界です。心掛けて若干の笑顔を残し、『ガマンしてまで買い物なんかしないほうがイイでしょ』。
もうおひとりの奥様のほうが私を気遣い、『ほらっ、お父さんたちが待ってるわよっ』と言いながら連れて行きました。
行儀の悪い子どもは叱ることもできますが、行儀の悪いおとなはなかなか扱いが厄介なものです。このときの私の対応は、ギリギリで行儀を保てたようにも思いますが、これも「ひとのフリ見て…」ですね。
先に登場の先生が「行儀が悪い」と評した男性は、その後間もなく社中の周囲から消えました。今思えばこの男性との関わりで、忘れていた「行儀が悪い」という言葉と再会できたわけです。とは言っても、男性に感謝までは出来ないんですけどね。