<生地詳細・素材感>
今日の草履は、9月9日、青森県弘前市からお越しくださったお母さんのオーダー草履です。お祭り見物そっちのけで配色選びに夢中でしたね。ご家族四人分の土踏まず付き草履、揃って明日の便で出発です。
今日でようやく、お祭りまでのオーダーをすべて作り終えました。やっぱりラストの発送は三週間かかってしまいましたねぇ。お祭り見物がてらオーダーくださったみなさま、一両日中にお手元へ草履が参ります。どうぞお楽しみに~!
9月上旬、北海道から一人旅を愉しんでおられるおばさまがお越しでした。流していたお祭りビデオに見入りながら、『まぁ、子どもたちもみんな頑張ってるっ!』とおっしゃり目を細めておいでです。
「角館は少年非行がはびこる要素に乏しい」、これはかねてからの持論です。その根拠は、お祭りの中で多くのおとなたちと接し、縦社会やしきたりを覚えて行く慣習が根付いているからなんです。
角館の子どもたちは、小さな頃から自分の丁内のヤマに着いて、おとなたちと一緒に重いヤマを引っ張ります。やがて小学校高学年くらいになると、「まま運び」の任務を預かることになります。炊き出しのおにぎりを自分のヤマまで運ぶ、重要な仕事なんですね。
未成年でも出来る多くの仕事を経験しながら、成人を迎える頃には「交渉員」という黄色のタスキを掛けさせてもらえるようになり、ある者は「先導」を拝命しヤマの上に上がります。これらを10年も経験した者が「曳山責任者」に選ばれ、栄誉ある白いタスキを掛けることになります。
少年たちは、やがて巡って来るであろう黄色や白のタスキに夢を馳せ、周囲のおとなたちに教えを請い、また叱責され一年々々を過ごすわけですね。
角館のお祭りには、青田買いのような「ドラフト制度」もありませんし、優秀な人材を金で買う「ヘッドハンティング」もありません。原則として、みんなひとつのヤマで「まま運び」から「曳山責任者」までの出世街道を歩きます。栄誉ある「曳山責任者」が人望を集めるのは、だれもがその人の下積みを見ているからなんでしょうね。
前述の北海道のおばさまにこの話をしたところ、突然大きなため息を漏らし、『あなたの今の話を聞いて、ひとつ分かったことがあるの』。そのお顔からは笑みが消え、深刻さまで感じられました。
こちらのおばさまは地元のコーラスグループに所属していて、おそらくその世界では名の知れたグループなんでしょう、実力を認められて後から入会したように感じました。いわゆる「ヘッドハンティング」ですね。
グループのリーダーをはじめとする幹部はすでに80歳代で、きっとこちらのおばさまが次期候補なんでしょう、それなりの発言力がありそうです。
おばさまが『分かった』と漏らしたのは、最近周囲からおばさまへの態度が冷たく感じられていたとのこと。どうしてなんだろう?と思っていたところにこの話を聞いて、謎が解けたそうです。それは、自身の「横柄さ」だったんです。
グループをここまで成長させた人に対して、「高齢」というだけで蚊帳の外に置いたご自身の言動を思い返し、そのはさはかさを恥じたんですね。
どんな世界でも、下積みがあってこそ苦労と喜びを知り、そこに人望が付いてくるんでしょう。
笑顔が戻ったおばさま、お帰り際に一言残して行かれました。『あなたの草履、二年前に買ったのをまだ履いてるわよ~!』。
これを言われるまで、私の草履愛好者とは知りませんでした。でも良かったです、草履を見るたびにこのときの会話を思い出してくだされば…。