今日の草履は、彩シリーズMグループ23cm土踏まず付き〔4000円〕
ベージュ基調のうさぎプリントをベースに、合わせは紫のうさぎプリント、真ん中に紺基調のひらがなプリントを配してみました。こちらも世界にひとつ限り、一期一会の草履となります。
今日かなりお久しぶりの男性が私を訪ねて見えました。正確には「私を…」ではなく、噂に聞いたという「角館の面白い草履」を訪ねて見えたんです。男性は取引先である樺細工問屋の営業マンに、『角館に面白い草履があるって聞いたんだけど、知ってる?』と訊ね、営業マンは『それなら西宮家にいますよ』という具合にお連れしたというわけです。
そしてその男性のお顔を見て驚きました。15年ぶりくらいでしょうか、かつてサラリーマン時代お世話になっていた大型小売店のバイヤーさんだったんです。バイヤーさんも驚いてましたね、角館の草履職人がかつて取引のあった営業マンなんですから。
バイヤーさんが「角館草履」を訪ねたかった理由は、現在売り場の中に「秋田の手作り品」をコンセプトとした展開を模索中で、その中に草履の展示をイメージしていたからなんだそうです。つまり角館草履を仕入れたいというお申し出でした。
生産量と価格体系の問題から、卸売りはとても困難というご説明をしご理解いただいたわけですが、「仕入れ」ではなく「参考展示」ではどうかと提案されました。言ってみれば「店飾り」、そうした作品をいくつも展示する意向のようです。
今日のところはお互いの事情を説明し、来月下旬再度訪れた際に結論を出すことにしました。
バイヤーさんがお帰りになって、しみじみ現在の職人生活を思い返しています。かつてサラリーマン時代は、こちらから頭を下げて取引を願っていたお相手です。もちろんそれが当たり前の世界でした。それが今は、バイヤーさんが頭を下げてまで私の草履を飾りたいと言ってくださいます。
角館草履は実演と共にのみ展示することを趣旨としてやって来ました。これからもこれを変える気持ちはありません。でも、かつてこちらから取引を願ったお相手が頭を下げてお訪ねくださるときに、これをどこまでも押し通すのが「職人」なのか。果たしてそれは「傲慢」とは言わないのか。
ある地方都市に、比較的専門分野の商品を扱うお店が二軒並んでいるそうです。私は行ったことがありませんから人から聞く話なんですが、一方のお店を見てからもう一方のお店に行くと、店主はその客にモノを売らないと言います。つまり「見比べる」客は要らないということでしょう。
これを「職人気質」と呼ぶ人もいるのか知れませんが、私にはとてもそうは思えません。
今日のバイヤーさんの一件はこの二軒のお店と意味が異なりますが、商いの中に見える「職人気質」と「傲慢」、これは世間がきっと見分けるはずです。