角館草履の『実演日記』

〓袖すり合うも多生の縁〓
草履実演での日々の出会いには、互いに何かしらの意味があるのでしょう。さて、今日の出会いは…。

「職人気質」と「傲慢」。

2008年05月30日 | 実演日記


今日の草履は、彩シリーズMグループ23cm土踏まず付き〔4000円〕
ベージュ基調のうさぎプリントをベースに、合わせは紫のうさぎプリント、真ん中に紺基調のひらがなプリントを配してみました。こちらも世界にひとつ限り、一期一会の草履となります。

今日かなりお久しぶりの男性が私を訪ねて見えました。正確には「私を…」ではなく、噂に聞いたという「角館の面白い草履」を訪ねて見えたんです。男性は取引先である樺細工問屋の営業マンに、『角館に面白い草履があるって聞いたんだけど、知ってる?』と訊ね、営業マンは『それなら西宮家にいますよ』という具合にお連れしたというわけです。
そしてその男性のお顔を見て驚きました。15年ぶりくらいでしょうか、かつてサラリーマン時代お世話になっていた大型小売店のバイヤーさんだったんです。バイヤーさんも驚いてましたね、角館の草履職人がかつて取引のあった営業マンなんですから。

バイヤーさんが「角館草履」を訪ねたかった理由は、現在売り場の中に「秋田の手作り品」をコンセプトとした展開を模索中で、その中に草履の展示をイメージしていたからなんだそうです。つまり角館草履を仕入れたいというお申し出でした。
生産量と価格体系の問題から、卸売りはとても困難というご説明をしご理解いただいたわけですが、「仕入れ」ではなく「参考展示」ではどうかと提案されました。言ってみれば「店飾り」、そうした作品をいくつも展示する意向のようです。
今日のところはお互いの事情を説明し、来月下旬再度訪れた際に結論を出すことにしました。

バイヤーさんがお帰りになって、しみじみ現在の職人生活を思い返しています。かつてサラリーマン時代は、こちらから頭を下げて取引を願っていたお相手です。もちろんそれが当たり前の世界でした。それが今は、バイヤーさんが頭を下げてまで私の草履を飾りたいと言ってくださいます。

角館草履は実演と共にのみ展示することを趣旨としてやって来ました。これからもこれを変える気持ちはありません。でも、かつてこちらから取引を願ったお相手が頭を下げてお訪ねくださるときに、これをどこまでも押し通すのが「職人」なのか。果たしてそれは「傲慢」とは言わないのか。

ある地方都市に、比較的専門分野の商品を扱うお店が二軒並んでいるそうです。私は行ったことがありませんから人から聞く話なんですが、一方のお店を見てからもう一方のお店に行くと、店主はその客にモノを売らないと言います。つまり「見比べる」客は要らないということでしょう。
これを「職人気質」と呼ぶ人もいるのか知れませんが、私にはとてもそうは思えません。

今日のバイヤーさんの一件はこの二軒のお店と意味が異なりますが、商いの中に見える「職人気質」と「傲慢」、これは世間がきっと見分けるはずです。

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「外履き」の想い出。

2008年05月29日 | 実演日記


今日の草履は、彩シリーズLグループ25cm土踏まず付き〔4500円〕
紺の唐草をベースに合わせは紺、真ん中に紺基調の犬プリントを配してみました。紺でまとめた三色使い、シックなお洒落感があると思います。

「今日の草履」はアメリカロサンゼルスにお住まいの、日本人のおばさまがお持ち帰りです。おばさまはロスのご自宅に茶室を作り、そこでアメリカ人をお相手に「茶道」を教えているんだそうです。
『お手洗いに置きたいんだけど、ごめんなさいねぇ』とおっしゃっていましたが、そんなことはございません。聞けば茶室に隣接したトイレのようです。茶道をたしなむアメリカ人が用を足すのに履く草履、これもなかなか面白いと思いました。

どこで履こうが自由ですが、やはり外履きだけはいけません。アスファルトの上を全体重で雑巾がけしているようなものですから、布地がすぐにボロボロになってしまいます。こうご説明するとどなたでもご理解いただけるのですが、実演席で多い言葉が『外も履けると嬉しいのにねっ』。今日もお若い女性に言われました。

三年ほど前、私のこのご説明を無視したひとりの男性がおりました。「外履き」の言葉でどうしてもこのときの男性を思い出してしまいます。
50歳代前半と思しき男性は、名古屋から毎年玉川温泉へ湯治に来ていました。4~5日の滞在期間、毎日昼の時間に里へ降りて遊ぶ方で、最低二度は私の実演席をお訪ねになるものでした。それが二年続きましたか。

はじめてお逢いしたとき二足お買い上げで、その翌日もまたお越しになり遊んで行かれました。いでたちは着流し姿に雪駄履き、“歌舞伎もの”と言ってイイのか分かりませんが、まずそこいらにフツーにいる人物とは異なっていましたね。
二日目に遊びにいらしたとき、『裏にゴムでも貼ったら外で使えるじゃない』と言うので、いわゆるワラ草履スタイルの構造上の欠点をご説明しました。フツーそこでご理解いただけるはずが、こちらの男性だけは違っていたんですね。『まぁ、試してみるよ。オレはなんでも作っちゃうからっ』。

その翌年、一年ぶりにお逢いした男性は、『裏に板ゴム貼って、毎朝ジョギングしたよ。そしたらさぁ、二週間で壊れたねっ』。屈託なく笑う男性に、『だから言ったでしょ』とは言えませんでした。男性はそれはそれで満足だったんですね。
今度は草履台をお買い上げになり、『すぐ壊れるんなら自分で作ればイイわけだっ』。いかにもこちらの男性流の考え方と思ったものです。

そのとき以来、お客様から「外履き」の言葉が出たらこちらの男性のエピソードを紹介しています。次にお逢いしたとき草履の出来を聞くのを楽しみにしていたんですが、それ以降男性はお顔を見せてくれなくなりました。あれだけ毎年の秋田を楽しみにされていたのに、どうしていらっしゃるのかと思っています。
ふと想えば、玉川温泉の湯治目的も聞いていませんでした。まぁ、変なことは考えず、三度目の再会を待つとしましょう。

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職人のイメージ。

2008年05月28日 | 実演日記


今日の草履は、彩シリーズMグループ23cm土踏まず付き〔4000円〕
藍色基調の御殿まりプリントをベースに、合わせはオレンジ基調の花プリント、そして真ん中にエンジを配してみました。楽しさがある可愛い草履に仕上がったと思います。

「今日の草履」は、岐阜県からマイカーの旅を愉しんでおられるご夫婦がお持ち帰りです。奥様は布草履経験者で、「角館草履」の面白さをすぐにご理解くださいました。『試してみようかなっ』と、イ草材料もお買い上げです。編んだ草履を持ってきて見せて欲しいところですが、岐阜県ではそうも行きませんね。愉しい旅をお続けくださいっ!

以前のブログでも触れた気がしますが、「職人」のイメージは一般にどんな感じでしょう。やはり「頑固」「寡黙」「無愛想」なんてのが挙げられそうですね。もちろん世の職人さんたちがすべてそうなんてことはあり得ませんが、角館の草履職人もまたそうしたイメージとはかけ離れています。

今年まだ桜が咲く前のこと、いつものように草履を編んでいました。すると米蔵の中から少し遠めにこちらを観ているおばさまがいます。もう少し近くに寄って下さればお声を掛けたんですが、どのくらい実演に関心があるのか分かりません。ひとまずそのまま様子を見ることにしました。
するとおばさまは近くにいた米蔵スタッフへ、『あの職人さんへ声を掛けてもイイかしら?』と訊いてるんです。そのときはほかにお客様がいなく黙々と編んでいましたから、私がどんな性格か判らなかったんでしょう。

おばさまにそう訊かれた米蔵スタッフがお応えした言葉は、『はいはい~、どんどん話してくださいっ、あの人、かなり喋りますよっ』。
その答え方もどうかと思いましたが、その後会話が弾んだおばさまはご自身用に草履をお買い上げくださいました。

今日、岩手県奥州市で地区の情報誌を発行されているご夫婦がお越しです。最初はそうしたお仕事と知らずいつものように草履のご説明をしていると、『七月号で角館を特集するので、載せてイイですか?』。お断りする理由も特にないので快諾しました。
その後また角館草履のご説明を続けると、『話を聞いてるとなんか欲しくなっちゃうなぁ』と奥様がご自身用をお買い上げくださいました。

どんなふうに掲載されるのか分かりませんが、『みちのくの小京都角館によく喋る職人発見!』かなんかだったら、ちょっと格好がつきませんよねぇ。

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101人目の草履職人。

2008年05月27日 | 実演日記


今日の草履は、彩シリーズMグループ23cm土踏まず付き〔4000円〕
ベージュ基調のうさぎプリントをベースに、合わせは紫のうさぎプリント、そして真ん中に黒のひらがなプリントを配してみました。
春から使用してきた布地たちに、中途に残ったものがずいぶんあります。これから数日は、こうした布地を集めた多色使いをご紹介します。

昨日は驚きの天気でした。雷注意報は聞いていましたが、どこぞに落ちたかのような大雷鳴。そしてバケツをひっくり返したような…では済まない、プールをひっくり返したような土砂降りです。最近こういう雨はなかったですねぇ。
一夜明けて少しはマシになりましたが、今日の角館も寒い一日です。暖冬からはじまった今年は、どうもよく分からない天候が続いていますね。

昨日大雷鳴と共に、101人目の草履職人が誕生しました。秋田市からお越しの母娘ペアさん、午前中に一度お立ち寄りになり関心高く実演をご覧でした。
布草履を編んだことがあるお母さんは「角館草履」に挑戦したい気持ちはあるものの、草履台から一通り揃えると1万円を超えてしまいます。『散歩しながらじっくり考えてみま~す』と、ひとまず武家屋敷への散策に出かけました。

午後一時頃でしたか、こちらの母娘ペアさんが再度お越しです。私が『お帰りなさ~い、決心はつきましたか?』と言うと、『帰ってきたということは…ですねっ』と笑顔でお応えです。
「作る」と決めた方の実演を観る目は真剣そのものです。これまで何人もそうした方の目を見てきました。そんなところに土砂降りと大雷鳴が響いたんですね。お母さんは、『うわぁ、歩いていたときは降らなかったのに、イイときにここへ来たわぁ』。

見本の草履は娘さんがご自身用にお買い上げです。昨日の「今日の草履」がその草履でした。お母さんは草履台にイ草材料6足分、布地材料に編み方ビデオとすべて揃えてお帰りです。『編んだ草履を必ず見せに来てくださいねっ』と言いましたが、ほんとに来て欲しいと思います。
娘さんがお選びの草履に、『私の干支がうさぎなんですよっ』と言うと、『あらっ、私もうさぎなのっ』とお母さん。一回り年上の生徒さんが101人目と相成りました。

「101」と言えば、頭に浮かぶのは「101匹わんちゃん」。久しぶりの愛犬フクの画像は掲示板へ。

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「使わない」ワケ。

2008年05月26日 | 実演日記


今日の草履は、彩シリーズMグループ23cm土踏まず付き〔4000円〕
ベージュ基調のうさぎプリントをベースに、合わせは夜桜です。優しいベージュに夜桜のお洒落がメリハリになっていると思います。

『この草履はもったいなくて履けないねぇ』。実演席ではよく聞かれる言葉で、今日も言われました。もちろん角館草履は実用性に特徴を持っていますから、『そんなこと言わないで履いてくださいよぉ』と応えます。
これに「たとえ話」を加えることを思いつきました。今日のお客様には、『欲しかった車に買い換えて、もったいないからエンジンかけない人はいないでしょっ』。これであれば気分を害すことなく意図が伝わると思います。

こうした事例とまた別に、人はあまりの嬉しさに「使わない」、いや「使えない」場合があります。

昭和三十七年会の仲間のひとりに、ふたりの娘を持つオヤジがいます。しばらく前のこと、上の子がはじめてアルバイトを経験しました。そして得たお給金でオヤジに「ネクタイ」をプレゼントしたんですね。同期生であるオヤジの喜びはいかばかりでしょう。彼は『このネクタイはフツーのものじゃない』とばかりに大事にしまい、普段の仕事で身に着けることをしませんでした。

しかしこれを「良し」としなかったのがプレゼントした本人。長女は毎朝、父親の首から下がったものを見ていました。そしてある日父親に訊くんですね、『気に入らなかったの?』と。

この話を聞いて、大多数の人はオヤジを非難するでしょう。私も彼に、『それはおめぇが悪りぃべっ』と言いました。でも、彼の気持ちもよく分かるんですね。「使わなかった」ではなく「使えなかった」のには、父親の娘に対する愛があるわけです。

一昨日のこと、5月11日のブログでご登場の由利本荘市の女性が、「父の日プレゼント」の草履をお引取りに見えました。そのときのブログにある通り、六月の実演計画が未定のため少し早めにお越し願ったものです。
事前にメールでやりとりした中で、『24日以降でなければ行けませんが、6月1日までには必ず行きますぅ』とありました。お約束の範囲である初日にお見えなのには、ある「ワケ」がありました。

『母の日に贈った草履、ふたりともとっても喜んでくれましたぁ。でも、お義母さんがまだ履いてくれてなくて…。きっと渡すときに、父の日のお義父さんの草履も頼んで来たことを言ったからだと思うんです』。

つまりお義母さんは、お嫁さんからもらった草履を大事に思ったばかりでなく、父の日にもらうであろうご主人と共に“履き初め”し、その歓びを分かち合いたかったんでしょう。これを察知した女性が一日でも早く草履を引き取り、父の日を少し繰り上げて渡そうと考えたわけです。

娘からもらったネクタイをしめられなかった同期生、ご主人の草履が届くまで履かなかった由利本荘市のお義母さん、共に「使わなかった」ワケは“愛”だったんですね。

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ある愛のかたち。

2008年05月25日 | 実演日記


今日の草履は、彩シリーズMグループ23cm土踏まず付き〔4000円〕
藍色基調の御殿まりプリントをベースに、合わせはベージュ基調のうさぎプリントです。秋田おばこ調とも少し違う、お洒落で優しい配色と思います。ベージュという色は優しさを醸すんでしょうね。

「今日の草履」は札幌市からお越しのおばさまがお持ち帰りです。出来上がって展示パネルに置き、10分ほども経っていたでしょうか。少し久しぶりに人気一位定番配色①の23cmもあったのですが、真っ先にこちらをお選びでしたね。出来立てホカホカを感じられたのでしょうか。

兵庫県神戸市にお住まいのおばあちゃん、そして今は茨城県つくば市にお住まいの娘さんとご主人のお三人がお越しです。おばあちゃんは70歳代、娘さんご夫妻は40歳代後半とお見受けしました。
おばあちゃんは杖をご利用でゆっくりしか歩けません。実演席まで来ると、『よいしょっと…』と声を漏らしお座りになりました。すると娘さん、『もぅ、また座るぅ。さっきずいぶん休んだでしょう』。

足がお悪いおばあちゃんに対して、娘さんのこの言葉が少し気になりました。気になったというのは、その言葉を発したときの娘さんのお顔が、意地の悪い人にはとても見えなかったからなんです。
娘さんとご主人がそのまま米蔵の中へ進むと、おばあちゃんも重い腰を上げました。歩き出したおばあちゃんが私に言った言葉は、『娘に言うと叱られるんだけど、神戸の震災で股関節をやられてねぇ。動くのさえイヤなのよ』。

すると娘さんがお手洗いへと戻って見えました。入れ違いのようにおばあちゃんが米蔵の中へと進みます。お手洗いから出てきた娘さんが私へ、『お母さんもこういうのを履いてくれるようならねぇ…』。
私が『足はもう治らないんですか?』とお訊ねすると、娘さんはおばあちゃんが震災の話を私にしたことを察知したんですね。苦笑いされながら、『もう痛くないはずだって病院の先生も言ってるの。あとは自分が治す気にさえなればって…』。

つまり震災で被害に遭われたおばあちゃんは、それ以降多少自暴自棄になっている様子です。足にしてもご自身が治す気持ちで向かいさえすれば、いくつも方策があるんでしょう。
昨年の九月に角館を旅行された娘さんご夫妻が、『素敵な街だから…』と言っておばあちゃんを旅行に連れ出したんですね。きっと角館ならおばあちゃんも喜んで散歩してくれると思ったのでしょう。それがやっぱり歩いてくれない…、さっきの娘さんの言葉はこんな気持ちから出たというわけでした。

聞くだけであれば乱暴に想える言葉も、事情を知れば「ある愛のかたち」なんですね。
後から思い返すに、この事情を知ってからおばあちゃんとじっくりおしゃべりしたかったです。

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地元こそ…。

2008年05月23日 | 実演日記


今日の草履は、彩シリーズMグループ23cm土踏まず付き〔4000円〕
ベージュ基調のうさぎプリントをベースに、合わせは紫のうさぎプリントです。この合わせの紫はこれまで何回か登場しているのですが、うさぎが顔を出してくれたのは今回がはじめてでした。
優しい配色のこちら、温かそうなお母さんにお似合いと思います。

しばらくぶりの夏空となった今日の角館、最高気温は25℃、風も穏やかで少し暑いくらいです。散策のお客様も『暑いくらいねぇ』、それでも雑踏のない今の角館は散策にもってこいですね。

朝一番にお越しは千葉県のおばさま、入って見えるなり『あっ、良かったぁ。草履を買いに来たのっ』。少しのおしゃべりで過去の記憶が蘇りました。お母上が当地の老人施設に入所されているおばさまです。おそらく今日で三度目のお買い上げじゃないでしょうか。
『ともだちにも頼まれて来たから、そうねぇ、三足かなっ』。残り少なくなった展示品からお選びくださいました。
『こっちへは次はいつ頃来るんですか?』とお訊ねすると、『う~ん、母次第だわねぇ』。推測するにお母上のご容態が芳しくないと感じました。聞くと90歳を過ぎているとのこと、人の寿命はいたし方ありません。

夕方近くになってひとりのおばさまが入って見え、ふと草履を見つけると明らかにお顔が変りました。こういうときには間違いなく、「縁」を感じるエピソードが生まれるものです。
『うわぁ、びっくりしたぁ。いえね、布草履を売ってるんじゃないかと思って入って来たんシもの。そしたらいきなり草履編んでる人がいたがら…』。

聞いてみるとおばさまは角館町内の方で、今日は西宮家レストランのコーヒーをお愉しみにいらしたそうです。普段はそのためだけにはなかなか来られないので、歯医者さんへ出かけたついでのご来店と言います。
手作りがご趣味のご友人からいろんなものをプレゼントされる中、なにかご自身も手作りに挑戦したいと思っていたそうです。『最近布草履が流行ってるんシべっ。あたしもそれどごやってみようかと、本は買ってあるんシもの。でもこの草履はスゴいんシなぁ…』。

30分ほど見学された後、今日のところはご自身用の草履をお買い上げくださいました。それが「今日の草履」、願い通り温かい雰囲気のお母さんでした。
近日中に再度、今度はじっくり勉強のためお越しになるそうです。『家が近いがらしょっちゅう来るんシべもの、ほっほっほっ』。

これまで草履台をお買い上げは実に100名、ただその中に角館町内の方は極めて少ないんですね。明確な理由は定かでありませんが、やろうと思えば実演を“いつでも見られる”ことが案外躊躇させるのかも知れません。
それともうひとつ、町の中心にある西宮家には行く気になれば“いつでも行ける”ことで、案外町内在住のお客様が少ないようにも思います。今日のおばさまもそのような趣旨の言葉を言ってましたね。

間もなく西宮家実演上半期が終了します。六月の実演計画は未だ決めていませんが、町内在住者や道行く人が気軽に観られる“路上実演ライブ”、やはり地元への告知はこれに限るでしょう。
無理に勧めるものではもちろんありませんが、せっかくの「角館草履」、ぜひ地元の方にも編んで欲しいとは思いますね。

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巡りめぐって…。

2008年05月22日 | 実演日記


今日の草履は、さくら草履Mグループ24cm土踏まず付き〔6000円〕
桜染め銅媒染をベースに、合わせはエンジです。かば草履の原料はベニヤマザクラの樹皮粉末、このさくら草履の原料はソメイヨシノの桜枝。どちらも桜に違いないので、やはり媒染液が同じだと染め色も極めて近いです。今年の秋は枝垂桜の落葉を編んでみたいと思っています。

今日も多くの方々が実演ベンチにお座りです。夕方になってふと気づいたのですが、今日のおしゃべりにはキーワードがありました。それは、「巡りめぐって…」。

新潟県長岡市からお越しの男性、ひとり旅を愉しんでおられました。男性のかつての職業は「ツアーコンダクター」、角館にもずいぶんお客様をお連れだったそうです。会社は東京にあったそうですが、お体を壊したことを理由に退職してから故郷の長岡にお帰りとのことです。
『昔はいろんなところへ仕事で行ったんだけど、秋田の温泉はゆっくり来たかったんだよねぇ』と男性。秘湯鶴の湯で露天風呂を愉しまれて来たそうです。
仕事で巡った観光地の数々、巡りめぐってご自身の癒しは秋田県。嬉しいじゃないですかっ。

こちらも男性ひとり旅、東京からお越しです。かつての職業は京都で染められた布地の卸販売、やはり日本中を巡ったそうです。私のかつての仕事をお話しすると、とたんに気が合いましたね。
『やっぱり当時の仕事が今の仕事にも活きてるの?』と訊ねられ、『ものづくりそのものより、かつて出張で行った土地からのお客様とは話題が合いますよ』とお応えすると、『いやぁ、分かるなぁ』。
出張を繰り返すサラリーマンの「商品」は様々でも、その苦労はまず同じと言えるでしょう。
角館をとても気に入ってくださり、『やっぱり土地の人と喋らなきゃダメだねっ』。はいっ、同感であります。

仙台市からお越しのご夫婦、奥様は当地のご出身でご主人は秋田市のご出身です。そんなご夫婦が仙台市に居を構えたのは、数年毎に巡る転勤族だったご主人の最後の赴任先が、杜の都仙台だったからだそうです。
奥様曰く、『定年してすぐの頃はやっぱり仙台がイイと思ったのよ。でもこの歳になるとやっぱりふるさとがイイわぁ』。
するとご主人、『そんなふうに言われると私の立場っていうものがさぁ…』。退職金をつぎ込んで購入した仙台の家でしょうから、ご主人の気持ちも分かりますよねぇ。

人は人生の中で、少なからず「巡りめぐる」を経験すると思うんです。それは居住地であったり、職業であったり、仕事の内容であったり。
やがて年齢を重ね落ち着くところに落ち着いたら、そこからあらためていろんなところを観て歩くのがイイと思うんですね。

仙台市の奥様、『久しぶりにゆっくり歩いたわぁ。いやぁ、楽しかったっ!』。
忙しかった頃には見つけられなかった「モノ」や「景色」や「人」、角館はそんな何かが見つけられる街と思うわけです。

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祖国再発見。

2008年05月21日 | 実演日記


今日の草履は、彩シリーズMグループ24cm土踏まず付き〔4000円〕
藍色基調の御殿まりプリントをベースに、合わせは青のいらかです。青系で統一したお洒落な配色ですが、ときおり見える御殿まりの赤が可愛いですね。お洒落で可愛い草履と思います。

「今日の草履」は、秋田市からお越しのおばさまがお買い上げくださいました。ご一緒のおばさまも同一配色でのオーダー、誠にありがとうございます。
こちらのおばさまに、また面白いところを褒められました。『その布を巻くとき、手の筋肉が動くでしょ、それがなんとも職人っぽくてイイわねぇ。それに色白なのねぇ』。
手の筋肉と肌の色、目の付け所も人それぞれです。

お歳の頃は70歳くらいでしょうか、ご夫婦が実演ベンチにお座りです。簡単に草履のご説明をしたところで、『どちらからお出でですか?』とお訊ねすると、『オーストラリアから…』。はっ!?あのオーストラリアですかっ。
聞いてみると、埼玉県に暮らしていたご夫婦が一念発起してオーストラリアに渡ったのは、今から37年前。その後帰国するのは旅行くらいのもので、ずーっとオーストラリア暮らしなんだそうです。
立ち入ったことをうかがうようでしたが、『オーストラリアではどんな仕事をされていたんですか?』とお訊ねすると、『日本語の教師をしてました。学校と自宅両方でね』。
ほんとに人の人生はいろいろです。

マスコミで「角館」の名前を知り、一度訪ねたいと思っていたそうです。ただし、『みんな騒ぐほどどうってことはないと思ってたのよ』。そして続いたお言葉が、『それがなんと来てみてビックリ、どうってことがあるじゃないっ!』。
オーストラリアからはるばる角館を訪ね、大いに満足されたようです。そして次は必ず桜を観ることをご夫婦で誓い合ったと言います。

草履のほうは展示在庫にお気に入りがありませんでした。オーダーいただいたところで海外では手も足も出ません。ご夫婦は、『来年必ず桜を観に来ますから、草履も来年までの楽しみにしておきますよっ』。お帰りには、『あぁ、楽しい時間だったっ!』。
37年前に祖国を離れた“オーストラリア人”のご夫婦が、角館に祖国を見出してくださったのが嬉しいですね。来年必ずお逢いしたいご夫婦です。

「37年」と言えば私たちの昭和三十七年会、昨晩毎月二十日の例会がありました。会場はいつもの同期生のお店、昨晩も旨い料理に舌鼓です。
角館では中学校卒業三十年の年に、同期会を開くのが恒例になっています。ちょうど今年が私たちの番になっていて、そんな話題も出ました。結局昨晩の話では九月のお祭り後に動き出し、2009年の正月開催がひとまずの結論です。

45歳の次は50歳、そしていよいよ還暦のお伊勢さん参りと続きます。今から還暦の話では早過ぎるとの声もありましたが、オーストラリアからお越しのご夫婦もきっと37年はあっと言う間だったと思いますね。

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ふるさとは遠きにありて…。

2008年05月20日 | 実演日記


今日の草履は、さくら草履Mグループ23cm土踏まず付き〔6000円〕
桜染め錫媒染をベースに、合わせはエンジです。錫(すず)媒染は初登場ですね、このように薄い黄色になるとは驚きです。昨日のブログでご紹介の通り、染め原料はソメイヨシノを剪定した枝、面白いものです。

程よい気候が続いていましたが、今日は朝から雨になりました。雨よりヒドかったのは風、今年は風の強い日が多いように感じていましたが、今日の突風も見事です。
隣接するNTTとの境の一部に、目隠しと風除けを兼ねた2メートルほどの黒塀が設置されています。これが今日の風で大きく傾きました。危ないので男性スタッフが撤収したところ、「休憩施設」の建設現場が丸見えになりました。これからは覗かなくても全部見えます。

角館で生まれ育ち、現在東京に暮らす70歳ほどのお父さんが実演ベンチにお座りです。今では生家も縁者も絶え、たまに逢うのは同級生くらい、それでもお墓参りに年に一度必ずふるさとをお訪ねになるそうです。そうして角館との縁を切らずにいる方を、私は尊敬しますね。

かつてご生家のあった場所を聞いて、ちょっと関心が湧きました。そこは現在武家屋敷通りとして賑わう丁内で、観光資料に掲載されている著名な武家屋敷のお隣りです。もし今も生家があったなら、間違いなく角館の一等地でしょう。「武家屋敷商店街」と揶揄される中で少々不謹慎ながら、店舗でも構えたらそれなりの商いは約束されたような場所ですね。

お父さんは言います。『これまでいろんな場所を訪ねてみたけど、角館は武家屋敷があってほんとに良かった。これがなかったらおそらく(町が)死んでたと思うね』。
現在の角館をどんなふうに思うかお訊ねすると、『慌てないで欲しいね。景観を壊さずに、少しずつ進んで行けばイイよ』。

この言葉を聞いて、ふるさとを想う心と親が子を想う心とが重なりました。一般的な親であれば子どもに対して、「慌てず自分らしさをなくさないで、少しずつ成長して欲しい」と思うんじゃないでしょうか。

ふるさとを遠くに眺めながら、愛のある言葉と感じました。

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