角館草履の『実演日記』

〓袖すり合うも多生の縁〓
草履実演での日々の出会いには、互いに何かしらの意味があるのでしょう。さて、今日の出会いは…。

将来への投資。

2014年03月31日 | 実演日記




今日の草履は、彩シリーズ23cm土踏まず付き[四阡六百円]
入荷したばかりの生地に、黒の「古布調」が入っていました。こういう風合いは草履にするとなかなか面白いんですね。エンジのいらかプリントと組み合わせて、「日本昔ばなし」のような草履の出来上がりです。
巻かれてしまうと分からなくなるプリント柄は、カブトムシでありました。



「今日の草履」は出来上がってまもなく、千葉県からお越しのおばさまがお持ち帰りです。外反母趾を気にされていたおばさまは、草履を履くことが足指の運動になるという話をすぐにご理解くださいました。ご帰宅のあと、きっとすぐに履いてくださるでしょう。

草履の健康効果をたびたびお伝えしているところですが、その究極を言えば「足指機能の維持」だと思っています。体に付いた部位で要らないものなどあろうはずがなく、足指とてもちろん同じです。十本の指がそれぞれ動くことによって体のバランスを保つわけですから、これが機能しなくなれば即ち「転倒」を怖れなくてはなりません。

しばらく前このお話をしたときにひとりのおばさまが、『草履を履くってことは、足の将来のためなのねっ』とおっしゃいました。この言葉を聞いてこちらもストンと腑に落ちたものです。その後同じ趣旨の言葉は何人もから聞きました。いわば自分の未来へ対する「投資」というわけですね。
角館草履の耐用年数をひとまず二年として、この期間に五千円の投資が高いのか安いのか、判断はそれぞれでしょう。

少し前の地元紙に、面白い記事が載っていました。北海道にある大学の先生が書いたコラムなんですが、入学したばかりの学生に『一千万円で将来の自分に投資するとしたら、どう使う?』と訊ねるそうです。「好きなものを買う一千万円」ではなく、「自分の将来に役立つ一千万円」というところがミソですね。すると「高級車を乗り回す」なんていう回答はひとつもないそうですよ。

一千万円という金額はとてつもない大金に思えますが、先生に言わせると「生涯所得の5%」という解釈でした。確かに平均500万円の年収で40年間働き、退職金や年金を加えたら一千万円は5%にも及びません。たとえその投資が失敗に終わったとしても、取り返すに可能な金額とありました。おそらく先生は学生たちに、「自分の将来に役立つと思ったら金を惜しむな」と言いたいのでしょう。

この記事を読んで自身を考えてみました。50を過ぎたおっさんが、これからの自分に一千万円を投資するなんてことは現実としてありません。ですから仮の話として考えてみたのですが、どうしても答えが出てこないんですよ。もしかしたら私は、自分に対して投資する価値がないと思っているんでしょうかね。

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母の日ドラマ。

2014年03月30日 | 実演日記




今日の草履は、彩シリーズ24cm土踏まず付き[四阡八百円]
こちらも新柄のひとつで、黒と白のコントラストが楽しいです。洋柄なのであえて和の唐草を組み合わせてみました。まさに和洋折衷草履ですね。ふと思いました、こんな毛色のワンちゃんがいませんでしたかね。
ワンちゃんではないうさぎキャクターが可愛い平生地がこちらです。



除雪で積み上げられた場所以外は、ほとんどの雪が融けました。今日は朝から雨模様の一日で、これもまた雪消しに一役買っています。気温のほうは一桁台後半から二桁台前半というところで、春を感じるに適したところでしょうか。これが15℃を超えると桜の蕾が一気に膨らみます。まず四月二十日以降でしょうね。

桜まつりを飛び越して「母の日」の話題です。一週間ほど前から展示パネルにポップを提げました。



毎年母の日プレゼントに一定の需要があるのですが、なにしろ桜まつりのあとではたくさんの中から選んでいただけるほど在庫が残りません。サイズによっては完売していることも過去にありました。ご自分用であれば少々の日にちをいただくこともできますが、母の日プレゼントの場合その日に渡せなければなにも面白くないですからね。

このポップを提げて翌日、仙台市からお越しのご夫婦が「母の日」第一号のお買い上げとなりました。その後も複数のお客様から、『母の日か、なるほどねっ』の言葉が聞かれています。息子さんや娘さんからお母さんへ手渡されるシーンを思い浮かべると、私も心なしか編む手に力が入りますよ。

今年も実演席で生まれる「母の日ドラマ」。今からとても楽しみな草履職人であります。
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加齢で変わる人の心。

2014年03月28日 | 実演日記




今日の草履は、彩シリーズ24cm土踏まず付き[四阡八百円]
届いたばかりの日暮里仕入れから、まずは春を想わせる優しい配色を選んでみました。朱色基調のベースにピンクの組み合わせが、とても可愛らしく映ります。このところの角館の陽気のように、ちょっとソワソワした気分になりますね。
夕陽を浴びて赤く染まる山々にも見える平生地がこちらです。



昨日のお昼を少し過ぎた頃です。ひとりの男性が草履を選び、『ごはん食べてから来ますので、寄せて置いてください』。その草履に「ご売約品」の札を提げ、『ごゆっくりどうぞ~』と男性を見送りました。実演席でよくある光景です。それがとうとう引き取りに見えず、今日も閉店を迎えました。

どのような事情が発生したのか分かりませんが、自分に身を置き換えたとき、ちょっと理解しがたい心境です。おそらく若い時分の私ならしばらく怒りが収まらなかったでしょう。それが加齢というのは面白いもので、この出来事も笑い話に出来るんですよ。facebookに投稿し、読んだ友達と「笑」のコメントをやりとりしました。

夕方近くお越しの女性は、ご実家が秋田市で現在は茨城県にお住いとのことです。以前草履コーナーに立ち寄られた際に履いてみたいと思いながら、私がほかのお客様とおしゃべりしていたのでご遠慮されたそうです。しばらくぶりでまた角館を訪れ、西宮家にもお立ち寄りくださいました。

ビーチサンダルが大好きとおっしゃる女性には、角館草履もツボにはまったようです。試し履きでその感触を確認され、定番配色③をお選びくださいました。「唐草」は途切れることなく脈々とつながっていく縁起物とされています。この言い伝えが女性にこの草履を選ばせた理由です。都会的でお洒落な女性でありながら、その本質はやはり「日本人」なんですね。

女性のお話で笑ったのが、三十年前の小学生時代のことです。当時秋田市の小学校に在籍していた女性は、社会科学習で角館を訪れました。散策場所は江戸時代の建物が並ぶ武家屋敷通り。真っ先に女性が感じたのは、『こんな古い建物を観て、いったい何が面白いんだろ!?』。
忌憚のない感想に思わず吹き出してしまいました。

女性の話は続きます。『高校を卒業してすぐに関東へ出て、年齢を重ねるほどに秋田の良いところが分かるんですよ。あのときなんにも面白くなかった角館に、どうしても行きたくなったんですぅ』。
つまり若い時代にはなんの魅力も感じなかったのに、加齢と共にその良さに気付くということでしょう。一定の年齢に達した人であれば、少なからず感じる心境じゃないですかね。

私が、『今も小学校や中学校の社会科学習が多いけど、中にはぜんぜん面白くないって思ってる子もいるんだろうね』と笑うと、女性は『今どきはしっかりそういうセンスを持った子も多いんじゃないですか!?』。
「和」を理解する子供が現代に多いという資料に出会ったことはありません。でも女性のように加齢と共に「和」を知るのが人であるならば、そのときを待ったらいいんじゃないかと思うわけです。

人は年齢を重ねて、「怒」が「笑」に変わっていくのですから。
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下見から生まれるご縁。

2014年03月26日 | 実演日記




今日の草履は、彩シリーズ25cm土踏まず付き[五阡円]
昨日の「今日の草履」とベース生地が色違いです。緑の御殿まりプリントもなかなかお洒落なんですね。エンジのいらかプリントを組み合わせ、お洒落な男性にお勧めしたい一品です。

この時季出会うのが、角館を「下見」に訪れるお客様です。あと一ヶ月で待望の桜の季節を迎えるわけですが、県外から訪れる親戚などを角館観光にお誘いするため、ご自身が一度歩いてスポット探しをされるんですね。より愉しんでいただくための情報集めは、確かに重要だと思います。

秋田市からお越しのおばさまもそんなお客様でした。『どこへ連れて行くか下見なんですぅ~』と、それはそれでご自身も楽しそうでしたよ。過去に西宮家はレストランをご利用の経験がおありでしたが、米蔵の中ははじめて知ったとのこと。草履実演も関心高くご覧くださり、ご自分用とご主人用をお買い上げくださいました。履き心地を気に入っていただければ、観光本番の際もきっとお訪ねくださると思います。

横手市雄物川からお越しの母娘ペアさん。お母さんとは少し前にお会いしていると思いました。お母さんは、『一週間前に私ひとりで角館の下見に来たんですよ。そのときこの草履を知って、これは娘にきっといいと思いましてね』。
試し履きをされた娘さんも大いに気に入ってくださり、ご主人と女の子の分もお選びです。「下見」から生まれたご縁はなかなか大きかったですよ。

「下見」で思い出すのは、2010年9月1日に角館ロケが行われた「ちい散歩」です。その三週間ほど前にひとりの男性が訪れ、草履実演を熱心にご覧でした。しばらくおしゃべりしてご自分用をオーダーくださり、数日後に発送を済ませたものです。
それから十日ほど経った頃でしょうか、仙北市観光課から私へ電話があり、このロケが実演席を訪れる旨知らされました。そして先の男性が番組プロデューサーだったことも同時に教えられたわけです。

ちい散歩ロケ以来、番組由来のご縁は数知れません。そのすべてがプロデューサーの下見から生まれたのですから、いつなんどきも決して手を抜けないと思いますね。
今思い出しました。地井さんが西宮家に入る直前、プロデューサーからある「注文」があったんです。それは『布を巻いている作業を見せてください』。下見の際、その作業がいかにも面白いと感じられたのでしょう。

さて、私が「下見」したわけではないのですが、劇団わらび座東京公演のPRです。



仙北市のわらび劇場でロングラン公演をしていた「小野小町」が、東京を会場に二日間だけ公演されます。脚本は秋田市出身の内館牧子さんです。会場は東京駅から徒歩5分の「東京国際フォーラム ホールC」。日時は5月20日が18時30分、5月21日が11時と15時です。お問い合わせは「わらび座関東事務所」電話048-286-8730となっています。
公演当日会場ロビーで秋田県物産展も開催されるそうですから、秋田県にご縁のある方はいかがでしょうか。
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良き理解者。

2014年03月25日 | 実演日記




今日の草履は、彩シリーズ24cm土踏まず付き[四阡八百円]
こちらも人気の高い紺系でまとめてみました。ベースの御殿まりプリントの金色がお洒落で、紺のシーチングが若々しくも感じられます。男性であれば年齢無関係に、また女性であっても違和感なく履いていただけるんじゃないでしょうか。

先日のこと、中学校の養護教諭をしている知人女性がお立ち寄りでした。かねてより角館草履のご愛用者で、ご本人はもちろんのことご主人とお兄さん夫妻、さらには知人へのプレゼントにもお買い上げくださったことがあります。履き心地を知ってお仲間を増やしてくださる、いわば角館草履の「良き理解者」ですね。

他校で養護教諭をしているというお仲間三人と共に、北蔵レストランにお出でだったんですね。時節がら『異動はねがったが?』と訊ねると、『うん、なんとか今回はねがった』。学校教職員であれば異動は付き物ですが、やっぱり忙しなさは理解できます。それと何年か勤務した学校には愛着がわくのでしょう、異動がなかった先生たちには一様に安堵感が見えるものでした。

わが家の次女が小学生だった頃、「保健室の先生になりたい」という夢を語っていました。つまり養護教諭です。理由はよくある話なんですが、当時の保健室の先生が大好きだったんですね。次女が先生へ何かしらの相談をしたときに、娘の性格を知って上手い答えをしてくれたようです。おそらく次女にとって先生は「良き理解者」と感じたのでしょう。

私は娘に、養護教諭になるための道筋を先生へ訊きにいくよう勧めました。そこで知ったのが「看護師資格」だったんですね。カミさんの妹、つまり娘から見て叔母が看護師ということも手伝って、その頃から次女の頭には「看護師」が描かれるようになりました。
世の中から学校の数がどんどん少なくなっていく社会事情を勘案し、結局養護教諭の道はあきらめました。それでもこのときの経緯が現在の次女の根底にあるわけです。

本日看護師国家試験の合格発表がありました。おかげさまで次女の受検番号を確認しています。これでいよいよ正式に看護師としてデビューできることになりました。初出勤は一週間後、すでに仙台で準備に入っています。
親として願うのは、これから先の「良き理解者」との出会いですね。立派な上司や憧れの先輩は必ずいるはずですが、「良き理解者」というのはまた別の存在でしょう。

そんな方々との出会いが、人生に案外大きく影響するものです。
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家族と春。

2014年03月24日 | 地域の話




今日の草履は、彩シリーズ22cm土踏まず付き[四阡四百円]
少しシブ目の配色ですが、バラエティの中には必要です。華やかで明るい草履に人気が集まるのはその通りながら、色好みは千差万別、これは性別や年齢とも合致しません。おじいちゃんがいておばあちゃんがいて、お父さんとお母さんと子どももいるのがまず一般的な「家族」。色々な配色が互いを引き立てると置き換えれば、草履も家族に共通するかもしれません。

この春耳に入ってくる様々なニュースや情報は、「家族」というものをあらためて考える機会になっています。親類や友人の子どもが高校・大学に合格した報はとても喜ばしく、家族で大いにお祝いするのがいいでしょう。わが家も一昨日の晩、社会へ巣立つ次女と三女のために、カミさんの生家でささやかな祝宴を開きました。

ただ様々な情報の中には心が痛むものもあります。深刻な病いが見つかった知人もいれば、家族に障がいが分かった知人もいます。広い世間を見ればいくらでもある話が、いざ知人の身に起こるとこちらも平気ではいられません。もちろん私に何かできるものではないにしても、本人や家族の心労を想うと心は晴れませんね。

昨春愛娘を失った友人がいます。当時も単身赴任していた彼は、あれから一年近く一人暮らしに耐えていました。励ます意味の同僚からの誘いも、あるときから断り続けたそうです。仲間と酒を飲んでいるうちは良くても、ひとり部屋に戻ってからが辛かったと言っていました。その身に置かれた者でなければ、心痛を計り知るなど叶いません。

その友人が四月から家族と共に暮らせることになりました。事情を理解してくれた職場のおかげです。彼からのメールには、『自宅から通えるようになりました』とありました。たった一行のメールでも、彼と家族の安堵が確かに伝わりましたよ。
嬉しいニュースを家族で祝うと同じように、悲しい出来事もまた家族で分かち合うのがいいと思うんです。誰かひとりが悪いのじゃなく、皆でその責任を分けるということでしょう。

この春接した報で私が最も嬉しかったのは、娘たちの卒業よりも友人の転勤かもしれません。
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備前の国の百貨店。

2014年03月23日 | 実演日記




今日の草履は、彩シリーズ22cm土踏まず付き[四阡四百円]
同柄色違いの組み合わせです。準定番のようにこちらの「卯プリント」を使用していますが、やはり可愛いですね。色調も穏やかで、うさぎの性格のように優しさが感じられます。卯年の人に優しい性格が多いかは分かりませんが、角館の草履職人は卯年であります。

岡山県からお越しのご夫婦旅。奥様が角館草履の健康効果に関心高く、気持ちを集中して私の説明をお聞きくださいました。試し履きに確信されたようで、ご主人にも試し履きをお勧めです。そしてご夫婦共に納得のうえ、ペア草履として不動の人気を誇る定番配色をお買い上げくださいました。

お買い上げ後もしばらく実演を眺めていらしたご主人が、『東京だとかの百貨店に行かれることはないんですか?』。
つまり「秋田県物産展」や「ものづくり展」のような、百貨店催事に出展しないのかのご質問ですね。このご質問は一年に何人かからあります。そして出展打診も過去にありました。

ずいぶん前のブログにも書きましたが、今のところそうした営業活動は考えていません。おかげさまで生産する草履の100%が西宮家の実演生活で完売します。東京に出たら五千円の草履を八千円で売るなんてことができるはずもありませんから、大きな市場を求めて県外に出たところで商いの実績は変わらないんですね。

そしてもう一つ大きな理由は、西宮家にお訪ねくださるお客様をお待ちしたいということです。実演生活も九年になり、リピーターさんのご訪問は日常になりました。わざわざ角館をお訪ねくださったお客様に、空振りはとても申し訳ないと感じます。大都市の百貨店に行けば、また別の出会いも数多く生まれるでしょう。でも私は「角館にいる草履職人」にこだわりを持ちたいと思っています。

こちらのご主人にもそうお答えすると、『お話を聞いていると、百貨店の催事でも充分人気になりますね』。ご主人のお話の内容とその語り口に「商い」を感じ、『もしかしてそうしたお仕事ですか?』とお訊ねすると、『はい、百貨店に勤務しています』。
西宮家にほど近い樺細工問屋が、ご主人の勤める百貨店に出展したことがあったんだそうです。旅行のついでにそのときのご挨拶も兼ねて角館をお訪ねでした。

その道のプロに私の草履実演が評価されたことは、素直に嬉しく思います。いつの日か県外遠征を考えるときが来たら、岡山県もきっと楽しいでしょうね。今夜のお楽しみはNHK大河ドラマ。備前は日本の歴史にとても重要な国であります。
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永遠の0。

2014年03月21日 | 実演日記




今日の草履は、彩シリーズ25cm土踏まず付き[五阡円]
黄金色で統一した配色は、明るさもさることながら神々しささえ感じます。ナイスミドルが自宅でくつろぐ際に、ちょっとリッチな気分でいかがでしょうか。
桜まつり開幕まで一ヶ月ですから、男性用サイズの在庫ももう少し頑張っておきたいと思います。

秋田市からお顔馴染みのご夫婦がお越しくださいました。奥様はかつて角館草履に挑戦したことがあって、私が作った草履台もお持ちです。これまで何度も見学に訪れていますが、決まってご主人とご一緒なんですね。ご主人は九十歳に近く、ここ数年でまた少し足が弱くなったとおっしゃいます。今日も杖をつきながら、一歩ずつ着地を確認して実演席の丸太椅子に腰を下ろされました。

以前奥様から聞いた話で憶えているのは、ご主人が太平洋戦争を兵隊として経験されたということです。復員後秋田市で公務員となり、定年まで勤め上げられました。その数年後に脳梗塞を患い半身が不自由になったんですね。ご主人とはこれまで幾度となくおしゃべりしていますが、優しい語り口の中にも人の「堅さ」がよく分かります。いつでしたか奥様がご主人のことを、『体が不自由ってこともあるんでしょうけど、とにかく頑固な人でねぇ』と話していました。

2月21日のブログに書いた映画「永遠の0」は、とうとう観ることが叶いませんでした。次女の卒業式で仙台を訪れた際も、上映時刻と私のスケジュールがどうしても合いません。そこで映画はひとまずあきらめ、原作本を読むことにしました。西宮家のスタッフさんに読書家がいて、この話をするとすぐに貸してくれました。購入するまでもなく、その翌日の晩から読み始めることになります。

物語の基本はすべて「起承転結」で成り立っています。本を貸してくれたスタッフさんも、その「結」は今思い出しても泣けてくると言っていました。実際読み始めてみると、私は「起」の段階ですでに涙腺が緩んでましたよ。先のブログにも書いた通り、戦地へ赴くことはなかったまでも親父が海軍に属していました。親父亡きあとも戦争体験談を何人かから聞いていましたから、そんな方々の顔が浮かぶんですね。

NHK朝ドラ「ごちそうさん」も、今まさに戦後の混乱期が舞台です。『兵隊さんたちに美味しいご飯を作りたい』と海軍へ志願しため以子の次男は、とうとう還らぬ人となりました。め以子の夫も未だ満州から戻りません。あの時代、国のため、故郷のため、家族のために散って行った多くの軍人の涙と同じだけ、留守を預かる妻や子もまた涙したわけです。

「永遠の0」も、著者が描くのは「家族愛」にほかなりません。最期は自らの意思で敵艦へ突入するのですが、絶命の瞬間まで心にあったのは妻子の顔と思います。時代の酷さと同時に想うのは、いつの世も家族の幸せを願ってやまない人の心ですね。
秋田市のご主人には、まだまだ頑張って角館を訪ねてほしいものです。
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贈り物の季節。

2014年03月20日 | 実演日記




今日の草履は、新潟県長岡市にお住いの女性からの、メールによるオーダー草履です。
ご希望配色が「紫とピンクの組み合わせ」とのことでしたから、ベースに紫のシーチングを使ってみました。桜うさぎピンクとの組み合わせで、優しい雰囲気に仕上がったと思います。

そしてもう一足のご注文は、定年退職される男性への贈り物でした。「60歳の男性にお洒落な配色」とのご指定に、若々しい紺色で統一したのがこちらです。





女性からの「お疲れ様でございました」の心が伝わるようお作りさせていただきました。これまでよりは自宅でくつろぐ時間が増えると思います。角館草履が永年の慰労に役立ってくれたら嬉しいですね。明日の便で出発いたします。

『ようやく雪がなくなってきたので、早速出掛けてきました~』と言いながらお見えのおばさまは、大仙市協和にお住いの常連さんです。固定的なお客様の中でも、お買い換えサイクルで最も早いおひとりと思います。数か月履いては新しい草履をお求めなのですが、ほとんど棄てずに揃えてあるとおっしゃいます。『洗い替えに便利だし愛着があるから、なかなか棄てられないのよね』とおばさま。商いとしても作者としても、とても嬉しいお客様ですね。

おばさまはご自身用のほかに、ご友人へも贈りたいとお買い上げくださいました。ここしばらく「贈り物」としてのお買い上げが続いています。先日のブログで退職される方が職場のみなさんへのお礼に、ミニ草履を差し上げる話題をお伝えしました。やはり年度末というこの時期が「贈り物の季節」なのでしょう。

娘たちが大きくなってからは、学校に関連する年度末行事がすっかりなくなりました。年度末には必ず開かれていた送別会や慰労会が、今は懐かしく思い出されるばかりです。
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藤あや子作品展。

2014年03月19日 | 地域の話




今日の草履は、彩シリーズ23cm土踏まず付き[四阡六百円]
先回の「今日の草履」と色違いを編んでみました。青系で組み合わせると少し寒く感じますが、それは今がまだ本格的な春と呼べない気候だからでしょう。元来紺色は人気の高い色です。角館が桜色に染めつくされる時節には、きっとこの草履もどなたかの旅の思い出になってくれることと思います。

未だ人影が多いとはいえない角館ながら、春イベントに定着した「雛めぐり」を散策される姿は一定数見受けられます。そんな中にも角館草履を気に入ってくださる方がいて、この数日で秋田市や盛岡市へ草履たちが旅立っていきました。本格的な春は目前にまで来ています。冬の最後である三月も、残り十日余りとなりました。

「角館雛めぐり」は今週末で終了します。その後一週間ほどで始まるイベントが、角館町出身の女性演歌歌手「藤あや子さん」の作品展なんですね。



山梨県八ヶ岳高原にあるご自身のギャラリーから、その一部を角館町平福記念美術館に展示するのが4月1日(火)~20日(日)です。歌手活動の合間に絵画や陶芸をされているのですから、才能のある人はひとつだけにとどまりませんよ。昨年「片岡鶴太郎展」も同じ会場で開催されました。芸能人という人たちは何か違いますね。

藤あや子さんは私のひとつ先輩で、中学時代の姿を記憶しています。十代半ばから近寄り難いほどの美しい女性でした。今でもその美しさは健在ですよ。ファンは全国に多いのでしょう、『藤あや子さんの実家ってどこら辺ですか?』の問いが、実演席でも年に何度かあります。この期間に偶然角館を訪れ、思わぬ作品展に喜んでくださる方々も多いんじゃないですかね。

そして作品展最終日の4月20日は、いよいよ角館の桜まつり初日となります。桜の開花状況はまだ分かりませんが、一気に角館が賑やかとなるのは間違いないでしょう。少しずつソワソワしだした角館であります。
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