今日の草履は、彩シリーズ23cm土踏まず付き[五阡二百円]
赤基調の折り鶴プリントをベースに、金の縞柄を組み合わせてみました。縞柄はお正月用「金の草履」に使用した一部で、これが最後です。文字通りの一点ものは、いつ「シンデレラガール」と出会いますか。編んだ私が気に入らない配色というのは実際ないのですが、「今日の草履」はそんな中でもかなり気に入っています。
先日のこと、三十代と思しきご夫婦がお立ち寄りでした。お二方とも角館草履を気に入ってくださり、それぞれにお好みの配色をお選びです。さらに素材のイ草に関心高く、装飾用にとイ草もお買い求めでした。イ草は畳に象徴される通り、「和」を代表する文化の一つです。比較的お若いご夫婦でしたし、その風貌はいまどきのミュージシャンにでもいそうな感じから、むしろ私のほうがお二人に興味を覚えてしまいました。
まずお住いをうかがうと、ちょっと照れたように『アメリカなんです~』と奥様。ますます興味がわき詳しく訊いてみました。
お二人は間もなくロサンジェルスで和食のお店をオープンさせるのだそうです。そのお店の様子を奥様がとても良い笑顔でご説明くださいました。
『あたしは会津で生まれたんですけど、昔おばあちゃんが作ってくれた田舎料理をアメリカで食べてほしいと思ってるんです。手を抜かずにしっかり出汁から作って、ごはんって楽しいなって思えるあったかい料理ですよね』。
最近ラジオで聴いたのは、日本料理店は世界のあちこちにあっても、日本人が日常に食べる「ごはんのおかず」を手を抜かずに提供するお店は案外ないという話でした。奥様のお話とまだ記憶に新しいラジオの話が一致して面白かったです。肉じゃが、きんぴらごぼう、納豆汁、おでん、魚の煮つけ、それぞれに家庭の秘伝があり、それが「おふくろの味」です。家族で食卓を囲み、その日の出来事など他愛もない会話で食が進む。それが「家庭のごはん」でしょう。
アメリカに暮らす日本人はもちろんのこと、アメリカ人にも「食の楽しさ」を提供したいといいます。寿司やてんぷらに代表される日本食ですが、それは決して安くありません。豪華でも高価でもない昔から日本の家庭で作り続けられてきた「おふくろの味」を、三十代のご夫婦がアメリカで提供したいというわけです。激しく共感した私は、『そのコンセプトをずーっと忘れないでいてくださいね』とミニ草履を一つプレゼントしました。オープンするお店のトイレに飾ってくれるそうです。
海外に暮らす日本人で、角館草履をご愛用されているケースはさほど珍しくありません。私の草履が、遠く離れた「日本」を感じる役目を果たしてくれたら嬉しいといつも思っています。こちらのご夫婦が目指すお店も、きっとそんな存在になってくれるでしょう。
『何も出来ませんが、遠い空からご活躍を願っています』とお伝えしました。