晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

夏目漱石 『吾輩は猫である』

2009-08-26 | 日本人作家 な
日本人の大多数は夏目漱石の名前はもちろんのこと、作品も
『坊ちゃん』くらいは読んだことがあると思うのですが、さてでは
他の作品はどうかというと、作品名くらいは知っていても読んだ
ことはないという人が多いでしょう。

かくいう自分も、恥ずかしながら『坊ちゃん』しか読んだことのな
いクチでして、しかも『吾輩は猫である』は短編だと思っていたの
ですが、けっこう長編で、文庫にして475ページもありました。
というのも、『猫』に関しては、一行目の文章があまりにも有名
で、明治大正時代の冒頭の文章が有名な小説というのは大抵
が短編ですので、『猫』も勝手に「こりゃ短いんだろうな」と決め
付けていた節があります。

内容はまあ書くまでもないのですが、学校の教師宅で飼われて
いる猫の視点で、主人やその家族の猫から見れば奇異な暮らし
ぶり、家に訪れる主人の友人や書生たちとの会話を、ちょっと上
から批評したりします。

というか、正直いうとこの作品は、はじめの第1章だけ読めば充分
面白いのです。あとはなんだか、取り留めのない会話が延々と続
き、猫の思想がたらたらと書きつづられ、そして話の繋がりに脈が
なく、これを解説では「話の筋がない」と評しておりましたが、(筋
がなくてもじゅうぶん楽しめるという小説形態を評価しています)
たしかにそう言われれば、話の断片断片を別の話として考えれば
そう理解できなくもありません。

『坊ちゃん』では、ストーリーよりも登場人物のキャラの印象が強い
ように、キャラの立たせ方というのに漱石は秀でているようで、『猫』
でも、先生はもちろんのこと先生宅に訪れる人たち、近所の金持ち、
魚屋、寮に住む学生たち、そして猫の友達はキャラが確立されてい
て、これら強い印象を持たせる人物設定をして、相関で見てみると
きちんとまとまりがあって、しょう油とソースと味噌と酢を目分量で鍋
に入れて味をまとめるのは容易なことではありません。
天才的な相関の作り手なのか、もともと漱石の周りに個性的な人物
だらけだったのかは分かりませんが、庶民にフォーカスを当てて作品
を描くというスタイルは、漱石が留学していた時に読んだディケンズの
作品の影響が大きいようです。

時代は江戸の武家社会から明治の近代文明国家へと移り変わって、
それまで善と思っていたものが悪になり、それまで悪とされていた風
習などが善となる、ころころと思想信条までもが変わり、己の立ち位
置が定まっていない人の多い中、普遍的な猫が人間を嘲笑する、つま
るところ、当時の体制批判、欧米追従への批判となっているのです。

もっとも、純粋に猫好きな方ならば、滑稽な仕草の裏では猫はこんな
ことを考えていたのか!と笑ってしまいます。

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