晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

乃南アサ 『鍵』

2011-11-25 | 日本人作家 な
乃南アサの作品を読むのは、直木賞受賞作の「凍える牙」以来
2作目でして、この作家さんの特徴みたいなものはよく掴めて
いないのですが、まあひとつ言えるのは、昔こそ“女流作家”
というカテゴリーは確かにあったとは思いますが、もはや男女
による違いというのは無いのではないかと、乃南アサや高村薫
、服部真澄などを読むたびにそう感じるわけであります。

さて、この『鍵』という作品、まずタイトルのシンプルさから
想像するに、ヒッチコック的な匂いが。
ミステリー要素はあるにはあるのですが、それよりも、主人公
の高校生、麻里子と家族、その周辺の人たちの物語を主軸にし
ていて、人間ドラマが描けているミステリー、というよりは、
ミステリーが描けている人間ドラマ、こちらが正しいかと。

生まれつき耳が不自由で、補聴器をつけてかろうじて聞き取る
ことができる麻里子。母が亡くなり、あとを追うように一年後、
父が他界。残された兄の俊太郎と姉の秀子はこれから麻里子の
父代わり母代わりとなっていこうと思うものの、一家は麻里子
のことを気にかけてばかりで、俊太郎は、母はそのせいで死期
を早めてしまったと思うように。この上、自分も犠牲になりた
くはないと考えてしまい、妹につい冷たく接してしまいます。
それを嗜める秀子なのですが、やはり自分の幸せをおろそかに
しています。

こんな3人をよく知る俊太郎の友人で新聞記者の有作は、この
家の近くで若い女性が引ったくりに遭う事件が多発していると
言います。そんな時、俊太郎が家庭教師をしている麻里子の友
達が帰宅途中に、後ろからいきなり鞄を取られて・・・

この事件で奇妙なのは、鞄が違う場所で発見され、しかし必ず
切られているのです。中には現金は取られずにあったものも。

麻里子は、俊太郎と有作に、何かを伝えたいのですが、しかし
父の葬式以降、なぜか自分に対して冷たくあたる兄には言い出
せずにいます。
その「何か」というのは、下校中、電車の中で、知らない男が
麻里子にぶつかってきて、持っていた鞄に鍵を入れて、そのまま
走り去っていったのです。その男は誰かに追われているようで、
その鍵が何なのか分からず、しかし一連の事件は、若い女性の
鞄を狙った犯行で、これは関係あるのでは、と思うのですが・・・

そしてこの事件はとうとう殺人事件にまで発展。

自分の体が不自由なことでどこか引け目を感じながら生きてきた
麻里子。このままではいけないと思い、行動を起こします。

登場人物の感情が複雑に絡まりあって、その縺れを解く役割に
なるのが殺人事件と麻里子の持っている鍵、つまりミステリー
の要素。
どちらもおろそかにせず、ちょっと均衡を崩すとどっちつかず
の半端な内容になるところを、良い按配で一冊で二面の楽しみに。


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