晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

パット・コンロイ 『潮流の王者』

2012-07-24 | 海外作家 カ
だいぶ更新が空いてしまいましたが、この『潮流の王者」は(あとがきに
よれば)400字詰め原稿用紙にして1900枚ほどあるそうで、まあつまり
読むのに時間がかかりました。

この作品は、読むまで知らなかったのですが、バーバラ・ストライサンドの
監督、主演作でアカデミー賞7部門受賞の「愛と追憶の彼方」の原作で、
なんと、読み始めてから100ページくらいで、登場人物の構成やら物語のあら
すじやらで、ようやく「この話どっかで見た事ある」と思い出した次第。

アメリカの南部、サウスキャロライナのコレトン郡にあるメルローズという
小さな島に住むトム・ウィンゴが主人公で、トムには双子の姉サヴァナ、兄
ルーク、そして家族に対する愛情を暴力というかたちで表現する小海老漁師の
父ヘンリー、そんな男と結婚したことを悔やみ、自分はこんな貧乏一家の女房
なんかではなく、名士の妻になるはずだったという虚栄心の強い母ライラの
5人家族の物語。

30代後半になったトムはサリーという妻と3人の子という家族がいますが、
高校のフットボールのコーチを首になってからは、仕事をせず妻の収入に頼って
「主夫」になっています。
そんなトムのもとに母ライラから、サヴァナがまた自殺を図ったという知らせが。
しかしこの母と息子の関係性はとても正常とはいえず、とくにトムは実の母を
まるで敵のようにあしらいます。
なんにしても、姉を見舞いにニューヨークへ行くトム。

これが、物語上の「現在」で、それと交互に「過去」つまりウィンゴ家の歴史
が描かれていて、はじめの部分で分かっていることは、トムは南部の地元に
残ったこと、サヴァナは売れっ子の詩人となってニューヨークに住んでいること、
「現在」ではルークはこの世にいないこと、両親は離婚し、ライラは再婚している
、という断片的な情報。ここから、家族それぞれのエピソードがつまびらかにされて
いきます。

サヴァナが自殺を図るのは、高校を卒業したてのころが最初で、それ以前にも自分は
たまに記憶が飛んだりするという悩みがあったのです。
サウスキャロライナという土地、アメリカ南部のすべてを忌み嫌い、ニューヨークで
詩人となって成功を収めますが、心のバランスを崩してしまいます。
3年ぶりに姉と再開するトム。何を話しかけてよいのやら戸惑います。サヴァナの
担当である精神科医のスーザンに話を聞き、原因は家族にあると言われ、そこから
小出しに家族で起きたさまざまな(トムの思い出せる限りの)サヴァナが”こんな”
になってしまった原因、要因を話します。

トムはとりあえずサヴァナのアパートに住むことに。そんなある日、スーザンから
息子のフットボールのコーチをしてほしいと頼まれます。
スーザンの夫は世界的に有名な音楽家で、息子もそうなってほしいと小さい頃から
ヴァイオリンを習わせ、全寮制の名門校に通わせますが、息子が学校でフットボール
をやっている写真を母は見つけます。
しかし厳格な父は当然許すはずもなく、息子に聞けば本気でフットボールをやりたい、と。

妻のサリーから、浮気をしていると突然言われ、離婚をつきつけられているトム。
現実逃避といいますか、そんなこんなで息子のコーチをすることに。

ところが、ニューヨークの公園でスーザンの息子と初めて会ったその時にトムは
「こいつはフットボールなんてやっていない」と見抜くのです。
両親を困らせたいがためにフットボールをやっていると嘘をつく息子。しかし
好きなことだけは本物らしく、学校のチームで一軍に入るのが目標だというので
トムは真剣にコーチをはじめることに・・・

何かというとすぐに妻や子供をぶん殴る父、家庭内で起こる問題にちゃんと対処
しない母、聖金曜日にキリストの苦行を再現し、重い十字架を背負って街を練り歩く
狂信的な祖父や、そんな夫を捨てて都会へ出て行った祖父など、まあどう考えても
良い家庭環境とはいえない状況で子どもたちは育ってゆきます。

サヴァナの心の病気の大きな理由とは何なのか。兄ルークに起きた”あること”とは。
なぜ両親は離婚したのか、その結果、トムは母を心の底から嫌うようのなったのですが
・・・

河や周りの自然の描写は息を呑むほどに美しく、ウィンゴ家の過去と同時に描かれる
当時のアメリカにおける時代背景、第2次大戦、朝鮮戦争、公民権運動、ウーマンリブ
などなど、そして南部の田舎とニューヨークのど真ん中の生活文化の対比、これらを
縦横無尽に(言葉は悪いですがバラバラに)描いている、といった感じで、ちょっと
話の流れがつかみにくいなと思うところもありますが、それもひっくるめて”雑多”
な感じが途中から味わい深いようになってきます。

そして、文中のユーモアも、ともすれば深刻になりがちな話の緩和となっています。
感服したのが、物語後半のトムとFBI捜査官とのやりとり。

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