晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

山本 甲士 『ノーペイン、ノーゲイン』

2009-10-26 | 日本人作家 や
本の帯に「横溝正史賞・優秀作受賞」とあり、無知ながら
はじめてこの賞の存在を知ったわけでありますが(やはり推理
小説といえば乱歩賞でしょ)、過去の受賞歴を見てみると、
けっこう「受賞作なし」の年が多いことに、この賞を受賞する
に値する高レベルが求められるんだなあ、と。
ということは、佳作や優秀作でも相当なレベルなのだろうと
思い、読んだらこれが面白い。

鍵屋を営む兄弟は、本業のかたわら、ある「副業」にいそしんで
いたのです。それは泥棒。本職である開錠の技術を使って、兄が
現場まで車を運転、弟が目をつけた建物内に侵入、現金や金目の
ものを物色し、約束していた時間に弟をピックアップし、兄の運転
で帰るという段取り。

そんな中、兄が入院することになり、まとまった金が入用になった
ので、弟は以前から目をつけていたスポーツクラブに侵入し、手提げ
金庫を持ち出そうとしますが、運悪く巡回の警備員が廊下にいて、
見られないように警備員を後ろから突き飛ばし、警備員は階段を転げ
落ちます。なんとか逃げおおせた弟は金庫を開けると20万円しか
入っておらずがっかり。

スポーツクラブから逃げるときに、数人の学生に見られたことが
頭に残り、痩せぎすな弟の体型が特徴的であることから足がつく
ことを恐れ、トレーニングジムに入会し、肉体改造を決意。
理論どおりにトレーニングや食事を続けた結果、数ヶ月で体型は
変化。

スポーツクラブから盗んだ金は20万円だったのですが、新聞記事
によると、被害金額は420万円だとあり、弟は、内部の人間が
自分の窃盗事件に便乗し、会社の金を横領したと思い、大胆にも
盗みに入ったスポーツクラブに入会し、自分がもらえるはずだった
400万円を横領した人間を探します。
聞き込みの結果、経理の人間が怪しいと判断し、匿名で電話をかけ
400万円をせしめるのです。

兄の病状も良好、はじめこそ証拠隠しのためにはじめた肉体改造も
そのうち楽しさに目覚めてしまい、毎日欠かさずトレーニング。
負荷をかけなければより良い筋肉はつかない、という意味の、マッチョ
界の用語で「ノーペイン、ノーゲイン」を実践するのですが…

そして第2部、なんと弟はスポーツクラブ内でトレーニング機器に
首を挟まれて死亡していたところを発見されます。
ここから一人称の語り手「わたし」は弟から別の人物へ、第3部
ではまた別の語り手「わたし」へと移り、この手法が斬新で、
あとは弟がなぜ、どうやって殺されたのか、そのトリックが解明
されていくのですが、意外といえば意外、トリックや犯行動機、
それを見破った人物と犯人との関係性など、近年流行りの推理小説
というよりは、昔の「密室トリック」の雰囲気があります。

プロの作家である選考委員の目には受賞レベルではないと判断された
のですが、処女作にしてこのクオリティ、次作に大きな期待を込めて
もいいですね。

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