晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

宮部みゆき 『あやし』

2009-10-22 | 日本人作家 ま
『あやし』は、「怪しい」あるいは「妖しい」、どちらにも
かかるという意味で、あえて平仮名にしたのかと推察
したのですが、時代は江戸、舞台は宮部作品ではお
馴染みの下町エリア。そして短編集なのですが、どれ
も怪談話。といっても、そんなに身の毛もよだつほどの
恐怖ではありません。

『あやし』では、今までの宮部作品の真髄というか醍醐
味である、陰惨で悲しい話でも、ラストには、それでも
明るい未来はやってくる、だから希望は捨てちゃダメ、
のような締めくくりではなく、「こんな、ちょっと怖い話が
ありましたとさ」といった感じで終わっているのです。

中には希望的観測で締める作品もあるのですが、全体
的な印象としては、人間のあまりきれいでない部分に
焦点をあてて、どこかやるせなくなります。

とはいっても、短編という制約(があるかどうか知らない)
のなかでしっかりと筋立てられていたり、必然、登場人物
は少ないのですが、しっかりと設定されていたりと、そこは
短編の名手の面目躍如といったところでしょうか。

江戸時代の下町、武家などの政治的な部分ではなく、市井
の人々を描き、つつましく暮らす庶民の息づかいや世間話
がすぐそこで聞こえてきそうな、臨場感のある描写。
そして、文明や科学技術の恩恵であらゆるものの利便性は
現在のほうが格段に良くなっているけど、逆に人間同士の
距離は遠ざかっているのに対し、江戸時代では人間の距離
は今よりも近く、悪くいえばプライバシーなんて無いのです
が、片寄せあって必死に生きている姿勢は、失ったものの
大切さを気づかせてくれます。
コメント
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